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陸の怪【サテツの国の女王】
文車妖妃の大図書館
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「学者先生とイロハは依頼を受けに来たんだよな?」
「まあ、一応見に来ただけだけどね」
「ええ、最近は色々あるみたいだし……」
確認するようにペチュニアさんが言うと、二人は少しだけ答えに窮したようだった。
「レーイチはこの屋敷に来るのも初めてだろ? ベニコだけでもいいだろうが、なんなら今暇になった俺様が代わりにこの中案内するぜ。もちろん、お前達がよければだけどな」
彼女は明るくウインクしてポーズを決める。
こういうところに、ナルシストっぽいアートさんの影響が強いんだろうなあと実感が湧いてくる。ペチュニアさんがやると微笑ましいだけでそんなに痛くないが。
「ああ、なら頼めるかな? 君達もそれで大丈夫?」
「すみません…… こっちも用事があるので」
「ああ、構わないよ。元々紅子さんに教えてもらう予定だったから。えっと、助けてくれてありがとうございました」
「ああ、残念。せっかくお兄さんと二人でデートできると思ったのにねぇ」
「また冗談を言うなよ」
「…… 邪魔して悪いな、ベニコ」
ペチュニアさんは少し考えてそう言った。
茶化したような口調だが、言葉を出す前に眉を跳ねあげていたのが気になるな。なにか驚くような発言でもあったか?
「本気のクセにな。無意識か」
「は?」
「いーや、なんでもないぜ」
笑顔で彼女は帽子を取ると、胸の前で持つ。
そして随分と優雅な仕草でお辞儀をすると 「改めて、亡霊の魔女〝 Petunia・Crooks 〟だ」 と自己紹介を繰り返す。
「ペチュニアだと長いから、Petyって呼んでくれよな。得意分野は〝 嘘を見抜くこと 〟と、薬草学研究だな。民間療法とか、魔法薬には精通してるぜ。あとは結界の看破にすり抜け…… まあ、普通に想像する魔女らしくはないな。他人を傷つけることよりも癒すことの方が得意だよ」
「アタシのことはもう知ってる…… よねぇ。赤いちゃんちゃんこの紅子。最近は外で活動することのほうが多いね」
「改めて下土井令一。邪神のせいで人間関係が希薄でな。こっちには知り合いを増やしに来たんだ。あいつに対抗するには一人じゃなにもできないからな」
「ふうん、なるほどなるほど。ま、俺様も邪神には興味がある。関わりたくはないけどな。こっちの都合もあるが、相談くらいは乗ってもいいぜ。ほれ、連絡先だ」
さすが、理解が早い。
ペティさんからトンボのようなものが飛び立ち、ふわりと俺の手のひらに着地するとそれは連絡先が書かれたメモに変化した。
続いて彼女のエプロンドレスの中から取り出されたのは普通に最新式の携帯電話だった。
どうだ、と言いたげな顔でウインクしている。あの格好でどうやって買っているんだろうか。
現代に行くときは普通に着替えてるのか?
ああいう人ってプライドが邪魔して質素な服を着る発想がなさそうなんだが。
「それじゃ…… 掲示板は遠目にも見えるな? あと、アプリはもう入れたか?」
「まだだねぇ。ここならすぐダウンロードできるから、すぐやっちゃいなよお兄さん」
「ああ……」
スマホを起動すると、WiFiを選択するときのように勝手に通知が出る。
[アルフォードの同盟記録ver4.3.1をダウンロードしますか? ]
YESをタップするとすぐさまダウンロードが開始され、数秒で完了する。開いてみれば依頼掲示板の他に某青い鳥のような機能やチャット機能、現代で言う6ch掲示板みたいなものまで備えてある。
同盟全体の情報網になっているのかもしれない。
「当たり前だが、普通の奴にはそれは見えないし、辿り着けない代物だっていうことを覚えておけよ。グレムリンの奴らが現実の電波を一部ジャックして開設した人外専用のネットワークだからな。外ではそのネットワークの存在は認識されないし、意識されない認識障害みたいなのが起こってる。存在を知ればその認識障害の影響は受けなくなるが……」
彼女が言いたいのは、つまり使ってるところを見られるなということだろう。
普通の人間に認識できないということは、俺がこれを見ているときに覗き込まれたら〝別のなにかを見ているように見せかける〟ようにしなければならないわけだ。
