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陸の怪【サテツの国の女王】
エピローグ「砂鉄/蹉跌の国の女王」
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「おやおやお帰り。このよもぎちゃんが待っててやったんだ。結末は…… まあその顔を見れば分かるね。それで、どうするんだい? その子達」
文車妖妃の字乗よもぎさんは今の今まで別の本を読んでいたようだった。
そこは俺達を見守ってくれていたわけじゃないのか、と少し残念に思う。そうしたらなにかが変わっていたかもしれない…… なんて、他人任せすぎるな。やめよう。
「よもぎちゃーん、こっちに令一ちゃん来てるー? あれ、なんか大所帯」
そして、タイミングよく大図書館の扉を開けて入ってきたのはアルフォードさんだった。まさか分かっていて来たんじゃないだろうな? なんて疑心が頭を過る。
いやいや、彼は竜神。どこぞの邪神とは違うのだと首を振る。
「なにか用ですか?」
「うーん…… 今は疲れてるみたいだし、今度でいいかな。ホントは図書館に臨時手伝いをしに来てくれてる人間がいるから、朝になったら紹介しようと思ってたんだけど…… もうすぐ夜も明けるし、そんなにやつれてるんじゃやめたほうが良さそうだね」
それは俺にとって、衝撃的な事実だった。
「人間が出入りしてるんですか!?」
「うん、巻き込まれ体質だから家族ごと保護してるよ。興味あるみたいだから図書館で手伝ってもらってるんだ。今度会わせてあげるよ。今日はもう帰って寝るんだよ? 人間はちゃんと睡眠をとらないと」
そうか、人間。秘色さんもいるが、やっと二人目の人間の友達ができるかもしれないぞ。素直に嬉しい。
「ところでアルフォードさん。この子達を……」
「ここは、どこじゃ?」
「お姉ちゃん!」
「な、なにを…… 私様にはあやつが…… あれ、なにを言いかけたのじゃったか」
この反応に、少し覚えがあった。
「レイシー。アタシのことは覚えてるかな?」
「紅子じゃろ」
紅子さんの確認の後に、俺も訊く。
「…… 五人での冒険か、なかなかないよな」
「んん? 四人じゃろ。私様と、お主ら三人! ああ、アリスを数えておるのか?」
やっぱり、そうだ。
「……………… お姉ちゃん、あたしアリシア。お姉ちゃんの妹なんだよ。お姉ちゃんが戻って来ないから心配して駆けつけたの」
レイシーの中から、すっぽりとチェシャ猫の記憶だけが抜けている。
香水の効果が切れた青水さんが塵となり、正気を失った末に記憶を失った押野君と、まるっきり同じだった。
アリス…… アリシアもそれを察したのだろう。まずは自己紹介からと始めている。
「大丈夫よ、お姉ちゃん。忘れちゃってもまたはじめましてからにすればいいんだから」
「そうか、アリシア。あまり過激なことはするでないぞ!」
「うん、そうするよ」
アリシアの言葉はチェシャ猫のことを言っているのか、それとも自身のことを言っているのかは分からない。
だけれど、なんだか悲しいやりとりだった。
「えっと、アリシアちゃんだね?」
「はい、あの、なんですか?」
その二人にアルフォードさんが近づき、眉を顰める。まさか人間がいるなんて~ということにはならないだろうから、なにか気になることでもあるのか。
「あのね、よく聴いて。レイシーちゃんの縁はキミとの糸しか結ばれてない。現世に帰っても、アリシアちゃんはともかく、レイシーちゃんの居場所はきっとなくなってるよ」
「え!? そんな、嘘よ!」
「嘘じゃないよ。神様だもん。でもね、どうしても納得できないなら、見てくるといいよ。ちゃんとね。それで納得したら、またこっちにおいで。レイシーちゃんはこちらの住民に限りなく近いから、住む場所も用意できる。アリシアちゃんが会いたいのなら、頼もしい護衛をつけるから会いにくればいい。いいかな?」
アルフォードさんは終始穏やかな口調で告げた。
それがかえって信憑性を増しているらしく、アリシアの瞳が揺らぐ。
「分かりました。帰って、確かめます」
「うん。そしたら、これをあげるよ。これを持ってこちらに来たいと強く思えば来れるように道を開けておくからね」
「じゃあ俺様が送ってくぜ。なんなら護衛も引き受けるよ。じゃーな、お二人共」
アリシアとレイシーは手を繋ぎ、ペティさんの後をついていく。
アルフォードさんの言うことだから、きっと本当のことなんだろう。あの二人には、これから残酷な真実が直面する。
