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斗眞編
おまけ『クリスマスの夜に』
しおりを挟む膝を抱えて湯船に浸かっていた斗眞は、今夜は自分がリードしなければと思っていた。
多賀幸がどういうつもりでこの部屋に泊まりに来たのかは理解している。
クリスマスイブだった昨日、多賀幸は疲れている斗眞に手を出すことはなく、狭いベッドで抱き合って眠っただけだった。
「両想いに、なれたんだよね……」
多賀幸の隣で想いが通じ合った実感に包まれたことを思い出すと、今でも斗眞は幸福な気持ちで胸がいっぱいになった。
しかし、多賀幸に同性を抱くことへの迷いはないのかどうか、不安がないわけではなかった。なにせ、多賀幸には男性との経験はないのだ。
そのとき、浴室のドアの向こうで多賀幸の声が呼んだ。
「斗眞くん。ちょっといい?」
多賀幸は先に入浴をすませ、斗眞が用意したネイビーのパジャマに身を包んでいた。
斗眞は湯船に入ったまま返事をした。
「はい」
「ペンかなにか、書くものを貸してもらえるかな」
「ボールペンでよければ、テレビの横にある、チェストの一番上の引き出しに入っています」
「ありがとう、借りるね」
多賀幸は仕事を終わらせてから待ち合わせる予定だったが、急遽目を通さなければならなくなった資料を持ってきていると斗眞は聞いていた。
斗眞は風呂を出て髪を乾かし終えると、簡単に浴槽を洗ってから部屋へと戻った。
「多賀幸さん、ボールペンはありましたか?」
「あったよ。だけど……、ボールペンじゃないものまで見つけてしまったよ」
ラグの上に座っていた多賀幸が視線を注いだのは、テーブルの上に置かれていた開封済みの小さい箱だった。
「あっ!!」
見覚えのある箱を見るなり、斗眞は冷や汗が出た。それはスキンの箱で、斗眞は存在すら忘れていたものだった。
チェストの上段には二つ並ぶ引き出しがあり、斗眞はどちらにボールペンが入っているのかを明言していなかった。多賀幸は文房具が入っている引き出しではなく、医薬品を入れていたほうを開けて探してしまったのだろう。
多賀幸は、怪訝そうに訊ねた。
「……これは、斗眞くんが使うの?」
「そっ、それは、僕が買ったものじゃないんです! 古いものが入れっぱなしになっていただけで……っ、……あっ」
多賀幸以外に付き合いのある人などいないと言いたかっただけなのに、斗眞は余計に墓穴を掘ってしまった。
「へえー。元カレの置き土産かー」
にこやかに言う多賀幸だったが、テーブルの上に向けられた彼の目は笑っていなかった。
「ごご、ごめんなさいっ! こんなものは捨てちゃいましょう……っ!」
斗眞は多賀幸の隣に正座すると、スキンの箱をすばやくごみ箱に入れた。
あたふたする斗眞を見て、多賀幸はふうと一息つく。初めから、斗眞を疑っていたわけではないのだ。
「ごめん。勝手に引き出しを開けたのは俺だものね」
多賀幸は、斗眞をぎゅっと抱きしめた。
前触れもなく多賀幸の腕に包まれ、斗眞はどきりとする。
「……多賀幸、さん?」
「俺、結構独占欲が強いみたい」
斗眞がふと床に視線を落とすと、多賀幸の肩越しに見えたのは、鞄の陰にひっそりと置かれたスキンの箱と潤滑剤のボトルだった。多賀幸が持参したものだった。
「それ……」
多賀幸は斗眞が見ているものに気づくと、照れくさそうに言った。
「斗眞くんのことを傷つけたくないからね。用意してきた」
「多賀幸さん……」
