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30話 川口圭介(1)
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大輔と佐和子は一年前に大輔の店のバーで出会った。佐和子が二人の男性達にバーに連れて来られ、危ないところを大輔が身を挺して佐和子を守ったのだ。
結果、大輔は男に殴られ歯を折る事になったのだが佐和子はその事を知らず、二人はバーのマスターと常連客の関係となる。
大輔は出会った時から佐和子を気にかけているが、佐和子が夫を愛している姿から佐和子を支えると決める。
佐和子が夫と向き合えない姿に偽装不倫を提案。補佐まで買って出る。しかし、連絡を頻回に取るようになり二人の距離感が狂っていく。
佐和子は夫が、自分との結婚は世間体の為、夫は不倫していると主張し大輔に当て付け不倫をして欲しいと頼んでくる。
いつもなら断り距離を取る大輔だが、抑制していた感情が溢れ我慢出来なかった。大輔は佐和子を連れて逃げるつもりでいたが、不倫関係を望んだ佐和子が大輔を拒否。謝り、もう会わないと話し夫が居る家に帰って行く。
佐和子はやはり夫への気持ちがあり、裏切る事は出来なかった。大輔への未練もあるが、もう会わないと決意し前へ進んで行くと決める。
一方大輔は、佐和子を引きずりつつ佐和子の為に誹謗中傷に加担していた女性達に佐和子を晒さないように釘を刺す。こうして、誹謗中傷の事件は終わるが大輔は佐和子に連絡を取りまた会おうとする。
佐和子はさすがにこれ以上は引き返せなくなると分かっており拒否するが、偽装不倫を始める時に不倫関係の証として指輪を預けており、次の土曜日に返してもらう約束をする。
土曜日、佐和子は夫に買い物に行くと嘘を吐き大輔のバーに指輪を受け取りに行く。
しかし大輔は指輪を返して欲しければ一日デートをするように要求してきて佐和子を無理矢理連れ出して行く。その行動には恐ろしい計画があり、初めは帰らないといけないと言っていた佐和子も段々楽しんでいく。
そんな佐和子の心の隙を付いた大輔は、佐和子に鞄を預かると騙しスマホから夫の電話番号を入手する。そしてメッセージアプリから佐和子の夫にメッセージを送る。その内容は「お前の妻は俺と不倫している」というメッセージだった。
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30話 川口圭介(1)
── 『あなたはお母さんの言う事だけ聞いていたら良いの。』
……それが母さんの口癖だった……。
……俺は物心ついた時から何一つ自分では決められなかった。テレビ、おもちゃ、お菓子、プレゼント、服、靴、幼稚園の小物、友達さえも……。
それが当たり前なんだと思っていた。……でも幼稚園の友達はみんな自分で選んでいた。好きなテレビを見て、好きなおもちゃやお菓子を買ってもらって、欲しいプレゼントをねだって、好きな服や靴履いて、幼稚園の水筒、お弁当箱、お箸、巾着、絵本袋、上靴入れ、好きなキャラクターの物を揃えてて、その姿に自分の物は自分で選んで良いのだと知った。
……俺も欲しいと頼んだ。仮面ヒーローをテレビ見てみたい、おもちゃで遊んでみたい、お母さんが作るお菓子以外も食べてみたい、仮面ヒーローの物を一個で良いから買って欲しい……と。
……でも、何を言っても『あなたはお母さんの選んだ物で良い』としか言ってもらえなかった……。
それでも言い返すと、酷い癇癪を起こして怒鳴ってきて物を投げられ叩かれた……。そんな悪影響を与える友達とは遊ぶな……って……。
父さんはそんな母さんを見ていたのに止めてくれなかった。仕事ばかりで家族なんて見ていない人だったからだ……。
食事は毎日質素だった。薄い味付け、少ない量、野菜ばかりで魚や肉はない。お菓子は小麦粉を焼いただけのホットケーキ。全然甘くなく、味がしない。飲み込みにくく、喉に詰まりそうなパサパサとした食感。砂糖も蜂蜜も何もかけておらず、美味しいはずなどなかった。
