47 / 57
ビンドの収穫祭編
3,夜明け‐1
しおりを挟むディアのキッチンには、壁伝いに薬草が吊るされ、棚には薬草が浸かったオイルやビネガーの瓶がいくつも並んでいた。
鍋から上る湯気が窓ガラスを曇らせ、ディアはその側でじゃがいもを刻んでいる。
「おばあさま、おはようございます」
ルウがキッチンへ入っていくと、ディアは作業を止めて顔を上げた。
「おはよう、ルウ。早いのね」
「師匠は?」
ルウが目を覚ましたとき、ベッドにはすでにガルバナムの姿はなかった。
「温室を見たいとおっしゃっていたわ」
「温室?」
「そうだわ、ルウ。ベビーリーフを摘んできてくれる? 温室の入口に何種類か育っているから」
「はい。戻ったら、お手伝いします」
ディアは再びじゃがいもを刻む音を響かせ、ルウはキッチンを出ていった。
空は、紫色のベールを脱ぎ始めていた。
温室は三角屋根を冠するガラス張りで、ルウが扉を開けて入ると、風が入らない分、ほのかに暖かさを感じた。
「師匠、なにか面白いものはありましたか?」
「ルウ。……おばあさんに聞いてきたのか」
ルウは、一つ頷く。
「おばあさまが育てているのは、ほとんどが魔法薬に使う品種ですよ」
リビングほどの広さがある温室内は、地面にも台の上にも、所狭しと植木鉢が置かれていた。
大半の薬草は収穫の時期を終え、越冬を待つ多年草や、温室のおかげであとひと月は小さな白い花を見せてくれそうなものが、ひっそりと息づいている。
「稀少な薬草も種から育てていると聞いた」
「このあたりの苗は珍しい品種です。内服薬のベースになる、リンシールの仲間です」
ルウが紹介する鉢のなかには、文字通り“青い”芽を覗かせているものもある。
「こんなにたくさんの鉢があっても、どこになにがあるのか、わかるのか?」
「昔からおばあさまが好きで育てているものだけは」
ルウは、得意気な気持ちと照れくささが混じりながら言った。
そして、
「ちなみに、これは今日の朝食用ですよ」
と言って、側にあった瑞々しい葉を摘んだ。
温室に満ちた土の香りとやさしい緑の香りは、だんだんとルウに懐かしさを呼び起こしていた。
「ここは、僕の秘密基地でもあったんです」
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる