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犯人は奴
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榎田と大葉は医務室に忍び込んだ。
前回の事務室での失敗から学習して、見廻りする生徒が医務室の鍵を事務室に返却したタイミングで事務室に忍び込み医務室の鍵を拝借。
急ぎ足で医務室のどあの鍵を開け鍵を事務室に返却。
周囲を確認して医務室に忍び込み鍵をかける。
二度失敗しているせいか2人は慎重かつ手際が良かった。
「今回は上手く行ったな」
「全くよ、もうあんな恥ずかしい事は絶対しないから」
「これから30分は見廻りは来ないから、隠れ無くていいぞ。むしろ早く来る奴は犯人だから豊田を守る」
「分かってる」
「相手は凶器を持っているからな、俺が先に行く。大葉はすぐに佐々木に電話しろよ」
気休めかもしれないが厨房から持ち出した麺棒やフライパンで武装している。
まず犯人が武器を出した瞬間に叩き落とす。
間髪入れず榎田のタックルで倒し相手の両手の自由を奪う。
最後に犯人の武装を解除する。
これが2人の犯人制圧シミュレーションだ。
犯人が榎田の思い通りの人物なら成功するはずだ。
医務室では豊田は傷のある左頭部を上に、横向きに寝かされている。
吐瀉物で窒息しないための回復体位だ。
医務室のベッドは二つ、豊田が寝かされているのは奥のベッドだった。
ベッドの周囲の薄いグリーンの制菌カーテンは閉められ枕元のオレンジの灯りが透けて見えた。
豊田は頭を殴打されていたため佐々木の提案で容体の急変に備えて定期的に見廻りするように決められた。
しかし見廻りでは殺意を持って近づく者には無力だった。
豊田の護衛、これが榎田と大葉が医務室に忍びんだ目的だ。
榎田は当初1人で医務室に入り犯人を迎え撃つつもりだった。
だが体育館で起き上がろうとした時隣で寝ていた大葉に声をかけられた。
「私だって馬鹿じゃないから、豊田の所へ行くんでしょ」
言い逃れは無理だと諦めた榎田は大葉に計画を話し2人で豊田を守ることに決めたのだ。
時間通りに鍵を開け入って来る生徒達。
変わりなく横になっている豊田を見て生徒は安心すると医務室を立ち去った。
同じ事が幾度か繰り返された。
「来ないわね」
「来ないに越したことは無いが絶対来る」
豊田は犯人が残した唯一の確実な証拠だ。
榎田が犯人だと指摘しても司法が有罪と判決を下さなければ意味がない。
絵に描いた餅だ。
最も状況証拠の積み重ねでも司法は有罪と判決を下せるのだがそれを知るには榎田はまだ若かった。
「なんで言い切れるのよ」
「恐らく犯人は恐慌状態になってる。これまでの傾向で自分の犯行が少しでもバレる可能性があると思ったら躊躇無く次の殺人を敢行しているからだ」
「暗闇のなかでも自分を目撃している可能性がある豊田を殺りに来る……か。哀しいね」
「辛い役目をさせる。良かったのか?」
「まあ正直貧乏くじ引いてるなとは思ってるよ。友達は殺されるし、犯人だと疑われるし、命がけの護衛までしてるし、でも他に方法がないのもわかるのよ。榎田と木下先輩がいなくなったら佐々木先生が気が付くし、他のグループに誘いに行ったらやっぱり目立つし。でも1人は危険過ぎる2人いれば最悪応援が呼べて犯人が諦めるかもしれないでしょ」
「ありがとう、そのとおりだ。しかもこの2人なら2人で佐々木に見つかった時の妹のハンカチのおかげで追及されにくいしな。」
「お礼は成功してからでしょ」
2人はグータッチした。
◇
午前2時10分
医務室ドアの鍵穴に鍵が差し込まれた。
2人は緊張感を取り戻しベッドの下に隠れる。
「カチリ」
シリンダーの回る音、スライドドアが静かに開かれる。
入室する黒い影、ゆっくりと奥のベッドへと歩みを進める。
黒い影は懐から光を反射する物体を取り出す。
ナイフだ。
制菌カーテンが開かれる。
同じ姿で横たわり、眠り続ける豊田。
右手に握られたナイフが豊田の急所を狙って振り下ろされる、その刹那、
ゴスッ
鉄の塊が右手を打つ、床に転がるナイフ。
ベッドの下から男が飛び出し間髪入れずにタックル、黒い影はキャビネットまで吹き飛ばされる。
「やはりあなたでしたね」
榎田が持っていた懐中電灯で黒い影を照らした。
「待ちくたびれたわよ」
大葉がフライパンを構えた。懐中電灯で照らされ、シルエットしか見えなかっただった人影が鮮明になる。
「観念してくれますか?羽田先生」
榎田が羽田を一瞥する。
「何のことかしら」
羽田が立ち上がろうと膝を立てる。
「しらばっくれるなら銃刀法違反で身柄を拘束する。まずポケットから手を出せ」
羽田の手から折りたたみナイフが落ちる。
「手ごわいわね、分かったおとなしくする」
羽田は両手を上にあげる。
榎田は落ちたナイフを蹴り飛ばす。
「話してもらいましょうか?それとも俺が話したほうがいいのか?」
取り上げたナイフを大葉に渡す。
