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大和編
2,浮遊する記憶
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大和には、生まれつき未来が見えてしまう能力があった。
はっきりとした能力の発現がいつだったのかは、大和自身にも記憶がない。
小学校に上がった頃には、すでに日常的に未来を見るようになっていた。
「ママ、お出かけやめよう。三時になったら、お隣のおばちゃんが来るよ」
大和が幼児の頃、外出の支度をしていた母親を呼び止めたことがあった。
「え? おばちゃんがそう言っていたの?」
「ちがうよ。僕、知っているの」
そのつぶらな瞳で見たものを、大和は告げていた。
その日、三時を回ると本当に隣人が訪ねてきたが、母親はたまたまだろうと気には留めなかった。
しかし、大和の奇妙な発言は、それだけでは終わらなかった。
ある日の、マンションのエレベーターを待っているときのことだった。
「ママ。あの人、なにをしているんだろう」
大和は、人影のない廊下を指差していた。
「誰かいたの?」
母親が奇妙に思って訊ねると、
「いるよ。ほら、ピンクのバッグを持っている女の人。鍵をなくしちゃったのかな。おうちに入れなくて困っているのかもしれないよ?」
大和は熱心に説明したが、母親には、女性もピンクのバッグも見つけることはできなかった。
小学校からの帰り道、ランドセルを背負い友達と歩いているときにも、
「今の犬、可愛かったね」
と、大和は突然、楽しそうに言った。
「犬? 犬がいるの?」
「どこどこ?」
一緒に歩いていた二人の友達は辺りを見回したが、犬の姿も、犬と散歩する人の姿もなかった。そこは、犬がいそうな家や店もない、ただの歩道だった。
大和のリアクションは、まるで他者が現実に見ているものとは違う出来事を目の当たりにしているかのようだった。
大和の発言を、母親も友達も、だんだんと無視はできなくなっていった。
大和のいないところで、母親は度々夫に不満を漏らした。
「大和って、時々おかしなことを言うのよ」
「子どもの言うことだろう、本気にするなよ。きみの気を引きたいんじゃないのか?」
父親は、面倒なことはご免だとでも言いたげだった。
両親は息子を不可解に思いながらも、彼の話を真っ向から信じることはなかった。
そして、大和の“妄言”が始まったとわかると、「そういうことを言わないでね。お友達にも言っちゃだめよ」と、なだめて止めるのだった。
大和は、歳を重ねるごとに、自分に見えているもののなかに未来が混じっていることに気づいていった。
一度見たはずの知っている光景が、時間を置いて再び現実となって現れる。バーチャルリアリティのように、大和は未来のイメージを見た。
現実で学習したことを取り込んでいくと、見える未来も、身近な出来事から世界情勢にまで広がってしまった。それは時に、起きていながら悪夢にうなされることと同様の体験を引き起こした。
十歳のある日、大和は自室の机に向かい本を読んでいたが、突然、テレビ画面が目の前に現れた。
「うわああっ!」
驚いて椅子から転げ落ちた大和は、足をもつらせながら慌ててリビングへ向かった。
「なに……、今度はなんなの?」
キッチンにいた母親は、何度目かわからない息子の発狂とも思える事態に、疲弊していた。
大和はテレビをつけ忙しくチャンネルを変えたが、そこには平和的なバラエティー番組や再放送のドラマが流れているだけだった。
大和は、怯えた目をして、リモコンを持つ手を震わせて言った。
「い、いっぱい、人が、倒れていたんだ……! どうしよう、どうしよう!」
母親は、大和が手にしていたリモコンをそっと奪い、テレビの電源を切った。
「ママ、どうしよう!」
母親の服を掴み、大和はすがる思いだった。
しかし、母親は蔑むような目で大和を見下ろし、冷ややかに言った。
「映画でも見たんでしょう? いい加減にしてよ。五年生にもなって、小学校でも授業中に大声を出して注意されたんでしょう?」
「だって……っ、僕には見えるんだ……!」
大和がそう言った瞬間、母親の我慢の糸は、ぷつりと切れた。
「黙りなさい! もう、うんざりよ!」
叫びのような母親の声に、大和は固まった。
母親は大和の腕を乱暴に掴むと、大和の部屋へと連れて行き、背中を強く押して部屋に入れた。
「おかしなことを言うのをやめるまで、出てこないで!」
そう言って、バタン! と勢いよくドアを閉めた。
大和は、呆然として立ち尽くした。
しんと静まる部屋で、一人きり、体の震えがおさまらない。
見えた未来の恐怖と母親に見捨てられた心細さで、大和の目からは、涙がぼろぼろとこぼれ落ちて止まらなかった。
「なんで、皆には見えないの? なんで、わからないの……?」
大和は肩を震わせ、涙が混じる声で呟いた。
「……僕は、おかしいの?」
床を見つめる大和の目は、成す術のない無力感に染まっていた。
その日から、大和は、見えた未来を口外することをやめた。
両親はそれだけで、息子が“正常”になったと安堵した。
しかし、大和は孤独に、見えた未来を受け止める闘いを続けていた。そして、見えた悲劇をニュースで確認してしまった日には、やり切れない思いを募らせた。
この能力との共生の仕方を教えてくれる人などおらず、理解者もいない。
大和は、明日の乗客と共に電車に揺られ、明日に現れるキッチンカーから漂う甘い香りに笑みをこぼして、街を歩いた。
そんな大和に転機が訪れたのは、中学二年生のときだった。
大和は、自分の能力について知るべく、あらゆることを調べていた。
生物、科学、歴史、宗教、超自然……。しかし、十三歳の大和には理解できないことも多かった。
インターネット上で自分と同じ能力を持っていると思われる人物を見つけることはあったが、嘘であることが見破れてしまうことがほとんどであり、信頼するに足る人物を探し出すことは困難だった。
そうした日々のなか、大和はとある民俗学の本で、“幻燈町”という見知らぬ町名を知ることになった。県内の町だった。
そこには、目に見えない記憶のカケラを探しに人々が集まり、未来を見たという人までいるという。
単なる町民の伝承話だったが、大和は、その伝承が残る町に惹かれた。幻燈町なら、自分の能力に関するヒントが見つかるかもしれないと思った。
その町には、寮のある男子校があった。
大和は幻燈町の高校へ行くため、意欲を持てなかった勉強にも身が入るようになった。そして、電車で二駅隣の学習塾へと通うようになった。
学習塾は、八階建てのビルの三階から五階までのフロアにあり、一クラスに五人まで入れる少人数制だった。
そこで同じクラスになったのが、和佐宗司だった。
