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第8幕 収監令嬢はカエルを飼いたい
第6話 新しい仲間、クォンちゃんよ
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週末になり、私はパルシアンにある黒い家に帰ってきていた。
そのバルコニーから広がる小さな庭に、森の奥からひょっこりとスコルが現れる。
『マユー、遊びに来たぞー』
「ヘレンのお菓子を食べに来たんでしょ」
『いや、マユのおっぱいを……おおっ!?』
スコルが私の胸元を見て、うげっというような顔をする。
今日は白のフリルシャツにサロペットという、ここでのいつもの姿。
少し開けた胸元には、水色カエル――クォンちゃんがへばりついていた。
『何だ、ソレ!』
「カエルのクォンちゃんだけど」
『こらー、そこのカエル! マユのおっぱいはオレのだー!』
「スコルのじゃないわよ!」
『そこを退け! しっしっ!』
スコルが歯を剥き出しにして私の胸元に向かって飛び掛かろうとしたので、右手で頭部の両耳の間をガバッと掴む。ジリジリと押し戻すと、スコルが『ンガガ』と声を上げた。
「ちょっと、乱暴はやめなさい。怯えるでしょ?」
『ズリぃー、ズリぃよぉー! カエルのくせに!』
「何にもズルくありません。ちょっと待ってて」
バルコニーのテーブルに置いていた丸い金魚鉢のような花瓶に水を張り、クォンをその中に移す。
私の水魔法で出した水の中では比較的長い時間おとなしくしてくれるので助かる。
「クォン、しばらくそこにいてね」
と言うと、『キュン』と小さく鳴いた。
なお、『クォン』という名前はアイーダ女史が付けました。飼うことになって
「さすがに名前が必要なんだけど」
と言うと
「では念のため、わたくしが名付けます」
とキリッと眼鏡の縁を上げたと思ったら、口にしたのがこの名前だった。
多分、泣き声からだと思う。離れようとすると『クォン、クォン』と切なそうに泣くのよ。涙ポロポロこぼして。
そのまんまだけど、まぁ覚えやすいしいいわよね。
それにやっぱり、ちゃんと名前を付けてよかった。
拾った当初は意思の疎通が全く取れなかったんだけど、名前を呼ぶと反応するようになったし、ぼんやりとではあるけどクォンの機嫌が分かるもの。
『変な色のカエルだな』
「そうなの。事典にも載ってなかったのよ」
『ふうん』
「自分で餌も取りに行かないしね」
草むらや水辺に昆虫を取りに行くことは無いけど、水の中に蜘蛛やミミズを入れてあげるとモグモグ食べている。貴族のカエルかお前は、とか思っちゃうんだけど。
おかげで最近はすっかり虫探しがクセになってしまった。
幸いクォンは少食らしく、一日一匹でOK。餌が無いと暴れる、というようなこともないし、大量に虫を捕まえておく必要もない。あんまり手間がかからないコだ。
『……魔界のカエルかもなあ』
「えっ!」
びっくりして並べようとしていたお皿を手から取り落としそうになる。
スコルは
『何かじぃちゃんのところで見かけた気がするんだよなぁ』
と呟き、花瓶の中を覗き込んだ。
クォンは逃げるでもなく「何ですか?」みたいな顔をしてジーッとスコルを見上げている。グワッと一瞬だけスコルが魔精力をみなぎらせたが、クォンは一瞬ビクッとしただけでそのまま水の中に鎮座していた。
『うーん、これで逃げないということは、やっぱり魔界のカエルだ。ハティに聞いた方がいいかも』
スコルが珍しく真面目にそんなことを言うので、お茶会の準備もそこそこにハティを召喚する。
花瓶を覗き込んだハティは
“あ、スクォリスティミだ”
と思念で呟いた。
「スクォリ……?」
“魔界のじぃちゃんのトコにいた、カエル”
「ハティは知り合いなの?」
“ううん。見かけただけ”
はぁ、魔界のカエル。
え、ちょっと待って。二人がじぃちゃんと言ってるのは、王獣アッシメニアのことよね?