「大葉は佐々木に連絡を頼む。その後110番してくれ、通話は切るなよ」
ついに2人は犯人と相対した。
前回の事務室での失敗から学習して、見廻りする生徒が医務室の鍵を事務室に返却したタイミングで事務室に忍び込み医務室の鍵を拝借。
急ぎ足で医務室のどあの鍵を開け鍵を事務室に返却。
周囲を確認して医務室に忍び込み鍵をかける。
二度失敗しているせいか2人は慎重かつ手際が良かった。
「今回は上手く行ったな」
「全くよ、もうあんな恥ずかしい事は絶対しないから」
「これから30分は見廻りは来ないから、隠れ無くていいぞ。むしろ早く来る奴は犯人だから豊田を守る」
「分かってる」
「相手は凶器を持っているからな、俺が先に行く。大葉はすぐに佐々木に電話しろよ」
気休めかもしれないが厨房から持ち出した麺棒やフライパンで武装している。
まず犯人が武器を出した瞬間に叩き落とす。
間髪入れず榎田のタックルで倒し相手の両手の自由を奪う。
最後に犯人の武装を解除する。
これが2人の犯人制圧シミュレーションだ。
犯人が榎田の思い通りの人物なら成功するはずだ。
医務室では豊田は傷のある左頭部を上に、横向きに寝かされている。
吐瀉物で窒息しないための回復体位だ。
医務室のベッドは二つ、豊田が寝かされているのは奥のベッドだった。
ベッドの周囲の薄いグリーンの制菌カーテンは閉められ枕元のオレンジの灯りが透けて見えた。
豊田は頭を殴打されていたため佐々木の提案で容体の急変に備えて定期的に見廻りするように決められた。
しかし見廻りでは殺意を持って近づく者には無力だった。
豊田の護衛、これが榎田と大葉が医務室に忍びんだ目的だ。
榎田は当初1人で医務室に入り犯人を迎え撃つつもりだった。
だが体育館で起き上がろうとした時隣で寝ていた大葉に声をかけられた。
「私だって馬鹿じゃないから、豊田の所へ行くんでしょ」
言い逃れは無理だと諦めた榎田は大葉に計画を話し2人で豊田を守ることに決めたのだ。
時間通りに鍵を開け入って来る生徒達。
変わりなく横になっている豊田を見て生徒は安心すると医務室を立ち去った。
同じ事が幾度か繰り返された。
「来ないわね」
「来ないに越したことは無いが絶対来る」
豊田は犯人が残した唯一の確実な証拠だ。
榎田が犯人だと指摘しても司法が有罪と判決を下さなければ意味がない。
絵に描いた餅だ。
最も状況証拠の積み重ねでも司法は有罪と判決を下せるのだがそれを知るには榎田はまだ若かった。
「なんで言い切れるのよ」
「恐らく犯人は恐慌状態になってる。これまでの傾向で自分の犯行が少しでもバレる可能性があると思ったら躊躇無く次の殺人を敢行しているからだ」
「暗闇のなかでも自分を目撃している可能性がある豊田を殺りに来る……か。哀しいね」
「辛い役目をさせる。良かったのか?」
「まあ正直貧乏くじ引いてるなとは思ってるよ。友達は殺されるし、犯人だと疑われるし、命がけの護衛までしてるし、でも他に方法がないのもわかるのよ。榎田と木下先輩がいなくなったら佐々木先生が気が付くし、他のグループに誘いに行ったらやっぱり目立つし。でも1人は危険過ぎる2人いれば最悪応援が呼べて犯人が諦めるかもしれないでしょ」
「ありがとう、そのとおりだ。しかもこの2人なら2人で佐々木に見つかった時の妹のハンカチのおかげで追及されにくいしな。」
「お礼は成功してからでしょ」
2人はグータッチした。
◇
午前2時10分
医務室ドアの鍵穴に鍵が差し込まれた。
2人は緊張感を取り戻しベッドの下に隠れる。
「カチリ」
シリンダーの回る音、スライドドアが静かに開かれる。
入室する黒い影、ゆっくりと奥のベッドへと歩みを進める。
黒い影は懐から光を反射する物体を取り出す。
ナイフだ。
制菌カーテンが開かれる。
同じ姿で横たわり、眠り続ける豊田。
右手に握られたナイフが豊田の急所を狙って振り下ろされる、その刹那、
ゴスッ
鉄の塊が右手を打つ、床に転がるナイフ。
ベッドの下から男が飛び出し間髪入れずにタックル、黒い影はキャビネットまで吹き飛ばされる。
「やはりあなたでしたね」
榎田が持っていた懐中電灯で黒い影を照らした。
「待ちくたびれたわよ」
大葉がフライパンを構えた。懐中電灯で照らされ、シルエットしか見えなかっただった人影が鮮明になる。
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「何のことかしら」
羽田が立ち上がろうと膝を立てる。
「しらばっくれるなら銃刀法違反で身柄を拘束する。まずポケットから手を出せ」
羽田の手から折りたたみナイフが落ちる。
「手ごわいわね、分かったおとなしくする」
羽田は両手を上にあげる。
榎田は落ちたナイフを蹴り飛ばす。
「話してもらいましょうか?それとも俺が話したほうがいいのか?」
取り上げたナイフを大葉に渡す。
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