……うちにお金がないのかと、幼いながらに考えたけどそれは違うと思う。現に、家は大きく、車も高いと近所の人が言っていたから……。それに、父さんは立派なお仕事をしているとも聞いていたし、少なくても当時はお金はあっただろう。
……自然由来で子供を育てたいと望む親、そうゆうこだわりがある親が居るのだと知ったのは大人になってからだった……。
成長期の子供が魚や肉を食べない……。そのせいで、俺は学年で一番小さく痩せていた。当然だろう……。発育不全の俺を病院に連れて行くように幼稚園の先生や保健師さんは話をしてくれていたらしいけど、母さんは無視していた。
こうして俺は小学生になった。入学準備の時、俺は何も言わなかった。言っても無駄……。反発したら叩かれる。だから母さんが揃えた物を「買ってくれてありがとう」と言い使うしかなかった……。
友達は入学祝いに、好きな鉛筆入れも鉛筆も消しゴムも買ってもらっていたのに……。でも我慢するしかなかった……。
でも、学校に通い始めて嬉しかったのは給食があることだった。魚も肉もある。味もしっかりついている。美味しいデザートもある。俺は無我夢中で食べた。
最初は胃が受け付けなかったのか吐いてしまったけど、それでも毎日食べた。美味しくて、残ったおかずはみんながきらいで食べたがらない物でも俺は全部食べていた。
その姿に先生は怒らず、むしろおかずを分けてくれ「食べなさい」と言ってくれた。
母さんは、魚や肉やデザートは絶対食べるなと言っていたけど、そんなの関係ない。体は栄養を求めているんだからひたすら食べていた。
そうすると俺の体は途端に成長し始めた。……家の食事は栄養が足りてない。明らかだった。
幼少期の栄養状況のせいなのか、俺の体は成人しても160センチ以下だった。それ以外にも、病弱、胃腸の弱さ、食が細い、油物が受け付けないなどの弊害が今でも出ている。
……元々の体質なら仕方がないけど、食生活のせいだったかもしれないと考えると俺は今でも許せない感情が湧き出てくる……。
そして、学校に入学すると母さんはまた別の事を求め始めた。成績の全てに二重丸が付くことを……。俺は運動が苦手。体育の成績だけは悪く、丸だった。
それに対し、いつも努力不足だって叩かれた。テストで100点取れない時も同じだった。でもね、朝少ししか食べてないんだよ?お腹空いて力なんて出ないよ……。
それでも中学年までは授業を受け、宿題をしていたらなんとかなっていた。でも、高学年になると勉強は一気に難しくなった。宿題と予習復習でなんとかなかったけど、少しでも気を抜くと間違えるようになっていった……。
その度に母さんは俺に物を投げつけ叩き怒鳴りつけた。「運動が出来ないのだから勉強しかないだろう?」「お前の父親は出来ていた」「何故お前は出来ない」と……。
父は頭が良く公認会計士の仕事をしていたらしい。……でも母さん、俺は父さんじゃないよ……。父さんは一回聞いた事を覚えられたみたいだけど、俺はそんな事出来ないよ?何度も読んで書いて覚えているんだよ?詰め込めば、古い事は忘れるよ?……お願いだから立派な父さんと一緒にしないで……。
そんな日々を過ごしていた五年生の冬、父さんが亡くなった……。泣き叫ぶ母さんの横で正直どんな感情でいて良いのか分からなかった。
だってほとんど家に帰って来なかった人だよ?関わって来なかった人だよ?俺が叩かれて怒鳴られていても助けてくれなかった人だよ?悲しむなんて出来ないよ……。
そしたら、お前は薄情だとまた叩かれた……。そんな事言われても、こんな疎遠な人を父だと言われても分からないよ、悲しめないよ。
「薄情」「冷たい人間」「最低なクズ」何度も言われ、俺の頭はその言葉が離れなかった……。
父が亡くなり三ヶ月後。俺は学校で、腹部の激痛に苦しみ病院に運ばれた。原因は不明だったが、ストレスではないかとお医者さんに言われた。……実はストレスで体を掻きむしる癖があり体中が引っ掻き傷だらけだったからだ……。
