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閑話 魔族と人間、その敵対する理由やいかに
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遠い遠い昔、歴史上に初めて「魔王」という存在ができた頃。
人類と魔族は共に支えあい、仲良く暮らしていた。
その状況は魔王が代替わりしても変わることなく、ずっと続いていた。
中にはクーデターを起こして魔王に成り代わるような乱暴者だって存在したが、そんなのは人類の王家だって同じこと。内政が荒れはすれど、種族間の対立を引き起こすようなものでは決してなかった。
庶民に対してフレンドリーな魔王も多く、一度は可憐な少女の外見をした魔王が握手会を開いたことさえあった。
その頃には、人類と魔族が対立するなど到底考えられるものではなかった。
状況が一変したのは、先代魔王カルイザワの時代だ。
カルイザワはこれまでの魔王とは比べ物にならないくらいの強大な魔力の持ち主で、その強さは過去の魔王全員が一斉にかかってきても人差し指1本で掃討できるほどの物だった。
誰にも止めることのできない、圧倒的すぎる独裁者の誕生。それは世界を震え上がらせた。
カルイザワは暴君だったのか?
いや、決してそんなことはなかった。
究極の武力で無理やり民を従わせ、生死ギリギリを彷徨わせるほどの重税を課す……なんてことは無く、むしろ政治の面においては穏便で、為政者としては聖人君子そのものだった。
ただ、彼が使ったとある魔法が問題だったのだ。
それは、大陸全域避暑地化の魔法だ。
この魔法のおかげで、この世界は夏になっても22℃くらいの気温に保たれることになる。
初めは多くの人々がカルイザワに感謝した。
「なんて過ごしやすい夏なんだ」と。
・・・しかし、夏がずっと涼しいことには、必ずしもメリットばかりがあるわけではない。
そう、冷夏の影響で農作物が不作になるのだ。
もともと完全に肉食の魔族にとってはほぼ問題にならなかったものの、この事態は人類にとっては死活問題だった。
涼しい夏をもたらす魔王カルイザワを手放しに讃える魔族と、飢饉で不満が募る人類。
その溝は年を重ねるごとに深まっていき、魔王の代替わりの頃にはもはや修復不可能なものと化してしまったのだ。
☆ ☆ ☆
寿命が尽きるまで続くと思われた、カルイザワの台頭。
それはしかし、互角の戦闘力を持つ高位魔族の出現により崩壊の瀬戸際に立たされる事となる。
その日、カルイザワは執務室でいつものように政務をこなしていた。
「お茶を持って参りました」
コンコン、というノックの後、侍女が姿を現した。
侍女はいつものように持ってきたお茶を机の上に置こうとしたのだが――
「――極夜の入道雲」
カルイザワは侍女を特殊氷結魔法で凍らせた後、これまた特殊魔法のペンション投擲で粉々に砕いた。
「……やはり、マントルグか」
侍女と思われた人物は、実は刺客だったのだ。
「……プレート=テクト=ニクスの差し金か。マントルグを上手いこと人間に擬態させていたようだが、その程度で余を騙せると思うなよ。温度変化に関しては随一の才を持つこのカルイザワが、生物の体温を逸脱した奴に気づけぬ訳があるまい」
先ほどからカルイザワが口にしているマントルグというのは、惑星の内部にあるマントルから作られた流体仮生命体のことだ。マントル(mantle)と生命体(organism)をくっつけた造語ということで、マントルグと呼ばれている。