相手になにが見えているのかも分からないのに誤魔化すのは難易度が高い。気軽に使うなら人外の前でってことだな。
「よろしい。問題ないぜ。よし、なら他にも案内するぜ。掲示板はいつでもそれで見られるからな。お前達は知り合いを作りに来たんだろ?」
「まあ、そういうことになるねぇ」
心なしか紅子さんがつまらなそうな顔をしている気がする。
「なあ、なにか食べるところとかないのか? もしくはお土産とか」
「あー? 突然どうした……」
ペティさんは紅子さんを見てすごく面白そうな顔をした後、納得したように頷く。
紅子さんは無意識なようで、その様子になぜ自分を見るのかと首を傾げている。
「紅子さん、お腹空いたのか?」
「は、は? なに言ってるのお兄さん」
「不機嫌そうな顔してるぞ」
「……」
愕然としたように戸惑った彼女は頭に乗せたベレー帽を取って顔を隠し、 「このっ、馬鹿」 と呟いた。
困ってペティさんの方を見れば、こちらも呆れたように俺を見つめて 「あーあ、乙女ってのが分かってねーなぁ」 と苦笑する。
「乙女? いや、は、え?」
いやそんなはずないだろ、と可能性を切り捨て俺は困惑する。
だってあの紅子さんだぞ。常々俺みたいな奴は嫌いだって言ってるような子だ。優柔不断だし、彼女の脱出ゲームは文句なしの不合格だ。優しさと弱さを履き違えている俺を彼女は嫌ってるとまではいかなくとも、少なくとも苦手なはずだ。
ありえないって。
「うーん、今お前達にピッタリなスポットは図書館だな。間違いないぜ」
断言したペティさんは俺達二人の手をそれぞれ取るとそのまま駆け出す。俺達は戸惑ったまま、手を引かれて走った。
けれど、向かう場所は図書館と言っていたのに外だ。赤煉瓦のお屋敷から抜け出し、奥へ奥へと走っていく。
きょろきょろと辺りを見回している紅子さんも、ここまで来たことはなかったんだろう。
そして迷路のようになっている赤い薔薇園を更に奥へ。
薔薇園の垣根は2mくらいの高さがあって、周りが見えなくなる。
そして、長い長い薔薇園を抜け出すとそこにはこじんまりとした建物があった。
ちょっとした小屋くらいの大きさしかないのに、図書館? とは思うが、女の子が好きそうな場所なのは確かだろう。
トランプの模様に合わせてハート、クローバー、スペード、ダイヤの意匠と、まるでお菓子の家のようなメルヘンな雰囲気の漂う建物だ。
「こ、ここが図書館…… ?」
やっと手を離され、ゼエハアと息を乱しながら休憩する。
そんな俺に比べて紅子さんは普通に辺りを見回しながら 「こんなところあったんだねぇ」 と呟く。
やっぱり彼女も人外だ。体力が違いすぎる。
「悪い、構わず走っちまった」
「いや、大丈夫。俺が貧弱なだけだ」
息を落ち着かせて改めて建物を見る。
俺一人だとすごく入りづらい少女趣味っぷりだ。
なんとなく不思議な国のアリスを彷彿とさせるな。
「きっと驚くぜ」
ペティさんが通常よりもずっと大きい、小さな小屋に似つかわしくない両開き扉を開けはなつ。
すると、その先に見えた光景に俺は言葉をなくしてしまった。
先に見える本、本、本、本の山。
小屋の中には到底収まりきらないようなだだっ広い空間が広がり、この世の全ての本が集まっているんじゃないかと思うくらいの本の量がその中に収納されている。
天井はもはやどこにあるのか分からないくらいで、螺旋階段とエレベーターがどこまでも続いている。
明らかに小屋より大きなその空間に俺も、紅子さんも驚きで押し黙った。
「にしし、驚いたか? 驚いたな?」
すごく楽しそうにこちらの反応を伺ってくるペティさんに生返事をすると、建物の中に引っ張り込まれる。
図書館の中央には、両面開き扉を全開にしてちょうど通れそうなくらいの手引き車というのか? そういうのが置いてある。
「あれは文車って言うんだよ、お兄さん」
「へえ」
紅子さんが訂正してくれて助かった。
とにかく、そのくらいの大きさの文車が図書館中央にある。
それに向かって手を振ったペティさんは入り口から少し入った場所に立ち止まる。歩いて行こうにも中央まで随分と距離があるようだ。
「行かないのか?」
「ああ、待ってれば分かるぜ」
数秒後、足元にある石のタイルが矢印のタイルに変化する。
それは中央に向けた矢印で、俺達がそれを確認した直後、滑るように俺の体が引っ張られた。床が滑るわけではないらしい。
「おや、よく来るお客さんかと思ったら、新顔二人もいるのだね」
