神北高校事件ファイル 水攻めの密室

ずんずん

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呑気な事情聴取

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 捜査メモのため個人情報については秘匿

 神北高校における男子生徒殺人被疑事件
 
 死亡推定日時 
        4月23日午後03時頃から
        4月23日午後10時頃まで
    (発見時死後硬直有り)

 発見日時  
  4月23日午前07時45分

 発見場所 
  神北高校第二体育館北西側地面
 
 被害者  
  神北高校2年 T・M 
    身長約180センチ がっちり型 
    制服上下 
     学校指定の革靴 足長26.5センチ 
 発見者  
     神北高校3年 M・T
 発見状況 
  軽音部の部室に授業道具を忘れて取りに行く際に被害者がうつ伏せに倒れて 
 いる状況を発見。
  その後教員を通じて119番通報
 被害状況
  後頭部を丸みを帯びた鈍器で殴打
    ほぼ即死の状態との医師所見 
  発見場所から北側通用門までの足跡被害者と足長一致     
 交友関係 
  交際相手 K・S目立ったトラブル無し      
  クラスメイト Y・K及びS・Wから借金あり       
 所持金品 
  現金約5,000円在中の財布
        学生証所持 携帯電話所持無し


  参照図面 1  神北高校平面図
 


  参照図面 2       部室棟立面図
 


 豊田達が第二体育館の回り廊下に差し掛かる腰壁のスリットには立入禁止の規制テープが張られていた。
 腰壁の高さは地面からは1.3メートル以上あるだろうか、廊下側からのコンクリート廊下からでも1メートル以上はある。
 菊池は
『昨日人が倒れていても見えなかっただろうな』
 と感じた。 
 部室西側地面には鑑識活動が終わったのか、ブルーシートが敷かれていた。 
 ぬかるんだ地面には2センチから3センチ位の深さで足跡が残されている。
 足跡の周囲は白い円で印がつけられ数字やアルファベットでナンバリングされていた。
 足跡は公園と墓地のある北側通用口まで点々と繋がっている。 
 歴史部の部室内では豊田が頬杖をついて部長席に座った。
 菊池も傍らの椅子にすわる。
 先程までの余裕は二人にはない。
 生徒の死のこともあるが、これからの事情聴取が気が重い原因だ。 
 暫くの沈黙の後、グラウンド側の部室ドアからノックの音が響く。
 豊田が返事をすると、顧問の井原に案内され刑事であろう2人が入室する。
 豊田も部長席で応対するのはあんまりだと思ったのか、部室中央部の折りたたみの長机を示して、
「どうぞ」
 と、着席を促して豊田と菊池も座る。
「ショックだとは思うが協力して下さい」
 中年の刑事が部室の外に向かって手を合わせた後、2人に向かって言った。 
 刑事ドラマの様なスーツ姿ではなく作業着に近い格好である。
 白髪交じりのいかにもベテランといった風貌だ。
「富福北警察署の榎田と言います。こちらは高橋」
 ポケットから警察手帳を取り出して見せる。 
 高橋も一礼して警察手帳を見せた。高橋は細身で長身、短く刈った黒髪は若々しさを感じる。
 高橋は警察手帳をしまい胸ポケットからメモ帳を取り出す。
「私は2年で部長の豊田、そちらは同じく2年の菊池です。わざわざ手帳をしまって手帳を出すんですね」
 豊田は、ほほ笑みながら口を開く。
「昔は本当に手帳だったんだがね、今はアメリカで言うバッチケースになってしまってメモもとれないんだ。高橋なんて昔の手帳を見たこともないよ」
 榎田も少し表情を緩める。 
 続けて伊原に視線をやりながら続ける。
「それでだ。昨日部室にいた時間とその時間に何か気が付いた事が無いか教えて欲しい。例えば言い争うような声が聞こえたとかね」
