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5話 魔法少女と差出人不明のラブのレター(1)
しおりを挟む「何これ! 嫌がらせ?」
私は手紙を見て、手を震わすけど。
「……普通にラブレターだろ?」
そんな私に、こいつは呆れたような顔を見せてくる。
「ラブレター? ラブのレター? 何それ? 何がしたいの、そんな物渡して」
「愛の告白だ」
「何で直接言わないの?」
「直接言えないこともあるんだよ。優花は鈍いなー」
(悪かったな! だったら、差出人の名前ぐらい書いといてよ。全く、さっさと出てきてよ。その差出人!)
こいつの得意げの顔にイラッとしてそう思うけど、それはマズイ。
(……あ、待って、やっぱり出てこないで! 人を呼んでしまうのは、すごくまずい! 自分を抑えろ! 心にフタ! お願い、来ないでー!)
私は慌てて周りを見渡すが、それらしき人は居ない。
どうやら間に合ったようだ。良かったー!
何度もやっているが、魔法の力が出る前に強く念じることで止めることもできる。
でも、取り消すのはすごく力がいて疲れる。
だから、本当はやりたくないのだ。
「相手に心当たりとかないのか?」
手紙を見つめながら、こいつはするどい目つきでそう聞いている。
「ない……かな……」
「学年は同じだと思うか?」
「え。えーっと」
米田さんは口ごもり、うつ向いてしまう。
だけどこいつも引かない。
「頼む、教えてくれ」
「……同じだと思う……」
「そっか。ありがとう。じゃあ最後に。この手紙になんて返事するつもりなんだ?」
「え! あ、いや、その……」
こいつの問いに、米田さんはまたうつむき、モジモジとしてしまう。
そのほっぺは、さっきより赤くなっていた。
「……分かったよ。じゃあこの手紙、預かって良いか?」
「え? あ……」
米田さんは手紙を渡してきて、何かを言おうと口を開けるけど、すぐにギュッと閉めて黙り込んでしまう。
あれ? こんなに話さない人だっけ?
「大丈夫、丁重に扱うから」
「あ、ありがとう。お願いできる?」
そう言い、米田さんは何度も頼みながら家に帰って行った。
そんな背中にふっと思う。
変な手紙なんか、放っておけば良いのに。
「じゃあ……」
こいつにそう言い、私も家に向かおうとする。
「何言ってるんだよ? これから、お前の家でミーティングだろ?」
「……え? はあー? しかも何で私の家なの!」
「オレは四年の頃に引っ越ししてきたから、情報が少ない。だけど、優花の家ならあるだろう?」
「何が?」
「文集だよ」
「文集? 学年の終わりに一年のまとめを書くあれ? そんなもん見てどうするの?」
「字を見比べるんだよ」
「え? マジで? 五年生男子って何人いると思っているのー! 」
「えー。八十人ぐらいだったかな?」
「ウソでしょう……」
放心状態の私を尻目に、結局こいつは有無を言わさず私の家に来た。
(カギは自分で使う! 自分で使う!)
私はカギをランドセルから取り出し、早々に念じる。
こいつの前で、うっかり魔法を使ってしまったら終わりだからだ。
「おじゃましまーす!」
「じゃまするなら帰ってー!」
「あいさつだろ? いらっしゃいぐらい言えないのか?」
「言わなーい!」
そう言いながら、リビングでこいつを待たせる。
早く帰らせたい。そう思いたいのを必死に抑えて、私は二階にある自分の部屋に行く。
こいつに、絶対ここで待っていてと念を押しながら。
(文集は確か……)
部屋を見まわし、どこに片付けたかを思い出す。
(あ、そうだ棚の奥の……)
そう思った瞬間、私の両手に一年生から四年生までの文集が現れる。
(うわあー! またやっちゃったー!)
また魔法を使ってしまった。
場所を思い出した瞬間、取り出すのが大変で嫌だと考えてしまったからだろう。
睡眠不足から抑えられなかったのも、一つの理由だ。
(まあ、誰も居なかったし、良か……。)
後ろを振り向くと、こいつは無表情で私を見ていた。
(終わったー! 見た? 見たよね? 私のバカー! 自分の部屋だからって気を抜き過ぎた!)
私の頭の中はパニックになる。もうだめだ、もう……。
「……へぇ、優花はこういうの好きなんだ」
そう言い、こいつは私の部屋に入って来た。
「は? ちょっと待って! 何、勝手に入って来てるの?」
私の部屋は、カーテン、ベッド、机、タンス、全てがピンクだ。
しかも、ユルカワイイ「ウサウサ」という、うさぎのぬいぐるみが大好きで集めている。
……極め付けには、幼稚園向けのキャラクターだったりする……。
こいつに、こんなの見られるなんて本当に終わったー!
「学校では、服も持ち物も地味なのにこうゆうかわいいの好きなんだ。なんで、学校に持ってこないんだ? 文房具ならキャラクターものは許可されているだろう?」
「うるさい!」
私はこいつをムリやり部屋から追い出す。
そうしないと魔法を使ってしまいそうだったからだ。
あんたには、私の気持ちなんて分からないんだよ!
「……悪かったよ。でも別にいいじゃねーかよ。好きな物は好きで! 」
「笑わないの? 全然、私のイメージじゃないし!」
「そのイメージって誰が作ってるんだ? 」
「え?」
私は黙ってしまう。そういえば誰なのだろう?
「自分で作ってるんだろ? 別に、お前がかわいい物持ってても誰も笑いもしねーよ。だろ?」
「……うん」
思わず頷いてしまった。
なんだろう、こいつは。私の心でも読んでいるのだろうか?
言って欲しかった言葉を、もらったような気がした。
「そんなことより、米田さんの手紙! 持ってきたの?」
私はこいつから目をそらす。恥ずかしくて見ていられなかった。
「え? だって下のリビングで……」
「文集を持って降りるのがめんどくさいの! だから、手紙持ってきて! 私のランドセルもね!」
「ああ!」
そう言い、あいつは降りて行った。
今のうちに気持ち落ち着かせないと……。
窓から外の景色を見ながら、深呼吸をする。
なんだろう、いつもと同じ景色なのに世界がキラキラして見える。
かわいい物が好きのを知ったのも、この部屋に入ったのも、あいつが初めて。でも、なんか、今は嫌な気は全然しなくて、むしろ……。
「待たせたなー。始めよーぜ」
「うん……」
(だめだ、全然落ち着かなかった。いやいや、今は米田さんのこと! そうだよ、こいつはその為に来ているんだから)
私は頭の中を、必死に入れかえる。
米田さんに笑ってもらう為に、差出人を特定したいから。
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