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8話 魔法少女となくなった交換日記(1)

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「なあなあ、恋が実った女の子ってあんな顔するのか?」
 集団登校中、こいつが私の耳にボソッとささやいた。

 視線の先には、肩を落とした米田さん。
 土曜日に、好きだった吉田くんに気持ちを伝え、こいつが言うには二人は付き合い一番幸せな時らしい。
 だから、こんな落ち込んだ顔をしているのはおかしいんだって。
 ……そんなものなのか?

 そう思いながら歩くと学校の校門に着き、登校班は解散となる。
 不意に米田さんの顔が見えたけど、確かに暗い表情をしている。どうしたのだろうか?

「おい優花、聞いてきてくれ!」
「はあ、私が? あんたが聞いてよ!」
「恋の悩みは女子同士だろう?」
「私に? 絶対ろくなことにならないから!」
 私たちがギャアギャア言い合っていると、後ろから嫌な視線に気づく。
 クラスの女子たちだ。

 だから私は、靴を履きかえ慌てて階段を登って行く。
 危ない、危ない。平和な学校生活を守らないと。
 だってあいつは、女子たちの王子様なんだから……。

 そう思い一人教室に着くと、それは聞こえた。
「もう一度、ちゃんと探そうよ!」と話す米田さんの声だ。

「だって夏美が交換ノート無くしたんだよ!」
「違う! 私は受け取ってないもん!」
「だからランドセルに入れたって!」
「入ってなかった!」
 ろう下にも響く声で叫ぶ二人に、登校してきた他の子も驚いた表情を見せていた。

「二人とも落ち着いて話そう! どうしちゃったの!」
 米田さんが仲裁に入るけど、友だち二人は聞き入れない。
 ……あれ? こんなにキツい性格だったっけ?

「ケンカか?」
 私が自分の席から見ていると、こいつが当たり前のように私の元に来て話しかけて来た。
 いつもの女子三人を連れて。

(うわあ。私の元に来ないでよ。)
 私は、目でこいつを追い払う。

「米田さんの友だちは、いつもあんな感じなのか?」
 だけどこいつは気にしない。頼むから、こっちの身になってよ……。

「ううん。一年のころから三人で仲良くしてるよ。米田さんがクラス変わっても、二人がクラスに遊びに行ったりとかして三人仲良くしていたから」
「やっぱり詳しいな。米田さんと友だちなんだろ?」
「だから、幼稚園が一緒だっただけ!」
「そう言えば、三人も優花や米田さんと同じ幼稚園だったんだよな?」
 こいつは一緒に居る女子三人に話しかける。
 あれ? そういえば、いつもの王子様みたいな話し方じゃない。

「……あ、まあ……」
 三人は、私から目をそらしながら、うなずく。
 ……あ。待って、この話は……。

「優花はどんな感じだったんだ? 教えてくれよ?」
 こいつは私の考えと裏腹に、女子三人にグイグイいく。
 その姿に。
「やめてよ!」
 私は思わず、大きな声を出してしまった。
 それに対し、こいつと女子三人は驚いた表情でこちらを見てくる。

「あ……」
 私はうつむいてしまう。
 やめてよ、幼稚園のころは聞かないでよ……。

「……悪い」
 そう言って、こいつは女子たちと自分の席に戻ってしまう。
 鈍い私でも分かった。あいつは、私のためにしてくれていることだって。
 でも、お願い。幼稚園のころの話はしないで。
 私は、あのころの私に戻りたくない。
 平和な学校生活を送りたいの。

 一人イスに座りぼう然としていると先生が来て、ケンカを止めてくれた。
 だけど二人はプイっとしてしまい、お互いに顔を合わせなくなってしまった。
 移動教室の時も、体育の時も離れてしまい、米田さんはただうつむいていた。

 こうしてビミョーな空気の中で昼休みになり、私は今日も一人昼寝をする。
 少しでも寝たいのに色々考えてしまう。あいつに大きい声を出してしまったことだ。
 モヤモヤする。はあ……、過去に戻ってやり直したい。
 しかし私にはそんな力はなく、みんなと同じ一度きりの人生を生きている。
 本当、欲しい力はない中途半端な魔法なのだ。

 あまり寝られず昼休みは終わり、気づけば放課後。
 集団下校で帰っているが、こいつが後ろにいることに何とも言えないモヤモヤがある。
 五年生になってから、そんなのばっかり。どうしてしまったのだろう、私は?