全身が完全に液体のため何にでも擬態することができる上に、斬撃を受けても一瞬で再変形して元の姿に戻ることができ、加えて高速変形による刺突は生物の反射神経を遥かに上回るというそのスペックは、正に反則的と形容する他ない。
だが先ほどのカルイザワの一撃からも分かるように「極低温にはめっぽう弱い」という弱点が一応存在する。
そして今回のようなケースで一番致命的となるのは、マントルグは仮生命付与でしか誕生する事が無く、その魔法を使えるのが高位魔族・プレート=テクト=ニクスただ一人であるという点だ。
これはつまり、犯人の特定が非常に容易いという事を意味する。
「……チッ。やはり気づかれたか」
執務室のドアを蹴破り、カルイザワの目の前に姿を現した男。この男こそが、たった今刺客を放ったプレート=テクト=ニクスだ。
「余に挑むつもりか。」
「御託はいいからさっさと始めっぞ」
こうして、魔王カルイザワと高位魔族プレート=テクト=ニクスの、命を賭した壮絶な戦いの火蓋は切られた。
カルイザワは縦横無尽に魔法で召喚したペンションを投げつけ、それに対抗してプレート=テクト=ニクスも無数の断層を作ってカルイザワ挟み潰そうとする。
プレート=テクト=ニクスの愛人であるハコネとユフインも共闘しに来てはいるものの、あまりの攻防の速さに戦況を見通すことが出来ず加勢し損ねていた。
永遠に拮抗するかと思われた勝負は、しかし数時間の攻防の後、カルイザワに軍配が上がり始めた。
両者が満身創痍になると、ようやくハコネ・ユフインも加勢できるようになった。
しかし桁違いの実力者同士の喧嘩への介入は想像以上に消耗が激しいもの。彼女たちは戦況を覆す事もままならず、すぐに疲弊してしまった。
カルイザワがプレート=テクト=ニクスの四肢を全て骨折させ、漸くとどめを刺そうとしたまさにその時。
「――青酸撃」
突如やってきた謎の毒撃で、魔王カルイザワは息絶えた。
何が起きたのか分からず、頭が真っ白になったプレート=テクト=ニクスの視線の先。そこにいたのは、プレート=テクト=ニクスに一目惚れし、会える機会を虎視眈々と狙っていたアタミだった。
☆ ☆ ☆
カルイザワを倒し、新魔王となったプレート=テクト=ニクスがまず最初にやったこと。
それは、修復不可能な対立が生じてしまった人類と魔族の住む場所を物理的に完全に引き離すことだった。
地殻変動魔法はプレート=テクト=ニクスの十八番。100年と経たず、元は一つだった大陸は完全に分離されて離れ離れとなった。
それぞれの大陸で、人類は憎き魔族への復讐心から、魔族は人類という復讐を試みる危険因子の排除のためにお互いを絶滅させるための準備を続けた。
魔族の大陸を指す「魔界」という単語が使われ始めたのもこの頃になってからだ。
人類と魔族は共に支えあい、仲良く暮らしていた。
その状況は魔王が代替わりしても変わることなく、ずっと続いていた。
中にはクーデターを起こして魔王に成り代わるような乱暴者だって存在したが、そんなのは人類の王家だって同じこと。内政が荒れはすれど、種族間の対立を引き起こすようなものでは決してなかった。
庶民に対してフレンドリーな魔王も多く、一度は可憐な少女の外見をした魔王が握手会を開いたことさえあった。
その頃には、人類と魔族が対立するなど到底考えられるものではなかった。
状況が一変したのは、先代魔王カルイザワの時代だ。
カルイザワはこれまでの魔王とは比べ物にならないくらいの強大な魔力の持ち主で、その強さは過去の魔王全員が一斉にかかってきても人差し指1本で掃討できるほどの物だった。
誰にも止めることのできない、圧倒的すぎる独裁者の誕生。それは世界を震え上がらせた。
カルイザワは暴君だったのか?
