無才印の大聖女 〜聖印が歪だからと無能判定されたけど、実は規格外の実力者〜

Josse.T

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第19話 SIDE:騎士団長ととある宮廷魔術師

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 騎士学院対抗試合当日。
 観覧席の目立たないところで……二人の男が、立ち話をしていた。

「タミフル、まさかお前にここで会うとはな。騎士学院の対抗戦だぞ? 一体お前が何を見学しに来たんだ」

 そう話す男は……騎士団長ホーセン。
「未来の部下は自分で見極める」がモットーの彼は、毎年対抗試合を見に来ているのだ。

 そして……彼が話しかけているタミフルという男は、雷魔法の才能を買われ、飛び級で魔術学院を卒業した将来有望な宮廷魔術師。
 その才能は、次期魔法師団長候補とまで称されるほどだ。
 であると同時に……

「実は……妹のリレンザが、この試合に救護係として出ると手紙をよこしましてね。ちょっと、遠目からその様子でも見守ろうと思ったのですよ」

 ……リレンザの兄でもある男だった。

「なーるほど、そりゃ妹思いなこった。……って、お前の妹、確かまだ一年だったのでは?」

「今年の教会附属聖女養成学園では、何やら新しい教育が始まったらしくてですね。……その成果の測定も兼ね、一年生も数人出場することになったそうですよ」

「はえー」

 などと二人が話していると……最初の試合が始まった。
 そして……最初の試合と、その後の第二試合も決着がつくと。

「おい、次に治癒にあたるの、お前の妹さんなんじゃないか?」

「そうみたいですね」

 リレンザが、負けた方の選手の治癒を始めた。

「あの選手、足の腱をバッサリやられてたようでしたが……完治したみたいですね。……ホーセンさん、あれって凄いんですか?」

「ああ、凄いよ。少なくとも、学園生のレベルはとうに超えてる。……毎年見に来るわけではないお前には、基準がわからんかもしれんがな」

「そうですか。それは安心しました」

 ホーセンの発言により、リレンザの実力が一級品だと分かったタミフルは……安堵の表情を見せた。


 その後も、試合は順調に進んでいき……ホーセンは選手の戦闘の様子を、タミフルはリレンザの治癒を見守り続けた。
 そして、例の最終試合。
 第二学院の選手の首が飛んだ後、一人の聖女が駆け出したのを見て……二人の表情が、一瞬固まった。

「な、何をしに行くつもりなんだあの子は……!?」

「分かりませんが……対抗試合で死者が出るって、普通の状況じゃないですよね? もう一人の選手も、冷静さを失っているみたいですし……これ、かなり危険な状況なんじゃ?」

 二人が息を呑む中、その聖女は首が飛んだ選手の首と胴体をくっつける。
 回復魔法がかけられた後、その選手が動きだすと……二人とも、目を見開いた。

「そ……そんな馬鹿な! 死者蘇生だと!?」

「そ、そういえば……リレンザから貰った手紙には、『凄い同級生がいる』的なことは書かれていましたが……。自然の摂理に反するレベルだとは、流石に聞いていませんよ!?」

 しかし、二人の驚愕は……一瞬の後に、焦りに変わることとなった。
 もう一人の選手の方が、その聖女に斬りかかったからだ。

「「危ない!」」

 その様子に、二人の声が重なる。
 だが……その直後。
 二人は、更にあり得ないものを目撃することとなった。

 その聖女は……目にも留まらぬ速さで選手の後ろに回ったかと思うと、手刀一撃でその選手を気絶させてしまったのだ。

「な……何という速さ! 決勝戦の代表選手が一撃だと!? というか儂にも動きが見えんかったが……あれで聖女って……」

 あまりの想定外の事態に、言葉を失うホーセン。
 かと思えば……。

「わ、分かってくれタミフル! あれは後輩が軟弱なのではなく、あの聖女の強さがおかしいのだ!」

 ホーセンは、手刀一撃で沈められた第一学院の選手を庇うような発言をしだした。
 だが……その言葉は、タミフルには届かなかった。
 彼は彼で……宮廷魔術師の観点から、別のことに驚いていたからだ。

「自身に雷魔法を流して反射神経強化って……なんて無茶な!」

 彼の眼には、その刹那で使われた雷魔法が、バッチリと映っていた。
 そして彼は、この場でただ一人、底知れぬ恐怖を感じ取っていた。
 ……自身では何十年かけても絶対に到達できないであろう、圧倒的な彼我の実力の差に。

「やはり……タミフルから見ても異常なのかあれ?」

「ハッキリ言って、魔法制御力が尋常じゃなく高いです。普通、雷魔法は反射神経の強化に使えるほど繊細なものではありません。仮に俺があんなことをしようものなら……一瞬で中枢神経に漏電、感電死するか良くても重度の後遺症が残るでしょう」

「なるほどな。……そして仮に制御を誤っても、聖女故にダメージをものともしないということか」

「そうですね。おそらく、技の開発中には、幾度となく感電で重傷を負ったはずです。それでも尚、技を完成させるまでめげない姿勢……実力だけでなく精神面でも、私なんかじゃ足元にも及びませんね」

 二人とも……あまりの衝撃に、既に当初の目標を忘れてしまっていた。

 そして……そんな中、彼女が騎士学院の教師と話し終わると。

「な……収納魔法!? あれって伝説上の存在じゃ……」

「雷魔法で……インクの粒子を制御した!? 俺……宮廷魔術師としての自信、失くしそうです」

「心配するな。あの聖女の実力がおかしいだけで、お前が一番優秀な宮廷・・魔術師なのは変わらんよ……」

「今サラッと宮廷を強調しましたよね。……悪い意味で」

 静電印刷魔法インクジェットの魔法まで見た彼らは……この試合、見に来るべきじゃ無かったんじゃないのかと考えだすようになっていた。
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