それを真正面から受け止めに行くのだから、あの子達は強いな。
…… 俺にはない強さだ。
レイシーの縁が切れているのは、長く異界に留まっていたからだとアルフォードさんが言う。アリシアの縁が彼女と離れなかったのは、今回同じく異界に入って真実を見たからだそうだ。逆に言えばそれ以外の人間はレイシーのことを覚えていない。
…… 俺と、同じ末路だ。違うのは、近くにいるのが邪神でないところ。
その違いは致命的だ。ああ、なんだか虚しい。
俺も嫌な奴だな。同じ境遇になった子がいて安心さえしている。
嫌な、奴だ。
「おにーさん、帰ろう。朝になっちゃうよ」
「ああ、そうだな」
終わってしまったことは仕方ない。仕方ないのだけれど、やり切れない。
一人の女の子の将来が潰されたのだ。あいつを許すわけにはいかない。
邪神を殴りたい回数が増えてしまったな。
「感傷に浸るのもいいけれど、隣の女の子のことも気にしてほしいな? あんまり落ち込んでると幽霊が上にお邪魔ぷよみたいに積み重なっていくよ」
「うわ、なんだそれ嫌だな…… お腹すいたな。コンビニでも寄るか」
「いいねぇ、こんな時間だけどまだ肉まんはあるかな」
「奢れって?」
「え、そんなこと言ってないよ。自意識過剰なんじゃないの? お兄さんはさ」
「あー、そうだな。そうかもしれない」
「変なお人だねぇ」
結局二人共肉まんを購入して食べる。
そして、屋敷の前まで来た時紅子さんが手を振って、その場で解散した。
彼女は異界の屋敷のほうに帰ったんだろう。
帰った後、やはり邪神には一発きついのを入れるどころか返り討ちにあったので割愛。黒猫はどこに行ったのか、訊いてもやはりはぐらかされてしまった。教える気なんてないだろうな。
…… それから、後日。バラ園の奥にあるの大図書館で見習いとして働くレイシーと、その手伝いに来るアリシアのいる光景が見られるようになった。
字乗さんも可愛がってるみたいだし、からかわれてることもあるが関係は良好。
レイシーの再出発は平和に始まった。
不幸で終わったこの不思議の国の事件だが、それだけでは終わらなかった。
今、彼女達が苦労していないならいいだろう。
少なくとも、不幸で終わりきってしまうより、また幸せが掴める機会に恵まれている。あの子達は多分大丈夫だ。
だから俺は邪神野郎の知り合い全てに年賀状を書くように押し付けられようが気分良く終わらせることができた。どうだ、してほしかった反応と違うだろ。ざまーみろ。
その前にクリスマス、クリスマスはあいつも仕事があるらしいしのんびりできるな。
レイシー達に会うついでにケーキでも作っていこうか。
そんなことを考える、今日この頃であった。
文車妖妃の字乗よもぎさんは今の今まで別の本を読んでいたようだった。
そこは俺達を見守ってくれていたわけじゃないのか、と少し残念に思う。そうしたらなにかが変わっていたかもしれない…… なんて、他人任せすぎるな。やめよう。
「よもぎちゃーん、こっちに令一ちゃん来てるー? あれ、なんか大所帯」
そして、タイミングよく大図書館の扉を開けて入ってきたのはアルフォードさんだった。まさか分かっていて来たんじゃないだろうな? なんて疑心が頭を過る。
いやいや、彼は竜神。どこぞの邪神とは違うのだと首を振る。
「なにか用ですか?」
「うーん…… 今は疲れてるみたいだし、今度でいいかな。ホントは図書館に臨時手伝いをしに来てくれてる人間がいるから、朝になったら紹介しようと思ってたんだけど…… もうすぐ夜も明けるし、そんなにやつれてるんじゃやめたほうが良さそうだね」
それは俺にとって、衝撃的な事実だった。
「人間が出入りしてるんですか!?」
「うん、巻き込まれ体質だから家族ごと保護してるよ。興味あるみたいだから図書館で手伝ってもらってるんだ。今度会わせてあげるよ。今日はもう帰って寝るんだよ? 人間はちゃんと睡眠をとらないと」
そうか、人間。秘色さんもいるが、やっと二人目の人間の友達ができるかもしれないぞ。素直に嬉しい。
「ところでアルフォードさん。この子達を……」
「ここは、どこじゃ?」
「お姉ちゃん!」
「な、なにを…… 私様にはあやつが…… あれ、なにを言いかけたのじゃったか」
この反応に、少し覚えがあった。
「レイシー。アタシのことは覚えてるかな?」
「紅子じゃろ」
紅子さんの確認の後に、俺も訊く。
「…… 五人での冒険か、なかなかないよな」
「んん? 四人じゃろ。私様と、お主ら三人! ああ、アリスを数えておるのか?」
やっぱり、そうだ。
