神北高校事件ファイル0 名探偵はまだいない

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名司会

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懇親会プログラム

1 開会の言葉 豊田
2 主催者の挨拶 両教諭
3    ビデオレター 両校校長
4 乾杯 豊田
5 会食・歓談
6 余興 両部長挨拶 カラオケ
7 会食・歓談
8    中締め・謝辞  佐々木教諭
9 閉会の言葉      羽田教諭

懇親会の開催される時間となり、ステージには豊田一人が上がった。
 色鮮やかなスポットライトに照らされている。
「懇親会の司会進行の豊田です。始めてお目にかかる方も多いので、簡単に自己紹介しますね。神北高校の柔道部一年生で得意技は受身で~す。私の仕事は、ひたすら気持ちよく投げられることです。私と試合すれば華麗な前回り受け身で上手くなったと勘違いできます。そこの腐女子の方、受けで気持ちよくなると勘違いしてません。妄想が飛び出てます。ちなみに助手を募集中です。私に会食・歓談の時間になりましたら声をかけて下さい。誰からも声がかからない時は私から声を掛けます。拒否は認めません。後は歌や芸に自信がある方はまだまだ募集中です我こそはという方は私か音響調整室でステージ操作している宮本までお願いします。
それでは『神北高校、道草東高校懇親会』の開催に伴い両校の教諭からの挨拶をお願いします」 
 豊田の口からするすると挨拶文が飛び出す。
 榎田だと二行目位で噛んで、五行目で諦める。
 プログラム自体は両校の顧問が事前に作成していた。
 大学時代の友人なのは間違いないようだ。
 佐々木も厳ついので老けて見られることが多いが本来生徒達から見れはお兄さん位の年齢だ。
 大学まで柔道をしており普通に部員達より強い。
 畳の上では悪魔だが他の場所では天使というか適当だとの評価だ。
 雰囲気は体育教師だが実は数学教師だったりする。
 羽田は長身の多いバスケ部の中に混じると小さくて逆に目立ってしまう。
 生徒達からは茜ちゃん呼びが定着しており顧問と言うよりはマスコットのようだ。
 バスケットの経験も無く試合の時は荷物番と漫画SLAM DUNKで覚えた『ディーフェンス、ディーフェンス』でごまかしていた。
 担当教科は化学。
 正直なところこの2人が今回の事件で一番疲弊しており、学校に戻れば何らかの責任を取らされるだろう。
 だが今の二人はそんな様子を微塵も感じさせなかった。 
 豊田のコールで出番だぞと両教諭が呼び出される。
「まずは神北高校柔道部顧問佐々木研二」
 下手側の花道を通り佐々木がアントニオ猪木のテーマでステージ上に登場する。
 普段は厳格な佐々木だが豊田の軽妙な司会に当てられたのだろう、柔道の技を披露してガッツポーズをしている。 
「続いては道草東高校バスケット部顧問羽田茜」
 上手側の花道からは羽田が当時流行りのバーバリーチェックのミニスカートにタイトな黒色Tシャツ、ニーハイブーツとギャルファッションに身を包んでいた。
 しかもウィッグだろうか金髪のロングヘアだ。
「おぉー!!」
 体育館に歓声が上がる。
 羽田はステージに上がると助走をつけてダンクシュートのモノマネ。
 打ち合わせができているのだろう、豊田と佐々木が大きな布を広げて羽田のスカートの中が見えない様にガードしていた。
 生徒達からはブーイングと拍手が入り混じり体育館は不思議な雰囲気になる。 
 豊田に促された両教諭はそろって挨拶を始める。
「懇親会に先立ちまして、ご来場の皆様にお願いが2点ございます。まず1点目、法律違反禁止、2点目、性行為禁止、以上」
 先生達の身も蓋もない挨拶で懇親会は開始された。
「両校の校長先生からのビデオレターです」
 体育館の照明が落とされる。
 両校の校長からのビデオレターがプロジェクターから映し出される。
 ビデオレターを二つ同時に投写しているので見づらく聞きづらい。
 雑に時間短縮しているのが見え見えだ。
 スクリーン裏のスピーカーからためになる話が聞こえてくるが、合唱状態で当然のように誰も聞いていない。
 ビデオレターが終わり照明が点灯する。
 ステージ中央には再び豊田が立っている。
「両校の校長先生方からの話の後で恐縮ですが乾杯の音頭を取らせていだだきます。オイ、そこの二人本当に校長先生の話聞いとったか?油断しとたら当てるぞ」 
 不意に榎田の方向を指差す。
 驚いた榎田だったがもちろん校長先生の話は聞いていなかった。
「まあえぇわ、皆さんグラス持って」
 なぜかエセ関西弁の豊田が一呼吸置いて。
「夏の大会も終わり新体制のスタートした両校のさらなる発展と融和を祈念して乾杯!」 
 体育館は拍手に包まれた。
 生徒達は最初に猛烈な勢いで肉に食らいついている。
 朝の冷たい食事と昼の炭水化物だけの食事だった生徒達にはタンパク質と脂質の誘惑には抗えなかった。
 更に食欲を誘う醤油系のタレの香り、焦げる脂、白米から立ち上る白い湯気が五感を刺激する。
「色気より食い気か、健全だな」 
 ステージから降りてきた豊田独り言を言った。
 最も彼の左手にはカルビが乗っている皿が右手には箸とドリンクの食い意地モードなのだが。
「お疲れさん。もう立派にサラリーマンが務まるぞ」
 木下が榎田を労う、隣には寺井が寄り添っている。
「あら、煩い二人はどこ行きました?」 
 豊田は辺りを伺うが榎田も大葉も見当たらない。  
「二人で連れ立ってどっか行ったぞ。」 
「く~。一人は俺だけですか?余興で榎田に一発芸頼もうと思ってたのに」 
 豊田はネタに困った時は裸になりカップ麺の容器を局部にあてて
   『カッ◯ヌード・ル』  
 モップを頭と局部にあてて
   『マ◯ン・プロスト』
 などのネタを持っているのだが今回の場では披露出来ない。
 下手すると捕まる。
 当時はまだまだパワハラ社会全開で勢いのある人物が好まれていたのだ。
 際どい一発芸なら誰でもできた。 
「何なら俺やるぞ」
 まさかの木下が立候補した。
「助かります先輩、順番になったらマイクで呼びます」 
 豊田は頭を下げた。
「宮本ちゃんと毛利ちゃんの所に飯持っていかないといけないし、忙し過ぎ。先輩、二人が戻って来たらだいたい舞台袖にいるからって伝えて下さい」
 豊田は時計を見ながら肉をかきこむ。
 木下は「わかった」と答えるが寺井と食事中で上の空だ。
 豊田はグループEのスペースを離れ再び人混みの中に消えた。
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