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陸の怪【サテツの国の女王】
様子のおかしいワンダーランド
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「これ、不思議の国のアリス…… か?」
俺が彼女の手の中を覗き込むと、そこには見覚えのある本があった。
確かここ一週間でニャルラトホテプの部屋に置いてあったのを見た気がするな。
あいつは最近水槽を買って中でなにか変なものを育てていたようだし。不穏な動きが多い。この本があれと同一だったりするならこれにもあいつが関わっている可能性がある。
「ああ、だけれど…… 中を見てくれ」
ページを開くと、右側に文字が浮かび上がり、左のページにイラスト…… のはずなのだが、イラストは動き出し、右の文章と連動して話を進めていくようだ。
―― 白いウサギがチョッキの中から懐中時計を出して 「大変だ! 遅刻しちゃうぞ!」 とひとりごとを言いながらなにやら大急ぎです。
―― アリスはまるで待ち望んでいたかのようにウサギを追いかけました。
―― アリスは持っていた包丁でウサギを刺して真っ赤になりました。
―― 「女王様は赤いものがお好きなのよね。遅刻を許してもらうなら、お好きなものを用意しなくちゃいけないわ。これであなたも許してもらえるわ。よかったわね」
―― そしてアリスは、白いウサギが目指していた木のウロにある大穴に飛び込んでいきました。
「なんか物騒だな」
「あー、スプラッタだねぇ」
赤頭巾といい、アリスといい、なぜこうも改編されがちなのか…… 俺は困惑しながらも読み進めた。
すると、とあるページにしおりが挟んであった。
そのページの挿絵は、他のページとは違って同じ場面を繰り返しているようだった。
たっぷりとした金髪に王冠を乗せ、真っ赤なドレスを身に纏った少女がドレスをたくし上げながら必死に走り、その後ろから同じく赤く染まった黒いエプロンドレスを身に纏ったアリスが追いかける。
アリスの手には包丁が握られ、赤の女王と思しき少女はこちらに向かって手を伸ばす。
しかし、それは叶わず地面に転び、追いかけられるのを繰り返している。
まるでGIF画像のようだが、紅子さんやペティさんはそうは思っていないようだった。
「しおりの効果だな」
「ああ、そういうことなんだね。しおりがあるから、このページの先に進めない。だから、赤の女王も襲われる前にループする。嫌なループだねぇ」
先のページを見ようとしても、ページは捲れない。
たとえ捲れたとしてもその先は白紙だろう。
「なら、このしおりを…… この人が手を伸ばしたときに外せば?」
「…… お兄さん」
「ほう? いいだろう、やってみるといい。私はこの本の異変をお前達に解決してほしい。お前達の決定に任せてみるとするよ」
俺は息を飲む。
そして、赤の女王がこちら側に手を伸ばしたその瞬間…… しおりを外した。
その途端挿絵のページが眩しく光り、魔法陣が浮かび上がる。
「きゃあぁ!?」
そして、手を伸ばした状態の少女が本から飛び出し、俺達の前にどさりと落ちた。
「レーイチ、しおりを戻せ!」
「え? わ、分かった!」
慌てて見れば、魔法陣の端にもう一人の…… アリスの手がかけられるところだった。
しおりを元の通りに挟み込み、本を閉じる。
光が収まると…… 図書館に現れた新たな人物がむくりと起き上がった。
「礼を言うぞお前達! よくぞ私様を救ったな!」
べしゃっとみっともなく地面に落下していた女王は、コスプレじみた格好のスカートを払って宣言する。
「私様は赤の女王、Lacie。特別にお前達はレイシーちゃん様と呼んでも良いぞ!」
あるはずのカリスマは、前後の行動で台無しだった。
俺が彼女の手の中を覗き込むと、そこには見覚えのある本があった。
確かここ一週間でニャルラトホテプの部屋に置いてあったのを見た気がするな。
あいつは最近水槽を買って中でなにか変なものを育てていたようだし。不穏な動きが多い。この本があれと同一だったりするならこれにもあいつが関わっている可能性がある。
「ああ、だけれど…… 中を見てくれ」
ページを開くと、右側に文字が浮かび上がり、左のページにイラスト…… のはずなのだが、イラストは動き出し、右の文章と連動して話を進めていくようだ。
―― 白いウサギがチョッキの中から懐中時計を出して 「大変だ! 遅刻しちゃうぞ!」 とひとりごとを言いながらなにやら大急ぎです。
―― アリスはまるで待ち望んでいたかのようにウサギを追いかけました。
―― アリスは持っていた包丁でウサギを刺して真っ赤になりました。
―― 「女王様は赤いものがお好きなのよね。遅刻を許してもらうなら、お好きなものを用意しなくちゃいけないわ。これであなたも許してもらえるわ。よかったわね」
―― そしてアリスは、白いウサギが目指していた木のウロにある大穴に飛び込んでいきました。
「なんか物騒だな」
「あー、スプラッタだねぇ」
赤頭巾といい、アリスといい、なぜこうも改編されがちなのか…… 俺は困惑しながらも読み進めた。
すると、とあるページにしおりが挟んであった。
そのページの挿絵は、他のページとは違って同じ場面を繰り返しているようだった。
たっぷりとした金髪に王冠を乗せ、真っ赤なドレスを身に纏った少女がドレスをたくし上げながら必死に走り、その後ろから同じく赤く染まった黒いエプロンドレスを身に纏ったアリスが追いかける。
アリスの手には包丁が握られ、赤の女王と思しき少女はこちらに向かって手を伸ばす。
しかし、それは叶わず地面に転び、追いかけられるのを繰り返している。
まるでGIF画像のようだが、紅子さんやペティさんはそうは思っていないようだった。
「しおりの効果だな」
「ああ、そういうことなんだね。しおりがあるから、このページの先に進めない。だから、赤の女王も襲われる前にループする。嫌なループだねぇ」
先のページを見ようとしても、ページは捲れない。
たとえ捲れたとしてもその先は白紙だろう。
「なら、このしおりを…… この人が手を伸ばしたときに外せば?」
「…… お兄さん」
「ほう? いいだろう、やってみるといい。私はこの本の異変をお前達に解決してほしい。お前達の決定に任せてみるとするよ」
俺は息を飲む。
そして、赤の女王がこちら側に手を伸ばしたその瞬間…… しおりを外した。
その途端挿絵のページが眩しく光り、魔法陣が浮かび上がる。
「きゃあぁ!?」
そして、手を伸ばした状態の少女が本から飛び出し、俺達の前にどさりと落ちた。
「レーイチ、しおりを戻せ!」
「え? わ、分かった!」
慌てて見れば、魔法陣の端にもう一人の…… アリスの手がかけられるところだった。
しおりを元の通りに挟み込み、本を閉じる。
光が収まると…… 図書館に現れた新たな人物がむくりと起き上がった。
「礼を言うぞお前達! よくぞ私様を救ったな!」
べしゃっとみっともなく地面に落下していた女王は、コスプレじみた格好のスカートを払って宣言する。
「私様は赤の女王、Lacie。特別にお前達はレイシーちゃん様と呼んでも良いぞ!」
あるはずのカリスマは、前後の行動で台無しだった。
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