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陸の怪【サテツの国の女王】
亡霊の魔女ペチュニア
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「なるほど、それで君はこちら側に来ようとしていたんだね」
「は、はい」
「そう堅くならなくても良いよ。私はただのいち教師だから」
人ではないけどね、と付け加えて笑うこのヒトはナヴィドさん。
イラン出身のシムルグという神なる鳥…… というやつだ。
秘色いろはさんの保護者兼、彼女の恋する相手だ。このヒトが秘色さんと同棲……神様が、か。改めて考えるとすごいな。
「下土井さんの同居相手も神様でしょう?」
秘色さんにツッコミを入れられたが、確かにあいつも神様だ。邪神だけど。
ナヴィドさんは金髪の長い髪を肩の横で三つ編みにして、青空みたいな綺麗な青色の瞳をしている。赤縁メガネは知的な印象を与えてくるし、お洒落な外国人といった風貌だ。巨鳥のときも金色の太陽に輝く羽毛で、青い瞳だったし、本来の姿と人型の容姿はかなりリンクしているみたいだ。
あいつも同じくらいの黒髪に三つ編みと爬虫類みたいな不気味な黄色い瞳をしているが…… あいつに比べてこのヒトは人称が同じ 「私」 だけど、雰囲気は真反対だ。あいつの話し方は胡散臭さしかないが、このヒトはどこか安心感を与えられる。優しそうな紳士って感じがする。
秘色さんは自ら庇護下に入ったと言っていたが、このヒトならなにも問題ないように思う。この間秘色さんの話を聞くまでは、俺みたいに理不尽な扱いをされてはいないかと心配していたからな。会ってみてより、あの心配は杞憂だったと思い知らされた。
「ね、知り合いも増えるでしょ。おにーさん」
「ああ、ありがとう紅子さん」
「知り合っちゃいけないやつにも知り合っちゃったけどねぇ」
さっき会ったリヴァイアサンのことか。
まあそうだな。
「ま、ちょくちょくこっちに来るといいよ。お兄さんの経験値にもなるだろうし、息抜きにもなるだろうから」
本当にありがとう。
ちょっと気が滅入っていたかもしれないな。
「見えてきましたよ」
秘色さんがぽつりと呟くと、前方に赤い縁の鏡が現れた。
その鏡は俺たちを映し出すと蛇の目のようなものが真ん中に浮かび上がり、こちらを観察する。
目は俺をじっと見つめていたが、鞄の中から飛び出してきた小さな赤い竜を認めてその目を閉じる。
すると、鏡の中にはなにも映らなくなった。
「さ、入るよ」
「鏡はいろんなところにありますから、慣れておいたほうがいいです」
そう言ってナヴィドさんと秘色さんが鏡の中に足を踏み入れていく。
「さっきのは、お兄さんがここを通ったことがないから見られていたんだよ。検問されていたようなものだね。ただ、アルフォードさんの化身を借りてるから許可が下りた…… ってことだ」
「なるほどなあ……」
随分と厳重な警備だ。
一般人が魔境に迷い込まないようにしているのだろうか。
紅子さんたちの話を聞いてると、あちら側には友好的とはいえ人外パラダイスになっているようだし。
そして、鏡を抜けると一気に視界が開けた。
真っ赤な煉瓦でできた巨大な屋敷がそこにはあった。
ただ、赤いと言っても目に痛いわけではなく、優しい色合いのものだ。ツタがところどころ張っていて、赤と緑のコントラストが綺麗だ。レトロな貴族の屋敷といった雰囲気だな。
頭上には抜けるような青空に白い雲。空では優雅に泳ぐ美しい怪異。
地上にはウサギの耳を生やした少女やら、行きに見かけた魔女帽子の女の子、大きな旅行鞄のようなものを軽々持ったツノの生えた男の子、工具類を持ち歩いている男の子など、様々だ。
人外達が闊歩する中に、俺と秘色さん…… 人間が二人だけ。
ちょっと新鮮な気もする。
俺達が談笑しながら歩いていると、雑踏の中の一人…… 魔女帽子の子がこちらに気がついてやってくる。
「よお、学者先生!」
「やあ、ペティちゃん」
白地に黒のリボンや、緑色のクローバー、灰色の猫の模様が散ったエプロンドレスを身につけている少女は魔女の格好そのものだ。
それにしては白いし、周りに浮かぶ金色の人魂が気になるが。
「なあ、師匠がどこにいるか知らないか? 待ち合わせしてたはずなんだが、時間になっても来なくて」
「ケルベロスさんは見ていないよ。部屋には尋ねてみたかい?」
「あー? 部屋に行ったことはなかったな。よし、ちょっと行ってくるよ…… ところでそっちの奴は? お雛以外にも見慣れない奴がいるな」
魔女っ子が俺のほうを見る。
紅子さんはここを住居にしてるらしいし、多分〝 お雛 〟っていうのは秘色さんのことだろう。神鳥シムルグの庇護下にあるから雛…… ってことか。
だから初めて見る俺に対して自己紹介しろと? 普通に興味があるだけかもしれないが。
「俺は下土井令一です。えっと…… ニャルラトホテプにこき使われてます」
「ああ、例の哀れな奴って噂の…… はー、苦労してそうな顔してんな」
そんなに苦労人みたいな顔してるのか?