「えーと……ひょっとして、魔物? 魔獣?」
“んー、どっちでもない。じぃちゃんの沼で、クゥクゥ鳴いてた”
『あー、アレか』
ハティの言葉に、スコルが思い出したように声を上げる。
その後、知識はあるけど言葉足らずのハティをスコルに補ってもらいつつ、二人からじっくり話を聞いた。
それによると、『スクォリスティミ』は魔王侵攻の際に魔界に紛れ込んだカエルのことで、魔界の風に吹かれ魔精力を大量に取り込んだものの歪まずに生き残った奇跡のカエル。アッシメニアのペットのような感じになっているらしい。
ひどく寂しがり屋のカエルで、泣きすぎると全身溶けてしまうという。
どうやら前にスコル達が無理矢理穴を開けた際、その『スクォリステイミ』の一匹が人間界に逃げたらしい。どこかで泣いてはいないだろうかと、じぃちゃんことアッシメニアが心配していた、とハティが説明してくれた。
「じゃあ、迷子のカエルってこと?」
『ウン』
「魔界に帰した方がいいのかしら……」
そう呟くと、花瓶の中にいたクォンがビョーンと飛び出し、ピタッと私の肩に乗ってきた。そのままいそいそと移動し、胸元にへばりつく。
「こらっ」と言って引き剥がそうとしたけど、『クォン、クォン』とポロポロ涙をこぼしていた。
「あわわわ」
泣くと溶けると聞いて慌てて手を離す。クォンは『キュン』と一声鳴くと、すりすりと私のおっぱいに頬ずりしていた。
そんな私達の様子をチラリと見ながら、スコルが不満げに鼻を鳴らしている。
『帰すならマユが自分でじぃちゃんのところに連れて行かないとな』
「む、む、無理よ!」
『だなー』
『マユの近くに、置いておけば、だいじょぶ』
「本当に? ハティ」
『ウン』
『スクォリスティミ』は魔界のカエルだけど、大量の魔精力を保有しているだけで悪さをするわけではない。水属性の魔精力に馴染みやすいだけで、魔法すら使わないのだ。
アッシメニアが心配していたのは泣いて溶けてしまっているのではないか、ということであって、こうしてマユのところで落ち着いているのなら大丈夫じゃないか、とのこと。
まぁ、クォンが私のところに来てから数日は経ってるし、何も言わないってことは暗黙の了解ってことでいいわよね。
つまり、私はアッシメニアからペットを譲り受けたことになるのか。
……あれっ、これって何か凄いことのような気がするけど。いいのかしら。
「まぁ、いいわ。クォン、人間界にいて大丈夫みたいだから、改めてよろしくね」
『キュン』
「その代わり、ちゃんと言うこと聞いてね。むやみに飛び出しちゃ駄目よ」
『キュン……』
『マユのおっぱい、最強だな!』
「言い方を考えてね、スコル」
『ハトも、好きー』
「ありがとうね、ハティ」
『なーんかタイド、違いすぎねぇ?』
* * *
その後、ヘレンがお茶とお菓子を持ってバルコニーの扉を開けたので、慌ててクォンを花瓶に戻し、遠くの床に置く。
ヘレンは幼い頃、いじめっ子にカエルを背中に入れられる悪戯をされたらしく、それ以来全くダメなんだそうだ。なので飼ってはいるもののヘレンの視界には入れないようにしている。
そしていつものように、二人と二匹の風変わりなお茶会が始まった。
「アルキス山は、あれからどう?」
『んー、ホワイトウルフは減ったな』
『ヒトも、いないー』
ムシャムシャとスコルが口元を動かしながら言い、ハティがそれに頷く。
ハティとスコルはそれぞれ昼と夜、フォンティーヌの森、およびそれに連なるアルキス山のどこかにいることが多い。ついでに変な亜種が生まれてないか、あれから密猟者がいないかなどを調べておいてほしい、とお願いしてあったのだ。
『減り過ぎて絶滅するんじゃないかと思うぐらい』
