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伍の怪【シムルグの雛鳥】

【幕間】第三の怪について

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「え、秘色さん溺れたのに大丈夫だったんですか!?」
「ええ、まあ」

 顔色ひとつ変えやしない。
 溺れたら少しは苦しむものだろうに、すごいなこの人。

「ところで、校庭にいた動物達は結局死んだ動物達だったのかな」
「そうですね。前の年に亡くなった動物でした。首を切られたニワトリは……死んでから首切り死体にされたはずなのですが、霊体になっても首は切られたままでしたね」

 桜子さんが三個目のクレープを秘色さんにねだり、彼女が店員を呼んで注文する。このままでは秘色さんがタピオカドリンク四杯とクレープ三つを食べていると疑いがかかってしまう。次に桜子さんがねだったら俺から頼むことにしようかな。
 普通の女子大学生なら太るんじゃないかという疑いは避けたいだろう。

「……なんで、ニワトリが死んでから首を切られたって知っているのかな」
「あのとき、わたしは若かったんですよ。死んだニワトリより、小鳥の雛のほうが注目されて嫌だったんです。誰も悲しんでいないみたいで。だから、注目されるようにしようと思って」
「キミが、切ったんだね」
「やーい、サイコパスー」
「今ならやりませんし、否定はできませんね」

 前言撤回。この子は普通の女子大学生なんかじゃなかった。
 ますます人間味というものが薄れた気がする。本当にこの子、俺と同じ人間だよな? 
 桜子さんの揶揄も、本人が否定できないんだもんなあ。

「今ではやりませんよ?」
「分かってるよ」

 紅子さんがどこか呆れたように言った。

「えーっと、話題を変えよう。プールのその怪異っていうのは、つまりどういうやつだったんだ?」
「あれは、プールで溺れて死んだ男の子の霊ですよ」
「そうそう! 排水口に吸い込まれて棒っきれみたいに細長くなっちゃった男の子のね!」
「桜子さん……」

 秘色さんが言わなかったことを、桜子さんがあっさりと告げる。
 俺は一瞬想像してしまって気分が悪くなった。
 つまり、先生とやらが秘色さんを助けるために水を抜こうとすれば、彼女も排水口に吸い込まれて死んでいたかもしれないということか。
 だから浮き輪が必要だったのだろう。

「校庭のアクアリウムはのちに絵を描いて入賞していますよ。ほら、これ」
「おお」

 彼女がスマホで見せてくれたのは入賞した絵の写真だ。
 幻想的で夢見がちな絵、という感じだが色使いが淡く透明感があってすごく綺麗な絵だった。まさかこれが実際に見た光景だとは、誰も思わないだろう。

「あの、もしかして先生とやらが〝ヒーロー〟って何度も言うのって」

 俺が思い出したことがある。
 それは、アルフォードさんが同盟について説明してくれたときのことだ。


 ――人間の助手と一緒にヒーロー業〝 手助け屋 〟のシムルグちゃん。
 ――傷病を自分に移して地獄へ持ち帰る〝 引き受け屋 〟のカラドリウスちゃん。
 ――匂いと依頼があればどこまでも追いかける〝 追跡者 〟のフェンリル一族
 ――どんな物も運ぶ地獄からの宅急便〝 運び屋 〟のムシュフシュちゃんたち。
 ――技術と呼べるものならなんでも売る〝 技術屋 〟のグレムリンちゃん。
 ――復讐、報復、呪いなんでも御座れな〝 怨み屋 〟のグローツラングちゃん。
 ――首一つ一つが分身で不死身な〝 殺され屋 〟のヒドラちゃん。
 ――人間の良き隣人にて隠れ蓑〝 市場 〟取締役のさとりちゃん。
 ――最近台頭してきてる都市伝説〝 預言者 〟の怪人アンサーちゃん。
 …… そして、摩訶不思議な道具で人間の願いを叶えるオレ、〝 萬屋 〟だよ。


「その先生ってもしかしてさ、人間の助手と一緒にヒーロー業を営んでるっていうシムルグのことか?」
「ええ、よく知っていますね」

 秘色さんは微笑んでから、「でも」と続ける。

「その話はもう少し後にしますね。まずは、続きを」

 ああ、そうだな。
 話には順番というものがある。
 まずは彼女の話を聞こう。

「わたしはスケッチブックを奪われてしまいましたから、そのあとは予備のスケッチブックを取りに行こうと提案したんです……」

 それから、美術室に戻ったときの話が続いた。
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