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第20話 惚気話も大概にしろ

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……ここが魔界か。

ふと目をやると、見覚えのある人物が知らない魔族と刺し違えて倒れているのが目に入った。
ハコネだ。どうやら、魔王の発言に嘘は無いらしいな。

「こんな所へ来てどうするつもりだ?まさか、真犯人が魔族だとでも言うのか?」

……ちゃんと魔王もついて来たみたいだな。
俺は利き手に魔力を込めて転移門を殴り、霧散させた。
せっかくここまで来たのに、真実がバレた途端再転移して王都を襲われてはたまらんからな。

「いや、そうではない。そもそも契約魔法を無効化させたのは俺で合っている。ただ王都で戦闘を始められては困るのでな、場所を移動させてもらった」

「やはりお前が真犯人ではないか。まるで俺に非があるかのようなその言動、万死に値する!」

……いやいや、魔王さんよ。
お前には推定無罪という概念は無いのか。
こういう奴がいると司法が機能しなくなるから、是非ともここで始末しておかなければならないな。

「とは言え、ここはここでお前の大事な人の墓場なのだろう。戦う場所を変えたいなら、この大陸内なら自由に移動してからで構わんぞ」

「フン、何を抜かすか。ここでお前を断罪する様子を愛するハコネに見届けてもらうわ!」

「そこまで一方的な戦いになる自信があるのか」

「俺は魔王だ。魔王とは即ち、魔族の中で最強と認められ魔神の加護を賜った存在のこと。魔神の庇護下において、お前の敗北は確定している!」

……その話が事実なら、寧ろ俺の負けはあり得ないな。
少なくとも、俺が知る魔神は飼い犬に手を噛まれるくらいで死ぬような愚か者ではない。
そして、魔神本人の見立てでは俺は魔神より強い。

必然的に、「俺>魔神>魔王」という連立不等式が成立する。

思えば、俺は魔王の妃たちを格上だと思い込み、必要以上の力を使って無駄に殺してしまってきた。
魔王相手に油断すると危険ではあるだろうが、緊張感を保って手加減すれば形勢逆転はさせずに済むはずだ。
できれば、俺を殺すのを諦めさせる方針でいきたいものだな。死ぬまで抵抗するようならやむを得ないだろうが。

「始めるぞ。──アースクエイク」

闘いは魔王の先制攻撃で始まった。
地面が激しく揺れ、真下に巨大な地割れが起こる。
結界で足場を作って落下を回避した直後のこと。とんでもない勢いで地割れが閉じた。

……これ、あれか。
地割れに敵をはめ込んで両側から圧殺するタイプの魔法だな。
まあ仕組みがバレれば避けるのは簡単そうだな。

「小癪な手を使いおって。だが次は避けても無駄だぞ。──クリエイトカルデラ」

直後、あらゆる場所から自分に向かって溶岩や火砕流などが飛来した。
うん、確かに強い。少なくとも、毒などの副次的効果を除けば単純威力は青酸撃シアニドストライクの比ではないな。

だが、それだけだ。
はっきり言って、ミーハー客どもが模擬戦でお構い無しに撃ってきたハイボルテージペネトレイトの方が威力は若干上だった。

液体は結界で防ぎつつ、大きな岩石は方天画戟を奮って粉砕していく。

この分なら、穏便な解決に向かわせるのはさして難しくなさそうだな。

そう考えた時、俺はふと忘れていた疑問を思い出した。

「なあ魔王、お前以前『万全の体制を整える』とか言ってたよな。それは整ってるのか?」

こう聞くと、魔王は攻撃の手を休めることなくこう返してきた。
「皮肉なものだがな。それは整っている。あれだけの日数があれば、のには十分だからな」

……何を言っているんだこいつは?

「アタミはお前の妻だろう?何故お前が青酸で苦しんでいるんだ」

「アタミが妻だ。あいつは、四六時中青酸を放出するのを止めることはできない。あいつにとって青酸を出すのは呼吸や代謝と同義だからな。俺が添い寝をしてやっているとどうしても青酸を吸い込んでしまうのだ」

ここで、魔王の攻撃が急に乱暴になった。
と言っても、冷静さに欠いた分威力は落ちているが。

「お前には分かるか! 愛する妻を抱きたくても青酸による弱体化のせいで肝心のアレが機能しない男の気持ちを! 毒の耐性を身につける志半ばで、一度として愛する者を抱けぬまま愛する者を失った男の悲しみを!」

「相思相愛なところまで行けてるだけでも十分ではないか。弱体化していたから抱けなかった? とんだ贅沢だな」

「その言い方だと、お前は告白すらできない軟弱者か何かか?」

「違うな。そもそも、俺の想い人は広大な宇宙のどこにいるのかさえ分かっていない」

「お前はまさか、破壊天使リンネル様が好きだとか言うつもりか?くだらん冗談で俺の話を誤魔化そうとするのはよすんだな」

・・・

・・・

・・・決めた。
こいつは生かしておけない。

戦闘中に惚気話を始めたのは百歩譲って許すとしよう。
だが、あまつさえ俺の純粋な想いを「くだらん冗談」などと評し、踏みにじるとは。

もともと、大義名分はこちらにあるのだ。それを慈悲で殺さず見逃そうとしていただけのこと。
もう、手加減はお終いだ。



「ハイボルテージペネトレイト」
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