「やっぱりオール黒焦げはやり過ぎたわよねぇ……」
『あのときはマユに危害を加える可能性があったから、仕方ない』
『ウン、ウン』
「じゃあ、ホワイトウルフがいないから密猟者もいないってこと?」
『ウン。何か、調べている人間は、ちょこっと見た』
それは多分、ガンディス子爵の部隊でしょうね。身分を偽って隣のワイズ王国に潜入しているって話だし。
「本当なら、亜種を生み出す原因を作った密猟者の元締めを炙り出したいところなんだけどね」
『アルキス山はもう無理じゃねぇ?』
「そうねー」
そうなると、密猟した物を売りさばいている人間から足取りを辿った方がよさそうね。お兄様はそうしてるんでしょう、恐らく。
さすがに私がこれ以上考えてもどうしようもないかも。
『まぁ……気が向いたら、ワイズ王国側の森にも足を延ばしてみる』
「本当!? スコルったら気が利くじゃない!」
『その代わり、おっぱい揉ませて』
「……あんたって何かあったらすぐソレね」
『元気が出るんだもーん』
『ハトもー』
「……3秒なら」
『短っ! せめて1分はくれ!』
「嫌よ!」
『うー、じゃあ、30秒』
「5秒」
『……10秒!』
「……」
『えーと、7秒!』
「いいわ、それで手を打ちましょう」
『やった!』
『ワーイ!』
私たちのそんな会話を黙って聞いていたヘレンの眉間に皺が寄る。
「お願いですから、胸の形がおかしくなるような揉み方はしないでくださいね」
『任せとけ! マユのおっぱいは宝だからな!』
『ウン!』
「上から下ではなく、下から上ですよ」
『おう!』
『シタカラ、ウエ……』
ヘレン、スコル、ハティによる“マユのおっぱいを大事にし隊”の謎の会議を聞きながら、思わず溜息が漏れる。
こうして見ると、一番マトモなのは私じゃないかな、とつくづく思うわ。
こんな感じで、週末を過ごす黒い家は、今日も平和です。
そのバルコニーから広がる小さな庭に、森の奥からひょっこりとスコルが現れる。
『マユー、遊びに来たぞー』
「ヘレンのお菓子を食べに来たんでしょ」
『いや、マユのおっぱいを……おおっ!?』
スコルが私の胸元を見て、うげっというような顔をする。
今日は白のフリルシャツにサロペットという、ここでのいつもの姿。
少し開けた胸元には、水色カエル――クォンちゃんがへばりついていた。
『何だ、ソレ!』
「カエルのクォンちゃんだけど」
『こらー、そこのカエル! マユのおっぱいはオレのだー!』
「スコルのじゃないわよ!」
『そこを退け! しっしっ!』
スコルが歯を剥き出しにして私の胸元に向かって飛び掛かろうとしたので、右手で頭部の両耳の間をガバッと掴む。ジリジリと押し戻すと、スコルが『ンガガ』と声を上げた。
「ちょっと、乱暴はやめなさい。怯えるでしょ?」
『ズリぃー、ズリぃよぉー! カエルのくせに!』
「何にもズルくありません。ちょっと待ってて」
バルコニーのテーブルに置いていた丸い金魚鉢のような花瓶に水を張り、クォンをその中に移す。
私の水魔法で出した水の中では比較的長い時間おとなしくしてくれるので助かる。
「クォン、しばらくそこにいてね」
と言うと、『キュン』と小さく鳴いた。
なお、『クォン』という名前はアイーダ女史が付けました。飼うことになって
「さすがに名前が必要なんだけど」
と言うと
「では念のため、わたくしが名付けます」
とキリッと眼鏡の縁を上げたと思ったら、口にしたのがこの名前だった。
多分、泣き声からだと思う。離れようとすると『クォン、クォン』と切なそうに泣くのよ。涙ポロポロこぼして。
そのまんまだけど、まぁ覚えやすいしいいわよね。
それにやっぱり、ちゃんと名前を付けてよかった。
拾った当初は意思の疎通が全く取れなかったんだけど、名前を呼ぶと反応するようになったし、ぼんやりとではあるけどクォンの機嫌が分かるもの。
『変な色のカエルだな』
「そうなの。事典にも載ってなかったのよ」
『ふうん』
「自分で餌も取りに行かないしね」
草むらや水辺に昆虫を取りに行くことは無いけど、水の中に蜘蛛やミミズを入れてあげるとモグモグ食べている。貴族のカエルかお前は、とか思っちゃうんだけど。
おかげで最近はすっかり虫探しがクセになってしまった。
幸いクォンは少食らしく、一日一匹でOK。餌が無いと暴れる、というようなこともないし、大量に虫を捕まえておく必要もない。あんまり手間がかからないコだ。
『……魔界のカエルかもなあ』
「えっ!」
びっくりして並べようとしていたお皿を手から取り落としそうになる。
スコルは
『何かじぃちゃんのところで見かけた気がするんだよなぁ』
と呟き、花瓶の中を覗き込んだ。
クォンは逃げるでもなく「何ですか?」みたいな顔をしてジーッとスコルを見上げている。グワッと一瞬だけスコルが魔精力をみなぎらせたが、クォンは一瞬ビクッとしただけでそのまま水の中に鎮座していた。
『うーん、これで逃げないということは、やっぱり魔界のカエルだ。ハティに聞いた方がいいかも』
スコルが珍しく真面目にそんなことを言うので、お茶会の準備もそこそこにハティを召喚する。
花瓶を覗き込んだハティは
“あ、スクォリスティミだ”
と思念で呟いた。
「スクォリ……?」
“魔界のじぃちゃんのトコにいた、カエル”
「ハティは知り合いなの?」
“ううん。見かけただけ”
はぁ、魔界のカエル。
え、ちょっと待って。二人がじぃちゃんと言ってるのは、王獣アッシメニアのことよね?
「えーと……ひょっとして、魔物? 魔獣?」
“んー、どっちでもない。じぃちゃんの沼で、クゥクゥ鳴いてた”
『あー、アレか』
ハティの言葉に、スコルが思い出したように声を上げる。
その後、知識はあるけど言葉足らずのハティをスコルに補ってもらいつつ、二人からじっくり話を聞いた。
それによると、『スクォリスティミ』は魔王侵攻の際に魔界に紛れ込んだカエルのことで、魔界の風に吹かれ魔精力を大量に取り込んだものの歪まずに生き残った奇跡のカエル。アッシメニアのペットのような感じになっているらしい。
ひどく寂しがり屋のカエルで、泣きすぎると全身溶けてしまうという。
どうやら前にスコル達が無理矢理穴を開けた際、その『スクォリステイミ』の一匹が人間界に逃げたらしい。どこかで泣いてはいないだろうかと、じぃちゃんことアッシメニアが心配していた、とハティが説明してくれた。
「じゃあ、迷子のカエルってこと?」
『ウン』
「魔界に帰した方がいいのかしら……」
そう呟くと、花瓶の中にいたクォンがビョーンと飛び出し、ピタッと私の肩に乗ってきた。そのままいそいそと移動し、胸元にへばりつく。
「こらっ」と言って引き剥がそうとしたけど、『クォン、クォン』とポロポロ涙をこぼしていた。
「あわわわ」
泣くと溶けると聞いて慌てて手を離す。クォンは『キュン』と一声鳴くと、すりすりと私のおっぱいに頬ずりしていた。
そんな私達の様子をチラリと見ながら、スコルが不満げに鼻を鳴らしている。
『帰すならマユが自分でじぃちゃんのところに連れて行かないとな』
「む、む、無理よ!」
『だなー』
『マユの近くに、置いておけば、だいじょぶ』
「本当に? ハティ」
『ウン』
『スクォリスティミ』は魔界のカエルだけど、大量の魔精力を保有しているだけで悪さをするわけではない。水属性の魔精力に馴染みやすいだけで、魔法すら使わないのだ。
