死神バイトは今日も元気にゲンコツを食らっている☆彡

加瀬優妃

文字の大きさ
上 下
4 / 12

第4話 さーて、現場のおシゴトだぜ

しおりを挟む
 チュンチュンと窓の外から鳥の鳴く声が聞こえてきた。

「えぇぇぇ……本当に何も無かった。私って魅力が無いのかなー」
『ウチとしては、そういう事は精霊を助け出してからにして欲しいんだけど』
「昨日は気合を入れて、いつもよりしっかり髪をといてみたりしたのにさ」
『おーい、リディアー。ウチの話、聞いてる? というか、聞こえてる?』
「こうなったら、クロードを絶対に……」
『リディアーっ!』
「ん? あ、おはよう、エミリー。……どうしたの? 何か疲れているみたいだけど」

 何故かエミリーがジト目でぐったりしているけれど、いそいそと朝の準備を始め、ある程度準備が整った所で、コンコンと扉がノックされた。

「リディア。起きていますか? 良ければ一緒に朝食を……」
「クロード。来るのが遅いよ」
「すみません。女性は朝に時間が掛かるものだと、姉から聞いていたので」

 違う、そうじゃないの!
 いえ、確かに朝は時間が掛かるものだし、クロードが来る時間は丁度良いんだけど……昨日! 昨日来て欲しかった!
 レオナさんも、もうちょっと大切な事を教えてあけて欲しかったよ。
 内心そんな事を思いつつ、二人で食事を済ませ、再び馬車で揺られる事に。
 昨日は本当に眠っちゃったけど、今日の私は違うんだからっ!

「……すぅー、すぅー」
『リディア。何をしているの?』
(そんなの決まっているじゃない。寝たふりよ)
『…………リディア。リディアは演劇の世界に進まなくて良かったね』
(エミリー。それはどういう意味?)
『そのままの意味なんだけど』

 目を閉じているから表情は分からないけれど、声からエミリーが呆れているのはわかる。
 変ね。完璧な演技のはずなのに。
 寝たふりをしながらクロードの肩に顔を乗せてみたり、偶然を装って指先に触れてみたりしたけれど、クロードはいつも通りの反応しかしてくれない。
 これは、もっと大胆にいかないといけないって事かしら?
 新たな作戦を練りつつ、時折現れた魔物をクロードが退治して、御者さんや乗客の方々から感謝されたりしている内に、イーサリム公国の国境へ到着した。

「はい。では、この馬車はここまでです。この先は国境を越えてから、向こうの乗合馬車へお乗り願います」

 御者さんの言葉に従い、乗客たちと共に入国時のチェックの列に並ぶ。
 ちなみに、イーサリム公国が入国チェックを始めたのは、つい最近らしく、余計に何か怪しい事をしているのではないかと、勘繰ってしまう。
 まぁ、アメーニア王国とかエスドレア王国が緩いだけで、もしかしたらイーサリム公国が普通なのかもしれないけど。

「あれ? エスドレア王国は入国時にチェックなんてしないのに、兵士さんは居るのね」
「イーサリム公国側に兵士が居るので、そのためですよ。我が国の国民が不当な扱いを受けないようにね」

 ふーん、なるほどねー。
 ちゃんと国民を大事にするのは偉い! そう思っていると、私たちの番が来て、

「では次の者ぉぉぉっ!?」

 エスドレア王国側の兵士さんがクロードの顔を見た瞬間に狼狽え始める。
 あ! もしかして、クロードの事を知っている兵士さんなの!? というか、第二騎士隊長だし、知らない訳がないわね。
 第二騎士隊長であるクロードが鎧も身に着けずに、若い女性(私)と二人でお忍びで別の国へ……って、騒がれると困る。
 今回の旅は、私とクロードの仲を深める旅行ではなく、あくまで精霊さんたちを助ける旅であり、普通の人を装って入国しようとしているのに。

「あ、あの……こんな所で一体何を……」

 クロードが目線で、空気を察して欲しいと訴えかけているのに、兵士さんが気付かぬ様子で話し掛けてくる。
 マズい。目と鼻の先にイーサリム公国の兵士さんたちが居るのに、ここで「隊長」なんて呼ばれたら……こ、ここは私がフォローするしかないわっ!