いや、決してそんなことはなかった。
究極の武力で無理やり民を従わせ、生死ギリギリを彷徨わせるほどの重税を課す……なんてことは無く、むしろ政治の面においては穏便で、為政者としては聖人君子そのものだった。
ただ、彼が使ったとある魔法が問題だったのだ。
それは、大陸全域避暑地化の魔法だ。
この魔法のおかげで、この世界は夏になっても22℃くらいの気温に保たれることになる。
初めは多くの人々がカルイザワに感謝した。
「なんて過ごしやすい夏なんだ」と。
・・・しかし、夏がずっと涼しいことには、必ずしもメリットばかりがあるわけではない。
そう、冷夏の影響で農作物が不作になるのだ。
もともと完全に肉食の魔族にとってはほぼ問題にならなかったものの、この事態は人類にとっては死活問題だった。
涼しい夏をもたらす魔王カルイザワを手放しに讃える魔族と、飢饉で不満が募る人類。
その溝は年を重ねるごとに深まっていき、魔王の代替わりの頃にはもはや修復不可能なものと化してしまったのだ。
☆ ☆ ☆
寿命が尽きるまで続くと思われた、カルイザワの台頭。
それはしかし、互角の戦闘力を持つ高位魔族の出現により崩壊の瀬戸際に立たされる事となる。
その日、カルイザワは執務室でいつものように政務をこなしていた。
「お茶を持って参りました」
コンコン、というノックの後、侍女が姿を現した。
侍女はいつものように持ってきたお茶を机の上に置こうとしたのだが――
「――極夜の入道雲」
カルイザワは侍女を特殊氷結魔法で凍らせた後、これまた特殊魔法のペンション投擲で粉々に砕いた。
「……やはり、マントルグか」
侍女と思われた人物は、実は刺客だったのだ。
「……プレート=テクト=ニクスの差し金か。マントルグを上手いこと人間に擬態させていたようだが、その程度で余を騙せると思うなよ。温度変化に関しては随一の才を持つこのカルイザワが、生物の体温を逸脱した奴に気づけぬ訳があるまい」
先ほどからカルイザワが口にしているマントルグというのは、惑星の内部にあるマントルから作られた流体仮生命体のことだ。マントル(mantle)と生命体(organism)をくっつけた造語ということで、マントルグと呼ばれている。
全身が完全に液体のため何にでも擬態することができる上に、斬撃を受けても一瞬で再変形して元の姿に戻ることができ、加えて高速変形による刺突は生物の反射神経を遥かに上回るというそのスペックは、正に反則的と形容する他ない。
だが先ほどのカルイザワの一撃からも分かるように「極低温にはめっぽう弱い」という弱点が一応存在する。
そして今回のようなケースで一番致命的となるのは、マントルグは仮生命付与でしか誕生する事が無く、その魔法を使えるのが高位魔族・プレート=テクト=ニクスただ一人であるという点だ。
これはつまり、犯人の特定が非常に容易いという事を意味する。
「……チッ。やはり気づかれたか」
執務室のドアを蹴破り、カルイザワの目の前に姿を現した男。この男こそが、たった今刺客を放ったプレート=テクト=ニクスだ。
「余に挑むつもりか。」
「御託はいいからさっさと始めっぞ」
こうして、魔王カルイザワと高位魔族プレート=テクト=ニクスの、命を賭した壮絶な戦いの火蓋は切られた。
カルイザワは縦横無尽に魔法で召喚したペンションを投げつけ、それに対抗してプレート=テクト=ニクスも無数の断層を作ってカルイザワ挟み潰そうとする。
プレート=テクト=ニクスの愛人であるハコネとユフインも共闘しに来てはいるものの、あまりの攻防の速さに戦況を見通すことが出来ず加勢し損ねていた。
永遠に拮抗するかと思われた勝負は、しかし数時間の攻防の後、カルイザワに軍配が上がり始めた。
両者が満身創痍になると、ようやくハコネ・ユフインも加勢できるようになった。
しかし桁違いの実力者同士の喧嘩への介入は想像以上に消耗が激しいもの。彼女たちは戦況を覆す事もままならず、すぐに疲弊してしまった。
カルイザワがプレート=テクト=ニクスの四肢を全て骨折させ、漸くとどめを刺そうとしたまさにその時。
「――青酸撃」
突如やってきた謎の毒撃で、魔王カルイザワは息絶えた。
何が起きたのか分からず、頭が真っ白になったプレート=テクト=ニクスの視線の先。そこにいたのは、プレート=テクト=ニクスに一目惚れし、会える機会を虎視眈々と狙っていたアタミだった。
☆ ☆ ☆
カルイザワを倒し、新魔王となったプレート=テクト=ニクスがまず最初にやったこと。
それは、修復不可能な対立が生じてしまった人類と魔族の住む場所を物理的に完全に引き離すことだった。
地殻変動魔法はプレート=テクト=ニクスの十八番。100年と経たず、元は一つだった大陸は完全に分離されて離れ離れとなった。
それぞれの大陸で、人類は憎き魔族への復讐心から、魔族は人類という復讐を試みる危険因子の排除のためにお互いを絶滅させるための準備を続けた。
魔族の大陸を指す「魔界」という単語が使われ始めたのもこの頃になってからだ。
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