それにしても、会う人会う人に〝 噂の奴 〟って言われるんだが、どんな噂が広まってるんだ。不本意すぎる。
「俺様はPetunia・Crooks。亡霊の魔女だ。魔女の亡霊じゃないぜ。亡霊の、魔女だ。よろしくなレーイチ」
それのどこに違いがあるのかと疑問が顔に出ていたんだろう。
ペチュニアは 「まあそうだよな」 と言ってから改めて説明を始める。
「俺様は死んでから魔女になったんだよ。魔女の亡霊って言うと、まるで生前から魔女だったみたいだろ? だから〝 亡霊の魔女 〟だ。生前のペットがな、俺様が死んだことで暴走を起こしてやらかしてるらしい…… だからそれを止めるために魔女になったんだ。ただ、まだ解決に向かわせて貰えてないけどな。実力不足だからってさ」
「事情があるんだな…… さっき師匠がアートさんみたいなことを言ってたけど、それって魔法の師匠があのヒトってことか?」
俺が尋ねると、知り合いなんだなと笑顔で彼女は頷いた。
なるほど、一人称についてはスルーを決めていたがもしかしてアートさんの影響か…… ? あのヒトも一人称〝 俺様 〟だしな。
「で、お前達は……」
ペチュニアさんが言い終わるより前に彼女の側から電子音が響く。
それは誰かからの着信だったようで、なにかを取り出すこともなく彼女は帽子のツバの内側を押した。
そして暫く小声で問答していると、突然大声をあげた。
「はっ!?」
俺達がそれに注目していると、彼女はバツが悪そうに眉をひそめて右の手のひらを垂直に立て、片目を瞑る。その表情から 「すまん」 と言いたいのだということがすぐに理解できた。
そして、また暫く会話した後に溜め息を吐いた。
「ケルベロスさんからかい?」
「ああ、なんか仕事が入ったらしくてな。あー、また迎えに行くのが遅くなる……」
俺が疑問を顔に浮かべていると、紅子さんが小声で「ペティさんは悪さするペットを迎えに行きたいんだそうだ」と教えてくれた。
さっき自己紹介のときに言っていた、解決に向かわせてもらえないというのがこれだろうか。
「は、はい」
「そう堅くならなくても良いよ。私はただのいち教師だから」
人ではないけどね、と付け加えて笑うこのヒトはナヴィドさん。
イラン出身のシムルグという神なる鳥…… というやつだ。
秘色いろはさんの保護者兼、彼女の恋する相手だ。このヒトが秘色さんと同棲……神様が、か。改めて考えるとすごいな。
「下土井さんの同居相手も神様でしょう?」
秘色さんにツッコミを入れられたが、確かにあいつも神様だ。邪神だけど。
ナヴィドさんは金髪の長い髪を肩の横で三つ編みにして、青空みたいな綺麗な青色の瞳をしている。赤縁メガネは知的な印象を与えてくるし、お洒落な外国人といった風貌だ。巨鳥のときも金色の太陽に輝く羽毛で、青い瞳だったし、本来の姿と人型の容姿はかなりリンクしているみたいだ。
あいつも同じくらいの黒髪に三つ編みと爬虫類みたいな不気味な黄色い瞳をしているが…… あいつに比べてこのヒトは人称が同じ 「私」 だけど、雰囲気は真反対だ。あいつの話し方は胡散臭さしかないが、このヒトはどこか安心感を与えられる。優しそうな紳士って感じがする。
秘色さんは自ら庇護下に入ったと言っていたが、このヒトならなにも問題ないように思う。この間秘色さんの話を聞くまでは、俺みたいに理不尽な扱いをされてはいないかと心配していたからな。会ってみてより、あの心配は杞憂だったと思い知らされた。
「ね、知り合いも増えるでしょ。おにーさん」
「ああ、ありがとう紅子さん」
「知り合っちゃいけないやつにも知り合っちゃったけどねぇ」
さっき会ったリヴァイアサンのことか。
まあそうだな。
「ま、ちょくちょくこっちに来るといいよ。お兄さんの経験値にもなるだろうし、息抜きにもなるだろうから」
本当にありがとう。
ちょっと気が滅入っていたかもしれないな。
「見えてきましたよ」
秘色さんがぽつりと呟くと、前方に赤い縁の鏡が現れた。
その鏡は俺たちを映し出すと蛇の目のようなものが真ん中に浮かび上がり、こちらを観察する。
目は俺をじっと見つめていたが、鞄の中から飛び出してきた小さな赤い竜を認めてその目を閉じる。
すると、鏡の中にはなにも映らなくなった。
「さ、入るよ」
「鏡はいろんなところにありますから、慣れておいたほうがいいです」
そう言ってナヴィドさんと秘色さんが鏡の中に足を踏み入れていく。
