神北高校事件ファイル0 名探偵はまだいない

ずんずん

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勝負のための勝負

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「始めるぞ」 
 部内対抗戦は階級の軽い順に試合が始まった。
 道場の外周で榎田と豊田はコソコソと作戦会議を行っていた。
「よりにもよって木下先輩とはな」
 榎田はチラチラと木下を見ながら小声で話す。
「まあ簡単に勝てたら俺たちレギュラーだ。だが一つ有利な点はある」
 豊田が持ちかける。
「なんだ?」
「木下先輩はこないだの大会に出場して消耗している。今日も動きが悪いと思わないか?」
「確かに身体が重そうだし打込みも手を抜いているように見えた」
「つまり榎田のゴキブリ並みの生命力とスタミナで引っ掻き回す」
「お前、もうちょっとマシな例えばないのかよ」
「特に下半身中心に負担をかければ」
「コンディションの悪い木下先輩にスキが出来るかもか、キツイがやるしか無いな」
「むしろ俺の方がキツイ。百地先輩は隙がないんだ。俺も何回も転がされた」
 豊田がお手上げだとこぼす。
「あ、百地先輩たぶん釣り手、だから右手を怪我してるぞ」
「気が付かなかった。本当か?」 
「だから多分と言ってるだろ。ただ打ち込みで体落としをしていなかったし、何となく釣り上げが弱く感じた」
「なるほど。榎田ならどうやって勝つ」 
「俺ならリーチの差を活かして引手を取る。それで相手の釣り手をひたすら切るか力で潰す」
「それで、百地先輩に密着してパワーファイトを挑む」
 作戦が決まった二人はグータッチした。 
「ちなみにな榎田、午後は道草東もプールらしいぞ、午後の勝負のために勝負に勝つぞ」
 榎田は何も言わず壁に向かってイメージトレーニングをしだした。
 二人のモチベーションは非常に高い。

 
         ◇ 


「ありがとうございました」
 試合が終わり、榎田は最後の力を振り絞って礼をする。
 フラフラしながら赤畳まで下がった所で力尽き項を垂れる。
 首筋から多量の汗が滴り落ちる。
 のっしのっしと大股の足音が近づいた。
「俺に勝ったんだからもっと喜べよ」
 木下が榎田の前でしゃがみ込む。
 榎田は作戦の通り4分間木下の足を攻め続けた。
 榎田は木下のスタミナ切れが見えた終了間際に木下の右足にしがみつき不格好な谷落で有効を取り判定勝ちしたのだ。
「木下先輩強すぎです。もうヘロヘロで動けません」
「勝った奴のセリフかよ俺の方がへばってる。お前の燃費、プリウスかよ」 
 二人は笑いあった。
「走って帰るぞ。シャワー浴びたらメシだ。出発の遅い奴は道場の拭き掃除な」
 佐々木の指示に、二人は、 
「鬼か」 
 と、重い体を動かすのだった。
 ちなみに豊田はパワーで百地の釣り手を押し潰し密着からの櫓投げで一本勝ちし、既に宿舎に早々と撤収していた。
「早っお前ら……」
 結局、豊田、木下の両名は道場の拭き掃除をすることになった。
「今から謝っておくぞ」
「なんですか?」 
「同室になっただろ、聴いているかも知れんが俺はいびきが酷いらしくてな、他の2年から同室を断られた。うるさかったら起こしていいぞ、宿舎では先輩だからって遠慮するなよ」
「分かりました、仲良くしましょう。部屋広いし大丈夫でしょいびきくらい」
「極力端で寝るからいびきが煩くて眠れなかったら絞め落としてくれ」
「流石に後が大変なんで耳栓しますよ」
「しかし、うらやましいなあプール」
「そこは必死だったんで、譲りませんよ」
「そんな事は言わん。負け犬は素直に練習するぞ。ただ……」
「ただなんですか?」
「良くお前と一緒にいる豊田はモテるだろ」
 木下の言葉に榎田は『はは~ん』と木下を見る。
 人格者と聞く木下もやはり一人の若者だ、もっというと男だ。
「ただな、豊田と一緒に道草東の女バスと仲良くなったら次遊ぶ時には俺も誘えよ」
 恥ずかしそうに木下が懇願する。
「木下先輩、試合後の下半身のコンディションは万全ですね」
「鍛えているからな」
 ギリギリアウトな猥談を交えて二人は友情を育み道場を跡にしたのだった。
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