夜の九時を過ぎ、授業を終えた教室はドアが開け放された。
宗司は紺青のブレザーを羽織り、帰ろうと席を立ったが、後ろの席では、テキストを片づけずに机に向かったままの生徒がいた。
この辺りでは見かけない濃灰色の詰襟を着た生徒で、いつも最後まで教室に残っていた。
「いつも、遅くまで残っているの?」
宗司は、初めて大和に声をかけた。
大和は、突然話しかけられて驚いたものの、快く答えた。
「授業が終わっても、先生に聞けば教えてもらえるから。僕、今のままだと、第一志望がC判定なんだ」
「第一志望って、どこ?」
「幻燈一校」
宗司は、その学校名に表情を綻ばせた。
「僕も同じだよ」
「そうなの?」
「僕もまだB判定でさ」
宗司は、その日から大和と共に居残ることに決めた。
そして、居残りに加わったのは、宗司だけにとどまらなかった。
別の日、大和と宗司が教室に残ってテキストをひらいていると、緑青色のブレザーを着た生徒が廊下を横切った。忘れ物を取りに戻ってきた、別のクラスの一色尊だった。
尊は、帰り際に、一つだけまだ明かりの点いている教室を覗いた。
「なにをしているんだ?」
尊はそのクラスに知り合いはいなかったが、暗いフロアで唯一開いている教室が気になった。
「自習だよ」
大和が答えると、尊は首を捻った。
「自習? こんな時間まで?」
「十時までは開いているから大丈夫だよ」
教室の掛け時計は、九時半を示していた。
「僕達、幻燈一校が志望校なんだ。少しでも苦手なところをなくしておきたくてね」
宗司がそう言うと、尊は、
「へえ、俺も幻燈第一志望だよ」
と言って、教室へ入った。
「本当? 受かりそう?」
大和が前のめりになって訊くと、尊は涼しい顔で言った。
「一応、今はA」
「A判定? すごいなぁ!」
宗司は、すかさず大和に耳打ちした。
「藤苗くん。もしかしたら、この人……」
「あっ!」
顔を見合わせる大和と宗司を、尊は怪訝そうに見つめた。
「……なに?」
大和は、ひらいていたテキストを見せて言った。
「きみ、数学って得意?」
「は?」
「よかったら、教えてくれないかな」
目を輝かせる大和の要求に、尊は断るに断れなかった。
「……べつに、いいけど」
こうして、尊は大和と宗司の居残りに付き合うかたちで加わることになった。
三人は、それぞれ通う中学校は違うものの、学習塾の外でも会うほど親しくなっていった。
夏を迎えたある日、大和は尊と宗司と共に、街中へと買い物に来ていた。
太陽が燦燦と降り注ぎ、日陰のないビル群は歩く人で賑わっている。
尊はすれ違った女の子に容姿のよさを噂されるも、当の本人はそしらぬ顔だ。
ゲームショップや大型の生活雑貨店に立ち寄り、軽食をとるため一時間ほどカフェで休憩をした。
それから、駅方面へと歩きだしたときだった。
大和は未来を見た。どしゃ降りに見舞われた駅だった。明かりの消えた仄暗い改札口には人が集まり、混雑している。
そのリアルな光景に、大和は思わず二人に話した。
「ねえ、二人とも。もうすぐ雷雨が来るから、早めに帰ったほうがいいよ。雷で電車が止まるよ」
尊は大和を振り返り、疑問を浮かべた。
「雷雨?」
「……こんなに晴れているのに?」
宗司は、縦書きのフォントが並ぶ袖看板を視線で辿るようにして、ビルがそびえる先の空を見上げた。少し風が出て白い雲も流れていたが、きれいな青空だった。
うっかり話してしまってから、大和はしまったと思った。
せっかく親しくなった友達には、自分の能力のことは知られずにいたかった。万が一にも知られれば、どんな目で見られることになるのか、大和は子どもの頃からの経験で痛いほどに理解していた。
「靴紐を買っていかないと、部活で必要なんだ。ちょっとだけ、店に寄らせて」
尊の言葉で買い物を続けることになった三人は、結局、三十分ほどスポーツ用品店にいた。
買い物を済ませて外へ出てくると、空は先ほどまでの晴天とは打って変わって、分厚い黒雲に覆われていた。時折、雲を切り裂く稲光が駆け抜けている。空気も冷たい。
「うわ、これは本当に降ってきそうだな」
尊は、空の変わりようを見て言った。
三人が駅に向かって歩き始めて数分も立たないうちに、雨粒が、ぽつりぽつりと地面を黒く染め始め、あっという間に土砂降りになった。ピシャンと、どこかへ落ちたような雷の激しい音も響く。
走ってどうにか駅に辿り着いたものの、三人は頭から爪先までびしょ濡れになり、街は滝のような雨と轟く雷鳴に包まれた。
「大和の天気予報が当たったな」
濡れた前髪をよけながら、尊は笑って言った。
「当たるのなら、先に傘を買っておけばよかったね」
宗司も、シャツの裾を絞って言う。
大和は苦笑し、「うん」と答えるに留めた。
それから、三人は雨水が染みた靴で改札口へと向かった。駅の構内は暗く、パン屋や本屋の看板の明かりも消え、一部がガラス張りの天井から入る自然光だけが頼りだった。
改札口には人だかりができ、人々の携帯電話の画面が煌々と光って見えている。
そして、三人の耳に届いたのは、「落雷による停電により電車の運転を見合わせております……」という、駅員のアナウンスだった。
尊と宗司は、再び予想を的中させた大和を振り返った。
「し、仕方ないよね。雷が落ちて電車が止まるなんて、よくあることだし……」
大和は笑ってみせ、尊と宗司も、それ以上は関心を持たなかった。
休日で賑わっていた駅は、電車の運転再開を待つ人々でごった返し、蒸し暑くなっていた。
三人は、改札口そばの壁際に落ち着いた。
携帯電話でSNSを見ていた宗司が言った。
「隣駅でも停電しているみたいだ。電車が故障したとも書いてある。運転再開まで時間がかかりそうだね」
外の天気は、ごろごろと雷が唸り続け、雨も止みそうにない。
「濡れたままじゃ店にも入れないし、ここで待つしかないか」
尊の言うことに、大和と宗司も異論はない。
「二人とも、時間は大丈夫?」
宗司が気遣うと、大和は言った。
「僕は平気だよ。帰りは遅くなるかもって言ってある」
「俺も、ちょうどいい。……あまり家には帰りたくない」
大和と宗司は、尊の事情を察した。
両親が離婚協議中だという尊は、両親となるべく顔を合わせないように生活しているらしかった。
減る気配のない人混みと蒸した空気に体がストレスを感じ始めた頃、宗司は妙案を思いついた。
「そうだ。二人とも、うちに来る? ここからならバスでも帰れるんだ」
宗司の提案に、ここに何時間も立ち尽くすしかないと諦めていた大和と尊は、解放されたような面持ちになった。
「いいの?」
「ここにいても、いつ帰れるかわからないものね。引っ越してきてから友達を家に連れて行くのは初めてだな。……尊も来るだろう?」
「行くよ」
「じゃあ、決まり」
