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第4幕 収監令嬢は狼と仲良くなりたい
第2話 二匹目の狼くん、こんにちは
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ハティと似た姿を持つ、ハティとは違う灰色の狼。
敵意は感じないけど、用心するに越したことはない。
とりあえずその場にしゃがみ込み、右手でそっと、足元の小枝を拾う。左手で汗を拭い、風を感じ。
まーるを描いて、ぐるぐるぐる。六方向にてん、てん、てん。
顔を上げると、灰色の狼はジーっと私を見つめていた。やっぱり襲いかかってくる気配はない。様子を窺っている、という感じ。
“んー、本当にこの女なのかなぁ”
という、小さい男の子のような声が聞こえてくる。話しかけられたのか、それとも独り言なのかよくわからない雰囲気。
声もハティとほぼ同じ。だけど、口調は全然違うわね。妙に流暢だ。
「この女って?」
“だからアイツが……えっ!?”
灰色の狼はギョッとしたように一歩後ろに飛び跳ねると、碧色の瞳を大きく見開いた。
グワッと土と埃が混じったような魔精力が狼の身体にまとわりつく。
そして狼の光沢のある灰色の毛が一斉に逆立ち――むわっとした独特の魔精力がいっぺんに身体から放出された。それはまるで、私を取り囲むかのように。
「ちょ……」
バカバカ、止めてちょうだい、本当に!
こんのぉ、おバカ狼! こんなところでその独特な魔精力を放出するんじゃないわよー!!
私は密かに地面に描いていた魔法陣を手早く完成させ、祈りを込めて手にしていた木の枝を魔法陣の中央に刺した。
風の魔法陣……『爽快なる女神の息吹』。
「いっけー!!」
魔法陣から小さな竜巻が現れ、あっという間に狼が放った魔精力を包み込む。そのまま狼の身体も捉え、はるか上空へ。
“うわーっ!?”
狼の悲鳴はゴーッという竜巻の音にかき消されて聞こえてこないけど、思念は伝わってくる。
ったく、私を傷つける気が無いのはわかるけど。こんなところでそんなけったいな魔精力を開放したら、玄関ホールにいるアイーダ女史にまで届いちゃうでしょうが!
隠された部屋の古の魔精力に気圧され、あやうく倒れそうになったアイーダ女史。狼くんの魔精力も、私には不快ではないけれど女史には駄目かもしれないじゃない。
案の定、何やら不穏な気配を感じたのか、バンッとバルコニーの奥の扉が開いた。アイーダ女史が血相を変えて現れる。
「マユ様!? 何をされて……竜巻!?」
どうやら感じたのは私の魔精力だけのようだ。庭の真ん中から立ち昇る竜巻を見上げ、呆然としている。
一緒に巻き上げた土や草のおかげで、竜巻に巻き込まれている狼の姿は見えないようだ。
ふぅ、危なかった……。
「えーと、草がぼうぼうだから風の魔法で草刈りができないかな、と思って」
「はぁ?」
「ほら、結構上手に刈れてるでしょ?」
「馬鹿なことを……」
「風の魔法のコントロールの練習になるし」
「それはそうですが……」
女史は庭に発生した細長い竜巻と私を見比べ、しばらく考え込んでいた。
えーと、あんまりジロジロ見ないで……。狼の姿、見えてないよね?
不安になって、空を仰ぐ。大丈夫だと、思うけどな……。
「……安定しているようですね」
「うん」
「続けて構いませんが、くれぐれも気をつけてくださいね?」
「おーけー!」
アイーダ女史は、本当に今は忙しいらしい。竜巻が安定して庭を移動しているのを見ると一応納得し、奥に引っ込んでいった。
「ふう、危なかった……」
『こらぁ、いい加減これを止めろぉぉぉぉ~~!』
上空から狼の悲鳴のような声が飛んでくる。
やっぱりスーパー狼なんだな。ケガもしてないみたい。
「止めてもいいけど、魔精力をちゃんと引っ込めて!」
『わかったからぁ、早く~~!』
狼の返事を聞いて、いったん竜巻を引っ込める。思ったより上空まで飛んでしまったようで、私からは点にしか見えない。
重力に従い、その点がどんどん大きくなり、黒い丸に。そして灰色の狼の身体がしっかりと見えてくる。刈り取られた緑色の草がひらひらとその周りを舞っていて、ちょっと綺麗だ。
“お、落ち、落ちる~~!”
「魔精力出すな! ちゃんと受け止めるから!」
パニクって再び魔精力を放出しかけた狼に怒鳴り、用意しておいた次の魔法陣を完成させる。
「ほら!」
今度は魔法陣からふわっとした上昇気流が巻き起こった。狼の身体をふんわりと受け止め、下降スピードがゆっくりになる。
とは言え不安なのか、狼が身をひるがえしつつジタバタしていた。
『だ、大丈夫なのか!?』
「大丈夫!」
『本当だろうな!? 魔法陣じゃなくて、お前がちゃんと受け止めろよなー!』
「えー? しょうがないなー」
まだ子供の狼みたいだし甘えたいのかしら、と思いながら両腕を広げる。
どうも魔法陣はお気に召さないようだ。
「万物の精神の源、我に集いて力となれ! “フィソ=デ=ソゥナ=ディモ!”」
発動した魔法を一度引っ込めなければ、次の魔法は効果を発揮しない。
魔法陣を足で消しつつ手早く簡易呪文を唱えると、広げた両腕から優しい風が巻き起こった。
ひゅるるるる……と落ちてきた灰色の狼の身体を包む。急にスローモーションになったかのように、その動きがゆっくりになった。狼の灰色の毛が光に反射して、美しいグラデーションを作っている。
その綺麗な毛並みを見上げながら両腕を曲げると、狼の身体がスポンとその丸みの中に収まった。
中型犬ぐらいのサイズなのでちょっと重いけど、抱えられないほどじゃない。
「……ふう」
ホッと息をついて、腕の中の狼を見る。てっきり目を回してグッタリしているのかと思いきや、狼は私のサロペットの胸当て部分を前足でプニプニ押していた。
“うーん、おっぱいぐらいしかルヴィに勝ってないのにな”
「は……」
今度は両前足でグニグニモミモミと。
“信じられねぇ……ぐほぉっ!”
右手の拳で思いっきり脳天を殴ると、狼が「キュウッ」と悲鳴を上げた。
うん、確か子犬のしつけには「悪いことをしたら速攻で叱る」というのがあったはず。
『痛ってぇな!』
「どさくさに紛れて人の胸を揉むんじゃないわよ!」
『じゃあ早く下ろせよ、目の前にあったら揉みたくなるのが……うわあっ!』
ご要望通りパッと腕を離すと、狼は下の地面にドシャッと崩れ落ちた。刈られた草と土まみれになり、プルプルと体を震わせる。
『乱暴だなあ、おい!』
「助けたんだから、お礼ぐらい言いなさいよ」
『お前が勝手に空に打ち上げたんだろうが!』
「アイーダ女史があんたの魔精力にあてられたら大変だからでしょうが!」
『……あん?』
狼が左足で自分の耳の後ろをカリカリと掻いている。目も牙も鋭い灰色の狼だけど、こうしてるとやっぱり犬っぽい。
『お前は平気なのか?』
「勿論よ。真の魔導士たるもの、野生の生き物とも心を通わせ、必要以上に怯えたり無益な殺生をしたりするべきではないもの」
ドン、と自分の胸を叩いて威張る。
……実際は、ちょっと肝を冷やしたけどね。ハティが私を襲わなかったからといって、この狼もそうとは限らないから。
だけど怯えれば、それは相手にも伝わる。言葉が通じる以上、対等に向き合わなければ。
そういえば、さっき『ルヴィ』がどうとか言ってたわね。
オルヴィア様のことかな。牧場だけでなく森の中も駆け巡っていた、って話だし。フォンティーヌの森に棲む動物と、面識があるのかも。
『野生の生き物? なんかチグハグだなー』
狼がううん?というように首を捻った。
“なのにアイツ、どうして……”
「ねぇ、アイツってハティのこと? 知り合い?」
これだけそっくりだし、同じ種類の狼だと思うんだけど。同じ群れ出身とか。
私の問いに、狼は答えなかった。じっと碧の瞳で見上げたあと、ふいっと視線を逸らせて俯く。ふうぅ、と長い息をついている。
まさか森の子狼に、そんな呆れたような溜息をつかれるとは。
“……やっぱり、思念まで聞こえてるみたいだな”
「そりゃ聞こえるわよ」
『オレが言ってるのは、言葉にしてないところまで聞こえてるってことだよ』
「はぁ?」
言われてみて、ちょっと考える。
そう言えば……何となくぼんやり伝わってくる声と、ちゃんと言葉として聞こえてくる声とがあるわね。
思えば、ラグナからは思念しか伝わってこないな。ラグナがはっきりとした言葉を喋っているところは、聞いたことが無い。
あれ、それって……?