斗眞は、引き出しに入れたままになっていたものとは別に、自分でも必要なものは用意していた。多賀幸が、どこまで男同士でのやり方を知っているのかわからなかったからだ。
けれど、多賀幸自身もきちんと考えてくれていたのだと知り、黙っていることにした。
斗眞は、多賀幸から少し体を離すと、真剣に訊ねた。
「……本当に、いいんですか。僕と、して」
斗眞の言い種には、自身が男であることの心配が滲んでいた。
多賀幸は、その心配ごと受け止めて訊ねた。
「俺のほうこそ不慣れだけど、いい?」
そう言って微笑する多賀幸に思いやりを感じて、斗眞も笑みが漏れた。
二人は、どちらからともなく唇を重ねた。
まだ数えるほどしかしていないキスは、キスの合間に目が合うだけでも、互いに恥じらいが残っていた。
そっと唇を離して、多賀幸は言った。
「ベッドに、上がろうか」
「……はい」
ベッドに腰掛けた斗眞を、多賀幸はゆっくりと寝かせた。
天井の照明から降り注ぐ明かりを遮るように多賀幸が覆いかぶさり、斗眞を見下ろす。
斗眞は多賀幸を見上げながらも、伏し目がちになって言った。
「……そんなに見られると、ドキドキ、します」
「俺も、ドキドキしている」
再び交わしたキスは、さっきよりも遠慮がなかった。
多賀幸は薄く目を開けると、舌を挿入する。
「んっ……」
斗眞はぬるりとした感触に一度目を開けたものの、再び目を瞑って多賀幸に応える。
互いの反応を探り合うように絡んだ舌と舌は、斗眞の胸を甘く痺れさせた。
「は……、」
唇を離すと、斗眞の目は少しとろんとしていた。
多賀幸はその表情を愛らしく思い、頬にキスを落とす。それから、斗眞の首筋には柔らかい唇の感触が吸いついた。
「斗眞くん、いい匂い。ボディソープの匂いじゃないよね……?」
「……ボディクリームの匂い、だと思います」
「ボディクリームか。この匂い、好きだな……」
ブルーのギンガムチェックのパジャマは一番上からボタンが外され、それに伴いキスも徐々に下りていく。
多賀幸は鎖骨のあたりにちゅっと音を立ててキスをすると、斗眞の滑らかな肌を見つめた。
「……痕を、つけてもいいかな」
斗眞の様子を窺うと、斗眞は微笑を浮かべていた。
「見えないところなら……」
「うん……」
多賀幸は、斗眞の胸の真ん中に少しだけ強く吸いつき、キスの痕を一つ残した。
「俺のものっていう、印がついた」
「多賀幸さんのもの……」
多賀幸がつけた痕を撫で、斗眞ははにかむ。
多賀幸は、斗眞のパジャマのボタンをひとつずつ、すべて外して言った。
「パジャマを、ひらくよ?」
「はい……」
パジャマをはだけさせた斗眞の胸は痩せていて、白く滑らかだった。
多賀幸は、薄くついた筋肉を確かめるように、温かい掌で胸を撫でる。
「そんなに触っても、僕に胸はありませんよ……?」
斗眞は苦笑したが、多賀幸は斗眞を見下ろして微笑した。
「でも、斗眞くんの反応が可愛い」
「え……?」
「硬くなっているよね」
「あ……っ」
多賀幸は胸を撫でるのをやめ、指の腹で胸の突起をやさしくこすった。
「斗眞くん、乳首……感じるの?」
「あっ、んん……っ」
多賀幸の指先に力が入り乳頭を弄ばれると、斗眞は唇を引き結んで漏れそうになる声を抑えた。
「へえ。小さい乳首が立って可愛いね」
斗眞が羞恥により自分から目を逸らしたのがわかると、多賀幸は、乳首の周りを指先で円を描くようになぞる。
「あぁ、は……っ」
斗眞が甘い吐息を漏らすと、多賀幸は満足そうに言った。