アッシメニアが心配していたのは泣いて溶けてしまっているのではないか、ということであって、こうしてマユのところで落ち着いているのなら大丈夫じゃないか、とのこと。
まぁ、クォンが私のところに来てから数日は経ってるし、何も言わないってことは暗黙の了解ってことでいいわよね。
つまり、私はアッシメニアからペットを譲り受けたことになるのか。
……あれっ、これって何か凄いことのような気がするけど。いいのかしら。
「まぁ、いいわ。クォン、人間界にいて大丈夫みたいだから、改めてよろしくね」
『キュン』
「その代わり、ちゃんと言うこと聞いてね。むやみに飛び出しちゃ駄目よ」
『キュン……』
『マユのおっぱい、最強だな!』
「言い方を考えてね、スコル」
『ハトも、好きー』
「ありがとうね、ハティ」
『なーんかタイド、違いすぎねぇ?』
* * *
その後、ヘレンがお茶とお菓子を持ってバルコニーの扉を開けたので、慌ててクォンを花瓶に戻し、遠くの床に置く。
ヘレンは幼い頃、いじめっ子にカエルを背中に入れられる悪戯をされたらしく、それ以来全くダメなんだそうだ。なので飼ってはいるもののヘレンの視界には入れないようにしている。
そしていつものように、二人と二匹の風変わりなお茶会が始まった。
「アルキス山は、あれからどう?」
『んー、ホワイトウルフは減ったな』
『ヒトも、いないー』
ムシャムシャとスコルが口元を動かしながら言い、ハティがそれに頷く。
ハティとスコルはそれぞれ昼と夜、フォンティーヌの森、およびそれに連なるアルキス山のどこかにいることが多い。ついでに変な亜種が生まれてないか、あれから密猟者がいないかなどを調べておいてほしい、とお願いしてあったのだ。
『減り過ぎて絶滅するんじゃないかと思うぐらい』
「やっぱりオール黒焦げはやり過ぎたわよねぇ……」
『あのときはマユに危害を加える可能性があったから、仕方ない』
『ウン、ウン』
「じゃあ、ホワイトウルフがいないから密猟者もいないってこと?」
『ウン。何か、調べている人間は、ちょこっと見た』
それは多分、ガンディス子爵の部隊でしょうね。身分を偽って隣のワイズ王国に潜入しているって話だし。
「本当なら、亜種を生み出す原因を作った密猟者の元締めを炙り出したいところなんだけどね」
『アルキス山はもう無理じゃねぇ?』
「そうねー」
そうなると、密猟した物を売りさばいている人間から足取りを辿った方がよさそうね。お兄様はそうしてるんでしょう、恐らく。
さすがに私がこれ以上考えてもどうしようもないかも。
『まぁ……気が向いたら、ワイズ王国側の森にも足を延ばしてみる』
「本当!? スコルったら気が利くじゃない!」
『その代わり、おっぱい揉ませて』
「……あんたって何かあったらすぐソレね」
『元気が出るんだもーん』
『ハトもー』
「……3秒なら」
『短っ! せめて1分はくれ!』
「嫌よ!」
『うー、じゃあ、30秒』
「5秒」
『……10秒!』
「……」
『えーと、7秒!』
「いいわ、それで手を打ちましょう」
『やった!』
『ワーイ!』
私たちのそんな会話を黙って聞いていたヘレンの眉間に皺が寄る。
「お願いですから、胸の形がおかしくなるような揉み方はしないでくださいね」
『任せとけ! マユのおっぱいは宝だからな!』
『ウン!』
「上から下ではなく、下から上ですよ」
『おう!』
『シタカラ、ウエ……』
ヘレン、スコル、ハティによる“マユのおっぱいを大事にし隊”の謎の会議を聞きながら、思わず溜息が漏れる。
こうして見ると、一番マトモなのは私じゃないかな、とつくづく思うわ。
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