50 / 57
ビンドの収穫祭編
3,夜明け-4
しおりを挟むルウが肩から斜めがけした鞄は、ディアが持たせてくれた薬草と昼食用のパンで、来たときよりも膨らんでいた。
ディアとモルとメルは、見送りのために家の石垣の前まで石段を下りた。
ルウとガルバナムは、三人を振り返る。
「それじゃ、ここで。皆、元気でね。モルもメルも、なにかあったら手紙をくれていいからね」
「お兄ちゃん……」
モルとメルは、ルウに抱きついて別れを惜しむ。
「あの人達には困ったものね。会えるのを楽しみにしていたでしょう」
ディアは、ため息混じりに言う。
「いいんです。お父さまとお母さまにも、僕は元気でいると伝えてください。僕のほうこそ、短い時間しかいられなくてごめんなさい」
「なにを言っているの。帰ってきてくれて嬉しかったわ。あなたは、あなたがすべきことを頑張りなさい」
ディアは、ルウの頬を皺の刻まれた両手で包んで言った。
「……はい」
ルウは、うっすらと涙を浮かべて答えた。
「そろそろ行こうか、ルウ」
「はい」
ガルバナムに促され、ルウは深く息を吸い込んで気持ちを切り替えた。
そのときだった。
ディアが立つ背後から、女性の声が聞こえた。
「――ルウ!」
「……え?」
皆が声のするほうへと視線を移すと、ルウの進行方向とは反対側から、短い金髪の女性と眼鏡をかけた男性が大荷物を担いで歩いてくるのが見えた。
「お母さま! お父さま!」
ルウが驚いて言うと、小さなきょうだいも気がついて、
「本当だ! お父さま! お母さま!」
と、両親のもとに駆けていった。
ルウの母はその場に荷物を置き、再会した子ども達を抱きしめる。
ルウがガルバナムを見ると、ガルバナムは一つ頷く。そして、ルウも両親のもとへと駆け寄っていった。
「間に合いましたね」
ガルバナムが言うと、
「お騒がせなことで」
と、ディアは安心して一つ息を吐いた。
ガルバナムが親子の再会を見守っていると、ディアの隣に立つ見知らぬ男に、ルウの父親が気がついた。それから父親は深く頭を下げ、ガルバナムもそれに応えた。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
冷たかった夫が別人のように豹変した
京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。
ざまぁ。ゆるゆる設定
悪役令息に転生しけど楽しまない選択肢はない!
みりん
BL
ユーリは前世の記憶を思い出した!
そして自分がBL小説の悪役令息だということに気づく。
こんな美形に生まれたのに楽しまないなんてありえない!
主人公受けです。
私から略奪婚した妹が泣いて帰って来たけど全力で無視します。大公様との結婚準備で忙しい~忙しいぃ~♪
百谷シカ
恋愛
身勝手な理由で泣いて帰ってきた妹エセル。
でも、この子、私から婚約者を奪っておいて、どの面下げて帰ってきたのだろう。
誰も構ってくれない、慰めてくれないと泣き喚くエセル。
両親はひたすらに妹をスルー。
「お黙りなさい、エセル。今はヘレンの結婚準備で忙しいの!」
「お姉様なんかほっとけばいいじゃない!!」
無理よ。
だって私、大公様の妻になるんだもの。
大忙しよ。
「不吉な子」と罵られたので娘を連れて家を出ましたが、どうやら「幸運を呼ぶ子」だったようです。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
マリッサの額にはうっすらと痣がある。
その痣のせいで姑に嫌われ、生まれた娘にも同じ痣があったことで「気味が悪い!不吉な子に違いない」と言われてしまう。
自分のことは我慢できるが娘を傷つけるのは許せない。そう思ったマリッサは離婚して家を出て、新たな出会いを得て幸せになるが……
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
夫に惚れた友人がよく遊びに来るんだが、夫に「不倫するつもりはない」と言われて来なくなった。
ほったげな
恋愛
夫のカジミールはイケメンでモテる。友人のドーリスがカジミールに惚れてしまったようで、よくうちに遊びに来て「食事に行きませんか?」と夫を誘う。しかし、夫に「迷惑だ」「不倫するつもりはない」と言われてから来なくなった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる