魔法使いの薬瓶

貴船きよの

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ビンドの収穫祭編

3,夜明け-5

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「お兄ちゃん、またね!」

「うん! またね!」

 しんみりしていた空気は一転し、笑顔での別れの時間となった。

 大きく手を振るモルとメルに、ルウも笑顔で手を振った。

 一家は、ルウとガルバナムの姿が見えなくなるまで、その場を離れなかった。

 ルウとガルバナムは、言葉少なに歩いた。

 そして、放牧地を通り過ぎ、ブナの森へと差し掛かった。最初に黄葉の世界を見たときほどの感動はなかったが、ルウとガルバナムの心は豊かだった。

「次に来るときは、ゆとりのあるスケジュールで来よう」

 ガルバナムが言うと、ルウは、

「はい」

 と頷いた。

「ご両親とは、話したいことを話せたか?」

 ガルバナムの問いに、ルウは再び頷く。

「師匠のもとで、新しい魔法を覚えたことを話しました。応援していると言ってくれました」

 二人が落ち葉を踏む音が順番に響き、ガルバナムは、何気なく訊ねた。

「家に、帰りたくなったか?」

 ルウは、今度は首を横に振る。

「今の僕が帰る場所は、師匠の家です」

 しっかりと前を見据えていたルウの横顔が、ガルバナムに向いてにこりと微笑む。

「そうか」

 ガルバナムもつられて表情を緩め、はらはらと葉が舞う森を歩いた。

 しばらくして、ガルバナムはふと思い出して言った。

「ところで、メルが心変わりしなかったら、どうするつもりだったんだ? 俺は将来、彼女の王子にならなければならなかったのか?」

 すると、ルウは血相を変えて反論した。

「そんなわけがないじゃないですか! どうにかして全力で阻止するつもりでした! だって……」

 ルウは立ち止まると、地面に視線を落とした。

 それから、片方のブーツの爪先を内側へくいっと動かすと、側にあった落ち葉がきれいに一列になり、曲線を描いたのちにガルバナムが立つ位置を示す矢印になった。

「師匠は、譲れません」

 ルウは、胸を張って言った。

 ガルバナムは、意表をついた魔法のメッセージに、力を抜いてふっと笑った。

 ルウが魔法を解くと、落ち葉はふわりとその場に広がる。

 歩き始めたガルバナムの横にルウが並ぶと、ガルバナムはルウの手を握った。

 その手はいつもよりあたたかいように思えて、ルウも、そっと握り返した。







〈終〉





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