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第3の事件
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豊田起案のゾーンプレス作戦が発動した。
東西南北に加え音響調整室の宮本にも協力を求めており1・2・1・1のフォーメーションだ。
北側ステージ上には豊田、水島。
東側壁際には早田、星野
南側グループE 木下、寺井、三浦
西側壁際側には榎田、大葉
音響調整室には宮本
の体制だ、星野は早田に協力を求めに行った際に一緒にいた(ナンパされていた)ため協力を求めた。
2人共、一緒にいる口実が出来て内心喜んでいるようだ。
宮本には細かな事は伝えず不審な行動をしている人がいればマイクで伝えてくれとのみ伝えている。
あくまで被害防止が第一、犯人逮捕は二の次だ。
体育館1階平面図
体育館2階平面図
豊田が再びステージに上がる、代役の本村は緊張して汗をかいていた。
「もう限界ですよー。豊田先生お願いします」
名司会豊田は必須のようだ。
「司会豊田復活します。ここで重大なお知らせだ。待ちに待った私の助手が登場するぞ、その名は水島美夏だ~!」
ステージの音楽が切り替わる。
花道を駆け上がった美夏は豊田をカニ挟みからのラ・マヒストラルでフォール。
「ハードルあげんな、しごうしたるぞ」
マイクを握っていることから演出なのだろうが豊田は苦悶の表情を浮かべている。
柔道部員からは「反則だ」とヤジが飛ぶ。
「カンカンカンカン」
とゴングが鳴った。
あらかじめ宮本が準備していた効果音だ。
よろよろと起き上がった豊田は
「カラオケ次の歌い手は助手の水島、曲目は『怒りの獣神』だ~」
豊田の司会に水島がノリノリでリズムをとっている。
「水島さんってあんなキャラ?しかもプロレス好き!!」
驚いた榎田は大葉に質問する。
「あれが素よ。事件と他校の生徒と一緒なせいで猫かぶってただけで」
「ええ?すげえなあの短期間で素を引き出すのか豊田は」
感心する榎田に、
「あんたは私の素を引き出すに1秒かかって無いからな」
「おお、俺すごいな」
「でもみかちゅはそんなに背が高くなくてゴツい人が好きだから、豊田君はあんまり……」
「まんまライガーだろそれ」
2人が笑いあい、ステージの盛り上がりが最高潮になったとき……。
体育館の照明が消えた。
体育館内は騒然となった。
「停電?台風の影響?」
「非常照明ないの?」
「ブレーカー落ちたんじゃない?」
「ブレーカーの場所どこだよ」
暗転した体育館に不安気な声が響く。
生徒達はブレーカーの場所を探すため右往左往しているが暗闇に阻まれている。
「警報は鳴ってない下手に動くなよ、俺が確認してくるから」
佐々木が大声で指示を出す。
こういった場合、一番怖いのは出口での将棋倒しだ。
未だスマートフォン等ない時代でありカメラ機能も無い、いわゆるガラケーのディスプレイでは周囲を照らすには至らない。
幸い小雨になった夜空は闇夜ほどは暗くない。
目が慣れればぼんやりと生徒達のシルエットが視界に映る。
『おかしい』
榎田はステージ上に違和感を感じた。
『誰もいない?』
カラオケで歌っていた水島と司会の豊田のシルエットも見えない。
ステージ上は暗闇の中に白幕がぼんやりと浮かび上がっているが豊田のシルエットは無い。
「ステージで何かあったかもしれない。来れるか?」
榎田は問いかけながら大葉の手を取った。
「えっ?」
「はぐれるなよ」
榎田は人にぶつからないように体育館の西側の壁沿いを進んだ。
中央を進むと先程まで過熱していた調理機器があり危険だからだ。
それでも無秩序な人混みを避けながら進むと予想以上に時間がかかる。
なにせ先程までの榎田達の様に壁際に座り込んでいる者もいるのだ。
うっかりすると衝突してしまう。