「……斗眞くんは、敏感だと思ったんだ」
「どう、して……」
こうして触れ合うことは初めてなのに、斗眞は不思議に思った。
「今までの反応を見ていたら、ね」
多賀幸は当然のように言うと、不意に斗眞の乳首をきゅっと摘まんだ。
「ぁあっ! あ……っ」
そのままやさしく捻ると、斗眞の体はびくびくと感じる。
「んん、ん……あっ! あぁ……っ!」
抑えようとしても声が出てしまい、斗眞は申し訳なさそうに言った。
「ご、ごめんなさい、声……」
多賀幸は、斗眞の謝罪の意味がわからなかった。
「謝ることはないのに」
「だって、男の声、ですよ……」
そうだとしても、反応を教えてくれる艶のある声には違いない。
多賀幸は斗眞の心配をよそに、楽しげな笑みを浮かべた。
「もっと、聴かせて?」
多賀幸は斗眞の胸に顔を近づけると、指先の刺激によってしっかりと立ち上がった乳首を愛撫した。
「あぁっ、……あっ! た、多賀幸、さ……っ、んんっ」
「斗眞くん、声、我慢しないで……」
乾いた指先とは違う、熱い舌と唾液が胸を這う。
「あぁっ、あっ、……は、あぁ……っ」
多賀幸に許され声を漏らすと、その声は多賀幸をも満たしていく。
多賀幸の空いた手は、愛撫を施しているのとは反対側の胸に移動した。
「あっ! ぅう、んんっ、あ……っ」
片方の乳首は舌で弄ばれ、もう片方は指先で押しつぶされ、斗眞は体をびくりと震わせる。
「これだけ敏感なら、こっちは……?」
胸から顔を離した多賀幸は、斗眞の耳へと唇を寄せ、息を軽く吹きかけた。
「んん……っ!」
「やっぱり、耳も感じるんだ」
肩をすくめる斗眞に、多賀幸は悪戯っぽく笑うと、
「こういうのは?」
と言って、舌先を耳のなかへ潜り込ませた。
「あぁっ! ……あっ」
耳のなかをまさぐられたかと思えば、今度は薄い耳を食むように愛撫される。
「あ、ん……っ」
多賀幸の指先は胸の先端を転がすことをやめず、斗眞はどんどん体の力が抜けていった。
「可愛いね、斗眞くん……」
「んん……っ!」
多賀幸が耳元でそう囁いた途端、斗眞は肩を小さく震わせた。
耳まで赤くする斗眞を見て、多賀幸はやさしく言った。
「可愛いって言っただけなのに、感じちゃったの?」
「だ、だって、そんなこと……っ」
「本当に、可愛いんだから……」
繰り返し言われると、からかわれているのだとしても斗眞には気恥ずかしかった。
いつのまにか、多賀幸の手は斗眞の下半身へと伸びていた。その手は、パジャマの上から斗眞の体に触れている。
「多賀幸さん、そこは……っ」
多賀幸の手は、斗眞の股間を包み込むように撫でた。
「……勃ってきているね」
「無理に、触らなくてもいいですから……」
恥ずかしがりながら、斗眞は遠慮がちに言う。
すっかり斗眞の反応を楽しむようになっていた多賀幸は、そこから手を離さずに言った。
「無理だなんて、思っていないよ。むしろ、……触りたい」
面と向かって言われると、斗眞はその生々しさに頬を赤く染めた。
「ズボンを脱がすよ?」
「はい……」
そろそろとパジャマのズボンを下ろされ、次には下着にも指がかけられる。
「パンツも脱がせるね」
斗眞が頷いたのを確認し、多賀幸は斗眞が腰を上げてくれるタイミングを見て下着を下ろす。
細身の下半身を露わにした斗眞の中央では、興奮の印が頭をもたげていた。
多賀幸は、にこりとして言った。
「……こんなに大きくなっていた」
「あっ……」
多賀幸は、充血した斗眞のペニスの長さを辿るようにして、指先で触れた。
