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第四章:転生者ウェルガ 初等部編

卒業式当日(前編)

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本日ハ晴天ナリ  本日ハ晴天ナリ

いや~、3年なんて長いようで短かったねぇ。あ、冒頭のは忘れてくれ。言ってみたかっただけだ。

今まさに卒業式の最中なんだが…式場が前世より金かかってんなぁ~くらいで特に小学校と変わらないので、感想にコメントのしようがない。
まあ、お貴族様も通う学校なんだから当たり前なんだが。
 
…なんて思ってたのだが… 

『では最後に、卒業生で女神の愛し子でもあらせられるウェルガ・ランスロット様より、有り難い御言葉を頂戴し、卒業式を終了と致します。ではウェルガ様、お願い致します』

「…ふぁ!?」

突然の予定外の無茶振りに、俺は思わず変な声を上げてしまった。

…おいおい、聞いてないぞ。

そう思いながらチラッと校長のジジイを見たら、ジェスチャーで「お願い!ちょっとで良いから!」みたいな指示をされた。納得いかねぇ…
式場は卒業式に似合わぬ盛り上がりを見せてしまっているし…仕方ないか…

俺は深いため息を吐き、「はい」と軽く返事をして壇上に上がった。

…てか、どうすんだ?何も考えてないぞ。
とりあえず俺は、目の前の拡声の魔道具に近づいた。

『…え~、只今ご紹介に預かりました、ウェルガ・ランスロットです』

俺が話し始めると、式場は徐々に静かになっていく。

『突然呼ばれてしまったので、何も用意などはしていませんが…とりあえず、我々卒業生は本日、この学び舎を卒業します』

…こ、こんな感じかな…?
前世はあがり症で、こんなにスラスラと言葉なんて出なかったのになぁ…
〈ポーカーフェイス〉に〈思考加速〉、〈並列思考〉と〈精神耐性〉のスキルが良い仕事しやがるぜ。
お陰で、こうして考える余裕もあるわけだしな。

『え~、この学校は、貴族や一部の富裕層の皆さんにはただの中等部への通り道でしかないでしょうが、平民の皆さんはこの日から、大人に混じってお仕事をすることになるかと思います』

こうして話している間も、式場の全員が静かに俺の言葉に耳を傾けている。

『ですが、卒業生の皆さんは覚えておいてください。「成人」と「学生」、どっちが良いか悪いかは…実は正直、大して変わりません』

あ、ちょっとザワついてきた…

『学生は大人達に守られて学問や趣味に没頭出来、多少は遊んでいられる余裕などがありますが、大人ほどの自由があるわけではない。しかし成人して大人になって、ある程度の自由を手に入れられても、そこには責任が発生してしまう。身の回りの事だって、一人でしていかなくてはなりません』

俺のこの言葉に、一部の大人がうんうんと頷いている。

『…さて、これを聞いて皆さんはどちらの方がいいと思いますか?…いきなりこんなことを言われても分からないか…ちなみに私は、まだ学生がいいなぁなんて思います。友達ともう少し馬鹿やっていたいですね』

俺がそんな冗談を言うと、ハハハハ!という笑い声が返ってきた。

『何が言いたいかといえば、中等部に進学しても、親の後ろについて仕事をしていても、苦労はどちらもさして変わらないということです。進学した人達は単に社会に出るのが先伸ばしになっただけですしね』

俺のその言葉に、卒業生達はお互いの顔を見合わせて不安そうにしていた。

『なので、何か1つでも構いません。自分が楽しいと思うことを作りましょう。それがあれば、多少辛いことがあっても何とかなるものです。人生は楽しんだもの勝ちなんですから』

俺が笑顔でそう言うと、大人も子供もみんな納得するように頷いていた。

『…ハハハ、12歳のガキが何言ってんだって感じですね。失礼しました。とにかく、卒業しても友人を大切に、そして自分の目指す人生を突き進んでいければいいなと思います。ありがとうございました』

俺は最後にそう言って、一歩下がって頭を下げる。
そして、パチパチパチと皆から拍手を貰いながら元の席へと戻った。

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