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44話 偽装不倫の行方(3)
しおりを挟む……そこは花屋だった。
「お花屋さん?」
「うん、バーで花飾ってあるだろう?いつもここで購入させてもらっていたんだ。」
「え?そうなの?オシャレだもんね!」
「うん、『バー アネモネ』だからね。」
「アネモネ?」
佐和子は意味が分からず大輔を見る。
「アネモネは花の名前なんだよ。ほら。」
大輔は花を指差す。
赤、ピンク、白、紫、オレンジ、黄色の色とりどりの花が売っていた。
「え?そうだったの!……知らなかった……。」
「まあ、知らない人多いから。ほら、綺麗だろう?色によって花言葉が違うんだよ。」
「へぇ、そうなんだ!教えて!」
「うん、白は『希望』、ピンクは『期待』、そして赤は……。」
大輔は佐和子を見る。
「……え?『おバカ』とかじゃないよね?」
佐和子の発言に大輔はずっこける。
「違うよ、赤はね……。」
「大ちゃん、いらっしゃい!」
店の亭主の女性が出てくる。
佐和子は咄嗟にその場を離れる。
「あ、おばちゃん。」
二人は昔ながらの知り合い。『バー アネモネ』の花を卸してもらっている関係だった。
「最近、買いに来ないね?」
「今臨時休業中で……、ごめんおばちゃん。」
「早く再開させてよ?」
「あ……、そうだね……。……あ、10本くれない?」
「あいよ、何色にする?」
「……全部赤で!」
「全部!……ああ、なるほど……。さっきいた子はやっぱり連れ?」
「余計な事言わなくて良いからね!」
「はいはい。」
支払いをし、しばらく待つと、女性亭主は二つの花束を持って来る。一つは大輔の注文通り赤い花束、そしてもう一つは様々な色の花が束ねられた花束だった。
「……え?一つしか頼んでないけど?」
「もう一つはあんたにプレゼント。」
「いや、一つ分しか支払ってないし。」
「またバーするようになったら買いに来たら良いだろう?」
「……ありがとう、おばちゃん……。」
大輔は花屋を後にし、隠れている佐和子に声をかける。
「もう、別に隠れなくて良いのに。」
「なんか反射的に……。それよりお店に飾る花を買ったという事はお店再開するんだよね?」
佐和子は目を輝かせる。しかし……。
「ごめん、そうじゃないんだ。これ佐和子ちゃんに……。」
大輔はそう言い、佐和子に赤いアネモネの花を渡す。
「……え?私に?」
佐和子は唖然とする。誕生日でも何でもないのに、意味が分からなかった。
「……親父がお袋にプロポーズした時に渡したらしいから……。青の花言葉は『固い誓い』らしいからね。」
「素敵な話だね。」
「亡くなる前に親父がさ、もし……。」
大輔は佐和子を見る。
「……いや、止めておくよ。」
「え?何?」
大輔は佐和子を見つめる。
「……あ、そろそろ帰らないと……。指輪……。」
佐和子は明らかに目を逸らす。
「……うん。」
大輔はポケットに手を入れる。
「……あ、あれ?バーの鍵がない!」
「え!嘘!」
「さっきバーに行った時はあった!落としたのかもしれない!」
「大変じゃない!」
「悪いけど一緒に探してくれない?」
「勿論!じゃあ私はお花屋さん付近探すから!」
「……いや、待って……。」
大輔は佐和子の手首を掴む。
「……え?」
「俺はバー付近を探すから、佐和子ちゃんは細道を探して!」
「でも、花屋さん付近かもしれないよ?」
「いいから、細道を探してくれないかな!」
「……う、うん……。」
佐和子は大輔の勢いに押され細道を探す。スマホのライトで地面を照らしながらゆっくり歩きバーの鍵を探す。
しかし鍵らしき物は見つからず、しばらく探していると大輔が戻って来る。
「佐和子ちゃん!鍵あったけど取れなくて……。取ってくれる?」
「任せて!」
佐和子は大輔が指定する場所に走って行く。
そこはバーの前だった。
「どこにあるの?」
佐和子の問いに大輔は何も言わない。
「大輔さん?」
大輔は鍵を使い、バーの扉を開ける。
「あれ?鍵あったの?良かった……。」
大輔は佐和子の問いかけに一切の返事をしない。その様子は異様だった。
「大輔さん?具合悪いの?大丈夫?」
佐和子は大輔の元に駆け寄り、顔を覗き込む。
「……佐和子ちゃん……、中に入らない?」
「……あ、ううん。帰るから……。指輪返して。」
佐和子は大輔から目を逸らす。
次の瞬間、大輔は佐和子の手首を強く掴む。
「……え?」
「……指輪は返さない……。」
「大輔……さん?」
大輔は佐和子の手首を掴み、バーの中に引き摺り込もうとする。
「大輔さん!待って!痛い!何!なにー!」
佐和子は突然の事にただ叫ぶ。
「……君は本当に警戒心がないね!俺だって男だと言ったの忘れた?」
「え!待って!意味分からないんだけど!」
「そんな簡単に身を引くと思った?このまま帰すと思った?そんな訳ないだろう!」
佐和子は大輔の豹変ぶりに恐怖を感じる。
「いやー!やめて!」
大輔は佐和子の手を掴み、無理矢理バーに引き摺り込もうとする。
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