3 / 12
第3話 何でこうなった?
しおりを挟む
「俺なんかに関わるとロクなことにならないぞ。さっさと帰れ」
……とか何とか、カッコ良く言えればよかったんだけどよ。
俺がマゴマゴしているうちに、女が
「もうすぐ死ぬ人なら、病院じゃないかな?」
と言い、
「そこまで案内してあげる!」
とバイクの後ろにあっという間に跨ってしまったので、仕方なくそのまま走り出してしまった。
女の両腕が俺の腰辺りに絡みついている。
俺に触れて幽界バイクにも乗れるなんて、昨今の霊感少女はスゲーな。
もう少し話したいと言われドキリとしたが、どうやら『死神バイト』に興味があったようだ。
「死神バイトって何?」
「どうやって魂を獲るの?」
「魂を集めてどうするの?」
と、矢継ぎ早に質問された。
特に隠す必要もねぇか、と「誰にも言うなよ」と前置きをしたうえで、仕事の内容とか道具の使い方とかを話して聞かせた。
だってこの女が下界の誰かにこの話をしたところで、頭のおかしい奴扱いされるだけだ。
……それに、何となく話しても大丈夫そうな気がしたし。
ポイント制度だとか大物を獲らないといけない理由なんかを話すと、
「変なの、面白ーい!」
と大笑いしていた。
だいぶん慣れてきたようだ。切り替えが早い。あどけないというか、何というか。
……というより、もともとそうおとなしい女ではなかったらしい。俺の話に表情をくるくる変え、「なるほどー」と頷いたり「へー」と声を上げたり「大変だね」と労ってくれたりする。
「しかし全然ビビらねぇのな。お前、普段から色んなモンが見えるのか?」
「ん、まぁね……」
「大変だな。俺が生きてたときは…………あん?」
我ながらおかしなことを言った。もう記憶はサッパリ抜け落ちているというのに。
生きてたときどうしてたかなんて、話せるはずもねぇ。
「生きてたときは?」
「いや、間違いだ。なーんにも覚えてねぇからな」
「……そうなんだ。あ、そこだよ」
その声でブレーキをかけ、ギュアンッと派手な音をさせてバイクを止める。
ついっと宙を見上げ、思わずため息をついた。
「……あー、結構漂ってんなー」
コンクリート八階建ての総合病院。駐車場もやけに広いし、建物も三棟ぐらいに分かれていて、かなりでかい。
死んだ人間もたくさんいるのだろう、ふわふわと極小の魂があちこちでゆらゆらしている。
……いや待て、それにしても数が多いな? そんなに一度に死ぬか?
「列車事故があって、大半がこの病院に運び込まれたんだってー」
「はぁー」
不慮の事故か。そりゃ死んだと気づいてない人間も多いだろうなー。
俺は懐から幽界電話を取り出すと、ピッとボタンを押して事務所に繋いだ。
何回かコールしたあと、留守電に変わる。
「ちっ、留守電かよ……。おーい、タナトさーん!」
“…………どうしたんだ?”
ダメもとで怒鳴ってみると、留守電から切り替わってタナトさんの声が聞こえてきた。
ったく、最初から出てくれよ。
「何か事故があったらしくて、極小魂がいっぱいいるんスけど。獲りにくる?」
“他の死神は?”
「今んとこいないっスね。これからかも」
“……わかった。今から向かうよ”
プツン、と切られる。
ウチの事務所、ちっせぇから電話番とか受付のねーちゃんとかいねぇんだよな。
「おい、女」
「チカだよ」
「そうか。おい、チカ。今から俺のセンパイが来っから、ここまでな。ほれ、降りろ」
「えー」
「いいから早く」
「……今度は、いつ会える?」
「……」
昨今のJKは積極的だなー。
「一週間はこの辺りをウロウロしてるよ」
「……わかった」
チカはホッとしたような顔をすると、素直にバイクのケツから下りた。
「じゃあまたね!」
「……おう」
無邪気に手を振られたのでつられて振り返す。何となく後ろ姿を見送っていると、チカはタッタッタッと駆けていき、すぐの角を曲がって消えていった。
変な女だな。死神って聞いてあんなにビビッてたのに、また会いたがるなんて。
……しかし、下界の女に見られた挙句バイクにも乗せちまったなんてバレたら、怒られるかもなあ。黙ってよっと。
……とか何とか、カッコ良く言えればよかったんだけどよ。
俺がマゴマゴしているうちに、女が
「もうすぐ死ぬ人なら、病院じゃないかな?」
と言い、
「そこまで案内してあげる!」
とバイクの後ろにあっという間に跨ってしまったので、仕方なくそのまま走り出してしまった。
女の両腕が俺の腰辺りに絡みついている。
俺に触れて幽界バイクにも乗れるなんて、昨今の霊感少女はスゲーな。
もう少し話したいと言われドキリとしたが、どうやら『死神バイト』に興味があったようだ。
「死神バイトって何?」
「どうやって魂を獲るの?」
「魂を集めてどうするの?」
と、矢継ぎ早に質問された。
特に隠す必要もねぇか、と「誰にも言うなよ」と前置きをしたうえで、仕事の内容とか道具の使い方とかを話して聞かせた。
だってこの女が下界の誰かにこの話をしたところで、頭のおかしい奴扱いされるだけだ。
……それに、何となく話しても大丈夫そうな気がしたし。
ポイント制度だとか大物を獲らないといけない理由なんかを話すと、
「変なの、面白ーい!」
と大笑いしていた。
だいぶん慣れてきたようだ。切り替えが早い。あどけないというか、何というか。
……というより、もともとそうおとなしい女ではなかったらしい。俺の話に表情をくるくる変え、「なるほどー」と頷いたり「へー」と声を上げたり「大変だね」と労ってくれたりする。
「しかし全然ビビらねぇのな。お前、普段から色んなモンが見えるのか?」
「ん、まぁね……」
「大変だな。俺が生きてたときは…………あん?」
我ながらおかしなことを言った。もう記憶はサッパリ抜け落ちているというのに。
生きてたときどうしてたかなんて、話せるはずもねぇ。
「生きてたときは?」
「いや、間違いだ。なーんにも覚えてねぇからな」
「……そうなんだ。あ、そこだよ」
その声でブレーキをかけ、ギュアンッと派手な音をさせてバイクを止める。
ついっと宙を見上げ、思わずため息をついた。
「……あー、結構漂ってんなー」
コンクリート八階建ての総合病院。駐車場もやけに広いし、建物も三棟ぐらいに分かれていて、かなりでかい。
死んだ人間もたくさんいるのだろう、ふわふわと極小の魂があちこちでゆらゆらしている。
……いや待て、それにしても数が多いな? そんなに一度に死ぬか?