三人は足取り軽く、雨音が響くバスのロータリーへと向かった。
大和は、自分の発言を尊と宗司がすっかり忘れている様子に、一人胸を撫で下ろしていた。
尊と宗司と親しさが増すにつれ、大和は、見えた未来を口外しないようにと注意深く人付き合いをしてきた緊張感が薄れていった。
そのせいで、見えた未来について口を滑らせることが多くなった。
そのなかでも、尊と宗司に、決定的な不審感を抱かせてしまう出来事があった。
塾の帰り道に、毎冬公開されるイギリス映画について話が及んだときだった。
「今年のファントムは観に行く?」
話を切り出したのは、宗司だった。
「そのつもりだよ。皆で行こうよ!」
大和も、殺された主人公が幽霊となって事件を解決していく映画『ファントム』シリーズは観ていた。
「そうだな。前作は、アーロンのことが唯一見える恋人が、役者の事情で退場だったもんな。次の相棒が誰になるのか……」
尊は、難しい顔をして唸る。
「ジョージとカイが候補と言われているよね」
宗司が話を合わせると、尊の表情はますます険しくなった。
「それって、どっちも怪しいんだよな。ジョージはアーロンの兄で、一番身近な人物だろう? カイは事情通の新聞記者だろう? どっちもアーロンを殺す動機がありそうでさ」
二人の話にはそれぞれ頷きながら、大和も嬉々として自分の知っている話を持ち出した。
「今年も楽しみだね。そういえば、再来年の監督は、初めて日本人が起用されるんだよね。名前は、僕は聞いたことがない人だけど」
大和の言葉に、尊と宗司は歩を止めて驚いた。
「日本人? 本当?」
「再来年の情報なんて、発表されていたか?」
「あ……」
大和は、話してしまった内容が現在のものではないことに、言ってから気づいた。
それは、数日前に能力を通して見えてしまったネットニュースの内容だった。
「なにか、サプライズがあるっていう噂はあるみたいだけどね。海外の映画に日本人が呼ばれるなら、監督より、まだ俳優のほうがあり得そうだね」
宗司は言った。
「そう、だね……、ネットで見たから、デタラメだったのかも……、ははは」
大和は慌てて誤魔化し、その場は事なきを得たかに見えた。
しかし、三日後のことだった。
ワイドショーは、海外の有名映画に若き日本人監督が抜擢された異例の事態を、華々しく報道した。
難解なストーリーで日本ではコアなファンを持つ映画作品が、日本にいる友人を介してプロデューサーの目に留まりオファーに繋がったという、シンデレラストーリーだった。
ベッドに寝転んでいた大和は、携帯電話でそのニュース記事を見ながら、尊と宗司にはもう隠しとおせないかもしれないと思った。
サプライズ発表は極秘のものであり、現地のプロデューサーと数人の関係者以外には誰一人として知る人はいなかったという話だった。インターネット上でさえ、デタラメでもこのサプライズを当てた者など一人もおらず、ニュースが流れたあとは、日本でもイギリスでも賛否両論が巻き起こっていた。
それから、三人で会う機会はすぐにやって来た。
塾が始まる前に三人で夕食を済ませようと、駅前のハンバーガーショップで待ち合わせをすることになった。
窓際、最奥のテーブル席がお気に入りの三人は、雨で人通りが少ないために空いていたその席を陣取った。
映画ニュースの熱は世間では冷め始めていたが、尊と宗司にとっては未だに気がかりなことだった。
「ファントムの話だけどさ……」
宗司が、大和の隣でおそるおそる話を切り出した。
「大和の予想って当たるよね。すごいな」
「さすがに、あそこまで当てるとびっくりするよ」
やはり、尊も宗司も、大和が先走って話したことを覚えていた。
大和はなんと答えていいかわからず、テーブルの上の紙に包まれたままのハンバーガーに視線を落とす。
話が進む気配がなく、このままでは埒が明かないと思った尊は、正面に座る大和に話しかけた。
「なあ、大和。おまえ、なんていうか……、先のことを知っているように話すことがあるよな」
大和を追い詰める雰囲気にならないよう、尊は慎重に言った。
「まるで、そうなることを知っていたかのような言い方、みたいな」
同じことが気になっていた宗司も、尊の問いかけに小さく頷き、大和の答えを待った。
しかし、大和の口は固く閉ざされていた。
「……まあ、言いたくないなら、いいんだけどさ」
尊が引き下がろうとすると、大和は小声で、「そうじゃないんだ」と呟いた。
黙っていても、秘密を打ち明けても、逃げ道などないことは大和にもわかっていた。
どちらを選んだとしても、これまで友人だった相手が奇異なものを見る目で自分を見るように変わってしまう。
その瞬間を見るのがこわかったのだ。
それでも、二人には話そうと決めて、大和は今日ここに来ていた。
大和は二人を直視できずに、テーブルの上へ視線を泳がせながら口をひらいた。
「……僕の話を聞いたら、きっと、僕のことを気味が悪く感じるようになると思う。そう思ったら、言ってね。おかしな奴って思われるのは、慣れているから。二人にも、迷惑がかからないようにするから」
それは、友達をやめる決意でもあった。
それほど、大和の告白は覚悟のいるものだった。
周囲のテーブル席に人はいない。
店内はまばらな人の会話と流れるポップスがちょうどいい雑音になっている。
言うなら、今しかなかった。
大和は、思い切って言った。
「僕……、時々、未来が見えるんだ……っ!」
言いながら、膝の上に載せていた手をぎゅっと握りこぶしにした。
冷笑されるのか、呆れられるのか……、どんな反応をされるのかこわくて、大和は俯いた。
大和の耳には、しばらくポップスのサビだけが聞こえてきていた。
そのあとに聞こえたのは、尊の声だった。
「未来……? それ、本当か?」
大和は顔を上げ、黙って頷いた。
驚いている様子の尊に続いて、宗司も怪訝そうに訊ねた。
「見えるって、どんなふうに?」
質問が返ってくるとは予想しておらず、大和は一瞬どぎまぎした。
「え……、ど、どんな……?」
「うん」
「……映像、だよ。部分的にだけど、カラーの映像で」
大和は、見えているままを言った。
すると、尊と宗司は、ほっとしたように大きく息を吐いた。
「そうか……、そういうことだったのか」
「予想じゃなかったんだね」
尊と宗司のリアクションは大和が想像したものよりも遥かに呆気なく、しかしそれが、大和には信じがたかった。
「……信じて、くれるの?」
尊は言った。
「信じられないことではあるけど、これまでのことがあるからな」
「言われてみれば納得というかね。大和が、僕達に嘘をつく理由もないだろう?」
二人の言葉に、大和は涙ぐんだ。
尊と宗司は、本当に大和の話を信じているようだった。
「それって、昔からなのか?」
関心をもってくれている尊と宗司に、大和は涙を呑み込んで答えた。
