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第三十三話 降臨ボスとの戦い——1

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「っぶねー間に合った!」

 安堵の息をつきながら……俺は降臨ボスの攻撃を防ぐべく、パーフェクトアイギスを展開する。

 ギリギリになってしまったが、どうにか被害が出る前に到着することはできた。
 降臨ボスが肉眼で見えるようになってきたあたりで、真・マナ譲渡による自己魔力補充となっちさんによるバフは済んでいるので、万全の状態で迎え撃つことができる。

 防いだら、真・マナボールでの攻撃に転じるぞ。
 早く撃ってこい。

 そう思った瞬間……降臨ボスは、どす黒い魔力球をこちらに向けて発射してきた。
 そして、パーフェクトアイギスと衝突する。

 が……そこで、思わぬことが起きた。
 なんとどす黒い魔力球は俺たちの想定を遥かに超える威力だったようで、パーフェクトアイギスが一瞬で破られてしまったのだ。

 バフがかかったV4のパーフェクトアイギスだぞ……?
 それをガラスでも割るかのようにって……おいおい。

 流石に焦った俺は、慌ててガトリングナックルを装着してしまった。
 ヤバい、何やってるんだ俺。
 パーフェクトアイギス、魔力消費が10しかないからこれ着けたって連射することなんて——。

 ──しかし。
 今度は、良い方に予想外の出来事が起こった。
 なんと……パーフェクトアイギスの連射に成功したのだ。

 おかげで、降臨ボスが放った魔力球は40枚くらいのパーフェクトアイギスで完全に押し殺すことができた。
 助かった。

 しかし……なんで行けたんだろ。
 しばらく考えたのち、俺はこのスキル取得の過程に思い至った。

 そういえば、パーフェクトアイギスってもともと消費MP750の魔法だったな。
 もしかして、その関係でガトリングナックル的には「俺の最大MPが75000を超えるまでは連射できる」みたいな判定になっているのだろうか?

 だとしたらほんと、怪我の功名だな。
 でもこれが可能ってことは、まだまだ防御に余力があるってことの証拠でもある。
 これでだいぶ安心して戦えるぞ。

「パーフェクトアイギスが……あんな枚数!? ウッソだろ……」

 などと思っていると……おそらく現地で戦っていたであろう人が、目を白黒させながらそう呟いた。
 ちなみに俺は話すのはからっきしだが、リスニングに関してはそこそこできるので言ってる内容は分かる。

「あ、ライザーさん久しぶりです」

 そしてなっちさんは、その人(ライザーという名前らしい)に挨拶をした。
 知り合いってことは、この人もVIP探索者か。
 まあ、そうでもなければこの状況でここにいないだろうが。

「な、なんなんだあの逸材は!?」

「古谷さんっていう、先日VIP探索者になったばかりの者です。ダンジョン内なら無限に魔力を使えたり、なんでもかんでも手に入れたスキルをV5にしたりとなかなか常軌を逸した人材ですね……」

「とんでもない奴だな……でもとにかく、今の状況でそれは非常にありがたい」

 悠長に俺の解説をしてる場合かよ。
 まあ、バフ以外できることがないから暇ってのは分からなくはないが。

 なんにせよ、とにかく攻撃に転じないとな。
 俺はガトリングナックルを外し、MPを7700込めた真・マナボールを撃ってみた。
 ちなみになぜ7700かというと、残りMPが8300ちょいになってたのと、自己マナ譲渡の種銭とパーフェクトアイギス一秒分の魔力を残すのが理由だ。

 真・マナボールが敵にぶつかると、カシャアァァン、と盛大に音が響いた。
 このクラスの敵となると、当然のように無属性攻撃無効を持ってるな。
 ま、却って弱点になってくれてるから全然いいのだが。

 しかしそれでも……当たったところにできたのは軽い擦り傷程度のもので、そこまで有効なダメージにはなっていないようだった。

「マナボールでインスタントケラウノスと同等の威力が……あれがV5の力?」

「マナボールに関しては真・マナボールまで強化してるそうですよ」

「なんと……V5より上があるのか……」

 感心してる場合か。マナボール一発で傷しかつかないんだぞ。
 俺的には結構ピンチな気がするんだが。

 1.12の41乗は104なので、俺は魔力を1%残した場合、ガトリングナックルでマナ譲渡を1秒行うことでMPを全回復できる。
 つまり、全力の真・マナボールを撃てる頻度はせいぜい1秒に1回だ。

 それで擦り傷って、いつまで経っても終わる気がしないんだが。
 やるしかないけどな。

 一分くらい、集中的に同じ個所を狙って攻撃する。
 すると……ダメージの累積により、ようやくその箇所に亀裂ができて中の筋肉が見えるようになった。
 だが……あまりにも遅いことに変わりはない。

「しかし……あの者を以てしてもあの様子か」

「冷静に考えると、まだ勝てるかどうか結構怪しいのかも……」

 流石に二人も、心配になってきたようだ。


 ──と、次の瞬間。
 降臨ボスの目が赤く光り始めた。

 なんかの予兆か?
 いつでもパーフェクトアイギスを張れるよう構える。
 すると……降臨ボスは、目からビームを飛ばしてきた。

 すかさずガトリングナックルパーフェクトアイギスの多重張りで応戦する。
 しかし、今度は威力を完全に止めるのに380枚もの結界を消費してしまった。

 さっきのブレスより全然威力たけーじゃねえかよ。
 もしかして、これでもまだ切り札あったりして?

 だとしたら、パーフェクトアイギスを800枚張っても足りないかもしれないぞ。
 最悪俺は生き残りがあるからパーフェクトアイギスで防ぎきれなくても死にはしないが、何か高威力の攻撃が着弾したらこの街は終わりだろう。
 というかなっちさんがもし死んでしまったらだいぶ不利な状況に立たされる。
 早いうちに打開策を見つけないとヤバそうだ。

「……なんて威力だよ」

「ちょっと今のは心臓に悪い……」

 流石に今のを以て、なっちさんやライザーたちの間にも暗い空気が漂い始めた。
 それでも今までの攻撃方法を続けるより他ないのだろうが。


 ──と、その時だった。

「……あ、待ってください」

 ふいに……なっちさんが、何かを思いついたようだ。

「ライザーさん、『分身』のスキルスクロールとか持ってたりしません?」

 そしてライザーにそんなことを聞いていた。

「いや……持ってないな。お前らは?」
「いや、俺も」
「昨日持ってたんっすけど……使わないので、スクロール屋に売っちゃいました」

 ライザーは質問を受け、周囲の人々(おそらく彼らもVIP探索者だろう)に聞いて周る。

「それですよ! どの店舗ですか!?」

 なっちさんは、分身のスクロールを売ったという者に食いついた。

「お、おう……交差点の向かいのあそこ……」

「ちょっと買いに行ってきます!」

 そして、一直線に当該スクロール屋へと走っていく。

 いったいどういうことだろう。
 不思議に思ったが……直後、俺はなっちさんが何を考えているのか察しがついた。

 もしや……俺の分身をダンジョン内に置けばワンチャン無限の魔力が、とかそういう話か?



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