『……帰ろ。何だか疲れた』
「え、あ、ちょ……」
『お前、勉強不足! やっぱアイツは任せられねぇな!』
「はぁ? だから、アイツってハティのこと?」
『その間抜けな名前で呼ぶなっての! じゃな!』
言いたい放題言って、灰色の狼はダダダーッと走って行ってしまった。ひょいっと石の塀を越え、あっという間に森の木々の奥に見えなくなる。
まぁ、ハティと違って一応挨拶はしていったけどさ。
広い庭にポツンと一人残され……思わず考え込む。
勉強不足……。つまりあの子は、「野生の生き物なんかじゃない」って言いたかったのかな。
単なる森の狼じゃないよって。
え、じゃあ、まさか……魔物? 最初に感じた気配の通りに?
でも待って、確か魔物は人を襲うようにできていると聞いた気がしたけど。
ハティにしてもあの子にしても、遭遇するなり襲い掛かってきたりはしなかったから、完全にその可能性は排除してた。
ひょっとして、魔物によりけりなのかな。そうよね、ゲームでも敵として現れるモンスターと仲間になるモンスターといたりするし……。
そうだ、魔物事典!
これは文字通り、
「事典にも大きく載ってるあの有名な魔物のオレサマを知らないの?」
っていう意味かも!
敵意は感じないけど、用心するに越したことはない。
とりあえずその場にしゃがみ込み、右手でそっと、足元の小枝を拾う。左手で汗を拭い、風を感じ。
まーるを描いて、ぐるぐるぐる。六方向にてん、てん、てん。
顔を上げると、灰色の狼はジーっと私を見つめていた。やっぱり襲いかかってくる気配はない。様子を窺っている、という感じ。
“んー、本当にこの女なのかなぁ”
という、小さい男の子のような声が聞こえてくる。話しかけられたのか、それとも独り言なのかよくわからない雰囲気。
声もハティとほぼ同じ。だけど、口調は全然違うわね。妙に流暢だ。
「この女って?」
“だからアイツが……えっ!?”
灰色の狼はギョッとしたように一歩後ろに飛び跳ねると、碧色の瞳を大きく見開いた。
グワッと土と埃が混じったような魔精力が狼の身体にまとわりつく。
そして狼の光沢のある灰色の毛が一斉に逆立ち――むわっとした独特の魔精力がいっぺんに身体から放出された。それはまるで、私を取り囲むかのように。
「ちょ……」
バカバカ、止めてちょうだい、本当に!
こんのぉ、おバカ狼! こんなところでその独特な魔精力を放出するんじゃないわよー!!
私は密かに地面に描いていた魔法陣を手早く完成させ、祈りを込めて手にしていた木の枝を魔法陣の中央に刺した。
風の魔法陣……『爽快なる女神の息吹』。
「いっけー!!」
魔法陣から小さな竜巻が現れ、あっという間に狼が放った魔精力を包み込む。そのまま狼の身体も捉え、はるか上空へ。
“うわーっ!?”
狼の悲鳴はゴーッという竜巻の音にかき消されて聞こえてこないけど、思念は伝わってくる。
ったく、私を傷つける気が無いのはわかるけど。こんなところでそんなけったいな魔精力を開放したら、玄関ホールにいるアイーダ女史にまで届いちゃうでしょうが!
隠された部屋の古の魔精力に気圧され、あやうく倒れそうになったアイーダ女史。狼くんの魔精力も、私には不快ではないけれど女史には駄目かもしれないじゃない。
案の定、何やら不穏な気配を感じたのか、バンッとバルコニーの奥の扉が開いた。アイーダ女史が血相を変えて現れる。
「マユ様!? 何をされて……竜巻!?」
どうやら感じたのは私の魔精力だけのようだ。庭の真ん中から立ち昇る竜巻を見上げ、呆然としている。
一緒に巻き上げた土や草のおかげで、竜巻に巻き込まれている狼の姿は見えないようだ。
ふぅ、危なかった……。
「えーと、草がぼうぼうだから風の魔法で草刈りができないかな、と思って」
「はぁ?」
「ほら、結構上手に刈れてるでしょ?」
「馬鹿なことを……」
「風の魔法のコントロールの練習になるし」
「それはそうですが……」
女史は庭に発生した細長い竜巻と私を見比べ、しばらく考え込んでいた。
えーと、あんまりジロジロ見ないで……。狼の姿、見えてないよね?
不安になって、空を仰ぐ。大丈夫だと、思うけどな……。
「……安定しているようですね」
「うん」
「続けて構いませんが、くれぐれも気をつけてくださいね?」
「おーけー!」
アイーダ女史は、本当に今は忙しいらしい。竜巻が安定して庭を移動しているのを見ると一応納得し、奥に引っ込んでいった。
「ふう、危なかった……」
『こらぁ、いい加減これを止めろぉぉぉぉ~~!』
上空から狼の悲鳴のような声が飛んでくる。
やっぱりスーパー狼なんだな。ケガもしてないみたい。
「止めてもいいけど、魔精力をちゃんと引っ込めて!」
『わかったからぁ、早く~~!』
狼の返事を聞いて、いったん竜巻を引っ込める。思ったより上空まで飛んでしまったようで、私からは点にしか見えない。
重力に従い、その点がどんどん大きくなり、黒い丸に。そして灰色の狼の身体がしっかりと見えてくる。刈り取られた緑色の草がひらひらとその周りを舞っていて、ちょっと綺麗だ。
“お、落ち、落ちる~~!”
「魔精力出すな! ちゃんと受け止めるから!」
パニクって再び魔精力を放出しかけた狼に怒鳴り、用意しておいた次の魔法陣を完成させる。
「ほら!」
今度は魔法陣からふわっとした上昇気流が巻き起こった。狼の身体をふんわりと受け止め、下降スピードがゆっくりになる。
とは言え不安なのか、狼が身をひるがえしつつジタバタしていた。
『だ、大丈夫なのか!?』
「大丈夫!」
『本当だろうな!? 魔法陣じゃなくて、お前がちゃんと受け止めろよなー!』
「えー? しょうがないなー」
まだ子供の狼みたいだし甘えたいのかしら、と思いながら両腕を広げる。
どうも魔法陣はお気に召さないようだ。
「万物の精神の源、我に集いて力となれ! “フィソ=デ=ソゥナ=ディモ!”」
発動した魔法を一度引っ込めなければ、次の魔法は効果を発揮しない。
魔法陣を足で消しつつ手早く簡易呪文を唱えると、広げた両腕から優しい風が巻き起こった。
ひゅるるるる……と落ちてきた灰色の狼の身体を包む。急にスローモーションになったかのように、その動きがゆっくりになった。狼の灰色の毛が光に反射して、美しいグラデーションを作っている。
その綺麗な毛並みを見上げながら両腕を曲げると、狼の身体がスポンとその丸みの中に収まった。
中型犬ぐらいのサイズなのでちょっと重いけど、抱えられないほどじゃない。
「……ふう」
ホッと息をついて、腕の中の狼を見る。てっきり目を回してグッタリしているのかと思いきや、狼は私のサロペットの胸当て部分を前足でプニプニ押していた。
“うーん、おっぱいぐらいしかルヴィに勝ってないのにな”
「は……」
今度は両前足でグニグニモミモミと。
“信じられねぇ……ぐほぉっ!”
