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おまけ・後日談

聖女の魔獣訪問12・ガンボ

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本編ではベン(とクォン)に召喚され、登場した火の魔獣ガンボ。
偽サーペンダーに苛められ、本物のサーペンダーに追い払われたあとはどうしていたのだろう……? d( ̄▽ ̄*)
――――――――――――――――――――――――――――――――


 ワイズ王国の北部と南部の間には、ハビン砂漠という大きな砂漠がある。
 この一角に、かつて砂漠のオアシスとして栄えていた廃村があり、その中の一番大きな土壁の家が火の魔獣ガンボの棲み家だった。

 この廃村自体は特に結界も張られておらず、人は自由に行き来できる。
 ただ、この地は砂漠を踏破するルートとはかなりかけ離れた場所にある。ハビン砂漠はあちこちに蟻地獄のように渦が巻いていて、その上を通ったものを地中に引きずり込んでしまうらしい。
 そういう天然のトラップに囲まれているため、この廃村に人間が辿り着くのは不可能だそうだ。

 天井が隕石でも降って来たかのようにあちこち穴が開いている民家の一角。
 すっかりボロボロになり、脚が腐りかけた四角いベッドらしきものの上に、これまた穴だらけのボロボロの茶色い布がかけられている。
 巨大な赤い鷹、火の魔獣ガンボのお気に入りの場所らしい。その上にどっかりと腰を下ろし、尖った爪先で布をギチギチと掴んでいた。

『えっ、挨拶!? ……って、その四角いのは何や?』

 そう言ってガンボが右の翼で指したのは、私の顔。
 鼻から口にかけて、四角い布で覆われていたのだ。白い布地に赤いバッテンが描かれている。
 いわゆるバッテンマスクな訳だけど……これ、いざ自分がする羽目になるとかなり屈辱的だわ。その心的効果も見込んで私に付けさせたんだとしたら、セルフィスって本当に意地悪よね。
 それにどうしてバッテンマスクを知ってるのかしら。謎だわ……。

 とにかくこのマスクには一種の防御魔法が施されていて、私の口から発する魔精力を抑える働きがある。
 つまり、魔獣の名を呼ぶことで迂闊に魔法をかけることがないようにという、私の外出許可を出す上でセルフィスが突き付けた条件だった。

 そりゃ確かに、私が悪いんだけどね、リプレの件では!
 でもまさか、こんな間抜けなことになるなんて!

「余計なことを喋らないように、ということで」
『魔王か?』
「ええ」

 言葉の魔法がある、とガンボに知られるのはあまり良くない気がする。
 仕方なく少しズレた説明をすると、ガンボはジーッと私の顔を見たあと、
『キシャシャシャシャシャ!』
という耳障りな音を奏でた。

『ヒャハ、ヒャハハハー! ワイがするならまだしも、聖女が!?』
「……」
『おもろいのう!』

 全然面白くないわ、私にとっては!
 ガンボは私の姿をジロジロ見ながら、腹を抱えて大笑いしている。
 このキシャキシャというウルサイ声といい、態度といい、何かムカつく魔獣ね。

「ところで、色々とお話を聞きたいんだけど?」

 とにかく話題を変えよう、と切り出してみると、ガンボは
『あ、ナイ、ナイ! ワイは忙しいんや!』
と、すごく迷惑そうな顔をした。

「あら、そうなの?」
『魔王が復活したし。地上の情報を集めるのが、ワイの役目やからなぁ』

 バサバサバサッと両方の翼を羽ばたかせながらガンボがキシャキシャと喋る。
 どうやら今の仕事にやりがいを感じているらしく、どこか元気というか、明るい。

「その鮮やかな朱色の姿では目立ってしまうと思うんだけど、どうやって情報を集めているの?」
『聖女には教えなーい』
「あら、なぜ?」
『ペントを呼びやがったの、おめぇだろ』

 ガンボが笑うのをやめて、ギロリと私を睨みつける。
 ペントとはサーペンダーのこと。つまり、あの野外探索のときのことを言ってるのよね。

「そうだけど、私はあのニセモノを排除するために呼んだんだけど?」

 結果としてアンタも助かったんじゃないの、という思いを込めながら負けじと睨みつけると、ガンボは『ケッ』と声を上げ、ぶんと大きく顔を逸らした。

『サルサが化けたペントモドキなんか、ワイの敵やない』
「逃げ回ってたじゃない」
『あれは時間稼ぎをしてただけや。サルサが真似できるのは上っ面だけ。しかもあんなでかい図体、そう長い時間維持できるわけがないからなぁ!』

 要するに、サルサの変身が解けるのを待ってやっつけるつもりだったのに余計なことをしやがって、というようなことを言いたいらしい。
 確かガンボってサーペンダーにはメチャクチャビビってる、という話だったのよね。だからミーアもサーペンダーに擬態してもらうことを考えたのだろうけど。
 
「そうだったの。それはごめんなさい、差し出がましいことをしてしまって」

 スコルの魔獣ランクが正しければ、サルサの時間切れよりガンボの体力切れの方が早かったんじゃないかと思うけど。
 ここで言い張っても仕方がないし、とりあえず謝っておくわ。

