【完結】君と綴る未来 一 余命僅かな彼女と 一

野々 さくら

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15話 高校三年生 聖なる夜 街彩られる頃、二人で

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 受賞が決まっても、いきなり書籍化する訳ではない。
 本を出版する為に改稿作業を行わないとならず、趣味で書いていた今までと違い、これからは仕事となる。
 しかもそれは、あいつだけの話だけでなく、出版社と共に行うもの。
 その現実にあいつは震えたが、責任を持ちやり遂げたいと、一つ一つの文章を綴っていった。


 こうしてまた季節は巡り、窓からはチラチラと降る初雪と彩られた街並み。
 今日はクリスマスだった。

「やり遂げたよ。これで思い残すことないな」
 なんとか年内に、書籍化作業を終了させ、あとはただ待つばかりだ。
 だから。
「何言ってるんだ。本になってないだろ? 責任持って見届けろよ」 
 俺は、こいつを焚き付ける。
 気が抜けた時に、病魔は一気に襲ってくる。だから常に、次の目標を伝えるようにしていた。
 
「あ、そうだね」
 笑顔をこっちに向けてくるこいつの姿。
 再会した一年前と比べ、明らかに衰弱している。
 もう歩けなくもなり、ベッドで一日を過ごすようになっていた。

「なあ」
「何?」
「お前はどうして小説を書こうと思ったんだ?」
「え?」
 吉永 未来。こいつの人生を知りたかった。
 幼少期に小児癌を患い長期の療養生活を経て一度は完治となったが、中学生になった直後に再発し、治療を再開の為学校に通えなくなった。
 その後の病状悪化により余命宣告を受けたこいつは、生きるために諦めた学校生活を送りたいと受験をして高校に入学したと聞いていた。
 しかしそれだけで、俺はこいつの気持ちを知らない。
 何を思い生きてきたのか? 病気の宣告を受けた時、どんな気持ちだったのか? 余命宣告を受けるなんて俺には到底理解出来ない程の苦しみや葛藤があっただろう。
 だから知りたい。こいつの物語を。

「私か……。私は」
 こいつは目を閉じ、その思い出を話し始めてくれた。

「物心がつく頃から私は入院してて、外の世界を知らなかった。治療は辛くて、注射針を見るだけで泣いちゃったな。いつも思っていたの。この世界は広いのに、どうして私は病院から出られないのだろうと」
 病気に対して、両親にも医師にも弱音を吐かなかったこいつが初めて本心を語り出した。
「病気が治って学校に通えるようになったけど、その時には友達関係とか出来てるし。引っ込み思案の性格だから、自分から話かけられないし。体のことあるから体育休んだり、他にも配慮してもらわないといけないことあって。そしたらみんなにズルいとか言われて。私を避けるようになって。……外には幸せな世界があると信じて、あんなに辛い治療を耐えて完治させたのに、待ち受けていたのはこんな現実だったんだと打ちひしがれたな……」
 無理に上げた口角に、スッと流れる一筋の光。
 そこには、俺が想像していた以上に残酷な現実があった。
 子供故の無理解が、こいつを苦しめていた。

「でもね、物語の中では私と違う私になれる。友達がいっぱい居て、外で遊んで、日が暮れるまで走り回って、遅く帰ってお父さんとお母さんに怒られる。そんな私になれるの。だから私は、小さい時から読んでもらっていた本をいつも読んでいた。いつも頭の中で物語を作っていた。気付けばノートと鉛筆を手に取り、物語を書いていたの。その中の私はいつも自由。それが小説を書き始めた理由だった」
 こいつの駆け出しの作品は絵本で、書き綴ったノートを見せてもらったことがあったが。その主人公たちは、今にも翼を生やして飛び立ちそうなぐらい明るく活気よく希望に満ち溢れていた。
 あれがこいつの理想の姿。そうだったのか。

「小説を書くことが私の生きる理由。そう思って小中学生対象の公募に挑戦していって。落選繰り返しても楽しくて。これが人生の目標と決めた時に、倒れちゃって。再発だって聞いて。私、何か悪いことしたのかと自問自答を繰り返したの。だけど治療したら治る。きっと大丈夫だと信じて。背中まで伸ばした髪も失って。それでも治るからって言い聞かせて。でも、十三歳の時に完治は難しいと聞いて。何のため治療に耐えるのか分からなくて。小説書いてもどうせ死ぬからと一度は筆を折ったの」
「お前が?」
「うん。もう全てが嫌になっちゃって、治療拒否して自分の部屋に閉じこもったの。ご飯だけでも食べてと言うお母さんの言葉も聞かずに、小説投稿サイトの物語を読んで、また違う自分になろうとしていた。その時に、あなたの物語に出会えたの。困難にぶつかっても逃げずに戦う主人公。でも、その内心は繊細で心に傷を負っていて脆いところもある。それでも、主人公は立ち上がる。なんだか、境遇が私みたいで。違う私になろうとしているのに、今の自分を見つめることが出来て。負けてられないなって。だから私、もう一度人生に向き合うと決めたの。今まで治療を優先させてきたから、普通の高校生活を送りたいって。今度こそ友達作って、いろんな話して、遊びたいなって」
 こいつの明るさは、初めからではなかった。
 人生の終わりが近いと分かって。
 だから勇気を出して、自分が描いた「理想の自分」になって一歩前に進んだ。
 これが、吉永 未来の物語。
 なんだよ、こいつ。すげえ奴じゃねーかよ。

「余命が分かった時は神様を恨んだけど、今は感謝している。高校で友達が出来て、そして須藤 翼さんに出会えたのだもの。作品全て消してしまって、他の投稿サイトを探してもいなくて。諦めていたけど、まさか高校で対面出来るなんて思わなかった。その人に、私の小説読んでもらえるなんて夢みたいだった。だから、生きてて良かった」
 そう話し俺に笑いかけた後、話疲れたのかこいつはそのまま眠ってしまった。
 俺はそっとベッドのギャッジを下げ、布団をかけてそのまま寝かせる。
 その寝顔を見た俺は、思わず目を逸らしてしまう。
 あのやわらかそう頬は、どこにいってしまったのか? と。
 
 窓から見える雪と夜景はあまりにも美しいのに、どうしてこいつは生きられない運命にあるのだろうか?
 何度問いても、その答えは返ってこない。
 ただ一つ言うなら。「そうゆう運命だから」か?
 それはあまりにも理不尽で、残酷で、そしてどうしようもない事だった。

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