「……うん。未来が見えるとは言っても、フィクションの世界で、ヒーローとして持て囃されるような能力とは違うんだ。生まれつきのものだけど、使いこなせるわけじゃなくて、子どもの頃はしょっちゅう混乱していた。現実との違いを見極められるようになるまで、時間がかかったんだ」
「未来が見えるってことは、見えたものが現実に来るの?」
宗司は訊ねた。
「その確率は高いよ。でも、いつどこで起きるのかわからないこともあるし、見たものを他人に証明することもできない。自分でも、確かめられないことだってある。そういう曖昧なところがあるから、見えた未来を人に話しても、ただの妄想として片づけられてしまった」
大和が過去を振り返って話すことには、重たい空気が纏わりついた。
そんな大和に、尊は言いにくそうに訊ねた。
「それって、たとえば……、俺達が受験に合格するかどうかも、見ようと思えば見えるわけ?」
無神経にも思える質問に、宗司は呆れて言った。
「尊! 大和は真面目に話しているのに……」
「だって、気になるだろう」
大和は、誰が抱いてもおかしくない好奇心を素直に表す尊に、笑みをこぼした。
「見たいものを、自在に見られるわけじゃないんだ。突然やってくる未来のイメージに、振り回されるしかない。……慣れてきたつもりだけど、こわいものが見えてしまったりすると、今でも動揺するよ」
「こわいもの?」
宗司は、お化けのようなものを想像して言った。
「ニュースになるような事件とか」
「ああ……。そんなものも見えるんだね」
「見えたら見えたで大変なんだな」
大和が抱えていた秘密の内情が明らかになると、尊と宗司は、これまで大和が味わってきたであろう孤独を想像した。
想像してもすべてを感じることはできなかったが、彼らには、話してくれた大和に友人としてどう接していけばいいのかという答えは出ていた。
尊は言った。
「なあ、大和。これからはさ、俺達になんでも話せばいいよ」
「そうだね。僕達には、話を聞くことくらいしかできないけど、こわい思いを一人で抱え込むよりいいと思う」
大和にとって、この上ないあたたかな申し出だった。
「……ありがとう。尊、宗くん」
大和は、能力を持つ自分を初めて、肯定的に受け入れてもらえたのだった。
*
まだ十分に明るい、暑さが和らいできた夕方。
泉澤錠棚管理舎の門を、男児と手を繋いだ若い女性が出ていった。
玄関先で彼女らを見送った鳩羽は、静かにドアを閉めると、二階の応接間へと階段を上がった。
応接間では、窓際に立つ泉澤静漉の姿があった。
「静漉さん、お疲れ様でした。いかがでしたか」
仕事着も普段着も変わらない静漉は、ワイシャツにベストを羽織り、スラックスといういでたちだった。
静漉は背中を向けたまま言った。
「施術は成功しましたよ。抜き取ったのは、たったのワンシーンです。それだけで、見違えるように彼女の記憶は整理されました」
静漉は鳩羽には振り返らず、クライアントが帰っていく様子を窓から見守っていた。
「よかった……。顔色も、だいぶよくなっていたように思います」
「鳩羽さん、お子さんの面倒を見ていただいてありがとうございました」
静漉は、わずかに体を鳩羽のほうへ向けて言った。細い黒のリボンタイが、微かに揺れる。
鳩羽は微笑を返し、テーブルと床に散らかるぬいぐるみやミニカーを眺めた。
「実光さんのおもちゃが残っていて助かります。全部、静漉さんが実光さんに与えられたものなのですか」
「ええ」
「実光さんは、昔から静漉さんのお仕事に関心があるようでしたね。施術部屋に入っていたこともありましたし」
「……仕事のことを、はっきりと話したことはありませんがね」
静漉は、再び背中を向けた。
「なにか、お飲み物をお持ちしましょうか」
「今は結構」
「そうですか」
鳩羽は、ストローが差さった空のグラスをトレーに載せると、男児が遊んでいたおもちゃを木箱へと片づける。
静漉は、民家の塀沿いに駐まっていた一台の黒いセダンが、帰路につくクライアントとは真逆の方向へと走り去ったのを確認して、険しかった表情を緩めた。
「鳩羽さんも、そろそろ施術を行ってみますか?」
鳩羽は、片づけの手を止めて顔を上げた。
「……え?」
「鳩羽さんの能力は、歳を取るにつれ、衰えるどころか精度を増しています。先日の訓練でも、膨大な量の記憶から目的の記憶を見つけ出すことに成功しました。特定の記憶の探索力は、ここに来たばかりの頃と比べると、格段に上達しています。……あとは、あなたにそれを取り出す意志があるかどうかです。取り出し、自らの中に取り込む意志が、あるかどうか」
鳩羽にはまだ迷いがあるのか、即答はしなかった。
静漉は、その躊躇いに追い討ちをかけるように言った。
「能力を扱うということは、あらゆる記憶を見ることになります。知らなくていいことや、密やかであればいいことも。その覚悟がなければ、人の記憶に手を差し伸べるべきではありません。……言われなくとも、鳩羽さんも経験されてきていることでしょうが」
笑みというものが排除されて久しい静漉からは、厳しい物言いが飛ぶ。
鳩羽には、静漉ほどとはいえなくとも、人々の記憶が見えてしまう能力があった。
静漉の忠告は、鳩羽にも身に沁みて理解できる。
静漉は、淡々と続けた。
「私の父は、見すぎた記憶に耐え切れずに自ら命を絶ちました。ただでさえ、私達は“見えすぎる”。好んで他人の記憶にまで触れる必要はありません。あなたの気持ちが変わっても、無理強いはしませんよ」
鳩羽は、しまおうとしていたスノードームをテーブルに置いて立ち上がり、静漉の隣に並んだ。
そして、言った。
「私は、この能力と共に生きると決めました。この能力に、私に、ここにいていいという理由が欲しい。その思いは、変わっておりません」
静漉は、揺るぎない鳩羽の目を見つめ、その決意を受け止めた。
「鳩羽さん。私達の能力は、なぜ記憶を消すのではなく、取り出せる能力なのでしょうね」
静漉の視線は、ここからは見えないはずの淵黄金池のほうへと向けられた。
「あらゆる思い、経験、可能性、アイディア……。私達は、様々な記憶に囲まれて生きています。記憶は整理しなければなりません。それらに埋もれては、生きていけなくなる。生きる者には、余白が必要なのです」
池が遠くにあろうとも、静漉と鳩羽には、記憶を宿す光の存在がそこら中に絶え間なく感じられる。
「それは……。静漉さんや、私にも、必要なものでは……?」
「ええ。だから、仕事として扱うのは難しいのです。……記憶は消せない。忘れたつもりでも、ああして浮遊しているのですから」
それは生き物にとって、希望でもあり、絶望でもあるような景色。
しかし静漉は、喜びの色も悲しみの色も透けて見えるその光が紛うことなく光であることも知っていた。
テーブルの上では、木箱にしまわれそびれたスノードームのなかで、粉雪がきらきらと舞っていた。
はっきりとした能力の発現がいつだったのかは、大和自身にも記憶がない。
小学校に上がった頃には、すでに日常的に未来を見るようになっていた。
「ママ、お出かけやめよう。三時になったら、お隣のおばちゃんが来るよ」
大和が幼児の頃、外出の支度をしていた母親を呼び止めたことがあった。
「え? おばちゃんがそう言っていたの?」
「ちがうよ。僕、知っているの」
そのつぶらな瞳で見たものを、大和は告げていた。
その日、三時を回ると本当に隣人が訪ねてきたが、母親はたまたまだろうと気には留めなかった。
しかし、大和の奇妙な発言は、それだけでは終わらなかった。
ある日の、マンションのエレベーターを待っているときのことだった。
「ママ。あの人、なにをしているんだろう」
大和は、人影のない廊下を指差していた。
「誰かいたの?」
母親が奇妙に思って訊ねると、
「いるよ。ほら、ピンクのバッグを持っている女の人。鍵をなくしちゃったのかな。おうちに入れなくて困っているのかもしれないよ?」
大和は熱心に説明したが、母親には、女性もピンクのバッグも見つけることはできなかった。
小学校からの帰り道、ランドセルを背負い友達と歩いているときにも、
「今の犬、可愛かったね」
と、大和は突然、楽しそうに言った。
「犬? 犬がいるの?」
「どこどこ?」
一緒に歩いていた二人の友達は辺りを見回したが、犬の姿も、犬と散歩する人の姿もなかった。そこは、犬がいそうな家や店もない、ただの歩道だった。
大和のリアクションは、まるで他者が現実に見ているものとは違う出来事を目の当たりにしているかのようだった。
大和の発言を、母親も友達も、だんだんと無視はできなくなっていった。
大和のいないところで、母親は度々夫に不満を漏らした。
「大和って、時々おかしなことを言うのよ」
「子どもの言うことだろう、本気にするなよ。きみの気を引きたいんじゃないのか?」
父親は、面倒なことはご免だとでも言いたげだった。
両親は息子を不可解に思いながらも、彼の話を真っ向から信じることはなかった。
そして、大和の“妄言”が始まったとわかると、「そういうことを言わないでね。お友達にも言っちゃだめよ」と、なだめて止めるのだった。
大和は、歳を重ねるごとに、自分に見えているもののなかに未来が混じっていることに気づいていった。
一度見たはずの知っている光景が、時間を置いて再び現実となって現れる。バーチャルリアリティのように、大和は未来のイメージを見た。
現実で学習したことを取り込んでいくと、見える未来も、身近な出来事から世界情勢にまで広がってしまった。それは時に、起きていながら悪夢にうなされることと同様の体験を引き起こした。
十歳のある日、大和は自室の机に向かい本を読んでいたが、突然、テレビ画面が目の前に現れた。
「うわああっ!」
驚いて椅子から転げ落ちた大和は、足をもつらせながら慌ててリビングへ向かった。
「なに……、今度はなんなの?」
キッチンにいた母親は、何度目かわからない息子の発狂とも思える事態に、疲弊していた。
大和はテレビをつけ忙しくチャンネルを変えたが、そこには平和的なバラエティー番組や再放送のドラマが流れているだけだった。
大和は、怯えた目をして、リモコンを持つ手を震わせて言った。
「い、いっぱい、人が、倒れていたんだ……! どうしよう、どうしよう!」
母親は、大和が手にしていたリモコンをそっと奪い、テレビの電源を切った。
「ママ、どうしよう!」
母親の服を掴み、大和はすがる思いだった。
しかし、母親は蔑むような目で大和を見下ろし、冷ややかに言った。
「映画でも見たんでしょう? いい加減にしてよ。五年生にもなって、小学校でも授業中に大声を出して注意されたんでしょう?」
「だって……っ、僕には見えるんだ……!」
大和がそう言った瞬間、母親の我慢の糸は、ぷつりと切れた。
「黙りなさい! もう、うんざりよ!」
叫びのような母親の声に、大和は固まった。
母親は大和の腕を乱暴に掴むと、大和の部屋へと連れて行き、背中を強く押して部屋に入れた。
「おかしなことを言うのをやめるまで、出てこないで!」
そう言って、バタン! と勢いよくドアを閉めた。
大和は、呆然として立ち尽くした。
しんと静まる部屋で、一人きり、体の震えがおさまらない。
見えた未来の恐怖と母親に見捨てられた心細さで、大和の目からは、涙がぼろぼろとこぼれ落ちて止まらなかった。
「なんで、皆には見えないの? なんで、わからないの……?」
大和は肩を震わせ、涙が混じる声で呟いた。
「……僕は、おかしいの?」
床を見つめる大和の目は、成す術のない無力感に染まっていた。
その日から、大和は、見えた未来を口外することをやめた。
両親はそれだけで、息子が“正常”になったと安堵した。
しかし、大和は孤独に、見えた未来を受け止める闘いを続けていた。そして、見えた悲劇をニュースで確認してしまった日には、やり切れない思いを募らせた。
この能力との共生の仕方を教えてくれる人などおらず、理解者もいない。
大和は、明日の乗客と共に電車に揺られ、明日に現れるキッチンカーから漂う甘い香りに笑みをこぼして、街を歩いた。
そんな大和に転機が訪れたのは、中学二年生のときだった。
大和は、自分の能力について知るべく、あらゆることを調べていた。
生物、科学、歴史、宗教、超自然……。しかし、十三歳の大和には理解できないことも多かった。
インターネット上で自分と同じ能力を持っていると思われる人物を見つけることはあったが、嘘であることが見破れてしまうことがほとんどであり、信頼するに足る人物を探し出すことは困難だった。
そうした日々のなか、大和はとある民俗学の本で、“幻燈町”という見知らぬ町名を知ることになった。県内の町だった。
そこには、目に見えない記憶のカケラを探しに人々が集まり、未来を見たという人までいるという。
単なる町民の伝承話だったが、大和は、その伝承が残る町に惹かれた。幻燈町なら、自分の能力に関するヒントが見つかるかもしれないと思った。
その町には、寮のある男子校があった。
大和は幻燈町の高校へ行くため、意欲を持てなかった勉強にも身が入るようになった。そして、電車で二駅隣の学習塾へと通うようになった。
学習塾は、八階建てのビルの三階から五階までのフロアにあり、一クラスに五人まで入れる少人数制だった。
そこで同じクラスになったのが、和佐宗司だった。
夜の九時を過ぎ、授業を終えた教室はドアが開け放された。
宗司は紺青のブレザーを羽織り、帰ろうと席を立ったが、後ろの席では、テキストを片づけずに机に向かったままの生徒がいた。
