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第5話 何かの間違いだよな
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「えーと……ツ、ツ、ツ、ツ……あ、あった。……ル、ル、ル……」
肩をガチガチにいからせてキーボードに向かい、右手の人差し指をピンと伸ばしてキーボードの上を彷徨わせる。
事務所には、俺しかいない。前に目撃したルール違反の業者の一件で、タナトさんは幽界のおエラいさんのところに行っていた。シャチョーも裏トリで忙しいようで、事務所にはいないことが多い。
その隙に『敦見知佳』のことを調べようと思ったんだけどなぁ。起動させるだけで一苦労、入力となるとボタンがいっぱいあって訳がわかんねぇ。
「ミ、ミ……くそっ、ミはどこだー?」
「カメ? 何してるんだ?」
「うおっ!」
いつの間にか扉が開いていて、タナトさんが立っていた。
信じられない物を見たような顔をして、窺うようにゆっくりと俺のところに歩いてくる。
「リストの人物を調べてるのかい? 自分で?」
「えーと……」
必要なときはいつも
「タナトさん、よろしくっス!」
って拝んでたからなあ。そんな俺が自分で機械を動かそうとしてりゃ、そりゃおかしいよなあ。
「えーと……タナトさん、もうすぐアガリでいなくなるし、俺も使えねぇとマズいかなって」
「ふうん……まぁ、そうだね」
タナトさんがガラガラと隣の椅子を引っ張ってきて俺の隣に座る。
「でもさすがに、一から調べ直していたら大変だよ。ほら、僕の作ったリストを出して……」
「ここにあるっスよ」
机の左側に置いていた紙を指差す。
「いや、出すってのはファイルを画面に出すってことで。アイコンをクリックして、人物名をドラッグして……」
「アイコをクリクリして薬漬け? 何かヤバくないっすか?」
「…………うーん、どこから説明すればいいかなー」
* * *
タナトさんは結局、機械の起動の仕方から使い方まで、みっちりと教えてくれた。覚えられてはいねぇけど。
俺としては『敦見知佳』が調べれられれば使い方なんてどーでもよかったんだけど、「使えるようになりたい」と言った手前、逃げられなかった。
タナトさんがくれたリストに載っていた写真の『敦見知佳』は、目を閉じていて鼻からも口からもチューブみたいなのが出てて、よくわからなかった。
あの、俺が会った『チカ』なんだろうか。あんなに元気そうだったのに?
このあとこんな風になっちまうのか?
『遷延性意識障害。2月10日、低酸素脳症による多臓器不全で死亡』
追加で分かったことは、これだけ。経歴なども調べられるらしいが、それはシャチョーだけが知っているパスワードが無いと駄目らしい。
漢字だらけでよくわかんねぇけど、タナトさんが
「遷延性意識障害は……俗にいう植物状態ってやつだね」
と教えてくれた。
「植物状態?」
「ずっと寝たきりで、自分で動くことも食べることもトイレをすることもできない状態ってこと」
「ええっ!?」
「意識もないことが多いらしい。交通事故で頭を打ったり、心筋梗塞で脳に血液が行かなくなって起こったりするみたいだけど。でも……十六歳と若いから、心筋梗塞はないかな」
じゃあ、やっぱり違うのか。それともこれから交通事故に遭うとか……?
