収監令嬢は◯×♥◇したいっ! ~全く知らない乙女ゲー世界で頑張ります~

加瀬優妃

文字の大きさ
上 下
1 / 156
第1幕 収監令嬢は外に出たい(プロローグ)

第1話 プルンがスゴすぎるのよ!

しおりを挟む
 ぼんやりとした意識の向こうで、ぬるっとした生温い風が右の頬を撫でていったのが分かった。
 何だろう、あの大雨が降る前に吹く風みたいな?

 寝返りを打つと、ふかふかした布団に身体がずぶっと沈み込んだ。
 何これ、すごい。私、こんな気持ちいい布団で寝たことないわー。

 とか思った瞬間、ぶにゅんとしたものが右腕の上に乗っかってきた。
 何だ、邪魔。
 
 ぎゅっと左手で掴むと、その感触は柔らかく、妙に生温かい肉の塊だった。
 握ったその感覚が自分にダイレクトに伝わってきて、バシッと目が開く。

「んぎゃ――!」

 私の左腕と右腕の間に挟まれて、ぐにゃりと潰されている双丘。その間には、それはそれは深い谷間がある。

 ゆ、指を入れてみたい。

 じゃなくて!
 何コレ、何コレ!?
 私は絶対、こんな巨乳じゃなかった!

 ガバッと起き上がると、私の動きに合わせて胸もゆさっと揺れる。身体の前面が重い。
 おそるおそる自分の胸を見下ろす。

 うん、偽物じゃない。確かに私の胸についているおっぱいだわ。
 いや待て、胸イコールおっぱい? あれ?

 寝ボケと驚きで混乱した頭のまま、そろそろと両手をお腹の方から上に滑らせてみる。
 ぷにゅんと下チチに当たって、

「ふわぁっ!?」

と、ヘンな声が出た。
 違う、別に感じた訳じゃないから!

 な、何この段差! ノーブラなのに垂れてない!
 このアンダーの細さは何!? この張りはどういうこと!?
 この世のものとは思えない体形だわ!

「うわ……」

 ゴクリと唾を飲み込み、両手の五本の指をくわっと広げる。
 いく? いっちゃう? 思いっきり掴んでみる? 揉んでみる?

「――マリアンセイユ様!」

 あん? 何て?

 声がした方を振り返ると、どうやら扉が開かれ、こっちを見ているような女性の姿が。
 
 どうやら、というのは何やら白い薄い布が私の視界を遮っているから。
 何じゃここは、とここに来てようやく辺りを見回す。何しろおっぱいしか見てなかったし。

 このベッドはダブルも超えたキングサイズのようで、四方にはグレーの柱が立っている。左側と右側、そして足側にはその白いレースのカーテンが下ろされている。
 天井もこの白い布がたゆんたゆんとなっている。
 まさか、これがお姫様御用達の天蓋付きベッド、というやつなんだろうか。

 いやちょっと待て、私は何でこんなすごいベッドで寝てるんだろう?
 確か私はごくフツーの家で育ったごくフツーの女子高生だったはず。

「…………あれ?」

 自分の記憶を辿ろうとしたけど、そっちもあやふや。
 ワタシハダレ、ココハドコってこういうのを言うのかな?

「失礼します!」

 私がボヤッと考え込んでいる間に、その女性がシャッと白いレースのカーテンを開けた。
 フリルのカチューシャをつけた二十代前半ぐらいの女性が、驚愕の眼差しで私を見つめている。
 茶色い細い瞳に「し」の字のような鼻、小さな口。顔は浮世絵の女性みたいだけど、髪は赤茶色。耳の後ろぐらいできっちりとお団子にしている。
 そして出で立ちはと言うと、黒い長そでワンピースに白いエプロン。いわゆるクラシカルメイド、というやつ。

「お目覚めになられたのですね!?」
「え、あ、はぁ……」
「しばらく、そのままで! そのままでお待ちくださいね!」

 そのメイドさんはそう叫んだあと、ダダダーッとどこかへ走り去ってしまった。
 何だかポツンと取り残されたような気持ちに……。

 うーん、それよりも。
 そのままって、この自分のおっぱいを揉みしだこうとしたこの手のままで?
 そんな訳ないよね。

 さすがに今のうちに揉んでおこうという気にはなれず、力なく腕を下ろす。
 ふうーと深い息をついて俯くと、髪の毛がふぁさっと目の前にこぼれてきた。
 ――紫というよりもっと薄くて上品な感じ。藤色の、波打つ髪が。

「ひゃあああ!」

 思わず叫び、むんずと掴む。ぐんと引っ張ってみると、頭皮が引っ張られて痛みが走った。

 生えてる、確かに生えてるわ! カツラじゃない!
 ちょっと待って、記憶は定かじゃないけど、これは絶対に違う!
 私は純日本人、真っ黒でまっすぐな髪の毛でした!

 いつの間にコスプレしたの?
 ちょっと待って、私は今いったいどうなってるの?

 ベッドから飛び起き、レースのカーテンの向こうに出る。
 そしてそのまま、固まってしまった。目に飛び込んできた光景が信じられなくて。

 そこは、三十畳はありそうな広い部屋だった。薄いグレーのふかふかの絨毯の上に、複雑な装飾が施された白い家具が壁際に配置されている。
 ミニテーブルと二人掛けの椅子。これも白。白に淡いピンクの花柄が施された可愛い感じ。少し離れた場所には、三人掛けぐらいの高級そうなソファーも。これも白にピンク、家具とお揃いだ。グレーとベージュの四角いクッションが2個ずつ置かれている。
 壁紙は品のいい淡いピンクで、天井は白。いくつものチューリップの花が咲いているような素敵なシャンデリアが、天井の中央を陣取っている。

 これは、まごうこと無き、貴族のお姫様の部屋! しかもすごく手が込んでいるというか、質がいいというか、気を配っているというか!
 はぁっ、こっちの壁には何か立派な絵画も! どこだ、ここは!?

 ハタと気づいて、自分の恰好を見回す。
 薄い水色のネグリジェを着ている。細かい刺繍が入っていて、胸元はゆったりと丸いカーブを描いていて、中央にはリボンが結ばれている。そしてそこには、くっきりとした谷間が。
 ノーブラだけど、重力に負けないこのソフトボールみたいな胸。嘘みたいだわ。
 いや、胸はとりあえず置いておこう。前はバンザイしたらブラジャーがずり上がるぐらいのナイチチだったからって、こだわりすぎだわ。

 そんなことよりも。
 私はどうして髪を藤色に染めてネグリジェなんか着て貴族のお姫様みたいな部屋に寝ていたのか、というその根本的な疑問がね、解決してないんだけど。

「……あっ!」

 白い家具の間に姿見を見つけて、駆け足で飛びつく。
 そこにいたのは、腰まである藤色の波打つ髪を靡かせ、エメラルドグリーンの瞳を大きく見開いたあどけない美少女の姿。
 どう見ても日本人じゃないけど、顔立ちは特にとんでもなく彫りが深いわけではなく、どこかアジアっぽい。
 配色はとんでもないけど、違和感は感じないのよね。何て言うかな、ゲームキャラみたいな感じ?

「は……はははっ!」

 バカバカしいこと考えちゃった、と笑ってみたけど、私の声に合わせて、目の前の美少女が引き攣った笑顔を見せる。
 そのあとあっかんべをしてみたり、ダブルピースしてみたりしたけど、姿見の藤色髪の美少女が全く同じ動きをする。いろいろと残念な感じだ。
 うーん、やはり私自身の姿、ということで合っているみたいだ。信じられないけど。

 何でゲームキャラのコスプレなんかしてるんだろう?
 しかも、全く知らないキャラだし。

 ツンと自分の髪の毛をもう一度引っ張ってみる。やっぱりカツラじゃない。
 それに、目もカラコンじゃない。何の違和感もないもの。

「そうだ!」

 バッと右手でネグリジェの胸元のリボンを引っ張る。はらりと解けて胸が露わになるけど、そんなことに構ってはいられない。左腕を上げて覗き込む。

「な、ない!」

 ワキ毛がない! 一本も!
 永久脱毛とかじゃないの。毛穴すらないんだもん。つるつる。
 あり得ない。あり得ないよ、ヒトとして!

 念のため右の脇も見たけど、やっぱり無かった。
 となると、だ。

「……うーん」

 左腕でネグリジェの裾を捲り、自分の下半身を見る。
 ノーブラだけど、パンツは穿いてる。
 気は進まない。非常に進まないんだけど、コレしかないか。

 右手で履き口をそっと引っ張り、恐る恐る覗き込む。

「……ひぃえぇぇぇ……」

 思わずパッと手を離してしまった。ゴムが縮んでパツンと自分のお腹に当たる。
 ぐらんぐらんと眩暈がする。

 は、生えてた。
 生えてたけど、こっちも藤色だったーっ!