「それって疑われているって事ですか?」
 菊池が質問する。
「いや、君たちと被害者との間に交友関係があった様子はない。もちろん動機もないだろう。あくまで近くの事件に対する聞き込みの一環と思ってくれ。正直なところ昨日雨が降っていたせいで第二体育館の利用者が多くてね、聞き込み対象が50人以上はいそうなんだ全員を犯人あつかいなんてとてもじゃないが出来ないよ」
 今度は高橋が説明する。
 榎田が余計なことは話すなといった感じで高橋を見る。
「そういう事でしたら分かりました。私は五時限目が終わってすぐ部室に来たので15時45分位には部室に来ました。菊池君は伊原先生のところに行ってから来たので16時10分ごろだったと記憶しています。帰ったのは雨が降り出した時なので……」
 豊田は携帯電話の画面を確認して
「16時45分に家に電話しているので50分には部室を出ています」
「気が付いた事について何ですが……」
 豊田は立ち上がり西側の窓をコツリと叩く。
「ここのガラスが強化ガラスのせいで外の音がほとんど聞こえないんですよ」
 と、首をすくめる。
「帰る直前に外を見たけど何も……。もし人が倒れていても壁で見えないですし」 
 菊池も口を開く。
 廊下の腰壁で地面は死角になっており、腰壁のスリットは部室と部室の間にあるため部室の窓からは地面を見ることはできない。
「なるほど、ご協力ありがとうございました。高橋、窓からの見通し写真とっといて」
 榎田は軽く会釈する。
 高橋は窓からの写真を撮った後でガラスの厚みを確認していた。
「伊原先生」
 急に豊田に声をかけられた伊原はビクッと振り返った。
「休校になってしまったので、隣の部屋に置いてある過去の部報を持って帰ってもいいですか?来月号の資料に使いたいので」
 続け豊田が問うと
「ん、ああいいぞ。あっ警察の方も問題ないですよね」
 伊原が榎田に確認する。
「先に隣の部屋の写真を撮ってもいいですか?すぐ終わるので先生立ち合いで」
 と榎田と高橋が伊原を連れて隣の部屋に向かった。
 少しの後、伊原が戻ってきて、
「もう良いってよ。先生は次の軽音部の事情聴取の付き添いに行くからすぐ帰れよ」 
 と、慌ただしく告げて立ち去った。
「じゃあ行きましょっか」
 二人は隣の部室のドアを押す。
 歴史部の隣室はもともとは囲碁部だった。
 部員の減少で囲碁部が廃部となり空き室となったため現在でも畳敷きである。 
 囲碁部時代も部員が杜撰だったのだろうか、おそらくはグラウンドや体育館での忘れ物であろう複数のバットや野球の硬球にバレーボール更にはダンベル、ボウリングの球まで部屋の中にあった。
 部室は体育館側の出入口とグラウンド側の出入口があり倉庫としては使いにくい。
 結果、室内は常に散らかってしまう。 
「前より物が増えてるね」
 豊田は上履きを脱ぎ座敷に上がり、振り向いて上靴を揃える。 
 屋内には誰が持ち込んたのかテレビにゲーム機、雀卓やパチンコ台まで置かれているこれは流石にアウトだろう。
「これを返して」
 キャッチボールに使用していたボールとグラブを返却した。
 普段ならどうと言うことも無いないが今日は警察が来ているので横領を疑われても困る。
 甲子園でも使われるミズノの公式球にハタケヤマのグラブだ。
 元の値段はかなりのものだ。
「あったあった」  
 豊田らスチールラックから過去の神北春秋を集めたファイルを手に取ると、  
「衛、グループNILEでいつもの平家に明日12時集合を流して」
 と指示を出した。  
 菊池は
『また急に、人の都合もあるのに』
 と思いながらNILEしたところ、部員達も事件のことが気になっていたのだろう直ぐに個性的なOKのスタンプが携帯電話のディスプレイに返されてきたのだった。 
 

   
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