「人のおちんちんを触るのは初めてだな。……斗眞くんの可愛い顔とは違うね。いやらしく見える」
「そんな、まじまじと……、あっ」
多賀幸の手が、竿をそっと握った。
「触っても大丈夫? ……って、もう触っているけど」
「大丈夫ですけど、大丈夫じゃないです……っ」
斗眞は触れられることは嬉しくても、多賀幸が触れていると思うだけでどこもかしこも熱くなった。
多賀幸の手は斗眞のペニスをやさしく包みこみ、丁寧に上下に擦っている。
「は、あぁ……っ、あ……っ」
枕に頭を預け、斗眞は心地よく多賀幸の掌の感触に身を委ねていた。
ところが、突然亀頭に濡れた感触が触れ、「ひゃっ!?」と声を上げた。
腹部を見下ろすと、多賀幸が斗眞のペニスに舌を這わせていた。
「えっ!? 舐め……っ、あぁ……っ!」
――多賀幸さんが、僕のペニスを舐めている。
そう思うと、ただでさえ腫れていた斗眞のペニスはさらに膨張した。そこまでされるとは思ってもみなかったのだ。
「手でするより、こっちのほうがいいよね……」
「あぁっ!」
多賀幸は躊躇いなど微塵も感じさせず、亀頭からすっぽりとペニスを咥え込んだ。
「あ……っ、やぁ……っ」
ペニスだけが熱い口腔へと迎え入れられ、斗眞はそこが脈打つのを感じた。
多賀幸は慣れない動きではあるものの、時折ちらりと斗眞の表情を上目遣いで確かめては、斗眞が喜ぶ方法を模索しているようだった。
「ぁあっ、……はあっ、あ……っ」
「どう、かな。斗眞くん……」
びくびくと震えるペニスから唇を離さずに、多賀幸は訊ねる。
「い、い、です……っ、こんなふうに、されるとは、思いませんでした……っ」
「それはよかった」
斗眞の感想に、多賀幸は目を細めた。
多賀幸は再び斗眞のペニスを口に含もうとしたが、斗眞は手を伸ばしてそれを静止させた。
「待って……ください……」
「ん? どうしたの?」
顔を上げた多賀幸に、斗眞は言った。
「僕も、したいです。多賀幸さんの……」
多賀幸に触れられているうちに、斗眞にも多賀幸に触れたい欲が高まっていた。
多賀幸は、斗眞の照れまじりの提案に微笑した。
「それじゃ、二人でする……?」
「二人で……」
斗眞は、笑みを浮かべて頷いた。
二人が体を起こしてベッドに座ると、多賀幸は、斗眞の腕に引っかかっているだけになっていたパジャマに気づいた。
「脱いじゃおうか、これ」
斗眞に体を寄せた多賀幸は、露わになっている首筋に静かにキスをした。
「え……」
「脱がせてあげる」
「あ……っ」
たった一枚のパジャマを脱がす間に、多賀幸は斗眞の首筋や鎖骨、肩にまでキスを落として楽しむ。
それだけのことなのに、斗眞は多賀幸の気持ちをより近くに感じてくすぐったくなった。
ブルーのギンガムチェックを床にそっと落とすと、多賀幸は斗眞を見つめて言った。
「俺のも、脱がせてくれる?」
「……はい」
斗眞が多賀幸のパジャマのボタンを外していると、その間にも、多賀幸のキスがちゅっと斗眞の耳に音を立てた。
「あっ、あ……っ」
肩をすくめた斗眞は、手を止めずに困ったように笑う。
「多賀幸さん、そんなことをされたら、うまく脱がせられませんよ」
「……頑張って。俺も頑張るから」
「なにを頑張っているんですか……っ」
「ふふっ」
多賀幸のキスを耳や頬に受けながら、斗眞はどうにか上着を脱がせた。
そして、ズボンと下着に手をかけたとき。
斗眞は多賀幸の股間の布地が少し持ち上げられていることに気づいて、静かに驚いた。
「多賀幸さん、勃って……」