「列車事故があって、大半がこの病院に運び込まれたんだってー」
「はぁー」
不慮の事故か。そりゃ死んだと気づいてない人間も多いだろうなー。
俺は懐から幽界電話を取り出すと、ピッとボタンを押して事務所に繋いだ。
何回かコールしたあと、留守電に変わる。
「ちっ、留守電かよ……。おーい、タナトさーん!」
“…………どうしたんだ?”
ダメもとで怒鳴ってみると、留守電から切り替わってタナトさんの声が聞こえてきた。
ったく、最初から出てくれよ。
「何か事故があったらしくて、極小魂がいっぱいいるんスけど。獲りにくる?」
“他の死神は?”
「今んとこいないっスね。これからかも」
“……わかった。今から向かうよ”
プツン、と切られる。
ウチの事務所、ちっせぇから電話番とか受付のねーちゃんとかいねぇんだよな。
「おい、女」
「チカだよ」
「そうか。おい、チカ。今から俺のセンパイが来っから、ここまでな。ほれ、降りろ」
「えー」
「いいから早く」
「……今度は、いつ会える?」
「……」
昨今のJKは積極的だなー。
「一週間はこの辺りをウロウロしてるよ」
「……わかった」
チカはホッとしたような顔をすると、素直にバイクのケツから下りた。
「じゃあまたね!」
「……おう」
無邪気に手を振られたのでつられて振り返す。何となく後ろ姿を見送っていると、チカはタッタッタッと駆けていき、すぐの角を曲がって消えていった。
変な女だな。死神って聞いてあんなにビビッてたのに、また会いたがるなんて。
……しかし、下界の女に見られた挙句バイクにも乗せちまったなんてバレたら、怒られるかもなあ。黙ってよっと。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
一人じゃないぼく達
あおい夜
キャラ文芸
ぼくの父親は黒い羽根が生えている烏天狗だ。
ぼくの父親は寂しがりやでとっても優しくてとっても美人な可愛い人?妖怪?神様?だ。
大きな山とその周辺がぼくの父親の縄張りで神様として崇められている。
父親の近くには誰も居ない。
参拝に来る人は居るが、他のモノは誰も居ない。
父親には家族の様に親しい者達も居たがある事があって、みんなを拒絶している。
ある事があって寂しがりやな父親は一人になった。
ぼくは人だったけどある事のせいで人では無くなってしまった。
ある事のせいでぼくの肉体年齢は十歳で止まってしまった。
ぼくを見る人達の目は気味の悪い化け物を見ている様にぼくを見る。
ぼくは人に拒絶されて一人ボッチだった。
ぼくがいつも通り一人で居るとその日、少し遠くの方まで散歩していた父親がぼくを見つけた。
その日、寂しがりやな父親が一人ボッチのぼくを拐っていってくれた。
ぼくはもう一人じゃない。
寂しがりやな父親にもぼくが居る。
ぼくは一人ボッチのぼくを家族にしてくれて温もりをくれた父親に恩返しする為、父親の家族みたいな者達と父親の仲を戻してあげようと思うんだ。
アヤカシ達の力や解釈はオリジナルですのでご了承下さい。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アラフォーOLとJDが出会う話。
悠生ゆう
恋愛
創作百合。
涼音はいきなり「おばさん」と呼び止められた。相手はコンビニでバイトをしてる女子大生。出会いの印象は最悪だったのだけれど、なぜだか突き放すことができなくて……。
※若干性的なものをにおわせる感じの表現があります。
※男性も登場します。苦手な方はご注意ください。

後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜
あきゅう
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】
姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。
だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。
夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。
【完結】おいでませ!黄昏喫茶へ~ココは狭間の喫茶店~
愛早さくら
キャラ文芸
東京郊外のこじんまりとした喫茶店。そこが俺、仁科 廉佳(にしな れんげ)の勤め先だった。
ほとんど人の来ない寂れた喫茶店で、今日も俺は暇を持て余す。店内にいるのは、俺とマスターと、そして。
しがない喫茶店の店員、廉佳(れんげ)とおかしな常連、夾竹桃――通称キョウさんとのありふれていて、だけど少しおかしな日常。
今日もキョウさんはおかしな話ばかりしている。だけど、どうしてか。俺はつい、いつもその話の中に引き込まれてしまって。俺はここにいて、その話の中に登場していないはずなのに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる