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13話 魔法少女とドキドキ校外学習(3)

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 校外学習二日目の朝。
 私は、身支度を終わらせ男子部屋に行く。
 するとそこには、男子四人とあいつだけで他の男子は居なかった。

 私はジャマにならないように部屋のすみに行こうとしたけど。こいつに側にいて欲しいと言われ、横に立つ。

「ありがとう」
 私の耳元でボソッと呟くと離れていき、話を始めた。

「なあ、もうかばうのやめろよ。慎吾くんなんだろ? 『守りの石』壊したの」
 こいつの言葉に顔を上げた三人は、口々に否定し始めた。

「ちがう! オレだって言ってるだろ!」
「慎吾は関係ない!」
「部屋にいなかったって!」

 しかし疑われた当人の佐々木くんは、ずっと俯いていて。その肩を震わせていた。

「なあ、慎吾くんの顔見ているのか? 昨夜から、ずっと辛そうな顔していると思ってた。それで良いのかよ? 今日帰るんだから、ここで謝れなかったらずっと苦しむことになるだろ? 友だちとして、本当にそれで良いのか?」

 その言葉に気づいたのか、三人は佐々木くんの顔を見る。
 そこには目を赤くして、唇を噛みしめている姿があり。おそらく昨日眠れなかったのだろうと分かる。

「慎吾くん。今、思っていること話してみなよ。その方が楽になるから」
 こいつはそう話しかけると、三人をじっと見ていた。

 ……口止めされていると、こいつは気づいていたのだろう。

「慎吾……、悪かったよ!」
「オレたち、変に守ろうとかして。バカだった」
「思ったことを話してくれ!」

「……いいの?」
 やっと佐々木くんは口を開いた。

「ああ。みんなで本当のこと言って謝ろう」
「……うん。ありがとう」
 そう言葉に出した佐々木くんはポロポロと涙を流し始めた。
 一人でずっと苦しんでいたのだろう。その気持ちが伝わってきた。

「先生と管理人さん呼びに行こう!」
「うん」
 三人に手を引かれ、佐々木くんは出て行こうとするけど。
「……ありがとう、翼くん。魔夜さん」
 足を止めてつぶやき、四人で部屋を出て行った。
 そんな背中を、こいつと私で見送る。


「……ありがとう。オレ、事実が分かっていたのにごまかすところだった。話を聞いた時、慎吾くんの泣きそうな顔と、必死で庇う三人の姿に分かってたんだよな。だけど言えなくて。だから優花を呼びに行った。ダメだな、オレは……」

「そんなことはないと思うけど」
「え?」

「昨日からの関わりで分かったけど、佐々木くんは優しく、繊細せんさいな性格。それを知っている三人は、佐々木くんが失敗をしても、さりげなく助けていたよね? だから今回も、佐々木くんの考えも聞かず、三人が口止めしたんだよ。だけど、すぐにそのウソを暴いたら、佐々木くん自分で考えられなかったんじゃない?」
「……あ」

「だから、これで良かったんじゃないの?」
 そう言い終わったとたん、ハッとなる。
 何、勝手なこと言ってるの? 私は?

