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漆の怪【ひとはしらのかみさま】

作戦会議、開始!

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「……その、落ち着いた?」

 涙は……とは言わずとも分かったのか、紅子さんは頷いた。
 目元がほんの少しだけ赤くなっているが、それを手で拭って彼女は立ち上がる。切り替えが早いことで。

「お兄さん、隣の部屋で透さんとアリシアちゃんが待ってる。アタシ、呼んでくるよ」
「ああ、それなら俺も……いったっ!?」
「お兄さん!?」

 さっきまではずっと「令一さん」と呼んでくれていたので、呼び方が元に戻ってちょっとだけ残念に思いつつも俺も立ち上がり……かけて、ベッドに逆戻りした。
 さすがに立ち上がったりなんかしたら、ものすごい痛みが走るか。
 これは絶対にあばらが折れている。左肩は鋭く太い爪で貫通して穴が空いている状態だし、何メートルも上から振り落とされたんだ。今失血死していないのがおかしいくらいの大怪我をしているのである。

「アタシが呼んでくるって」
「いや、いくら資料館の中でも紅子さんを一人にするわけにはっ、いったたたた!」
「鴉のお兄さんはここなら安全だって言っていたけれど……」
「俺の気持ちの問題なの!」

 そこだけは譲れない。万が一があるのだから、そこだけはもう譲れないんだ。

「きゅーきゅいー」

 俺達が言い争っていると、見かねたのか刀剣の状態から変化したリンが呆れたように鳴き声をあげた。
 そしてふわりふわりと俺達に近づいてくると、ベッド下に置いていた荷物からスマホを持って浮かび上がる。


「きゅうー」
「その手があったか」
「……あー、忘れていたよ」

 俺達が行くんじゃなくて、チャットで呼べば良かったのだ。
 紅子さんは視線を逸らして気まずそうに声を漏らす。二人して焦っていたせいか、その可能性に思い至らなかったことで恥ずかしくなってしまったらしい。

「待ってね、アタシが打つ」
「頼む」

 リンがふんすっ、と得意気に鼻を鳴らして俺の右隣に降りてくる。

「ありがとうな」

 顎の下を指先でくすぐれば、リンは気持ちよさそうに目を細めて俺の手にその頭を押し付けた。もっと撫でろとアピールする猫みたいだ。役に立てて嬉しいのか、それとも俺を心配してくれていたからなのか……多分どっちも、かな? 

「すぐに来るって。あと、華野ちゃんも一緒にいるみたいだから呼ぶよ」
「うん。華野ちゃんにも訊きたいことはあるし、それに俺も言いたいことがある」
「うん? なにかあったっけ」
「村の皆は閉じこもって外に出てこなかった。もしかしたら、こうなるのが分かっていたんじゃないかと思ってさ。紅子さん以前に予知されてる人がいたのかもしれない。それと、昨日の夜……あのあと、詩子ちゃんの記憶を完全に視た」

 紅子さんが目を見開く。

「全部視た……って、どういうこと?」
「キッカケは分からない。鈴の記憶とウロコの記憶を視たからなのか……それとも詩子ちゃんが無意識のうちに見せてきたのか……俺にも分からないんだけど、夢で見たんだよ」
「……なるほど、詳しくは全員が集まってからだね」
「ああ、この村の真相にも大分近づいているはずだ。だから、だからきっと守ってみせる」
「そんなに何度も言わなくても分かっているよ。約束を忘れたりなんてしないって」
「……そうだよな。うん、分かってる」

 コンコン。ノックの音が響いた。
 すると紅子さんがリンを肩に乗せ、扉を開けに行く。リンは自主的に彼女のところに行ったから、多分俺が心配しないように護衛のつもりでついて行ってくれたんだろう。
 扉が開けば、心配そうな顔をした透さんやアリシアが顔を覗かせた。
 それから俺達の様子を見て安堵したような表情になる。

「心配かけて、すみません」
「ううん、無事なら問題ないよ。紅子さんを悲しませる人はたとえ死人でも俺は許さないからね」

 なんてことを言うんだこの人は。
 しかし透さんの言葉で張り詰めていた空気が少しだけ緩和したのも事実である。これを天然でやっているから末恐ろしいなこの人は。

 華野ちゃんも間の抜けたような……複雑な顔をして部屋に入ってくる。

「紅子さん、彼はまだ帰って来てない?」
「うん、まだだね。まあ、帰ってくるまでにお兄さんが手に入れた情報を聞こうか。どうやら、また詩子ちゃんの記憶を視たらしい」

 彼? ……、まあいいや。あとでそれは訊くことにして、今は詩子ちゃんの記憶についてだな。

「あ、ホットココアあるので飲んでくださいね」
「……それ、わたしの役目」
「いいじゃないですかー」

 アリシアがジト目をする華野ちゃんに笑いかけつつマグカップを配る。
 そして一息ついてから俺は口を開いた。

「これから、作戦会議といこう」

 こうして、俺達は大蜘蛛の神様攻略法を話し合い始めるのだった。
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みんなの感想(2件)

リバイバー
2020.01.31 リバイバー

他サイトでも拝見してました。キャラクターの関係性やセリフ回しが絶妙で楽しませてもらってます。改めて読み返してみると初見では気付けなかったフラグが散りばめられていたりと新たな発見もあり面白いです。
最近余り見ない「あやかし系」ですが不変のテーマで今後の展開も楽しみにしてます。
頑張ってくださいねー

時雨オオカミ
2020.01.31 時雨オオカミ

感想感謝いたします!
こちらも追いかけてきてくださりありがたい次第です〜> <!
関係性、セリフ回しのテンポ。この辺は読む人を意識したり丁寧にしたり工夫しているところなので、そう言っていただけると嬉しい限りですよ!
読み返すのもまた、伏線に気付けるという二度美味しい感じを味わえます♪
あやかし系のアニメ作品とかもっと増えてほしい次第ですねぇ。わたくしがその中の一つになれたらなあ……なんて夢を持ちつつ、今後も頑張っていきたいと思います!
応援ありがとですよ!

解除
レナママ
2020.01.31 レナママ

紅子さんが大好きで❤️追いかけて見に来てしまいましたー!
始めから又、読むのも新しい発見があったりと良いものですね。
応援してますよ!

時雨オオカミ
2020.01.31 時雨オオカミ

感想感謝いたします!
ノベプラからかな? いつもお読みいただきありがとうございます!
紅子さんはわたくしもだーいすきなので、好いてもらえるといっとう嬉しいです♪
今後ともよろしくお願いします!

解除

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