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杪夏の風編
おまけの小瓶‐2
しおりを挟むガルバナムは、すっかり夜になって静けさに包まれた通りを、足早に歩いて宿に到着した。
顔見知りの宿主に部屋を教わると、急いた気持ちを抑えて軋む階段を上がる。
201の扉をノックをすると、なかからは、くぐもった声が「はい」と答えた。
扉に鍵は掛かっておらず、簡単に内側に向かってひらいた。
「あっ、師匠~!」
ルウはテーブルに伏せていた顔を上げると、待ちわびた人物の登場に頬を緩め、扉までふらふらと歩み寄った。
「ルウ。ここはすぐにわかったか?」
ガルバナムは、ルウが宿に辿り着いていたことに安堵した。
「はい。通り沿いだったので、迷いませんでしたよ~」
ルウは、にこにこと自慢気に言った。
ガルバナムは、ルウがやけに上機嫌なことに気づいたが、腕に抱えていた紙袋を差し出すことを優先した。
「夕食はまだだろう。材木管理庫の管理人さんがホットサンドを持たせてくれた。……少し冷めてしまったが」
ガルバナムがテーブルに置いた紙袋からは、口が丸めてあるにも関わらず、トマトソースとチーズのいい香りが漂った。
「わあ、助かりますね! でも、師匠、僕も買ってきたものがあるんですよ~!」
ルウは、紙袋の隣にある瓶を持ち上げて見せた。中身は、半分程に減っている。
「それは……?」
「葡萄ジュースです! 甘くて、すっごくおいしいですよ」
ガルバナムは、嫌な予感がした。
この地方に精通しているガルバナムは、秋になると、新鮮な葡萄ジュースと共にワインを売り歩く人々が現れることを知っていた。
そして、ルウはなぜか、葡萄ジュースを飲んだだけで気分を高揚させている。
ガルバナムは、ルウのグラスに少量残っていた液体を口にした。温かったが、味の判別は容易にできた。
「……うん、ワインだな」
「ワインじゃなくて、ジュースですよ~」
ルウがそう言っても、瓶に貼られたラベルには、はっきりと“ワイン”の文字が見て取れた。
「……なるほど」
間違って買ったか、間違って買わされたかのどちらかだろうと、ガルバナムは理解した。
「ルウは、早めに休んだほうがいいかもしれないな」
ガルバナムは、立ちながらも頭がゆらゆらと揺れるルウから、ワインの瓶を取り上げてテーブルに戻した。
「僕、まだ眠くないですよ……?」
「そのわりには、瞼が重そうだ」
ガルバナムは、ルウをお姫様抱っこで抱き上げると、軽々とルウをベッドに運んだ。
ガルバナムの肩に頭を預け、ルウは確かに、脱力する心地よさを感じた。
ところが、強制的にベッドに下ろされると、不満が募る。
「ルウの分のホットサンドは、残しておくからな」
と言い残したガルバナムに、ルウは素直に返事をしなかった。
「むぅ……」
せっかく買ってきたジュースにはさほど関心を持たれず、子どものように寝かされ、ガルバナムに邪険にされているようにも思えた。
ガルバナムは椅子に腰掛けると、食事には手をつけずに、ベルトに取り付けていたポケットポーチから小瓶を取り出した。
ルウがガルバナムに贈った、一瞬で体力が回復する魔法薬だった。
ガルバナムはトレーに残っていたグラスに魔法薬を数滴垂らし、滑りのいい桜色の液体を口に流し込んだ。
そこへ、ルウが起きてきたかと思うと、自分の両膝の間に身を収めて絨毯に膝をついたのだから、ガルバナムはぎょっとした。
「ふふふ。師匠はお疲れでしょうから、今日は、僕が」
ガルバナムは酔いのせいだと思い、
「気が大きくなっているように見えるぞ」
と言って、軽くあしらおうとした。
しかし、ルウの手は、ガルバナムのベルトを外しにかかっていた。
「僕は、いつもどおりですよぉ」
とろんとした表情を見せながら、ルウはその場を退こうとはしない。こうしていればガルバナムも無視はできないだろうと、ルウは思っていた。
「師匠が来るのを、ずっと待っていたんですからね。僕だけ寝かされるなんて、あんまりです」
ルウは、ガルバナムのズボンのファスナーを下ろし、下着までずり下ろすと、陰茎を取り出す。
「怒っているのか?」
「……一緒にいたいんです」
拗ねたように言ったルウは、力のない陰茎に手を添えたまま、舌を這わせた。
ルウの仕草はぎこちないものの、丹念に慈しむルウがガルバナムには一層可愛く映り、やわらかな金髪を撫でた。
「えっと……、どうするといいんでしたっけ」
ルウは、陰嚢から先端へと、唇を離さずに独り言を呟く。
「ルウが思うようにしてくれればいい。それに、魔法薬を飲んだばかりだから、あまり強く刺激すると……」
「あっ、そうだ!」
ルウにはガルバナムの声が聞こえていないのか、自己完結した次の瞬間には、唇を這わせていた先端を、ぱくりと口腔へ迎え入れた。
「……っ、あ……っ」
ルウの熱い舌が絡みつき、ガルバナムは思わず声を漏らす。
ルウがずしりと受け止めた陰茎をしゃぶっていると、それは次第に硬さを増し、重力に逆らい始めた。
「大きく、なって、きまひたね……」
「ルウ……」
体力が回復する魔法薬を飲んだガルバナムが反応しないはずがなく、平静さは徐々に失われていく。
そして、ルウは、唾液とは違うものが舌を濡らしていることに気づいた。
「師匠、気持ちいいれふか……?」
「……ああ、いいよ」
ガルバナムの下ろしている黒髪が、肩を滑って前に垂れる。
ガルバナムから快感を堪える息が漏れると、ルウは先端を咥え、ガルバナムを見上げた。
「がう、ばあむ、ふぁん……」
翡翠の目と目が合ったガルバナムは、下半身が急激に熱くなった。
「はあ……っ、ルウ、そろそろ……」
「らして、くらさい……、がるばらむはんの……」
ルウが咥えているものの膨張を感じた瞬間、ガルバナムは興奮を放出させた。
「ぶ、む……っ!」
しかし、ルウは勢いに驚き、思わず口を離してしまった。
すると、ガルバナムの止まない噴射が、ルウの顔半分に浴びせられた。
それは金色の睫毛を濡らし、頬をも白く染めた。
「かかってしまったな」
「ふふっ。いっぱい出ましたね」
ガルバナムはズボンのポケットからハンカチを取り出すと、ルウの顔をやさしく拭った。
「あれ? 師匠の、まだ……」
ルウの目の前にあるガルバナムの熱は、収まっている様子がなかった。
「これは、ルウのなかには入れさせてもらえるのか?」
「……へ? えっ、えっ?」
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