多賀幸は、当然のように言った。
「あんなに色っぽく喘ぐ斗眞くんを見ていれば、こうもなるよ」
「……嬉しいです」
斗眞は多賀幸の着衣をすべて脱がせてしまうと、床に落とした。
ベッドの上では、なにも身につけていない二人が向かい合う。
改めて互いの体を見つめ合うと気恥ずかしい空気が流れたが、斗眞から顔を近づけると、多賀幸は指先で斗眞の顎を支え、キスをした。
「……俺は、どうすればいいかな」
「多賀幸さんは、ベッドに寝てください。僕が上になります」
「うん」
斗眞は自分で言ったとおりに、多賀幸が頭を載せた枕のほうへ尻を向け、彼に跨った。
目の前にある多賀幸のペニスは勃ち始めたところで、自分のものより大きいそれは、さらに大きくなることも想像に難くない。
斗眞は、やさしく握ったそれに、愛しそうにキスをした。
「ん、……多賀幸さん……」
それから口に含むと、後方からは多賀幸の色情を帯びた吐息が耳に届いた。
斗眞は亀頭から咥え込み、喉にまで届きそうなほど奥まで味わう。
「あ……、斗眞くんの口のなか、熱い……っ」
「ふ、ん……っ、ん……っ」
斗眞の舌、口腔の熱、息遣いが、多賀幸の胸にも快感を募らせていく。
「気持ちいいよ、斗眞くん……っ」
「ふぁ、あ、よかった……、んんっ、んっ、ん……っ」
多賀幸も、目の前にぶら下がる斗眞のペニスをつかまえ、口腔に迎え入れた。
「あぁ……っ!」
多賀幸の舌の動きを感じると、斗眞は一気に腰が熱を帯びたように感じた。
斗眞の腰が微かに揺れていることに気づいて、多賀幸はもっと舌を絡めてみせる。
「あっ、う……、んん……っ」
斗眞は、口のなかにあるものを舐ることに集中しようとした。そう思っていないと、多賀幸の舌の動きを感じて疎かになりそうだった。
多賀幸は、斗眞の丸みのある臀部に触れて言った。
「斗眞くん、体がきれいだね。お尻もすべすべだ」
「ひゃっ!」
ペニスが解放されたかと思うと、思わぬところに触れられて斗眞は声を上げた。
「あっ、多賀幸さん……っ!?」
「入り口をなぞっただけだよ?」
多賀幸は、斗眞のすぼんだ入り口を、中指で繰り返しなぞっていた。
「指を、入れてもいい?」
「今、は……」
返事に迷う斗眞だったが、多賀幸の視界にはぴくぴくと揺れる斗眞のペニスがあった。その動きは拒否の意思表示には見えず、多賀幸は指先に力を入れた。
「入れるよ?」
「あ! あぁ……っ」
多賀幸の中指は、斗眞の奥へと誘われるように入った。
「あ……、すごいね。指をどんどん飲み込んでいく……」
「そんな、言わないでください……っ」
多賀幸が指を動かすと、斗眞のなかは想像よりも動きやすかった。
多賀幸は、思わず訊ねた。
「こんなに、やわらかいものなの?」
その質問にはどきりとして、斗眞は一瞬答えるのを躊躇った。
しかし、答えないのも不自然なため、曖昧に言葉を濁す。
「さっき、準備、したので……。あっ、あ……っ」
多賀幸は、指を抜き差ししながら言った。
「準備?」
「お風呂で……、んんっ」
はっきりとは言えない斗眞だったが、多賀幸にはどんな準備だったかの察しがついた。
「へえ。見てみたかったな」
「えっ?」
「それは、また今度見せてもらおうかな」
多賀幸はにこやかにそう言ったかと思うと、指を抜いた。
そして、次の瞬間、斗眞は腰をびくりと弾ませた。
「はぁっ! あぁ……っ! た、多賀幸、さん……っ」
多賀幸は、斗眞の菊門を舌先で舐めていた。
「斗眞くん、口を離さないで」