「優花の方が、よっぽど人の心を分かってるよな?」
「はあ?」
「友だちが居ないと、その発想はないな」
 無理に浮かべた笑顔に、頭の中で一つの言葉が浮かぶ。

『なんかムリに笑っていると言うか時々、ふっと淋しそうな表情するんだよね』

 それにピッタリはまっていた。

「あ、あのさ……」
 そう言いかけた私は、口を閉じる。

 お助け係の仕事が終わったら、関わらない約束だった。

「じゃあ、また……」
 言葉を変え、部屋を出て行こうとする。

「……なあ」
 すると、こいつから話しかけてきた。

「何?」
「一緒の班になって、その……。迷惑じゃなかったか?」
 こいつは、いつものへにゃとした顔ではなく真剣な表情でこっちを見つめてきた。


「……あんたさ、『守りの石』が壊れた時、誰と居たの?」
 気づけば、そんなことを口走っていた。

「え?」
 私の言葉にこいつはうつむき。
「誰とでも、いいだろう……」
 と、こいつは搾り出すような声で言った。
 その顔は今にも泣き出しそうで、私は。

 ギュッ。
 こいつの手を握りしめていた。

「優花……」
「話して。あんたの気持ち」
 こいつは握った手を、強く握り返してきて、ゆっくり顔を上げて私を見てくる。

「……優花。オレ……、オレ、本当は……」


「すみません、管理人さん」
 そんな時、ろう下から聞こえてくる何人もの足音に、先生の声。

「やば! 先生!」
 こいつは、また表情を変えてうろたえる。

「何? どうしたの?」
「昨日、女子を部屋に入れたことで怒られて、次バレたら学年主任の先生に怒られる!」

「はあー! やばいじゃん! どうし……!」
 とっさに出た声に、こいつは手のひらで私の口を抑えてくる。
 周りを見渡すと、目に入ったのは布団を入れる押入れ。
 その中に隠れようとすると、そこには壊れた「守りの石」が隠してあった。

(押し入れはだめだー! どうしよう! 女子部屋まで瞬間移動? いやいやいや! 絶対だめー!)
 私の頭は、もうパニックだった。

「こっちだ!」
 私はこいつの畳んだ布団に引っ張られ、隠れさせられる。
 そして、なぜかこいつまで布団に入ってきた。

「なんで、あんたまで来るの!」
「オレが居たら、ゆっくり話せないだろう!」
「だからって!」
「体出るだろう!」
「ひゃあ!」
 私とこいつは、布団の中でピッタリくっつく。

(何、この状況! やばい心臓が!)
 ドクン。ドクン。ドクン。
 この音は、私だけじゃない。こいつもだ。

 こうしている間にふすまが開く音がして、その声が聞こえた。

「管理人さん、ごめんなさい」
 四人が謝る声だった。

「……ボクが壊しました」
 さっきまでの泣いていた佐々木くんの声とは違い、ハッキリと話していた。

「いや、オレが枕投げしようと慎吾に言ったからです」
「オレが避けなかったら、石は壊れませんでした」
「壊したんじゃなくて、勝手に壊れたとウソをつこうと言ったのはボクです」
 木村くん、斉藤くん、成宮くんの声が聞こえ全員で謝っていた。
 こいつと顔を見合わせる。
 そうゆうことだったんだ……。

「いいんだよ。よく本当のことを話せたね。きっと、誰かの身代わりにこの石は壊れたんだよ。だから、これから気をつけたらいいからね」
 管理人さんの優しい声がする。
 許してくれたようだ。

「ごめんなさい。よければですが、お手伝いさせてください。」
「ありがとう。じゃあ、お願いしていいかな?」

「はい!」
 四人の声は明るくなり、朝食の準備を手伝うと部屋を出て行ったようだ。


「悪い、優花。やばかったなー!」
 こいつは布団を慌ててめくる。

「おい、顔赤いぞ! 大丈夫か?」
 アタフタしたこいつ。それに。

「熱いな。悪かったよ」
 そう言い、私のおでこに手をピタッとあててきた。
 そんなこいつの悪行に、私の顔は瞬間湯沸かし器のように一気に熱くなった。

「ま、まあ! あんたは慣れているだろうけど!」
 私は裏返った声でそう言い、こいつの手を跳ねのけた。

「どうゆう意味だよ!」
「昨日。女子を布団に入れてあげたんでしょう?」

「そ、そんなわけあるかー!」
 今度は、こいつがほっぺたを真っ赤にして叫ぶ。

「え? ちがうの?」
「当たり前だろ!」
 こいつのほっぺたは赤くて、ぶっきらぼうで、口をパクパクさせていて。思わずその言葉が出てきた。

「つば……」

「翼くん、そろそろ部屋入っていい……」
 部屋を出ていてくれた男子たちの声と、私の声が重なった。

「あ、ごめん……」
 すると部屋に入ろうとした男子たちは、慌てて出て行く。
 そんな姿に私たちは顔を見合わせると、その距離はやたらが近く、ほっぺたを真っ赤になった私たち。

 あれ? もしかして、何かかんちがいされてる?
 
「ちょっと待って! ち、ちがーう!」
 また、私たちの声は重なった。
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