俺が会った『チカ』が『敦見知佳』とは限らない。
だけど居ても立ってもいられず、椅子から立ち上がる。邪魔くさいのでガガッと蹴り飛ばし、その辺に投げてあったスカジャンを手に取った。
「カメ、その子を助けようとしても無駄だぞ」
「!」
タナトさんの声に振り返る。想像以上に険しい表情をしている。
「僕たちができることは、死んだ人間の魂を導くことだけ。下界の人間に関与することは絶対にできないんだ」
「でも……」
チカには、触れたし。バイクにだって、乗せれたし。
ひょっとしたら特殊な人間かもしれねぇじゃんか。
「リストに無い人間が突発的に死ぬことはあっても、リストに上がった人間が死なずに済んだ例はない。多少、日時が前後しても。……これだけは、絶対だ」
「うるせーよ!」
いつもは有難いタナトさんの忠告だけど、今日だけは聞いてられねぇ。
その場から逃げ出すように、俺は乱暴に事務所の扉を開けて外に飛び出した。
肩をガチガチにいからせてキーボードに向かい、右手の人差し指をピンと伸ばしてキーボードの上を彷徨わせる。
事務所には、俺しかいない。前に目撃したルール違反の業者の一件で、タナトさんは幽界のおエラいさんのところに行っていた。シャチョーも裏トリで忙しいようで、事務所にはいないことが多い。
その隙に『敦見知佳』のことを調べようと思ったんだけどなぁ。起動させるだけで一苦労、入力となるとボタンがいっぱいあって訳がわかんねぇ。
「ミ、ミ……くそっ、ミはどこだー?」
「カメ? 何してるんだ?」
「うおっ!」
いつの間にか扉が開いていて、タナトさんが立っていた。
信じられない物を見たような顔をして、窺うようにゆっくりと俺のところに歩いてくる。
「リストの人物を調べてるのかい? 自分で?」
「えーと……」
必要なときはいつも
「タナトさん、よろしくっス!」
って拝んでたからなあ。そんな俺が自分で機械を動かそうとしてりゃ、そりゃおかしいよなあ。
「えーと……タナトさん、もうすぐアガリでいなくなるし、俺も使えねぇとマズいかなって」
「ふうん……まぁ、そうだね」
タナトさんがガラガラと隣の椅子を引っ張ってきて俺の隣に座る。
「でもさすがに、一から調べ直していたら大変だよ。ほら、僕の作ったリストを出して……」
「ここにあるっスよ」
机の左側に置いていた紙を指差す。
「いや、出すってのはファイルを画面に出すってことで。アイコンをクリックして、人物名をドラッグして……」
「アイコをクリクリして薬漬け? 何かヤバくないっすか?」
「…………うーん、どこから説明すればいいかなー」
* * *
タナトさんは結局、機械の起動の仕方から使い方まで、みっちりと教えてくれた。覚えられてはいねぇけど。
俺としては『敦見知佳』が調べれられれば使い方なんてどーでもよかったんだけど、「使えるようになりたい」と言った手前、逃げられなかった。
タナトさんがくれたリストに載っていた写真の『敦見知佳』は、目を閉じていて鼻からも口からもチューブみたいなのが出てて、よくわからなかった。
あの、俺が会った『チカ』なんだろうか。あんなに元気そうだったのに?
このあとこんな風になっちまうのか?
『遷延性意識障害。2月10日、低酸素脳症による多臓器不全で死亡』
追加で分かったことは、これだけ。経歴なども調べられるらしいが、それはシャチョーだけが知っているパスワードが無いと駄目らしい。
漢字だらけでよくわかんねぇけど、タナトさんが
「遷延性意識障害は……俗にいう植物状態ってやつだね」
と教えてくれた。
「植物状態?」
「ずっと寝たきりで、自分で動くことも食べることもトイレをすることもできない状態ってこと」
「ええっ!?」
「意識もないことが多いらしい。交通事故で頭を打ったり、心筋梗塞で脳に血液が行かなくなって起こったりするみたいだけど。でも……十六歳と若いから、心筋梗塞はないかな」
じゃあ、やっぱり違うのか。それともこれから交通事故に遭うとか……?
俺が会った『チカ』が『敦見知佳』とは限らない。
だけど居ても立ってもいられず、椅子から立ち上がる。邪魔くさいのでガガッと蹴り飛ばし、その辺に投げてあったスカジャンを手に取った。
「カメ、その子を助けようとしても無駄だぞ」
「!」
タナトさんの声に振り返る。想像以上に険しい表情をしている。
「僕たちができることは、死んだ人間の魂を導くことだけ。下界の人間に関与することは絶対にできないんだ」
「でも……」
チカには、触れたし。バイクにだって、乗せれたし。
ひょっとしたら特殊な人間かもしれねぇじゃんか。
「リストに無い人間が突発的に死ぬことはあっても、リストに上がった人間が死なずに済んだ例はない。多少、日時が前後しても。……これだけは、絶対だ」
「うるせーよ!」
いつもは有難いタナトさんの忠告だけど、今日だけは聞いてられねぇ。
その場から逃げ出すように、俺は乱暴に事務所の扉を開けて外に飛び出した。
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