『目が慣れてきた。ステージに誰か倒れている?』
榎田はステージに飛び乗り、ステージの上手よりに倒れている人影に駆け寄る。
「大丈夫か!!豊田?」
返事はない。
水島が近くにしゃがみ込んでいた。
倒れていた人影を抱き起こすと……。
豊田だ。
榎田の手が触れた頭部からぬるりとした感触。
『血!!』
「大丈夫?」
大葉も駆けつける。
「暗くなった後、豊田が物音がするって言って歩き出して、その後で人が倒れる音がして、目が慣れてきて近づいたら豊田が倒れてた……」
水島がポツポツと話す。
今までの事件から最悪の事態を想像して声が震える。
榎田は呼吸音を確認。
『大丈夫だ胸が上下している』
「息はある。ただ出血がある。止血したいハンカチか何かあるか?」
「これ使って綺麗だから」
水島がハンカチを手渡す。
榎田は患部にハンカチを当てるがハンカチが赤く染まっていく。
「仕方がない」
榎田は着ていたTシャツを破りハンカチの上から頭の周囲を廻しきつく結ぶ。
荒っぽいが直接圧迫止血になっているはずだ。
「機械が壊れたら運が悪かったと思ってくれ」
豊田の身体を抱え上げた。
頭を少しでも高く上げるためカラオケの機械を背もたれにする。
「後は電気がつかないと」
3人は暗闇の中で豊田を見守る事しか出来なかった。
一時の後、体育館の照明が点灯した。
「分電盤やっと見つけたぞ。ブレーカー落ちだ。玄関ホールにあった」
佐々木の大声が体育館の入口の方から聞こえる。
榎田達は急に点灯した明かりに眩惑し目を細める。
豊田の負傷は後頭部の出血と転倒した時の打撲だけのようだ。
意識が無いのは心配だが生命に別状は無い。
だがいち早く医療機関での診察を受けさせたいのは変わらない。
安心した大葉はステージに影が落ちている事に気がついた。
影をたどる。
「!!」
声にならない悲鳴。
大葉は天井を指差す。
視線の先にあったのは吊りバトンからロープで吊るされた仁瓶亜希子だった。
ステージ断面図
「早く降ろしてくれ。あと負傷者がいる。応援を」
榎田は仁瓶を指差してマイクで音響調整室へ指示を出した。
「分かりました」
宮本が慌ててスイッチを操作してバトンを降ろす。
バトンが降りてくるほんの二、三秒が長く感じた。
慌てて駆けつけた佐々木と木下がようやく降りてきた仁瓶を抱えロープを外す。
「まだ暖かい、心臓マッサージを」
「私がやります」
佐々木の一声に遅れてステージの上手側から現れた羽田が答える。
「あとは豊田だな、島内には医療機関は無いから、とりあえず医務室に運ぶ。患部を冷やすくらいしかできんが」
佐々木の言葉に柔道部員達が長机を畳んで担架替わりに持って来た。
「すまんが頼む。医務室の鍵は俺が持って行く」
佐々木は部員達に指示を出し、鍵を置いてある事務室に走る。
施設職員が出勤しない以上、施設の合鍵は事務室から持ってくるしかない。
羽田は着ているジャージの袖で顔を拭いながら心臓マッサージを続けている。
榎田は『俺も』と言いかけて手が血まみれのうえ上半身が裸なのに気がついた。
『冷静にならなければ、出来ることをしよう』
親友が狙われた事に動揺を隠せない。
「先輩ここは頼みます。服を着てきます」
榎田は木下にステージを託して、まずは手を洗うために手洗いに入る。
手洗いは榎田達が通過してきた体育館の西側にあった。
蛇口を目一杯にひねり手を洗う。
ひんやりとした水が榎田を冷やす。
『何故仁瓶と豊田なんだ』
綺麗になった手で水をすくい顔を洗う。
熱くなっていた脳内が冷却されるようだ。
「よしっ」
最後に顔に水を叩きつける。
『タオルが無かった』
少し冷静になった榎田が顔に付いた水を拭って手洗いを出る。
「はいタオル。全くハンカチくらい持ち歩きなさいよ」
手洗いの出口で大葉が待ち構えていた。
「ありがとう。ちょうど良かった、話がある。ちょっといいか」
榎田が大葉に近づく。
