48 / 57
ビンドの収穫祭編
3,夜明け-2
しおりを挟むルウがそう言うと、
「平和な秘密基地だな」
と、ガルバナムは辺りを見て言った。
「秘密基地で育てた薬草がおばあさまの魔法にかかると、ブルーや、グリーンや、オレンジや、きれいな色の魔法薬になるのが楽しくて。薬草のお世話をすると魔法薬に使う魔法が習えたので、薬草を育てるのも子どもなりに一生懸命でした」
ガルバナムは、葉を摘むルウの横顔に訊ねた。
「子どもの頃から、魔法薬をつくるのが好きだった?」
ルウは予想外の質問に、思わずガルバナムを見た。それから、少し考えて苦笑する。
「最初は、両親がいない寂しさを紛らわすために魔法薬を習っていたんだと思います。小さい頃から、両親は研究のために家にいないことが多かったので」
しかし、ルウは口元を綻ばせた。
「でも、そのおかげといっていいのか……、魔法薬作りが好きになりました。いつからか夢中になって、おばあさまに習う魔法薬以外の魔法薬もつくりたいと思うようになったんです」
ルウは、温室にある鉢をぐるりと見渡す。
「新しい魔法薬を試作していると、自分が土のなかで生きている薬草の種みたいだと思うことがあります」
摘んだ葉を片手に、ルウはまだ芽を出したばかりの鉢の側でしゃがみ込む。
「種を蒔いてもすぐに芽は出ない。すべてが発芽するわけでもない。だけど、どうなっているのか目に見えなくても、根付いているし成長している。芽が出るまでの時間、花が咲くまでのつぼみの時間、そういうものはあるべくしてあるのだと、薬草を育てながら学びました」
ガルバナムは、現在のルウもその過程にいるのだと思い、やさしい眼差しを向ける。
「僕達の両親は、アシュリング・アフロンを観察する仕事をしているんです」
変わった響きの名称に、ガルバナムは聞き覚えがあった。
「花を咲かせるまでに、十年はかかると言われている植物だな」
「はい。発芽までも一年以上かかるのに、それを信じて管理し続けなければなりません。研究者は少ないのが実情ですが、高度な魔法にも耐えられる植物とあって、研究対象になっているんです」
ルウは、夢を見るような笑顔になって言った。
「この前、そのアシュリング・アフロンの花が、切手の絵になっていたんです。皆に知られるまでの花になったのは、両親達が研究してきた成果だと思います。それを見て、とても誇らしく感じました。……今は、両親が仕事を手放さなかった理由が理解できます。僕にとっての魔法薬と同じです。僕達のために、辞めてしまわれなくてよかった」
ガルバナムはルウに歩み寄ると、か細い肩を抱き寄せた。ルウは、ガルバナムを見上げてはにかむ。
「両親が観察する期間は、あと少しで終わるそうです。モルとメルも、もう少しの辛抱で……」
それまで流暢に話していたルウだったが、メルの名を出した途端、声を萎ませ、ガルバナムから視線を逸らした。
「……ルウ?」
ガルバナムの呼び掛けにも、まっとうな返事がない。
ルウは、ぽつりと独り言のように呟いた。
「……メルが師匠を王子様にしたいだなんて、止めればよかったです」
気分がそのまま表れた声色だった。
「ゆうべのことを気にしているのか」
「メルとモルが師匠に懐いて、二人が楽しそうなのは嬉しいのに、……僕、心のどこかで、師匠は僕のものなのにと思っていたんです。……僕だけの師匠でいてほしい、と」
視線を落としていたルウが、目の前が陰ったと思ったときには、ガルバナムの顔が正面に来ていた。
「え……っ」
ガルバナムは、そっとキスをした。そして、ゆっくりと離れた。
「そう思ってくれて構わないが? 俺だって、ルウは俺のものだと思っている。そうであってほしいと」
「師匠……」
ルウは、ガルバナムを離さないよう、しっかりと抱きついた。
「我慢してメルに合わせていたのか?」
「僕は兄ですし、メルを悲しませたくはなかったんです。でも……」
「“お兄ちゃん”をやるのも大変だな」
「大変ではないんですよ? メルのこともモルのことも大好きで……」
「ふふっ。わかっているよ」
顔を上げて弁解する生真面目なルウの頭を、ガルバナムはぽんぽんと撫でた。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる