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豪雨の中で

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「うちの生徒がすいませんでした」
 榎田が目を覚ますとそこは医務室だった。
 謝罪しているのは道草東高校女子バスケ部顧問の羽田茜。
 羽田の横で無理やり頭を下げさせられているのが大葉霞、一年生にしてポイントガードの準レギュラーだ。 
 背は低いが俊敏なドリブルとスティール中心としたディフェンスを武器にコートを縦横無尽に駆け巡る。
「気にせんでいいですよ。柔道部員がおとされる『気絶させられる』方が恥ずかしい。ただ今後プールでは遠慮願いたいな、死にかねんので」
 佐々木が勝手に大葉を許す。
 実際プールで意識を失った榎田を救い出し医務室に運び出すのに屈強な柔道部員4人が必要だった。
「ごめんなさい」
 佐々木の話を聞き反省した大葉が謝罪する。
 上目遣いの大きな目が可愛らしい。
 で当の本人である榎田は、
「何のこと?」
 全く覚えてないのであった。 
 佐々木がまだ見て指示する。
「雨が降り出した。嵐になるかもしれん。先生達は明日の準備をしているから元気になったら皆の所に戻れ」
 榎田が意識を取り戻した事で安心した顧問二人は三人に指示をして医務室を立ち去る。
「えっと自己紹介でもする?」
 豊田が口を開く、水着姿の男女三人が医務室に集う絵柄はかなりシュールだ。
「俺は榎田大樹、神北高校の1年だ、何で俺ここにいるんだ?」
 榎田が疑問を口にする。
「俺は豊田だ、榎田と同じく一年。榎田への説明は自分でするかい?」 
 豊田が自己紹介をして話を大葉に振る。
「えっと私は大葉霞でやっぱり一年。はぁ仕方ないから自分で説明するね。」
 ビシッと榎田を指差す。
「一言で言うとあんたが私を中学生扱いしたから私がキレて絞め落としたの」
「凄えな、今まで落とされたことなかったのに」
 榎田は突きつけられた大葉の手を掴んで感心している。 
 「クシュン」
 揃ってくしゃみをした。
「提案、続きはメシの時にしないか。いい加減着替えないと寒い」
 豊田が提案する。
 大葉は自分がまだ水着のままだったことに気がついた。
 若干の羞恥を覚えて、そそくさと医務室を立ち去った。
「まあ、お近づきにはなれたんじゃねえの、物理的には」 
 豊田が榎田をからかう。 
 黒雲の広がった空から大粒の雨が降りだした。
「まずい、本降りだ。水着のまま着替え持って走ろうその方が被害が少ない」
 残る二人も豪雨の中慌てて医務室を退散した。


          ◇

 
 豪雨によって屋外プールが使用禁止となった。
 生徒達は午後のスケジュールが空白となり温水プールに入る者、トレーニングルームで筋トレする者、体育館でバレーボールやバスケットボールをする者等、各々の時間を過ごしていた。
 その場は必然的に、他校との交流の名目で異性との交流の場となっていたのである。
 出遅れた榎田、豊田と木下は必然的に同じく出遅れていた大葉を見つけると声をかけた。
「大葉さんを柔道部にスカウトに来ました。一緒に日本武道館を目指しませんか?」
「あんた達ね」
 大葉は大きなため息をつく。
「戻って来たら皆が皆、出会いを求めて発情期に入ってるし、その上、声かけて来る男はあんた達だけとか絶望的だわ」
「そんな事言わんのよ。霞ちゃんは隠れて盗んでいくスタイルだからね。えっと、2年の京極遥香です。私はシューティングガードだから狙ったらはずさないよ」
 スラリとした長身、バスケ部には珍しい長髪の少女が手を降っている。
「霞、あんたを待ってて遅くなったんだからこっちの意見も聞きなさい。1年の水島美夏です。ちなみに控えだけどパワーフォワードだよ。3人共205号室で、あと一人同室に木田ちゃんがいるけど体調不良で部屋に戻ってるよ」
 水島は京極ほどは身長は無いが、筋肉の上に程よく脂肪の乗ったグラマラスな体型だ。
 3人共プールの後なので半袖の体操服にハーフパンツだ。
「みんな自己紹介とかして大丈夫?こいつらゴリラだよ食べられるよ」
 大葉がこいつら扱いしているがゴリラは草食メインの雑食だ、ゴリラに失礼である。
「一番凶暴なコレにゴリラ扱いされたんだが」
 榎田が言い返す。
 ゴリラは凶暴ではないぞ。
「コレとは何だまた絞め落とすぞ」
 と大葉が飛びかかろうとしたところで、豊田と木下に両肩を抱えられ引き剥がされる。
「榎田が失礼した。ここは堪えてくれ」
 木下がなだめる。 
 豊田は小声で大葉にささやく。 
「そんな、つんけんするなよ。どうも台風がコースを変えて直撃コースらしい、明日も大雨で練習が出来ずに自由時間が増える可能性が大だ」
「うん、それで?もう暴れ無いから離してよ」
 豊田と木下は手を離す。
 豊田は声のボリュームをあげ女生徒3人に演説する。
「つまりだ、周りを見てみろ。皆、明日の事を計画してるぞ、持って来たゲームで遊ぶグループ、図書室で即席勉強会をするグループ、体育館でバレーボールをするグループ」
 豊田の畳み掛ける会話に大葉が息を飲む。
「出遅れた俺達が今から他のグループに合流出来ると思うか?いや出来ない。」
 他の面々も豊田の話術に引き込まれる。
「それで一緒に明日の計画を立てようと言う訳だ。今日泳ぎ足りないなら温水プールで泳いでもいいし、調理室を借りてお菓子造りもいいだろう楽しく青春をエンジョイしようではないか。それとも体育館の隅っこで声がかかるのをひたすら待つ人生で良いのか?」
 ここで木下が機転を利かせて発言する。
「今何するか思いつかなくても、とりあえず連絡先を交換しておいたらどうだ。電波はギリギリたけど」
 90年代、当時は携帯電話とPHSが混在していたが対応エリアも万全では無く、島嶼部では通信エリア外の所も多かった。
「確かにね、面白い人達だし連絡先交換しとこうか?」
 京極は2年生だけあり大人の対応が出来る。
「うぅ」
 大葉は唸っていたが、反対意見を出すわけではなく皆で連絡先の交換をしてその場は解散したのだった。

    
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