この辺りでは見かけない濃灰色の詰襟を着た生徒で、いつも最後まで教室に残っていた。
「いつも、遅くまで残っているの?」
宗司は、初めて大和に声をかけた。
大和は、突然話しかけられて驚いたものの、快く答えた。
「授業が終わっても、先生に聞けば教えてもらえるから。僕、今のままだと、第一志望がC判定なんだ」
「第一志望って、どこ?」
「幻燈一校」
宗司は、その学校名に表情を綻ばせた。
「僕も同じだよ」
「そうなの?」
「僕もまだB判定でさ」
宗司は、その日から大和と共に居残ることに決めた。
そして、居残りに加わったのは、宗司だけにとどまらなかった。
別の日、大和と宗司が教室に残ってテキストをひらいていると、緑青色のブレザーを着た生徒が廊下を横切った。忘れ物を取りに戻ってきた、別のクラスの一色尊だった。
尊は、帰り際に、一つだけまだ明かりの点いている教室を覗いた。
「なにをしているんだ?」
尊はそのクラスに知り合いはいなかったが、暗いフロアで唯一開いている教室が気になった。
「自習だよ」
大和が答えると、尊は首を捻った。
「自習? こんな時間まで?」
「十時までは開いているから大丈夫だよ」
教室の掛け時計は、九時半を示していた。
「僕達、幻燈一校が志望校なんだ。少しでも苦手なところをなくしておきたくてね」
宗司がそう言うと、尊は、
「へえ、俺も幻燈第一志望だよ」
と言って、教室へ入った。
「本当? 受かりそう?」
大和が前のめりになって訊くと、尊は涼しい顔で言った。
「一応、今はA」
「A判定? すごいなぁ!」
宗司は、すかさず大和に耳打ちした。
「藤苗くん。もしかしたら、この人……」
「あっ!」
顔を見合わせる大和と宗司を、尊は怪訝そうに見つめた。
「……なに?」
大和は、ひらいていたテキストを見せて言った。
「きみ、数学って得意?」
「は?」
「よかったら、教えてくれないかな」
目を輝かせる大和の要求に、尊は断るに断れなかった。
「……べつに、いいけど」
こうして、尊は大和と宗司の居残りに付き合うかたちで加わることになった。
三人は、それぞれ通う中学校は違うものの、学習塾の外でも会うほど親しくなっていった。
夏を迎えたある日、大和は尊と宗司と共に、街中へと買い物に来ていた。
太陽が燦燦と降り注ぎ、日陰のないビル群は歩く人で賑わっている。
尊はすれ違った女の子に容姿のよさを噂されるも、当の本人はそしらぬ顔だ。
ゲームショップや大型の生活雑貨店に立ち寄り、軽食をとるため一時間ほどカフェで休憩をした。
それから、駅方面へと歩きだしたときだった。
大和は未来を見た。どしゃ降りに見舞われた駅だった。明かりの消えた仄暗い改札口には人が集まり、混雑している。
そのリアルな光景に、大和は思わず二人に話した。
「ねえ、二人とも。もうすぐ雷雨が来るから、早めに帰ったほうがいいよ。雷で電車が止まるよ」
尊は大和を振り返り、疑問を浮かべた。
「雷雨?」
「……こんなに晴れているのに?」
宗司は、縦書きのフォントが並ぶ袖看板を視線で辿るようにして、ビルがそびえる先の空を見上げた。少し風が出て白い雲も流れていたが、きれいな青空だった。
うっかり話してしまってから、大和はしまったと思った。
せっかく親しくなった友達には、自分の能力のことは知られずにいたかった。万が一にも知られれば、どんな目で見られることになるのか、大和は子どもの頃からの経験で痛いほどに理解していた。
「靴紐を買っていかないと、部活で必要なんだ。ちょっとだけ、店に寄らせて」
尊の言葉で買い物を続けることになった三人は、結局、三十分ほどスポーツ用品店にいた。
買い物を済ませて外へ出てくると、空は先ほどまでの晴天とは打って変わって、分厚い黒雲に覆われていた。時折、雲を切り裂く稲光が駆け抜けている。空気も冷たい。
「うわ、これは本当に降ってきそうだな」
尊は、空の変わりようを見て言った。
三人が駅に向かって歩き始めて数分も立たないうちに、雨粒が、ぽつりぽつりと地面を黒く染め始め、あっという間に土砂降りになった。ピシャンと、どこかへ落ちたような雷の激しい音も響く。
走ってどうにか駅に辿り着いたものの、三人は頭から爪先までびしょ濡れになり、街は滝のような雨と轟く雷鳴に包まれた。
「大和の天気予報が当たったな」
濡れた前髪をよけながら、尊は笑って言った。
「当たるのなら、先に傘を買っておけばよかったね」
宗司も、シャツの裾を絞って言う。
大和は苦笑し、「うん」と答えるに留めた。
それから、三人は雨水が染みた靴で改札口へと向かった。駅の構内は暗く、パン屋や本屋の看板の明かりも消え、一部がガラス張りの天井から入る自然光だけが頼りだった。
改札口には人だかりができ、人々の携帯電話の画面が煌々と光って見えている。
そして、三人の耳に届いたのは、「落雷による停電により電車の運転を見合わせております……」という、駅員のアナウンスだった。
尊と宗司は、再び予想を的中させた大和を振り返った。
「し、仕方ないよね。雷が落ちて電車が止まるなんて、よくあることだし……」
大和は笑ってみせ、尊と宗司も、それ以上は関心を持たなかった。
休日で賑わっていた駅は、電車の運転再開を待つ人々でごった返し、蒸し暑くなっていた。
三人は、改札口そばの壁際に落ち着いた。
携帯電話でSNSを見ていた宗司が言った。
「隣駅でも停電しているみたいだ。電車が故障したとも書いてある。運転再開まで時間がかかりそうだね」
外の天気は、ごろごろと雷が唸り続け、雨も止みそうにない。
「濡れたままじゃ店にも入れないし、ここで待つしかないか」
尊の言うことに、大和と宗司も異論はない。
「二人とも、時間は大丈夫?」
宗司が気遣うと、大和は言った。
「僕は平気だよ。帰りは遅くなるかもって言ってある」
「俺も、ちょうどいい。……あまり家には帰りたくない」
大和と宗司は、尊の事情を察した。
両親が離婚協議中だという尊は、両親となるべく顔を合わせないように生活しているらしかった。
減る気配のない人混みと蒸した空気に体がストレスを感じ始めた頃、宗司は妙案を思いついた。
「そうだ。二人とも、うちに来る? ここからならバスでも帰れるんだ」
宗司の提案に、ここに何時間も立ち尽くすしかないと諦めていた大和と尊は、解放されたような面持ちになった。
「いいの?」
「ここにいても、いつ帰れるかわからないものね。引っ越してきてから友達を家に連れて行くのは初めてだな。……尊も来るだろう?」
「行くよ」
「じゃあ、決まり」
三人は足取り軽く、雨音が響くバスのロータリーへと向かった。
大和は、自分の発言を尊と宗司がすっかり忘れている様子に、一人胸を撫で下ろしていた。