その少女はしいて言うのなら、緑…… だった。長い緑色の髪を2つに結び、ピンク色の百合の飾りを髪に差している。右目にかけたモノクルに、ほんの少し散ったそばかす。着物は一部を除いてヨモギ色だ。
本を開いたまま、こちらを向いた少女は知的な雰囲気が漂っている。
「ちょうど良かった、ペティ。解決してもらいたい問題があったのだよ…… っと、君達はなにか用かな」
「アタシ達はペチュニアに案内されて来たんだ。もしかして、キミが例の…… 文車妖妃かな?」
「おや、私のことを知っているのだね。如何にも。私は文車妖妃の字乗よもぎと言う」
そこで区切るようにして、彼女は続けた。
「私を知っているということは……」
神妙な顔をした字乗さんは顔を伏せる。
俺達がごくり、と息を飲んで彼女の言葉を待っていると、視界の端にペティさんが呆れているのが見えた。
「恋愛相談をしにきたのだな!?」
「は?」
「いやいやいや」
紅子さんがすかさず否定する。
「なに? 違うのか…… お前、赤いちゃんちゃんこだろう? アルフォードから聞いているぞ。恋愛相談をさせてやれとかなんとか」
「アルフォードさんの言うことを間に受けないでよ。アタシはちゃんと否定したからね」
「ふむ、そうか……」
ペティさんは相変わらず俺達を面白そうに観察していたが、区切りのいいところで 「ところで」 と口を出す。
「ヨモギ、なんか用があるんじゃないのか?」
「…… ああ、そうだった。ちょっと厄介なことになっていてだね。掲示板まで行くのは面倒だし、機械の操作は得意でないし、誰も来ないようならそこの扉を現実に繋げて適当な一般人に解決させようと思っていたところだよ」
それってだいぶ問題があるんじゃないか?
一般人にって…… 同盟はそれでいいのか。
「で、その依頼って?」
「ああ、これを見てほしい」
字乗さんが文車から取り出したのは一冊の本だった。
「まあ、一応見に来ただけだけどね」
「ええ、最近は色々あるみたいだし……」
確認するようにペチュニアさんが言うと、二人は少しだけ答えに窮したようだった。
「レーイチはこの屋敷に来るのも初めてだろ? ベニコだけでもいいだろうが、なんなら今暇になった俺様が代わりにこの中案内するぜ。もちろん、お前達がよければだけどな」
彼女は明るくウインクしてポーズを決める。
こういうところに、ナルシストっぽいアートさんの影響が強いんだろうなあと実感が湧いてくる。ペチュニアさんがやると微笑ましいだけでそんなに痛くないが。
「ああ、なら頼めるかな? 君達もそれで大丈夫?」
「すみません…… こっちも用事があるので」
「ああ、構わないよ。元々紅子さんに教えてもらう予定だったから。えっと、助けてくれてありがとうございました」
「ああ、残念。せっかくお兄さんと二人でデートできると思ったのにねぇ」
「また冗談を言うなよ」
「…… 邪魔して悪いな、ベニコ」
ペチュニアさんは少し考えてそう言った。
茶化したような口調だが、言葉を出す前に眉を跳ねあげていたのが気になるな。なにか驚くような発言でもあったか?
「本気のクセにな。無意識か」
「は?」
「いーや、なんでもないぜ」
笑顔で彼女は帽子を取ると、胸の前で持つ。
そして随分と優雅な仕草でお辞儀をすると 「改めて、亡霊の魔女〝 Petunia・Crooks 〟だ」 と自己紹介を繰り返す。
「ペチュニアだと長いから、Petyって呼んでくれよな。得意分野は〝 嘘を見抜くこと 〟と、薬草学研究だな。民間療法とか、魔法薬には精通してるぜ。あとは結界の看破にすり抜け…… まあ、普通に想像する魔女らしくはないな。他人を傷つけることよりも癒すことの方が得意だよ」
「アタシのことはもう知ってる…… よねぇ。赤いちゃんちゃんこの紅子。最近は外で活動することのほうが多いね」
「改めて下土井令一。邪神のせいで人間関係が希薄でな。こっちには知り合いを増やしに来たんだ。あいつに対抗するには一人じゃなにもできないからな」
「ふうん、なるほどなるほど。ま、俺様も邪神には興味がある。関わりたくはないけどな。こっちの都合もあるが、相談くらいは乗ってもいいぜ。ほれ、連絡先だ」
さすが、理解が早い。
ペティさんからトンボのようなものが飛び立ち、ふわりと俺の手のひらに着地するとそれは連絡先が書かれたメモに変化した。
続いて彼女のエプロンドレスの中から取り出されたのは普通に最新式の携帯電話だった。
どうだ、と言いたげな顔でウインクしている。あの格好でどうやって買っているんだろうか。
現代に行くときは普通に着替えてるのか?
