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第十一話 不利属性の敵? マナボールの進化に使わせてもらおう

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 次の日。
 俺は二限の講義を聞き終えると、早速電車に乗ってダンジョンに向かった。

 今日俺は、6階層の魔物を中心に狩っていくつもりだ。
 というのも……俺は6階層の魔物について、一つ面白い情報を耳にしたからな。


 昨日の魔石売却の後、俺はついでに工藤さんに聞いてみたのだが……6階層の魔物は、ちょっとクセのある魔物なのだそうだ。
 その魔物は「天使モスエル」という、頭上に輪っかのついた巨大な蛾なのだが……なんでも、闇属性攻撃で特大ダメージを与えられる代わりに、闇属性以外の攻撃を殆ど受け付けないのだとか。

 どの程度の話なのかというと、闇属性魔法持ちにとっては5階層の魔物以下の雑魚なのに対し、闇属性魔法を持っていなければ10階層の魔物以上に倒しにくいのだそうだ。
 特性抜きの魔物の強さは6階層と7階層でほぼ変わらないこともあって、闇属性魔法を習得していない者は、6階層を素通りして7階層攻略に行くのが常識になっているのだとか。

 そんな6階層だが……俺はそこを、真面目に攻略していくつもりである。


 理由は一つ。
 奥の階層に進む前に、マナボールを極めきっておきたいからだ。

 今までの傾向から言うと……マナボールの進化に関わってくる要素は、魔法の使用回数と頻度のみ。
 そして、無属性のマナボールが効きにくいということは……一体の魔物相手を倒しきるまでに、集中砲火できるマナボールの数が多いことを意味する。

 つまり……天使モスエルは、その特性ゆえに「マナボールを進化させるのに最適な魔物」と言えるわけだ。

 最近では、5階層の魔物だってマナボール4発で倒せてしまうからな。
 そんな数しか撃たず、次の魔物を探すようでは……最低条件でマナボールを進化させるのは、なかなかしんどいというものだろう。

 そんな中、通常より遥かに多くマナボールを連射しないと倒せない相手がいるというなら……倒しにいかない選択肢は無いだろう。

 ガトリングナックルが手に入ったおかげで、連射速度も約10倍になったので……言うて苦戦はしないだろうし。

「階層完全探知」

 ダンジョンに着くと、早速俺はスキルで地図を開き、6階層に直行した。


 ◇

 6階層に着き、魔物を表す赤い▼が出ている場所に赴くと……確かに俺は、頭上に輪っかをつけた巨大な蛾の魔物を発見できた。

 ……こいつが「天使モスエル」か。
 俺はガトリングナックルを装着した両手を向けると、マナボールV3を連射し始めた。

「うわ、めっちゃ速い……」

 次々と発射されるマナボールV3を見て……俺は思わずそう呟いた。
 マナ「ボール」というか……あまりにも連射が速すぎて、球と球が繋がってビームになってるようにすら見えるぞ。
 アイテムの名前通り、まさに機関銃そのものだ。

 そして、放たれた球はと言えば……標的がデカいことと、動きがウルフ系の魔物に比べればゆったりしていることもあって、今のところ全弾命中している。
 だが……それでも天使モスエルは、少しよろめきはするものの、大きな傷を負う様子は無いな。

 と、思ったのも束の間……5秒くらいが経過すると。
 モスエルは突如木っ端微塵になり……魔石をドロップさせてしまった。

「……あれ?」

 あまりにもあっけなさ過ぎて……自然とそんな言葉が口をついて出る。

 他属性の攻撃を全然受け付けないという割には……速攻で倒してしまえたな。
 なんか拍子抜けだ。


 ……いや、冷静に考えてみるんだ。
 5秒連射したってことは……天使モスエルに命中したマナボールの数は、約200発。
 5階層の魔物が4発で死ぬことを思えば、実に50倍のダメージを与えたことになる。

 たった一階層の違いで、敵の強さが50倍になるというのは、あまり現実的ではないだろう。
 とすると……これくらいで倒せるのは、特性込みで考えてようやく妥当ということか。

 他属性を受け付けないとはいっても、言うてこんなものか。
 倒せるのは良いことではあるんだが……マナボールをV4に進化させれるかは、少し不安になるな。

 そう結論をまとめたところで、俺は魔石を拾ってレジ袋に入れた。
 そして、次の天使モスエルを探すべく、「階層完全探知」に映る最短距離にいる標的を探しだした。


 ◇


 事が進展したのは、それから更に5体の天使モスエルを討伐した時だった。

<スキル:「マナボールV3」が「マナボールV4」に進化しました>

 心配は杞憂に終わり……マナボールは無事、進化を遂げたのである。

 ……早かったな。
 いや、ガトリングナックルと天使モスエルを以てしても6体かかったあたり、必要連鎖数はV2からV3の時より格段に増えてはいるのだが。

 とりあえず俺は、マナボールV4の効果を確認してみた。

 ─────────────────────────────────
 ●マナボールV4
 マナボールの進化版。
 MP1あたりのダメージ量がマナボールの2.5倍(マナボールV3の約1.4倍)になっている。
 40階層までの魔物の無属性攻撃無効を貫通する。
【進化条件】マナボールV3を1000~100000回使う(何回で進化するかは使用頻度次第)
 ─────────────────────────────────

 変更点は……ダメージ量の増加と、無属性攻撃無効貫通ができる階層数の上昇か。
 順当な上位互換って感じだな。

 これでますます、天使モスエル一体を倒すにあたって必要な連射数は減ってしまうわけだが……まあそれは、良いとしよう。
 とりあえず今日いっぱいくらいは、この階層に留まって、(あるのかは知らないが)V5への進化ができそうか頑張ってみるとしよう。

「階層完全探知」

 などと思いつつ、俺は次の標的を探すため階層完全探知を発動した。
 だが、その時……俺は一つ、違和感に気づいた。


 地図上に一か所、黄色い▼が表示されているのだ。


「何だこれ……?」

 魔物は通常、マップ上では赤い▼で表示されている。
 となると……これは、魔物以外の何かなのだろうか。

 ちょっと気になるな。
 俺は一旦、そこへ向かってみることにした。


 ◇


 行ってみると……そこにあったのは、宝箱だった。
 それも、三方全て俺の身長を超えるくらいの、巨大な宝箱だ。

 ただ、その宝箱の前には……既に一人、別の探索者がいた。
 ……先客か。となると、中身ゲットはできなさそうだな。

 まあ、こういうのがあるって知れただけでも、有用な情報が手に入ったから良しとするか。
 そう思い、俺はその場を立ち去ろうとした。

 だが……そう思ったのも束の間。
 先客と思わしき人は……なぜか宝箱を開けずに、スルーしていこうとした。

 ……あれ、先客じゃないのか。
 じゃあ俺が開けちゃっていいのか?

「あの……宝箱の中身、俺が取っちゃっていいんですか?」

 まあ念のため、一応俺はその人に声をかけてから、宝箱を開けることにした。
 ——しかし。
 その人から帰ってきたのは……こんな答えだった。

「開けても良いことないぞ? ソイツはイジワルミミックという魔物だ。倒せば良いことがあるって噂は聞いたこともあるが……倒された前例なんて存在しないし、スルーするに限るぜ」
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