「まず服を着なさい服を、この筋肉だるま」
大葉の大声にそそくさと服を着る榎田であった。
『あとムダ毛処理もね』
東西南北に加え音響調整室の宮本にも協力を求めており1・2・1・1のフォーメーションだ。
北側ステージ上には豊田、水島。
東側壁際には早田、星野
南側グループE 木下、寺井、三浦
西側壁際側には榎田、大葉
音響調整室には宮本
の体制だ、星野は早田に協力を求めに行った際に一緒にいた(ナンパされていた)ため協力を求めた。
2人共、一緒にいる口実が出来て内心喜んでいるようだ。
宮本には細かな事は伝えず不審な行動をしている人がいればマイクで伝えてくれとのみ伝えている。
あくまで被害防止が第一、犯人逮捕は二の次だ。
体育館1階平面図
体育館2階平面図
豊田が再びステージに上がる、代役の本村は緊張して汗をかいていた。
「もう限界ですよー。豊田先生お願いします」
名司会豊田は必須のようだ。
「司会豊田復活します。ここで重大なお知らせだ。待ちに待った私の助手が登場するぞ、その名は水島美夏だ~!」
ステージの音楽が切り替わる。
花道を駆け上がった美夏は豊田をカニ挟みからのラ・マヒストラルでフォール。
「ハードルあげんな、しごうしたるぞ」
マイクを握っていることから演出なのだろうが豊田は苦悶の表情を浮かべている。
柔道部員からは「反則だ」とヤジが飛ぶ。
「カンカンカンカン」
とゴングが鳴った。
あらかじめ宮本が準備していた効果音だ。
よろよろと起き上がった豊田は
「カラオケ次の歌い手は助手の水島、曲目は『怒りの獣神』だ~」
豊田の司会に水島がノリノリでリズムをとっている。
「水島さんってあんなキャラ?しかもプロレス好き!!」
驚いた榎田は大葉に質問する。
「あれが素よ。事件と他校の生徒と一緒なせいで猫かぶってただけで」
「ええ?すげえなあの短期間で素を引き出すのか豊田は」
感心する榎田に、
「あんたは私の素を引き出すに1秒かかって無いからな」
「おお、俺すごいな」
「でもみかちゅはそんなに背が高くなくてゴツい人が好きだから、豊田君はあんまり……」
「まんまライガーだろそれ」
2人が笑いあい、ステージの盛り上がりが最高潮になったとき……。
体育館の照明が消えた。
体育館内は騒然となった。
「停電?台風の影響?」
「非常照明ないの?」
「ブレーカー落ちたんじゃない?」
「ブレーカーの場所どこだよ」
暗転した体育館に不安気な声が響く。
生徒達はブレーカーの場所を探すため右往左往しているが暗闇に阻まれている。
「警報は鳴ってない下手に動くなよ、俺が確認してくるから」
佐々木が大声で指示を出す。
こういった場合、一番怖いのは出口での将棋倒しだ。
未だスマートフォン等ない時代でありカメラ機能も無い、いわゆるガラケーのディスプレイでは周囲を照らすには至らない。
幸い小雨になった夜空は闇夜ほどは暗くない。
目が慣れればぼんやりと生徒達のシルエットが視界に映る。
『おかしい』
榎田はステージ上に違和感を感じた。
『誰もいない?』
カラオケで歌っていた水島と司会の豊田のシルエットも見えない。
ステージ上は暗闇の中に白幕がぼんやりと浮かび上がっているが豊田のシルエットは無い。
「ステージで何かあったかもしれない。来れるか?」
榎田は問いかけながら大葉の手を取った。
「えっ?」
「はぐれるなよ」
榎田は人にぶつからないように体育館の西側の壁沿いを進んだ。
中央を進むと先程まで過熱していた調理機器があり危険だからだ。
それでも無秩序な人混みを避けながら進むと予想以上に時間がかかる。
なにせ先程までの榎田達の様に壁際に座り込んでいる者もいるのだ。
うっかりすると衝突してしまう。
『目が慣れてきた。ステージに誰か倒れている?』
榎田はステージに飛び乗り、ステージの上手よりに倒れている人影に駆け寄る。
「大丈夫か!!豊田?」
返事はない。
