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序章 高校三年生 終雪
しおりを挟む冬に別れを告げる終雪が降る頃。和歌山県、南紀白浜の海より潮音が哀しく響く。
白雲より雪花が舞う中、葬儀場の一室で告別式が執り行われた。
遺影では健康的な彼女が柔らかな笑顔を浮かべているが、その下では木製で出来た棺の中で両手を胸元に置き、目を閉じている。その頬は痩せ細っており、過酷な闘病生活を物語る。
そんな彼女の姿に「よく頑張ったね」、「安らかに眠ってね」と声をかけられながら、一つ、また一つと花が手向けられてゆく。
彼女が好きだった黄色の花。友人達によりそれをいっぱいに敷き詰められ、淋しくないようにと彩られていく。
そんなやり取りの中で別れの言葉を告げられ、多くの涙が溢れ、手を握られるが、それに応えることはもう出来ない。
ただ彼女の表情はあまりにも安らかで、人生を全力で生き抜いた誇りに満ち溢れていた。
俺は花ではなく、彼女の両親より渡された手のひらサイズの物を携え、彼女に会いに行く。
その目に映ったのは、健康的な肌色、頬と唇は赤みがあり、肩までの髪。そして友人達と同じ制服に身を包んでいた。
良かったな。
もう一度制服が着たかった、と言っていたもんな。
綺麗に着飾りたかった、と言っていたもんな。
長い髪が好きだ、と言っていたもんな。
彼女が生前、もう一度なりたいと言っていた姿は学校に通えていた時の自分。
今目の前にあるその姿から、セーラー服とストレートの髪を靡かせ、華が舞うように笑っていた彼女を彷彿させてくる。
あまりにも鮮明な記憶に、思わず込み上げてきそうなものを抑え、その冷たく美しい手に触れて、彼女の宝物を添える。
それは一冊の文庫本。
彼女が懸命に生きた証のような物だ。
俺たちは小説をキッカケに出会い、時にはぶつかり、時には語り合い、互いの弱みを見せ、最後に彼女はこの本を遺して旅立っていった。
自分を捨てていた俺が自身に向き合えたのは直向きだった彼女のおかげであり、俺はあの優しさにどれほど救われたのだろうか。
そんな彼女と出会いは、高校一年生の春。桜の花びらが舞う頃だった。
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