 ということは、信じられないけど染めたんじゃなくて、私自身がもう藤色の毛を持つ女の子になっちゃってるってことだ。
 だって下の毛まで染める訳ないもんね! ねっ! ねっ!

「マリアンセイユ様!? 何をなさってるんです!?」

 さっきのメイドさんの声が聞こえてきて、ギョッとして振り返る。
 胸元はリボンが解けておっぱいを出しっぱなし。
 そして私の左腕は、ネグリジェの裾を捲り上げたままだった。

「え、あ……」

 メイドさんの後ろには白髪交じりの黒い髪をひっつめ、濃いブルーのドレスを着た老女が立っていた。
 あの、山奥から都会にやってきて夢遊病になった女の子を厳しくしつけてたオバさん、分かる? あーゆー感じの人。

 メイドさんとオバさんの二人は、ぽかーんと口を開け、巨乳をさらけ出してネグリジェを捲り上げ、パンツを丸出しにしている私を呆然と見つめている。

「えーと、あの、信じられなくて……」
「しっ、信じられないのはこっちです! 早くこちらに腰かけてください!」
「は、はぁ……」

 もたもたとリボンを結ぼうとすると、メイドさんとオバさんに両脇から抱えられ、おっぱい丸出しのまま強引にベッドに座らされた。


 ――こうして訳もわからないまま、私の『マリアンセイユ・フォンティーヌ公爵令嬢』としての人生が始まったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ピンクの髪のオバサン異世界に行く

拓海のり
ファンタジー
私こと小柳江麻は美容院で間違えて染まったピンクの髪のまま死んで異世界に行ってしまった。異世界ではオバサンは要らないようで放流される。だが何と神様のロンダリングにより美少女に変身してしまったのだ。 このお話は若返って美少女になったオバサンが沢山のイケメンに囲まれる逆ハーレム物語……、でもなくて、冒険したり、学校で悪役令嬢を相手にお約束のヒロインになったりな、お話です。多分ハッピーエンドになる筈。すみません、十万字位になりそうなので長編にしました。カテゴリ変更しました。

[完]異世界銭湯

三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。 しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。 暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

ぽっちゃりおっさん異世界ひとり旅〜目指せSランク冒険者〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
酒好きなぽっちゃりおっさん。 魔物が跋扈する異世界で転生する。 頭で思い浮かべた事を具現化する魔法《創造魔法》の加護を貰う。 《創造魔法》を駆使して異世界でSランク冒険者を目指す物語。 ※以前完結した作品を修正、加筆しております。 完結した内容を変更して、続編を連載する予定です。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

〈完結〉髪を切りたいと言ったらキレられた〜裏切りの婚約破棄は滅亡の合図です〜

詩海猫
ファンタジー
タイトル通り、思いつき短編。 *最近プロットを立てて書き始めても続かないことが多くテンションが保てないためリハビリ作品、設定も思いつきのままです* 他者視点や国のその後等需要があるようだったら書きます。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

駄々甘ママは、魔マ王さま。

清水裕
ファンタジー
 ある日、人里離れた森の奥で義理の母親と共に暮らす少年ヨシュアは夢の中で神さまの声を聞いた。  その内容とは、勇者として目覚めて魔王を退治しに行って欲しいと言うものであった。  ……が、魔王も勇者も御伽噺の存在となっている世界。更には森の中と言う限られた環境で育っていたヨシュアにはまったくそのことは理解出来なかった。  けれど勇者として目覚めたヨシュアをモンスターは……いや、魔王軍は放っておくわけが無く、彼の家へと魔王軍の幹部が送られた。  その結果、彼は最愛の母親を目の前で失った。  そしてヨシュアは、魔王軍と戦う決意をして生まれ育った森を出ていった。  ……これは勇者であるヨシュアが魔王を倒す物語である。  …………わけは無く、母親が実は魔王様で更には息子であるヨシュアに駄々甘のために、彼の活躍を監視し続ける物語である。  ※基本的に2000文字前後の短い物語を数話ほど予定しております。  ※視点もちょくちょく変わります。

処理中です...