ああいう人ってプライドが邪魔して質素な服を着る発想がなさそうなんだが。
「それじゃ…… 掲示板は遠目にも見えるな? あと、アプリはもう入れたか?」
「まだだねぇ。ここならすぐダウンロードできるから、すぐやっちゃいなよお兄さん」
「ああ……」
スマホを起動すると、WiFiを選択するときのように勝手に通知が出る。
[アルフォードの同盟記録ver4.3.1をダウンロードしますか? ]
YESをタップするとすぐさまダウンロードが開始され、数秒で完了する。開いてみれば依頼掲示板の他に某青い鳥のような機能やチャット機能、現代で言う6ch掲示板みたいなものまで備えてある。
同盟全体の情報網になっているのかもしれない。
「当たり前だが、普通の奴にはそれは見えないし、辿り着けない代物だっていうことを覚えておけよ。グレムリンの奴らが現実の電波を一部ジャックして開設した人外専用のネットワークだからな。外ではそのネットワークの存在は認識されないし、意識されない認識障害みたいなのが起こってる。存在を知ればその認識障害の影響は受けなくなるが……」
彼女が言いたいのは、つまり使ってるところを見られるなということだろう。
普通の人間に認識できないということは、俺がこれを見ているときに覗き込まれたら〝別のなにかを見ているように見せかける〟ようにしなければならないわけだ。
相手になにが見えているのかも分からないのに誤魔化すのは難易度が高い。気軽に使うなら人外の前でってことだな。
「よろしい。問題ないぜ。よし、なら他にも案内するぜ。掲示板はいつでもそれで見られるからな。お前達は知り合いを作りに来たんだろ?」
「まあ、そういうことになるねぇ」
心なしか紅子さんがつまらなそうな顔をしている気がする。
「なあ、なにか食べるところとかないのか? もしくはお土産とか」
「あー? 突然どうした……」
ペティさんは紅子さんを見てすごく面白そうな顔をした後、納得したように頷く。
紅子さんは無意識なようで、その様子になぜ自分を見るのかと首を傾げている。
「紅子さん、お腹空いたのか?」
「は、は? なに言ってるのお兄さん」
「不機嫌そうな顔してるぞ」
「……」
愕然としたように戸惑った彼女は頭に乗せたベレー帽を取って顔を隠し、 「このっ、馬鹿」 と呟いた。
困ってペティさんの方を見れば、こちらも呆れたように俺を見つめて 「あーあ、乙女ってのが分かってねーなぁ」 と苦笑する。
「乙女? いや、は、え?」
いやそんなはずないだろ、と可能性を切り捨て俺は困惑する。
だってあの紅子さんだぞ。常々俺みたいな奴は嫌いだって言ってるような子だ。優柔不断だし、彼女の脱出ゲームは文句なしの不合格だ。優しさと弱さを履き違えている俺を彼女は嫌ってるとまではいかなくとも、少なくとも苦手なはずだ。
ありえないって。
「うーん、今お前達にピッタリなスポットは図書館だな。間違いないぜ」
断言したペティさんは俺達二人の手をそれぞれ取るとそのまま駆け出す。俺達は戸惑ったまま、手を引かれて走った。
けれど、向かう場所は図書館と言っていたのに外だ。赤煉瓦のお屋敷から抜け出し、奥へ奥へと走っていく。
きょろきょろと辺りを見回している紅子さんも、ここまで来たことはなかったんだろう。
そして迷路のようになっている赤い薔薇園を更に奥へ。
薔薇園の垣根は2mくらいの高さがあって、周りが見えなくなる。
そして、長い長い薔薇園を抜け出すとそこにはこじんまりとした建物があった。
ちょっとした小屋くらいの大きさしかないのに、図書館? とは思うが、女の子が好きそうな場所なのは確かだろう。
トランプの模様に合わせてハート、クローバー、スペード、ダイヤの意匠と、まるでお菓子の家のようなメルヘンな雰囲気の漂う建物だ。
「こ、ここが図書館…… ?」
やっと手を離され、ゼエハアと息を乱しながら休憩する。
そんな俺に比べて紅子さんは普通に辺りを見回しながら 「こんなところあったんだねぇ」 と呟く。