尊と宗司と親しさが増すにつれ、大和は、見えた未来を口外しないようにと注意深く人付き合いをしてきた緊張感が薄れていった。
そのせいで、見えた未来について口を滑らせることが多くなった。
そのなかでも、尊と宗司に、決定的な不審感を抱かせてしまう出来事があった。
塾の帰り道に、毎冬公開されるイギリス映画について話が及んだときだった。
「今年のファントムは観に行く?」
話を切り出したのは、宗司だった。
「そのつもりだよ。皆で行こうよ!」
大和も、殺された主人公が幽霊となって事件を解決していく映画『ファントム』シリーズは観ていた。
「そうだな。前作は、アーロンのことが唯一見える恋人が、役者の事情で退場だったもんな。次の相棒が誰になるのか……」
尊は、難しい顔をして唸る。
「ジョージとカイが候補と言われているよね」
宗司が話を合わせると、尊の表情はますます険しくなった。
「それって、どっちも怪しいんだよな。ジョージはアーロンの兄で、一番身近な人物だろう? カイは事情通の新聞記者だろう? どっちもアーロンを殺す動機がありそうでさ」
二人の話にはそれぞれ頷きながら、大和も嬉々として自分の知っている話を持ち出した。
「今年も楽しみだね。そういえば、再来年の監督は、初めて日本人が起用されるんだよね。名前は、僕は聞いたことがない人だけど」
大和の言葉に、尊と宗司は歩を止めて驚いた。
「日本人? 本当?」
「再来年の情報なんて、発表されていたか?」
「あ……」
大和は、話してしまった内容が現在のものではないことに、言ってから気づいた。
それは、数日前に能力を通して見えてしまったネットニュースの内容だった。
「なにか、サプライズがあるっていう噂はあるみたいだけどね。海外の映画に日本人が呼ばれるなら、監督より、まだ俳優のほうがあり得そうだね」
宗司は言った。
「そう、だね……、ネットで見たから、デタラメだったのかも……、ははは」
大和は慌てて誤魔化し、その場は事なきを得たかに見えた。
しかし、三日後のことだった。
ワイドショーは、海外の有名映画に若き日本人監督が抜擢された異例の事態を、華々しく報道した。
難解なストーリーで日本ではコアなファンを持つ映画作品が、日本にいる友人を介してプロデューサーの目に留まりオファーに繋がったという、シンデレラストーリーだった。
ベッドに寝転んでいた大和は、携帯電話でそのニュース記事を見ながら、尊と宗司にはもう隠しとおせないかもしれないと思った。
サプライズ発表は極秘のものであり、現地のプロデューサーと数人の関係者以外には誰一人として知る人はいなかったという話だった。インターネット上でさえ、デタラメでもこのサプライズを当てた者など一人もおらず、ニュースが流れたあとは、日本でもイギリスでも賛否両論が巻き起こっていた。
それから、三人で会う機会はすぐにやって来た。
塾が始まる前に三人で夕食を済ませようと、駅前のハンバーガーショップで待ち合わせをすることになった。
窓際、最奥のテーブル席がお気に入りの三人は、雨で人通りが少ないために空いていたその席を陣取った。
映画ニュースの熱は世間では冷め始めていたが、尊と宗司にとっては未だに気がかりなことだった。
「ファントムの話だけどさ……」
宗司が、大和の隣でおそるおそる話を切り出した。
「大和の予想って当たるよね。すごいな」
「さすがに、あそこまで当てるとびっくりするよ」
やはり、尊も宗司も、大和が先走って話したことを覚えていた。
大和はなんと答えていいかわからず、テーブルの上の紙に包まれたままのハンバーガーに視線を落とす。
話が進む気配がなく、このままでは埒が明かないと思った尊は、正面に座る大和に話しかけた。
「なあ、大和。おまえ、なんていうか……、先のことを知っているように話すことがあるよな」
大和を追い詰める雰囲気にならないよう、尊は慎重に言った。
「まるで、そうなることを知っていたかのような言い方、みたいな」
同じことが気になっていた宗司も、尊の問いかけに小さく頷き、大和の答えを待った。
しかし、大和の口は固く閉ざされていた。
「……まあ、言いたくないなら、いいんだけどさ」
尊が引き下がろうとすると、大和は小声で、「そうじゃないんだ」と呟いた。
黙っていても、秘密を打ち明けても、逃げ道などないことは大和にもわかっていた。
どちらを選んだとしても、これまで友人だった相手が奇異なものを見る目で自分を見るように変わってしまう。
その瞬間を見るのがこわかったのだ。
それでも、二人には話そうと決めて、大和は今日ここに来ていた。
大和は二人を直視できずに、テーブルの上へ視線を泳がせながら口をひらいた。
「……僕の話を聞いたら、きっと、僕のことを気味が悪く感じるようになると思う。そう思ったら、言ってね。おかしな奴って思われるのは、慣れているから。二人にも、迷惑がかからないようにするから」
それは、友達をやめる決意でもあった。
それほど、大和の告白は覚悟のいるものだった。
周囲のテーブル席に人はいない。
店内はまばらな人の会話と流れるポップスがちょうどいい雑音になっている。
言うなら、今しかなかった。
大和は、思い切って言った。
「僕……、時々、未来が見えるんだ……っ!」
言いながら、膝の上に載せていた手をぎゅっと握りこぶしにした。
冷笑されるのか、呆れられるのか……、どんな反応をされるのかこわくて、大和は俯いた。
大和の耳には、しばらくポップスのサビだけが聞こえてきていた。
そのあとに聞こえたのは、尊の声だった。
「未来……? それ、本当か?」
大和は顔を上げ、黙って頷いた。
驚いている様子の尊に続いて、宗司も怪訝そうに訊ねた。
「見えるって、どんなふうに?」
質問が返ってくるとは予想しておらず、大和は一瞬どぎまぎした。
「え……、ど、どんな……?」
「うん」
「……映像、だよ。部分的にだけど、カラーの映像で」
大和は、見えているままを言った。
すると、尊と宗司は、ほっとしたように大きく息を吐いた。
「そうか……、そういうことだったのか」
「予想じゃなかったんだね」
尊と宗司のリアクションは大和が想像したものよりも遥かに呆気なく、しかしそれが、大和には信じがたかった。
「……信じて、くれるの?」
尊は言った。
「信じられないことではあるけど、これまでのことがあるからな」
「言われてみれば納得というかね。大和が、僕達に嘘をつく理由もないだろう?」
二人の言葉に、大和は涙ぐんだ。
尊と宗司は、本当に大和の話を信じているようだった。
「それって、昔からなのか?」
関心をもってくれている尊と宗司に、大和は涙を呑み込んで答えた。
「……うん。未来が見えるとは言っても、フィクションの世界で、ヒーローとして持て囃されるような能力とは違うんだ。生まれつきのものだけど、使いこなせるわけじゃなくて、子どもの頃はしょっちゅう混乱していた。現実との違いを見極められるようになるまで、時間がかかったんだ」