「さっきのは、お兄さんがここを通ったことがないから見られていたんだよ。検問されていたようなものだね。ただ、アルフォードさんの化身を借りてるから許可が下りた…… ってことだ」
「なるほどなあ……」
随分と厳重な警備だ。
一般人が魔境に迷い込まないようにしているのだろうか。
紅子さんたちの話を聞いてると、あちら側には友好的とはいえ人外パラダイスになっているようだし。
そして、鏡を抜けると一気に視界が開けた。
真っ赤な煉瓦でできた巨大な屋敷がそこにはあった。
ただ、赤いと言っても目に痛いわけではなく、優しい色合いのものだ。ツタがところどころ張っていて、赤と緑のコントラストが綺麗だ。レトロな貴族の屋敷といった雰囲気だな。
頭上には抜けるような青空に白い雲。空では優雅に泳ぐ美しい怪異。
地上にはウサギの耳を生やした少女やら、行きに見かけた魔女帽子の女の子、大きな旅行鞄のようなものを軽々持ったツノの生えた男の子、工具類を持ち歩いている男の子など、様々だ。
人外達が闊歩する中に、俺と秘色さん…… 人間が二人だけ。
ちょっと新鮮な気もする。
俺達が談笑しながら歩いていると、雑踏の中の一人…… 魔女帽子の子がこちらに気がついてやってくる。
「よお、学者先生!」
「やあ、ペティちゃん」
白地に黒のリボンや、緑色のクローバー、灰色の猫の模様が散ったエプロンドレスを身につけている少女は魔女の格好そのものだ。
それにしては白いし、周りに浮かぶ金色の人魂が気になるが。
「なあ、師匠がどこにいるか知らないか? 待ち合わせしてたはずなんだが、時間になっても来なくて」
「ケルベロスさんは見ていないよ。部屋には尋ねてみたかい?」
「あー? 部屋に行ったことはなかったな。よし、ちょっと行ってくるよ…… ところでそっちの奴は? お雛以外にも見慣れない奴がいるな」
魔女っ子が俺のほうを見る。
紅子さんはここを住居にしてるらしいし、多分〝 お雛 〟っていうのは秘色さんのことだろう。神鳥シムルグの庇護下にあるから雛…… ってことか。
だから初めて見る俺に対して自己紹介しろと? 普通に興味があるだけかもしれないが。
「俺は下土井令一です。えっと…… ニャルラトホテプにこき使われてます」
「ああ、例の哀れな奴って噂の…… はー、苦労してそうな顔してんな」
そんなに苦労人みたいな顔してるのか?
それにしても、会う人会う人に〝 噂の奴 〟って言われるんだが、どんな噂が広まってるんだ。不本意すぎる。
「俺様はPetunia・Crooks。亡霊の魔女だ。魔女の亡霊じゃないぜ。亡霊の、魔女だ。よろしくなレーイチ」
それのどこに違いがあるのかと疑問が顔に出ていたんだろう。
ペチュニアは 「まあそうだよな」 と言ってから改めて説明を始める。
「俺様は死んでから魔女になったんだよ。魔女の亡霊って言うと、まるで生前から魔女だったみたいだろ? だから〝 亡霊の魔女 〟だ。生前のペットがな、俺様が死んだことで暴走を起こしてやらかしてるらしい…… だからそれを止めるために魔女になったんだ。ただ、まだ解決に向かわせて貰えてないけどな。実力不足だからってさ」
「事情があるんだな…… さっき師匠がアートさんみたいなことを言ってたけど、それって魔法の師匠があのヒトってことか?」
俺が尋ねると、知り合いなんだなと笑顔で彼女は頷いた。
なるほど、一人称についてはスルーを決めていたがもしかしてアートさんの影響か…… ? あのヒトも一人称〝 俺様 〟だしな。
「で、お前達は……」
ペチュニアさんが言い終わるより前に彼女の側から電子音が響く。
それは誰かからの着信だったようで、なにかを取り出すこともなく彼女は帽子のツバの内側を押した。
そして暫く小声で問答していると、突然大声をあげた。
「はっ!?」
俺達がそれに注目していると、彼女はバツが悪そうに眉をひそめて右の手のひらを垂直に立て、片目を瞑る。その表情から 「すまん」 と言いたいのだということがすぐに理解できた。
そして、また暫く会話した後に溜め息を吐いた。
「ケルベロスさんからかい?」
「ああ、なんか仕事が入ったらしくてな。あー、また迎えに行くのが遅くなる……」
俺が疑問を顔に浮かべていると、紅子さんが小声で「ペティさんは悪さするペットを迎えに行きたいんだそうだ」と教えてくれた。
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