「あ……、ふぁ、ふぁい……、んっ、んん……っ」
斗眞は多賀幸のペニスを咥えたものの、尻に意識を取られて頭がぼうっとしていた。
「ん、んん……っ、は、あ……っ、んう、ん……っ」
「ん、ん……っ」
多賀幸の舌は穴の浅いところへと捻じ込まれ、斗眞はその微かにうごめく感触に腰を揺らす。
「は、あ……っ、ん、んう……っ、た、たかこう、さん……っ」
斗眞は多賀幸のペニスを口から離さずに、多賀幸の舌の動きひとつひとつに脳が麻痺していくのを感じていた。
多賀幸は、唾液ではなかなか濡れないことを悟ると、枕元に移動させておいた潤滑剤のボトルを手に取った。
それを掌に垂らすと、指先にまとわせる。
「斗眞くん。少し冷たいかもしれないけど、我慢してね」
「え……?」
多賀幸は、指を一本挿入した。
「あぁ……っ!」
指は簡単に飲み込まれ、多賀幸は余裕の笑みを浮かべる。
「もう一本、入りそうだね……」
ぬるりとした感触と共に、さっきまでよりも窮屈な圧迫感が斗眞にも感じられた。
「あぁ……っ、ああ……っ!」
ゆっくりとではあったが、多賀幸の指はぐちゅりと音を立てながら、斗眞のなかを確実にほぐしていく。
多賀幸によって立て続けに種類の違う感覚を与えられ、斗眞は体が疼き始めていた。
今、口にしている多賀幸のものを、多賀幸の指が入っているところへ入れてもらえたら……。
そう思うと、余計に我慢ができなくなった。
「ああっ、あ……っ、た、多賀幸さん……っ、も、もう……っ」
「ん? なぁに?」
斗眞はペニスから口を離し、多賀幸へと振り向いて言った。
「多賀幸さんが、欲しいです……っ」
頬を紅潮させ、瞳を濡らして請う。
「ください、多賀幸さん……っ」
普段の斗眞からは想像できない表情と言葉に、多賀幸はどきりとして目を奪われた。
返事を待つ間も、斗眞は多賀幸から一瞬たりとも目を離さない。
「……ずるいなぁ、そんな顔でせがむなんて」
多賀幸は体を起こすと、愛しさのあまり斗眞にキスをした。
「んうっ、ん……っ」
唇も舌も甘く重なり、キスをしたまま斗眞をベッドに寝かせる。
「多賀幸さん……っ」
少し体を離しただけで、斗眞はすがるように腕を伸ばした。
「すぐに入れてあげるから、ちょっと待っていて」
斗眞を笑顔でなだめた多賀幸は、枕元に置いていたスキンを装着する。
多賀幸の準備が整ったことを見計らった斗眞は、自ら膝の内側に手を入れて持ち上げ、臀部を露わにしていた。
「多賀幸、さん……」
吐息まじりで名前を呼ぶ声、紅潮した体、まっすぐに見つめてくる潤んだ瞳……。
多賀幸は、自分でも興奮していることに気づいていた。斗眞の催促する姿は、想像以上に情欲を掻き立てるものだった。
多賀幸はペニスの先端を菊門へと押し当てた。
「……入るよ?」
「はい……」
ぴたりと押し当てられた先端は、潤滑剤の助けも借りて、滑らかに斗眞のなかへと入り込んだ。
「あぁっ、ん……っ、あ……っ!」
「あ、は……っ」
指で感じたものとは違うペニスに吸いつく襞の感触に、多賀幸は思わず声が漏れる。
「……きついね。斗眞くん、大丈夫?」
「大丈夫です……、来て、ください……っ」
斗眞は受け入れたものの熱さと痛みを感じながらも、多賀幸の首に手を回した。
「うん……」
多賀幸がゆっくりと腰を押し進めると、斗眞の奥にまで届く。
「斗眞くん……っ」
「あぁ……っ、繋がれましたね、僕達……っ」
そう言った斗眞の笑顔は、ほっとしていて、嬉しそうで、多賀幸までつられて笑みを浮かべた。
「そうだね。こんなに奥まで、繋がれた……っ」