「……………… お姉ちゃん、あたしアリシア。お姉ちゃんの妹なんだよ。お姉ちゃんが戻って来ないから心配して駆けつけたの」
レイシーの中から、すっぽりとチェシャ猫の記憶だけが抜けている。
香水の効果が切れた青水さんが塵となり、正気を失った末に記憶を失った押野君と、まるっきり同じだった。
アリス…… アリシアもそれを察したのだろう。まずは自己紹介からと始めている。
「大丈夫よ、お姉ちゃん。忘れちゃってもまたはじめましてからにすればいいんだから」
「そうか、アリシア。あまり過激なことはするでないぞ!」
「うん、そうするよ」
アリシアの言葉はチェシャ猫のことを言っているのか、それとも自身のことを言っているのかは分からない。
だけれど、なんだか悲しいやりとりだった。
「えっと、アリシアちゃんだね?」
「はい、あの、なんですか?」
その二人にアルフォードさんが近づき、眉を顰める。まさか人間がいるなんて~ということにはならないだろうから、なにか気になることでもあるのか。
「あのね、よく聴いて。レイシーちゃんの縁はキミとの糸しか結ばれてない。現世に帰っても、アリシアちゃんはともかく、レイシーちゃんの居場所はきっとなくなってるよ」
「え!? そんな、嘘よ!」
「嘘じゃないよ。神様だもん。でもね、どうしても納得できないなら、見てくるといいよ。ちゃんとね。それで納得したら、またこっちにおいで。レイシーちゃんはこちらの住民に限りなく近いから、住む場所も用意できる。アリシアちゃんが会いたいのなら、頼もしい護衛をつけるから会いにくればいい。いいかな?」
アルフォードさんは終始穏やかな口調で告げた。
それがかえって信憑性を増しているらしく、アリシアの瞳が揺らぐ。
「分かりました。帰って、確かめます」
「うん。そしたら、これをあげるよ。これを持ってこちらに来たいと強く思えば来れるように道を開けておくからね」
「じゃあ俺様が送ってくぜ。なんなら護衛も引き受けるよ。じゃーな、お二人共」
アリシアとレイシーは手を繋ぎ、ペティさんの後をついていく。
アルフォードさんの言うことだから、きっと本当のことなんだろう。あの二人には、これから残酷な真実が直面する。
それを真正面から受け止めに行くのだから、あの子達は強いな。
…… 俺にはない強さだ。
レイシーの縁が切れているのは、長く異界に留まっていたからだとアルフォードさんが言う。アリシアの縁が彼女と離れなかったのは、今回同じく異界に入って真実を見たからだそうだ。逆に言えばそれ以外の人間はレイシーのことを覚えていない。
…… 俺と、同じ末路だ。違うのは、近くにいるのが邪神でないところ。
その違いは致命的だ。ああ、なんだか虚しい。
俺も嫌な奴だな。同じ境遇になった子がいて安心さえしている。
嫌な、奴だ。
「おにーさん、帰ろう。朝になっちゃうよ」
「ああ、そうだな」
終わってしまったことは仕方ない。仕方ないのだけれど、やり切れない。
一人の女の子の将来が潰されたのだ。あいつを許すわけにはいかない。
邪神を殴りたい回数が増えてしまったな。
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「奢れって?」
「え、そんなこと言ってないよ。自意識過剰なんじゃないの? お兄さんはさ」
「あー、そうだな。そうかもしれない」
「変なお人だねぇ」
結局二人共肉まんを購入して食べる。
そして、屋敷の前まで来た時紅子さんが手を振って、その場で解散した。
彼女は異界の屋敷のほうに帰ったんだろう。
帰った後、やはり邪神には一発きついのを入れるどころか返り討ちにあったので割愛。黒猫はどこに行ったのか、訊いてもやはりはぐらかされてしまった。教える気なんてないだろうな。
…… それから、後日。バラ園の奥にあるの大図書館で見習いとして働くレイシーと、その手伝いに来るアリシアのいる光景が見られるようになった。
字乗さんも可愛がってるみたいだし、からかわれてることもあるが関係は良好。
レイシーの再出発は平和に始まった。
不幸で終わったこの不思議の国の事件だが、それだけでは終わらなかった。
今、彼女達が苦労していないならいいだろう。
少なくとも、不幸で終わりきってしまうより、また幸せが掴める機会に恵まれている。あの子達は多分大丈夫だ。
だから俺は邪神野郎の知り合い全てに年賀状を書くように押し付けられようが気分良く終わらせることができた。どうだ、してほしかった反応と違うだろ。ざまーみろ。
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