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杪夏の風編
1,杪夏の風-3
しおりを挟むルウが空間移動路を通り家の近くに戻ってきても、ガルバナムが追ってくる気配はなかった。
一人で家に到着したルウは、玄関の扉を開けようと、鍵を鍵穴に差し込む。
そのとき、ルウは異変に気づいた。
「開いている……」
訝しがって扉の取っ手に手を掛けると、玄関の扉は簡単に曲線の軌道を描いてひらいた。
忍び足で室内へ入ったルウは、リビングへ続く扉を細く開けて、なかを覗く。
すると、そこに人影があることを確認して驚いた。
「えっ、師匠?」
ルウの声に振り返った人影は、内側から扉を大きく開けた。
「おお、おかえりルウ!」
陽気にルウを迎えたのは、ガルバナムだった。
「先に着いていたんですか?」
「ん? まあな」
ルウがリビングに入ると、そこには、先程までとは違う出で立ちのガルバナムの姿があった。
ガルバナムは、テーブルの上にあったキャンディーポットの蓋を開ける。
「……師匠、着替えたんですね。白い服を着ている師匠を初めて見ました」
「気分転換だよ」
普段は黒づくめのガルバナムだったが、ピンク色のキャンディーを二、三粒、一気に口に放り込んだガルバナムは、上下とも白の着衣を身に付けていた。
キャンディーは口のなかで弾けて、パチパチと音を発している。
「師匠、そのキャンディー……」
「この弾けるキャンディーはおいしいな。アーケードにある満月堂のものだろう」
ルウは、キャンディーを味わうガルバナムの発言に違和感をおぼえ、眉間に皺を寄せた。そして、
「師匠。そのキャンディーは、師匠が買ってきてくださったんですよね……?」
と、慎重に訊ねた。
「ああ、そうだったな。ぼんやりしていて忘れていたよ」
「違いますよ。それは、僕が興味を惹かれて昨日買ってきたものです。師匠は嫌いだと言って、一粒も食べなかったんですよ」
ルウの話に、キャンディーを摘まむガルバナムは固まった。
「え?」
顔や声音がガルバナムと同じでも、ルウには、さっきまで一緒にいたガルバナムと同一人物だとは思えなくなっていた。
「……あなた、誰ですか? 師匠じゃない!」
ルウは、咄嗟に椅子を盾にして身構えた。
「なにを言っているんだい。僕はきみの師匠のガルバナムだよ」
「来ないでください!」
ルウは、テーブルの上の籠から摘んであったグミの実を一つ取ると、歩み寄ろうとするガルバナムのような男にポイッと投げつけた。
「痛っ。どうしてだい、自分の師匠がわからないのかい?」
ガルバナムのような男は、グミの実が当たった腕を大袈裟に庇う。
「あなたは僕の師匠じゃないです!」
ルウは、すかさずグミの実をポイポイッと二つ投げる。
「痛いってば。どこからどう見てもガルバナムだぞ?」
「師匠はそんな軽い話し方はしません!」
ポイポイポイッと飛んできたグミの実が次々に当たり、ガルバナムのような男は狼狽えて後退する。
「イタタ、それを投げるのはやめなさい」
そこへ、急いたブーツの足音がやって来た。
「なにをしているんだ、フェンネル!」
現れたのは、憤りを滲ませたガルバナムだった。
「……やあ、ガルバナム」
ルウと共にいたガルバナムのような男は、笑顔でガルバナムを迎える。
「……師匠? 本物の師匠ですか?」
ルウの目の前には、ガルバナムの顔をした男が二人並んでいた。
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