「さ、さぁ、あなた。次は、私たちの番よ。行きましょう。せっかくの新婚旅行ですもの。のんびり、ゆっくりしたいわねー!」

 そう言って、クロードの胸に抱きつく。

「――っ!? ……お、おい。今、新婚旅行って言わなかったか? ……あの、堅物のクロード隊長が結婚なんてするか!? よく似た他人じゃないのか?」
「……でも、それにしては似過ぎですよ。鎧こそ着ていないですけど、あの腰に吊るした剣とか、様になり過ぎですよっ!」
「……あ、だけど右手と右足が同時に前へ出たりして変な歩き方だから、やっぱり違うかも。あのクールなクロード隊長なら、絶対にあんな事しないでしょうし」

 ヒソヒソと兵士さんたちの声が聞こえてくるけれど、大声で話して居る訳ではないので、イーサリム公国側の兵士さんには聞こえていないみたい。
 私の演技……の甲斐もあって、無事に国境を越える事が出来た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一人じゃないぼく達

あおい夜
キャラ文芸
ぼくの父親は黒い羽根が生えている烏天狗だ。 ぼくの父親は寂しがりやでとっても優しくてとっても美人な可愛い人?妖怪?神様?だ。 大きな山とその周辺がぼくの父親の縄張りで神様として崇められている。 父親の近くには誰も居ない。 参拝に来る人は居るが、他のモノは誰も居ない。 父親には家族の様に親しい者達も居たがある事があって、みんなを拒絶している。 ある事があって寂しがりやな父親は一人になった。 ぼくは人だったけどある事のせいで人では無くなってしまった。 ある事のせいでぼくの肉体年齢は十歳で止まってしまった。 ぼくを見る人達の目は気味の悪い化け物を見ている様にぼくを見る。 ぼくは人に拒絶されて一人ボッチだった。 ぼくがいつも通り一人で居るとその日、少し遠くの方まで散歩していた父親がぼくを見つけた。 その日、寂しがりやな父親が一人ボッチのぼくを拐っていってくれた。 ぼくはもう一人じゃない。 寂しがりやな父親にもぼくが居る。 ぼくは一人ボッチのぼくを家族にしてくれて温もりをくれた父親に恩返しする為、父親の家族みたいな者達と父親の仲を戻してあげようと思うんだ。 アヤカシ達の力や解釈はオリジナルですのでご了承下さい。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アラフォーOLとJDが出会う話。

悠生ゆう
恋愛
創作百合。  涼音はいきなり「おばさん」と呼び止められた。相手はコンビニでバイトをしてる女子大生。出会いの印象は最悪だったのだけれど、なぜだか突き放すことができなくて……。 ※若干性的なものをにおわせる感じの表現があります。 ※男性も登場します。苦手な方はご注意ください。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

error (男1:女2)声劇台本

あいすりぅ
キャラ文芸
〖 時間〗  10分程度 〖配役〗 •ウイルス:(女)年齢不詳。正体不明。14才ぐらいの幼い容姿。 •アキト:(男)16才。ヒカリの幼馴染。 •ヒカリ:(女)16才。アキトの幼馴染。 ーーーーーー 楽しく演じてくださったら嬉しいです。

後宮出入りの女商人 四神国の妃と消えた護符

washusatomi
キャラ文芸
西域の女商人白蘭は、董王朝の皇太后の護符の行方を追う。皇帝に自分の有能さを認めさせ、後宮出入りの女商人として生きていくために――。 そして奮闘する白蘭は、無骨な禁軍将軍と心を通わせるようになり……。

処理中です...