 解散場所に着き、私は一人家に向かう。

(あいつと話がしたい……)
 ふっと、そう思ってしまった。

「ねえ……」
 そんな願いを聞いてくれたような、声が後ろからした。
 私はビクッとなる。
 しまった、またやってしまった。

(落ち着け。今の声はあいつじゃない。)

 自分にそう言い聞かせて、ゆっくり振り返る。すると、目の前にいたのは米田さんだった。

「……こないだはありがとう。それで……、わがままだって分かっているけど……」
 米田さんはうつむいてしまう。
 やっぱり優しい性格で、申し訳なく思ってくれているのがよく分かる。

「二人を仲直りさせたいんだろ?」
 次は前方から声が聞こえる。あいつだ。

「ちょっと、人の話盗み聞きしないで!」
「優花に話をしようとしたら、聞こえてきたんだ」
「何、話って!」
「それよりお助け係の仕事の方が先だろ? 米田さんの話を聞くぞ」
 確かに。今は米田さんの話の方を聞かないと。

「ありがとう……、ごめんね。昨日の日曜日、三人で買い物行く約束してて待ち合わせ場所に行ったの。そしたら既にケンカが始まっていて、『失くしたのは自分じゃない』って言い合ってて……」
「何を失くしたんだ?」
「三人でしている交換ノートで……」
 そう言った米田さんは、またうつむいてしまった。

「ノート? なんだ、そんな物? また作ればいいじゃん」
 どれほど高い物を失くしたのかと思ったけど、ただのノート。そんな物でケンカする?

「あれには大事な思い出がいっぱい書いてあるの。だから、失くなってしまうのは……」
「なるほど、それはケンカになってしまうな。……なあ、まさか三人の秘密とか書いてないよな?」
「……あ、うん……」
 そう言う米田さんはうつむき、次はほっぺたを赤くする。
 え? 何について書いたのだろう?

「それ、かなりまずいんじゃないか?」
「ううん、鍵付きだから大丈夫かな」
「そうか。まだ良かったな。状況は分かったし、探そう! とりあえず、明日二人から失くした時の状況を聞いて良いか?」
「ありがとう。明日、二人に話しをしてからで良い?」
「もちろんだ。じゃあ、明日な! 優花、明日に備えて早く寝ろよ!」
「だから名前で呼ぶなー! 余計なお世話!」
 こいつは、私の憎まれ口にもいたずらっ子のように、ニコッと笑い走って帰って行く。

「……本当に仲良いね二人とも。私たちも、早く仲直りしたいよ……」
 米田さんはムリに笑った顔をする。
 本当に苦しんでいるんだ。
 でもね、私たちも今……。

「うん……」
 私はあいつと気まずくなっていると言えず、ただうなずく。
 そして、また明日と別れる。

 とにかく心の大きなつっかえはなくなった。
 だけど、米田さんの顔が忘れられない。
 力になりたい。そう思った。

 私の力なら、ノートを取り出すことはできる。
 でも、私が明日学校に持って行ったら不自然すぎるよね?
 私の力は欲しい物を取り寄せることはできても、それを特定の場所に届けることはできない。
 集団登校だから、一番に学校に行くこともできない。
 移動教室の時にこっそり置く?
 いや、えんぴつや消しゴムならともかくノートは大きすぎる。誰かに見られたら、また……。

 結局私は、米田さんより自分を選んでしまった。
 明日話を聞いて考えよう。

 そう思い、早めに寝る。
 明日は力をいっぱい使うことになりそうだから。

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