「未来が見えるってことは、見えたものが現実に来るの?」
宗司は訊ねた。
「その確率は高いよ。でも、いつどこで起きるのかわからないこともあるし、見たものを他人に証明することもできない。自分でも、確かめられないことだってある。そういう曖昧なところがあるから、見えた未来を人に話しても、ただの妄想として片づけられてしまった」
大和が過去を振り返って話すことには、重たい空気が纏わりついた。
そんな大和に、尊は言いにくそうに訊ねた。
「それって、たとえば……、俺達が受験に合格するかどうかも、見ようと思えば見えるわけ?」
無神経にも思える質問に、宗司は呆れて言った。
「尊! 大和は真面目に話しているのに……」
「だって、気になるだろう」
大和は、誰が抱いてもおかしくない好奇心を素直に表す尊に、笑みをこぼした。
「見たいものを、自在に見られるわけじゃないんだ。突然やってくる未来のイメージに、振り回されるしかない。……慣れてきたつもりだけど、こわいものが見えてしまったりすると、今でも動揺するよ」
「こわいもの?」
宗司は、お化けのようなものを想像して言った。
「ニュースになるような事件とか」
「ああ……。そんなものも見えるんだね」
「見えたら見えたで大変なんだな」
大和が抱えていた秘密の内情が明らかになると、尊と宗司は、これまで大和が味わってきたであろう孤独を想像した。
想像してもすべてを感じることはできなかったが、彼らには、話してくれた大和に友人としてどう接していけばいいのかという答えは出ていた。
尊は言った。
「なあ、大和。これからはさ、俺達になんでも話せばいいよ」
「そうだね。僕達には、話を聞くことくらいしかできないけど、こわい思いを一人で抱え込むよりいいと思う」
大和にとって、この上ないあたたかな申し出だった。
「……ありがとう。尊、宗くん」
大和は、能力を持つ自分を初めて、肯定的に受け入れてもらえたのだった。
*
まだ十分に明るい、暑さが和らいできた夕方。
泉澤錠棚管理舎の門を、男児と手を繋いだ若い女性が出ていった。
玄関先で彼女らを見送った鳩羽は、静かにドアを閉めると、二階の応接間へと階段を上がった。
応接間では、窓際に立つ泉澤静漉の姿があった。
「静漉さん、お疲れ様でした。いかがでしたか」
仕事着も普段着も変わらない静漉は、ワイシャツにベストを羽織り、スラックスといういでたちだった。
静漉は背中を向けたまま言った。
「施術は成功しましたよ。抜き取ったのは、たったのワンシーンです。それだけで、見違えるように彼女の記憶は整理されました」
静漉は鳩羽には振り返らず、クライアントが帰っていく様子を窓から見守っていた。
「よかった……。顔色も、だいぶよくなっていたように思います」
「鳩羽さん、お子さんの面倒を見ていただいてありがとうございました」
静漉は、わずかに体を鳩羽のほうへ向けて言った。細い黒のリボンタイが、微かに揺れる。
鳩羽は微笑を返し、テーブルと床に散らかるぬいぐるみやミニカーを眺めた。
「実光さんのおもちゃが残っていて助かります。全部、静漉さんが実光さんに与えられたものなのですか」
「ええ」
「実光さんは、昔から静漉さんのお仕事に関心があるようでしたね。施術部屋に入っていたこともありましたし」
「……仕事のことを、はっきりと話したことはありませんがね」
静漉は、再び背中を向けた。
「なにか、お飲み物をお持ちしましょうか」
「今は結構」
「そうですか」
鳩羽は、ストローが差さった空のグラスをトレーに載せると、男児が遊んでいたおもちゃを木箱へと片づける。
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「鳩羽さんも、そろそろ施術を行ってみますか?」
鳩羽は、片づけの手を止めて顔を上げた。
「……え?」
「鳩羽さんの能力は、歳を取るにつれ、衰えるどころか精度を増しています。先日の訓練でも、膨大な量の記憶から目的の記憶を見つけ出すことに成功しました。特定の記憶の探索力は、ここに来たばかりの頃と比べると、格段に上達しています。……あとは、あなたにそれを取り出す意志があるかどうかです。取り出し、自らの中に取り込む意志が、あるかどうか」
鳩羽にはまだ迷いがあるのか、即答はしなかった。
静漉は、その躊躇いに追い討ちをかけるように言った。
「能力を扱うということは、あらゆる記憶を見ることになります。知らなくていいことや、密やかであればいいことも。その覚悟がなければ、人の記憶に手を差し伸べるべきではありません。……言われなくとも、鳩羽さんも経験されてきていることでしょうが」
笑みというものが排除されて久しい静漉からは、厳しい物言いが飛ぶ。
鳩羽には、静漉ほどとはいえなくとも、人々の記憶が見えてしまう能力があった。
静漉の忠告は、鳩羽にも身に沁みて理解できる。
静漉は、淡々と続けた。
「私の父は、見すぎた記憶に耐え切れずに自ら命を絶ちました。ただでさえ、私達は“見えすぎる”。好んで他人の記憶にまで触れる必要はありません。あなたの気持ちが変わっても、無理強いはしませんよ」
鳩羽は、しまおうとしていたスノードームをテーブルに置いて立ち上がり、静漉の隣に並んだ。
そして、言った。
「私は、この能力と共に生きると決めました。この能力に、私に、ここにいていいという理由が欲しい。その思いは、変わっておりません」
静漉は、揺るぎない鳩羽の目を見つめ、その決意を受け止めた。
「鳩羽さん。私達の能力は、なぜ記憶を消すのではなく、取り出せる能力なのでしょうね」
静漉の視線は、ここからは見えないはずの淵黄金池のほうへと向けられた。
「あらゆる思い、経験、可能性、アイディア……。私達は、様々な記憶に囲まれて生きています。記憶は整理しなければなりません。それらに埋もれては、生きていけなくなる。生きる者には、余白が必要なのです」
池が遠くにあろうとも、静漉と鳩羽には、記憶を宿す光の存在がそこら中に絶え間なく感じられる。
「それは……。静漉さんや、私にも、必要なものでは……?」
「ええ。だから、仕事として扱うのは難しいのです。……記憶は消せない。忘れたつもりでも、ああして浮遊しているのですから」
それは生き物にとって、希望でもあり、絶望でもあるような景色。
しかし静漉は、喜びの色も悲しみの色も透けて見えるその光が紛うことなく光であることも知っていた。
テーブルの上では、木箱にしまわれそびれたスノードームのなかで、粉雪がきらきらと舞っていた。
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