水島が近くにしゃがみ込んでいた。
倒れていた人影を抱き起こすと……。
豊田だ。
榎田の手が触れた頭部からぬるりとした感触。
『血!!』
「大丈夫?」
大葉も駆けつける。
「暗くなった後、豊田が物音がするって言って歩き出して、その後で人が倒れる音がして、目が慣れてきて近づいたら豊田が倒れてた……」
水島がポツポツと話す。
今までの事件から最悪の事態を想像して声が震える。
榎田は呼吸音を確認。
『大丈夫だ胸が上下している』
「息はある。ただ出血がある。止血したいハンカチか何かあるか?」
「これ使って綺麗だから」
水島がハンカチを手渡す。
榎田は患部にハンカチを当てるがハンカチが赤く染まっていく。
「仕方がない」
榎田は着ていたTシャツを破りハンカチの上から頭の周囲を廻しきつく結ぶ。
荒っぽいが直接圧迫止血になっているはずだ。
「機械が壊れたら運が悪かったと思ってくれ」
豊田の身体を抱え上げた。
頭を少しでも高く上げるためカラオケの機械を背もたれにする。
「後は電気がつかないと」
3人は暗闇の中で豊田を見守る事しか出来なかった。
一時の後、体育館の照明が点灯した。
「分電盤やっと見つけたぞ。ブレーカー落ちだ。玄関ホールにあった」
佐々木の大声が体育館の入口の方から聞こえる。
榎田達は急に点灯した明かりに眩惑し目を細める。
豊田の負傷は後頭部の出血と転倒した時の打撲だけのようだ。
意識が無いのは心配だが生命に別状は無い。
だがいち早く医療機関での診察を受けさせたいのは変わらない。
安心した大葉はステージに影が落ちている事に気がついた。
影をたどる。
「!!」
声にならない悲鳴。
大葉は天井を指差す。
視線の先にあったのは吊りバトンからロープで吊るされた仁瓶亜希子だった。
ステージ断面図
「早く降ろしてくれ。あと負傷者がいる。応援を」
榎田は仁瓶を指差してマイクで音響調整室へ指示を出した。
「分かりました」
宮本が慌ててスイッチを操作してバトンを降ろす。
バトンが降りてくるほんの二、三秒が長く感じた。
慌てて駆けつけた佐々木と木下がようやく降りてきた仁瓶を抱えロープを外す。
「まだ暖かい、心臓マッサージを」
「私がやります」
佐々木の一声に遅れてステージの上手側から現れた羽田が答える。
「あとは豊田だな、島内には医療機関は無いから、とりあえず医務室に運ぶ。患部を冷やすくらいしかできんが」
佐々木の言葉に柔道部員達が長机を畳んで担架替わりに持って来た。
「すまんが頼む。医務室の鍵は俺が持って行く」
佐々木は部員達に指示を出し、鍵を置いてある事務室に走る。
施設職員が出勤しない以上、施設の合鍵は事務室から持ってくるしかない。
羽田は着ているジャージの袖で顔を拭いながら心臓マッサージを続けている。
榎田は『俺も』と言いかけて手が血まみれのうえ上半身が裸なのに気がついた。
『冷静にならなければ、出来ることをしよう』
親友が狙われた事に動揺を隠せない。
「先輩ここは頼みます。服を着てきます」
榎田は木下にステージを託して、まずは手を洗うために手洗いに入る。
手洗いは榎田達が通過してきた体育館の西側にあった。
蛇口を目一杯にひねり手を洗う。
ひんやりとした水が榎田を冷やす。
『何故仁瓶と豊田なんだ』
綺麗になった手で水をすくい顔を洗う。
熱くなっていた脳内が冷却されるようだ。
「よしっ」
最後に顔に水を叩きつける。
『タオルが無かった』
少し冷静になった榎田が顔に付いた水を拭って手洗いを出る。
「はいタオル。全くハンカチくらい持ち歩きなさいよ」
手洗いの出口で大葉が待ち構えていた。
「ありがとう。ちょうど良かった、話がある。ちょっといいか」
榎田が大葉に近づく。
「まず服を着なさい服を、この筋肉だるま」
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