『ま、まぁ分かればいいんやけど』

 その効果があったのか、ガンボがややきまり悪そうに言葉を繋ぐ。

「ガンボはやはりサルサが扮した偽物だと分かっていたのね」
『あったりまえやろー? ワイを誰やと思ってるんや?』

 ワイの覗き見ハイド・サーチをナメたらアカンでぇ、とガンボが赤い羽毛でテカテカの胸元を反らす。

『ワイはその気になれば大公のパンツの色かて見破れるんやぞぉ?』
「えっ、どうして!?」
『せやから、覗き見ハイド・サーチ

 ツンツン、と右の翼で自分の顔を指差す。

『近くまで行ってな、んー、と目を凝らすんや』
「……」

 意外に原始的な手法だったわ。透視能力みたいなものかしらね。

「近くまでって、大公宮の上空にガンボが現れたら大騒ぎじゃない」
『当然、擬態するがな! こんな感じにな!』

 くるん、とベッドの上で一回転したガンボの姿が、体長30cmぐらいの小さな鳥の姿に変わる。
 頭から背中にかけては暗い臙脂色の羽根。お腹は真っ白で、両翼は茶色。少し派手めの小さな鷹、という感じ。

「なるほど、確かにその姿なら全く気づかれないわね」
『せやろー?』

 素直に感心する私の言葉に、ガンボは少し気を良くしたらしい。コクコクと何度も頷き、ボシュン、と元の朱色の鷹、火の魔獣ガンボの姿に戻った。

『おとといも大公宮を覗いてきたんやで。あの、人の聖女とやらがどうしてるかと思うてなー』
「ミーア? どうして気になってるの?」
『サルサが何であの女にずっとついてたんか、不思議やってん』

 ガンボによると、魔の者サルサは地上で悪戯を繰り返しながら自由に渡り歩いていた。一か所に留まることは無く……当然、人間と契約を結ぶなんて考えられないことだったらしい。

『人間はおろか、魔物とも馴れ合わへん』
「そうなんだ……」
『ぜーんぜん、ワイにも靡きよらんし』
「え? ガンボはサルサが好きだったの?」
『はん! 人間の惚れた腫れたと一緒にすなや。サルサの能力は便利やし、偵察組として一緒に仕事せんか、と思うただけや』

 そしたらワイから魔王に口を利いてやったのに、とブツブツ言っている。
 いや、でも、それってサルサを気に入っていた、ということよねぇ。

『人の聖女、確かにルヴィを彷彿とさせるわ。でもサルサはルヴィなんて知らんはずやし、それが理由とも思えんくてな』
「ミーアはどうしてたの?」
『んー、何やらいーっぱいの本に囲まれて溜息をついとったでぇ』

 妃教育の一環かしらね。やぱり色々と苦労しているのかしら。

「サルサは今、どうしてるんだろう……」
『魔王に囚われてるんやろ?』
「ガンボは詳しくは知らないの? その覗き見ハイド・サーチで」
『アホ言うなや! 魔王の領域でそんなもの仕掛けたら、あっという間に塵芥ちりあくたやでぇ!』

 ブルブルブル、と体を震わせ、ガンボがキシャキシャキシャと慌てたように嘴を鳴らす。

 ……ということは、この件に関して切り込めるのは、私だけなのね。
 セルフィスがサルサをどうするつもりなのかも気になるけど、ちゃんとサルサに会って話してみたい、という気持ちが大きい。

 ミーアは、サルサを姉のようだと言っていた。ずっと自分を助けてくれてとても感謝している、と。
 せめてその言葉ぐらいは、伝えたいもの。


――――――――――――――――――――――――――――――――
≪設定メモ≫

●火の魔獣『ガンボ』(愛称:ガンボ)
 空駆ける赤い鷹。紅いツミ(小型の鷹)の姿に擬態し、人間界の偵察を行っている。古の魔王侵攻の際には魔王の斥候の役目を果たした。
 真の名は『ダリ=フォール=ツ=ガンボ』。

 古の魔王侵攻の際、調子に乗って人間の町を焼き払い食い散らかしていたため、水の魔獣サーペンダーの麻痺の霧を食らって死にかけた。それ以来、属性の相性の悪さ以上にサーペンダーを恐れている。
 朱の舌により炎の刃ファイアエッジを放つことができるが、水属性に弱い。

→ゲーム的パラメータ
 ランク:C
 イメージカラー:赤色
 有効領域:空中
 属性:火
 使用効果:炎の刃ファイアエッジ覗き見ハイド・サーチ
 元ネタ:ガルダ


●ハビン砂漠
 元々はところどこにオアシスが点在する交易場所で、山間の草原地帯には遊牧民があちこちにキャンプを張っていた。
 行商の合流地点でもあり、旅人が行き交う要所だったが、古の魔王侵攻の際に魔王の魔法により完全に無人の死の砂漠と化した。大国ワイズ王国を弱体化させるための措置と言われている。

 砂漠の渦は人間の行き来を止めるために魔王が作ったトラップで、一度引きずり込まれると中に生息しているサンドワーム(砂中を這いずり回る大型のミミズ型魔物)に食われてしまう。
 現在『踏破ルート』とされているところは元草原地帯だった場所で、サンドウォームが緑の匂いを嫌ったため砂漠の渦が殆どない。ワイズ王国のマヘンリ辺境伯により管理されている。
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