上 下
14 / 622
1章

14話 正しい使い方

しおりを挟む
 『To The World Roadへようこそ』



 いつもの機械音声とともにエルスタン東エリア1と2の間の安全地帯にログインが完了する。まあいちいちログインするたびにお久しぶりですとか、いちいち運営が出迎えてくれるわけないから当たり前なのだが。

 あれから6時間ほど睡眠を取って朝の4時。休み中の私には時間の概念など、吹き飛んでいる。現在ゲーム内時間では1/4の16時、リアルタイム19時間経過だ

「せっかくここまで来たけど、やっぱりエルスタンに戻って北エリア1で狩りがいいか」

 マップを開きエルスタンの方向を確認し、あまり意味がなさそうだがしっかりと柔軟体操をしてから走る準備を進める。東エリア1は犬さえ突破できればあとはヌルゲー。そう、来た時と同じように潜伏しながら掻い潜れば何一つ問題ない。って、思っていたんだけどまあ死ぬ。

 はっきりいって事あるごとに死にまくってるのでデスペナとか、死に戻りとかに抵抗が全くなくなっている。昔はMMOで一回死ぬと取り返すのに何十時間とかかるからなるべく死なない様にしていたが、それも移り変わってFPSやらすぐに死ぬアクションゲームとかをやっていると「まあ、取り返せばいい」という思考に移り変わっていく。しかも現時点でペナルティの部分がないわけだから、それも拍車をかけまくり。



「ちょっと命を軽く見過ぎだと思うんだよね、自分でも」

 通算四度目の死に戻りをしながらもう、なんとも思ってない顔ですぐにエリア1の方へと歩き出す。とにかく一回突破してエルスタンに入れば復活地点を更新できるので、それさえ忘れなければ勝ったも同然。決して復活地点を更新し忘れるというフリではない。

「流石にフルダイブだから自分の反応速度とか経験で回避できると思ってたけど、できないんだよなあ……わかってても体が付いてこないっていうか、自分の認識と体の反応がずれるし、ステータスが低いからダメって事なんかな」

 ログアウト中にちらっとみたトッププレイヤーの動画では、二回りほどステータスが上の人物が縦横無尽に回避やら移動しているのを見たが、やはりステータスありきの話っぽい。だからいくら私の意識が反応しても体が付いてこなければそれは動けていないという事で確定だ。
 リアルのほうで別ゲームをやっている時も自分の操作とゲーム上の動きがリンクしていないせいでやられてしまうとか、目では追いついているのに操作が追いつかないとかもある。

「何にせよ、結局レベルを上げてステータスを上げるのが課題に違いないか」

 そう考えながら私の足はあのクソ犬に噛まれている。AGIが高くなれば移動速度にブーストがかかるので逃げられると思ったが、向こうの方が上だった。そりゃあ自分よりも足の速い奴が一緒に走ったら追いつかれる。これはこの間の犬耳ショタに弾き飛ばされた時と一緒だ。

「よし、もう一度だな、さっさと殺せ」

 痛くはないが、びりびりと振動が流れるような感じがある。東エリア1突破作戦を開始して五度目の死に戻りを経験、とっくに二桁死亡してるのは私だけだろう。それにしても行きは余裕だったのに帰りがきつすぎる。

 もう回避と言うか素早く動けないんであればもっと慎重になって隠密してみよう。動かない事とか息を潜めるのに関してはステータスと言うよりも動かないという意思強さだ。

 まずあのクソ犬に関しては、戦闘乱入と2:1で喧嘩を売ってくるアクティブモンスターだ。探知方法は視覚と嗅覚。2:1の状況で今の所やられているパターンは一匹に発見されている状態で他のクソ犬に発見されてアクティブ化だ。それに発覚されたときにしばらく此方を様子見しながら付いてくるのがすげえ狡猾、それでもう一匹に見つかれば襲い掛かってくる。

 っていうか、たかがLv4の初心者相手のモンスターをここまで理解して突破しなきゃならないって、どんだけガンナー貧弱なんだよ。銃弾出来たら覚えてろよ。
 
「まったく、しばらく東エリアにはいかない」

 わかっていたり、対策ができていたとしてもそれを実行に移して完璧にこなせれるステータスがあるわけではない。こんなことならポーション取っておけばよかったよ。
 結局あのクソ犬包囲網を突破してエルスタンに戻るまで追加で二回死んだ。




「犬なんて大嫌いだ!だから猫派なんだよ!」

 復活ポイントをエルスタンの北エリア側に再設定しながら叫びあげる。これ、本当に火薬自作できるんだろうか、自信がなくなってきた。なまじリアルな犬と言うかモデルなので本当に嫌いになりそうになる。可愛いモンスターに囲まれて楽しくゲームしたくなってきた。

 愚痴とため息を吐き出しながら北エリア1へと戻ってくる。
 しばらくぶりにやってきたマップは、最初に来た時よりも人口は少なくなっていた。そりゃそうだ、サービス開始と同時にやっていまだにこんな所にいるのは私だけさ。

 Lv1ラット、もう私の宿敵だよ。対策と言うか今までやられていたパターンは先に手を出して、体勢が崩れた状態で反撃を貰って転倒したり、クリティカルで死んでいたわけだ。っていうか犬の時もそうだが、この低レベル相手にボス戦並みに慎重になるってなんだよ。ほんと、最初の銃撃戦は楽しかったよ

 しかしここでしっかりと戦い方の確立と立ち回りを改めて見直すいい機会だ。
 手頃にいるラットを正面に捉えつつ、ウサ銃を構える。今まではバットの様に持ったり、遠心力とか言ってストック部分を両手で振り回してたが、今回は違う。
 左足を相手に対して正対に、右足を左足の半歩後ろに横向きに。フォアエンド……よくライフルを構えるときに持つ銃身の下部分を握り、ストックと本体の付け根部分を握ってしっかりとぶれない様に構える。剣部分は最初の短剣なので一突きで相手を倒すのを心掛ける意気込みで。

 正直相手を倒せればこういった型と言うのはどうでもいいと言われている。特に弓とか、射法とかどうでもよくて相手を殺せれるように射れば何でもいいと、プロが言うくらいだし。でもそれはあくまで基本ができているという話なので、基本もままならずに振り回ししか出来なかった私はまず基本動作をしっかりするべきと考えた。

「どうせ2、3撃当てられるほど私は強くないんだ、よっ!」

 ラットの正面が向いた瞬間に一歩踏み出してまっすぐに相手の頭へと銃剣を突き出す。不意打ち気味に放った一撃はそのまま、真っすぐにラットの頭を貫き、いつもの甲高い悲鳴と共にポリゴン状の粒子になって消滅する。
 生物的な弱点部分にがっつり攻撃が入ったのでクリティカルになったのだろう。まさか一撃で倒せるとは私も思っていなかった。

 そしてなんだかんだで初めてまともに銃剣を使っての初撃破になった。

「よしっ、低レベルノンアクティブならこの方法で確実にいける」

 手ごたえを感じてぐっと握りこぶしを作る。


『銃剣のスキルがアンロックされました』


 このゲームをやってかなり上位に嬉しかったのだが、その間にピコンと音が鳴るとアナウンス音声が頭に響く。勿論メニューのログでも確認できる。やはりあるとおもった銃剣スキルだ。早速余っていたSPをつぎ込み取得する。
 基本的にこのゲームのスキルはレベルが上がるとその扱いが上手くなるというものになる。例えば触れていなかった装填に関してはLv1よりもLv2のほうがスムーズに装填できるようになる。と言った感じだ。自分の動きに関してはステータスが上がれば良くなるのもさっき説明したとおりだ。
 それに補正が掛けられるのがスキルになる。



スキル名:銃剣 レベル:1
分類:パッシブ
詳細:銃剣を使う際の行動に補正



 つまりさっきのようなしっかりした動きではなくても多少無茶な動きでもいけるようになる、そんなスキルだ。
 勿論なんでもかんでも覚えていくとあっという間にSPは枯渇するので、上位プレイヤーは実績やクエスト報酬でのポイントを狙うプレイもあるらしい。今の私には縁のない話だが。

「とりあえずあのクソ犬を倒せるくらいには強くならんと」

 いつかきっと根絶やしにしてやる。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

魔界建築家 井原 ”はじまお外伝”

どたぬき
ファンタジー
 ある日乗っていた飛行機が事故にあり、死んだはずの井原は名もない世界に神によって召喚された。現代を生きていた井原は、そこで神に”ダンジョンマスター”になって欲しいと懇願された。自身も建物を建てたい思いもあり、二つ返事で頷いた…。そんなダンジョンマスターの”はじまお”本編とは全くテイストの違う”普通のダンジョンマスター物”です。タグは書いていくうちに足していきます。  なろうさんに、これの本編である”はじまりのまおう”があります。そちらも一緒にご覧ください。こちらもあちらも、一日一話を目標に書いています。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

僕の召喚獣がおかしい ~呼び出したのは超上級召喚獣? 異端の召喚師ルークの困惑

つちねこ
ファンタジー
この世界では、十四歳になると自らが呼び出した召喚獣の影響で魔法が使えるようになる。 とはいっても、誰でも使えるわけではない。魔法学園に入学して学園で管理された魔方陣を使わなければならないからだ。 そして、それなりに裕福な生まれの者でなければ魔法学園に通うことすらできない。 魔法は契約した召喚獣を通じて使用できるようになるため、強い召喚獣を呼び出し、無事に契約を結んだ者こそが、エリートであり優秀者と呼ばれる。 もちろん、下級召喚獣と契約したからといって強くなれないわけではない。 召喚主と召喚獣の信頼関係、経験値の積み重ねによりレベルを上げていき、上位の召喚獣へと進化させることも可能だからだ。 しかしながら、この物語は弱い召喚獣を強くしていく成り上がりストーリーではない。 一般よりも少し裕福な商人の次男坊ルーク・エルフェンが、何故かヤバい召喚獣を呼び出してしまったことによるドタバタコメディーであり、また仲間と共に成長していくストーリーでもある。

処理中です...