やっぱり彼女も人外だ。体力が違いすぎる。
「悪い、構わず走っちまった」
「いや、大丈夫。俺が貧弱なだけだ」
息を落ち着かせて改めて建物を見る。
俺一人だとすごく入りづらい少女趣味っぷりだ。
なんとなく不思議な国のアリスを彷彿とさせるな。
「きっと驚くぜ」
ペティさんが通常よりもずっと大きい、小さな小屋に似つかわしくない両開き扉を開けはなつ。
すると、その先に見えた光景に俺は言葉をなくしてしまった。
先に見える本、本、本、本の山。
小屋の中には到底収まりきらないようなだだっ広い空間が広がり、この世の全ての本が集まっているんじゃないかと思うくらいの本の量がその中に収納されている。
天井はもはやどこにあるのか分からないくらいで、螺旋階段とエレベーターがどこまでも続いている。
明らかに小屋より大きなその空間に俺も、紅子さんも驚きで押し黙った。
「にしし、驚いたか? 驚いたな?」
すごく楽しそうにこちらの反応を伺ってくるペティさんに生返事をすると、建物の中に引っ張り込まれる。
図書館の中央には、両面開き扉を全開にしてちょうど通れそうなくらいの手引き車というのか? そういうのが置いてある。
「あれは文車って言うんだよ、お兄さん」
「へえ」
紅子さんが訂正してくれて助かった。
とにかく、そのくらいの大きさの文車が図書館中央にある。
それに向かって手を振ったペティさんは入り口から少し入った場所に立ち止まる。歩いて行こうにも中央まで随分と距離があるようだ。
「行かないのか?」
「ああ、待ってれば分かるぜ」
数秒後、足元にある石のタイルが矢印のタイルに変化する。
それは中央に向けた矢印で、俺達がそれを確認した直後、滑るように俺の体が引っ張られた。床が滑るわけではないらしい。
「おや、よく来るお客さんかと思ったら、新顔二人もいるのだね」
その少女はしいて言うのなら、緑…… だった。長い緑色の髪を2つに結び、ピンク色の百合の飾りを髪に差している。右目にかけたモノクルに、ほんの少し散ったそばかす。着物は一部を除いてヨモギ色だ。
本を開いたまま、こちらを向いた少女は知的な雰囲気が漂っている。
「ちょうど良かった、ペティ。解決してもらいたい問題があったのだよ…… っと、君達はなにか用かな」
「アタシ達はペチュニアに案内されて来たんだ。もしかして、キミが例の…… 文車妖妃かな?」
「おや、私のことを知っているのだね。如何にも。私は文車妖妃の字乗よもぎと言う」
そこで区切るようにして、彼女は続けた。
「私を知っているということは……」
神妙な顔をした字乗さんは顔を伏せる。
俺達がごくり、と息を飲んで彼女の言葉を待っていると、視界の端にペティさんが呆れているのが見えた。
「恋愛相談をしにきたのだな!?」
「は?」
「いやいやいや」
紅子さんがすかさず否定する。
「なに? 違うのか…… お前、赤いちゃんちゃんこだろう? アルフォードから聞いているぞ。恋愛相談をさせてやれとかなんとか」
「アルフォードさんの言うことを間に受けないでよ。アタシはちゃんと否定したからね」
「ふむ、そうか……」
ペティさんは相変わらず俺達を面白そうに観察していたが、区切りのいいところで 「ところで」 と口を出す。
「ヨモギ、なんか用があるんじゃないのか?」
「…… ああ、そうだった。ちょっと厄介なことになっていてだね。掲示板まで行くのは面倒だし、機械の操作は得意でないし、誰も来ないようならそこの扉を現実に繋げて適当な一般人に解決させようと思っていたところだよ」
それってだいぶ問題があるんじゃないか?
一般人にって…… 同盟はそれでいいのか。
「で、その依頼って?」
「ああ、これを見てほしい」
字乗さんが文車から取り出したのは一冊の本だった。
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