多賀幸が腰を動かすと、斗眞の奥に当たった。
「あっ!」
そうかと思えば、次の瞬間には引き抜かれそうになって内壁をこすられ、斗眞の腰は甘く痺れる。
「あぁっ、は、あ……っ」
多賀幸と繋がる感覚に慣れてくると、斗眞の声はいっそう切なさを増して響いた。
「気持ちいいの? 斗眞くん……っ」
「気持ち、いいです、多賀幸さ、んっ、ああ……っ」
多賀幸に揺さぶられながら、斗眞は訊ねた。
「多賀幸さんは、いい、ですか……? 僕の、なか……っ」
「すごく、気持ちいいよ……っ」
「よか、った……っ、あぁっ! んっ、あ!」
「想像以上、だよ……っ」
その言葉を裏付けるように、多賀幸の動きはベッドを軋ませる。
「そ、想像って、どんな……、あんっ!」
「……内緒」
多賀幸は口の端を上げたかと思うと、
「斗眞くん、少し激しくするよ……?」
と言って、ペースを上げた。
「え……っ、ああっ、あっ! あぁんっ!」
深く体を重ねられ、斗眞は突かれる度に出る声を抑えられなかった。
「斗眞くんに、こんなにいやらしい顔があるとは、思わなかったな……っ」
多賀幸に見下ろされ、斗眞は甘い吐息を漏らしながら、おそるおそる訊ねる。
「いやに、なりました……?」
しかし、多賀幸は微笑を浮かべていた。
「興奮する」
穏やかな表情とは裏腹に、激しい腰使いが斗眞を襲う。
「ああっ! ああ! やっ、ぁあっ!」
「斗眞くんが感じるところ、わかってきたかも……っ、ここ……?」
「あっ、あぁんっ! ああっ!」
多賀幸のペニスは特定の場所をこすり上げ、多賀幸が動くたびに、斗眞は全身へと快感が行き渡る。
時には声が裏返るほど感じながら、斗眞は涙を浮かべて言った。
「ああっ、も……、多賀幸さん、なんで、わかるんですかぁ……っ!」
「斗眞くんの顔を見ていれば、わかるよ」
「あぁ……っ」
斗眞は両手で顔を隠し、独り言のように呟いた。
「……僕がリードしなきゃって、思っていたのに……っ、こんな……ぁあんっ!」
多賀幸へ抱いていた心配は今となっては取り越し苦労にすぎなかったと、体を揺さぶられながら斗眞は身に沁みた。
「そんなことを思ってくれていたなら、お任せしてもよかったかな……っ」
多賀幸は斗眞の手をどけさせ、斗眞を見つめる。
「多賀幸さ、ん……っ」
「でも、今日は、俺に任せてね……っ、んっ!」
「ああっ! ……あぁんっ! はあっ!」
多賀幸が強く腰を打ちつけると、斗眞の体はびくりと跳ねた。
「斗眞くん……っ」
多賀幸に重ねられた唇に、斗眞の嬌声は吸い込まれる。
「んうっ、ん、ん、……はぁ、んんっ、ん……っ!」
「斗眞くん、好きだよ……。俺、今、とても幸せだ……」
ぼんやりしていた頭に広がる囁きに、斗眞は全身が包まれる思いがする。
「多賀幸さん……っ、僕も、幸せです。大好き、多賀幸さん……っ」
声がかすれても伝わる斗眞の気持ちに、多賀幸は笑みが漏れる。
「はぁっ、ああっ、た、たかこうさん……っ、僕、もう、イッちゃいます……っ!」
「一緒にイこう、斗眞くん……っ」
荒い息遣いが絡み合い、二人の熱はどちらがどちらかわからないほどに溶け合った。
「ああっ! あっ! ああ……っ!」
斗眞はなにも考えられなくなり、自分の腹を白濁液で濡らした。
「くっ、あ……っ!」
そのあと、多賀幸も斗眞のなかで何度も果てた。出しきっても、興奮の余韻が多賀幸の脳を揺らすようだった。
「斗眞くん……」
多賀幸は斗眞に覆いかぶさって抱きしめ、彼の頬にキスをする。