右手の拳で思いっきり脳天を殴ると、狼が「キュウッ」と悲鳴を上げた。
うん、確か子犬のしつけには「悪いことをしたら速攻で叱る」というのがあったはず。
『痛ってぇな!』
「どさくさに紛れて人の胸を揉むんじゃないわよ!」
『じゃあ早く下ろせよ、目の前にあったら揉みたくなるのが……うわあっ!』
ご要望通りパッと腕を離すと、狼は下の地面にドシャッと崩れ落ちた。刈られた草と土まみれになり、プルプルと体を震わせる。
『乱暴だなあ、おい!』
「助けたんだから、お礼ぐらい言いなさいよ」
『お前が勝手に空に打ち上げたんだろうが!』
「アイーダ女史があんたの魔精力にあてられたら大変だからでしょうが!」
『……あん?』
狼が左足で自分の耳の後ろをカリカリと掻いている。目も牙も鋭い灰色の狼だけど、こうしてるとやっぱり犬っぽい。
『お前は平気なのか?』
「勿論よ。真の魔導士たるもの、野生の生き物とも心を通わせ、必要以上に怯えたり無益な殺生をしたりするべきではないもの」
ドン、と自分の胸を叩いて威張る。
……実際は、ちょっと肝を冷やしたけどね。ハティが私を襲わなかったからといって、この狼もそうとは限らないから。
だけど怯えれば、それは相手にも伝わる。言葉が通じる以上、対等に向き合わなければ。
そういえば、さっき『ルヴィ』がどうとか言ってたわね。
オルヴィア様のことかな。牧場だけでなく森の中も駆け巡っていた、って話だし。フォンティーヌの森に棲む動物と、面識があるのかも。
『野生の生き物? なんかチグハグだなー』
狼がううん?というように首を捻った。
“なのにアイツ、どうして……”
「ねぇ、アイツってハティのこと? 知り合い?」
これだけそっくりだし、同じ種類の狼だと思うんだけど。同じ群れ出身とか。
私の問いに、狼は答えなかった。じっと碧の瞳で見上げたあと、ふいっと視線を逸らせて俯く。ふうぅ、と長い息をついている。
まさか森の子狼に、そんな呆れたような溜息をつかれるとは。
“……やっぱり、思念まで聞こえてるみたいだな”
「そりゃ聞こえるわよ」
『オレが言ってるのは、言葉にしてないところまで聞こえてるってことだよ』
「はぁ?」
言われてみて、ちょっと考える。
そう言えば……何となくぼんやり伝わってくる声と、ちゃんと言葉として聞こえてくる声とがあるわね。
思えば、ラグナからは思念しか伝わってこないな。ラグナがはっきりとした言葉を喋っているところは、聞いたことが無い。
あれ、それって……?
『……帰ろ。何だか疲れた』
「え、あ、ちょ……」
『お前、勉強不足! やっぱアイツは任せられねぇな!』
「はぁ? だから、アイツってハティのこと?」
『その間抜けな名前で呼ぶなっての! じゃな!』
言いたい放題言って、灰色の狼はダダダーッと走って行ってしまった。ひょいっと石の塀を越え、あっという間に森の木々の奥に見えなくなる。
まぁ、ハティと違って一応挨拶はしていったけどさ。
広い庭にポツンと一人残され……思わず考え込む。
勉強不足……。つまりあの子は、「野生の生き物なんかじゃない」って言いたかったのかな。
単なる森の狼じゃないよって。
え、じゃあ、まさか……魔物? 最初に感じた気配の通りに?
でも待って、確か魔物は人を襲うようにできていると聞いた気がしたけど。
ハティにしてもあの子にしても、遭遇するなり襲い掛かってきたりはしなかったから、完全にその可能性は排除してた。
ひょっとして、魔物によりけりなのかな。そうよね、ゲームでも敵として現れるモンスターと仲間になるモンスターといたりするし……。
そうだ、魔物事典!
これは文字通り、
「事典にも大きく載ってるあの有名な魔物のオレサマを知らないの?」
っていう意味かも!
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