「多賀幸さん……」
斗眞は呼吸を整えながら多賀幸の背中に腕を回し、多賀幸の重みを愛しく感じていた。
翌朝、斗眞が目を覚ますと、隣で寝ている多賀幸はすでに目を覚まして、斗眞の顔を見つめていた。
「おはよう、斗眞くん」
窓の向こうにはそろそろ日が出そうな明るさがあり、ヘッドボードに置かれた時計は六時半を過ぎている。
多賀幸が斗眞をやんわりと抱きしめると、二人のパジャマが衣擦れの音を立てた。
ゆうべのことを思い出し、斗眞は照れくさそうに言った。
「おはようございます、多賀幸さん。……ん?」
頭の上に、なにか軽いものが当たった。
上半身を起こしてみると、枕元には厚手の小さい紙袋が置かれていた。
手に取ってなかを覗いてみると、りぼんでラッピングされた箱が入っている。
「……これは、プレゼント、ですか?」
多賀幸も、起き上がって言った。
「ああ、それね。斗眞くんに、サンタさんが来たみたいだよ」
「サンタさん?」
多賀幸の台詞に、斗眞はきょとんとした。
自分の周りにサンタクロースがいるとすれば、それは多賀幸しかいない。
多賀幸に話を合わせて、斗眞は言った。
「プレゼントなら、クリスマスイブにもいただきましたよ?」
「昨日は、もう一つあったのを忘れていたそうだよ」
「そうなんですか?」
それは事実らしい理由で、斗眞は思わず笑みがこぼれた。
「……開けていいですか? サンタさん」
多賀幸は、その呼びかけを否定せずににこりとして答えた。
「どうぞ」
斗眞がりぼんをほどいて蓋を開けてみると、そこには手袋が収まっていた。手袋はくすんだブルーのニット地で、手首にかかる部分にはレザーが施されていた。
「きれいな色の手袋……。本当に、いただいていいんですか?」
斗眞は、静かに感激していた。
「手袋を持っていなかったみたいだから。手は大事にしたほうがいいだろうって、サンタさんが言っていたよ」
設定がぶれない多賀幸に笑いが漏れながらも、斗眞は答えた。
「ありがとうございますと、サンタさんにお伝えください」
「かしこまりました」
貰った手袋を抱え、斗眞はベッドを下りようと足を床へ下ろした。
「多賀幸さんは、朝ごはんはなにを召し上がりますか?」
斗眞は、訊ねた相手が多賀幸であることを強調して言った。
「昨日と同じパンか、寒いので麺にするのも……」
多賀幸に背を向けた斗眞に、多賀幸はそっと腕を伸ばした。
「……多賀幸さん?」
多賀幸の腕は斗眞の腹まで回り、斗眞は後ろから抱きしめられた。
あまりにも密着され、多賀幸を振り向けずにいると、耳元へ多賀幸が囁いた。
「もう一回、斗眞くんが欲しいって言ったら……、食べられるのかな」
頬をすり寄せて甘えるような仕種に、斗眞の心が揺れる。
「……え? ……だ、だめですよ。今日も仕事です。多賀幸さんもでしょう?」
斗眞は、半分は自分に言い聞かせるように言った。
「少しだけ」
多賀幸の腕が緩んで振り向くと、そこには有無を言わせない笑顔があった。
「朝ごはんを食べる時間が、なくなりますよ……?」
「朝ごはんよりも、斗眞くんがいい……」
迫るキスを受け止めた斗眞は、わずかに残っていた反対の気持ちも溶かされる。
「少しだけ、です……」
「うん……」
多賀幸のキスは斗眞の奥深くをまさぐり、再び斗眞をベッドに寝かせた。
クリスマスの甘い余韻は、二人の間でまだ続くのだった。
〈終〉
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