学校の先生に聞かれる度、痒いからだと答えていたけど、さすがにお医者さんはごまかせなかった……。
父が亡くなった事がストレスだろうからと、お医者さんと二人で話をした。……先生違うよ、俺はそんなに優しい人間じゃない。だから早々に話を切り上げようとしたら先生にはこう言われた……。
『お母さんの事で悩んでいない?』と。
……言えなかった。母さんに叩かれているなんて……。父さんが亡くなった事に悲しまなかったせいだなんて……。薄情な人間だと分かっていたから……。
そしたら、先生は言ってくれた。
『お母さんには先生から話をする。だからお母さんが変わるのを待って欲しい。君も変わらないといけない。嫌な事は嫌と拒否していい。良い子を演じなくていい。……お母さんに叩かれているよね?それはしてはいけないと学校で習っているだろう?』
『……お母さんの言う事を聞かないから……。』
と俺は言い返した。
『それは理由にならないよ。どんな理由があっても体罰は正当化出来ない。』
先生はそう言ってくれたけど、当時の俺には意味が分からなかった……。親はそれが普通じゃないの?気に入らなかったら子供を叩いて怒鳴るのが普通だよね?みんな言わないだけでそうだよ。
……幼稚園児だった時に感じた初めての違和感は、もうとっくに忘れていた。……今なら分かる。生きていく為に、忘れるしかなかったのだと……。
でも、見かねた先生が言ってくれた。
『……もし、お母さんが変わらなかったり、お母さんに不信感が出たら離れた方が良いからね。今は無理でも、大人になったら離れられるから。自分の力で離れなさい。』
『親はどんな状況でも子供の幸せを一番に考える。もしお母さんが君の幸せよりも、自分の都合で話をしてきたらそれは愛ではないからね。離れる方法を考えなさい。……分かったね?』
その意味も当時は分からなかった。親が子供の幸せを一番に考える?そんな親居るわけないだろう?にわかには信じられなかった……。
その後、どうやら先生は母さんにも話をしていてくれていたらしい。それから叩かれる事はなくなった……。
しかし、やはり俺の考えは聞いてくれなかった。本当は友達の家で食べる甘いチョコレートが好き、友達と読む漫画が好き、友達が着ているかっこいい服が着てみたい、昨日見た面白いテレビの話がしてみたかったけど、それを言うと俺を睨んでくる。そして俺はあの目で睨まれると身がすくんでしまう。……良い子を演じるしかなかった……。
結局、中学になっても好成績を求められ二重丸からオール10に変わっただけだった。高学年以上に難しい内容……。塾などは行かず、一人で勉強するしかなかった……。
頑張って学年一位を取っても、100点取っても、成績表に10が並んでも、母さんは褒めてくれない。取れなかった教科にずっと怒っていた。
……俺はどうしたら認めてもらえるの?毎日の努力は認めてもらえないの?みんな俺の事天才だというけど、天からの才能に恵まれたのは父さんのような一度見たら覚えて理解出来る人の事を言うんだよ。俺はただの凡人、何度も勉強して頭に叩き込んでいるだけ……。
だから中学三年生になり、受験勉強用のテストを受けて驚いた。あんなに必死に覚えた内容、殆ど覚えていなかった。
……結果を見た母さんは俺を何度も叩き怒鳴った。「こんなに馬鹿だとは思わなかった」って……。
……次、お母さんに叩かれたら学校の先生や児童相談所の人に言いなさい。
それが、あのお医者さんとの約束だった。
……でも言えなかった……。児童相談所の人がうちに定期訪問すると、母さんすごく機嫌悪くなるから……。やっと終わったのに、俺が言ったらまた大事になるから……。
穏便に済ませる為には母さんを怒らせない事……。それは、母さんが望む名門私立高に受かる事だった。
俺は必死に勉強した。一度は覚えていた事。大丈夫、出来ると自身に言い聞かせた。
……結果、合格した。これで叱られない、叩かれない、物を投げられない。穏やかな生活が送れると涙した。
しかし……。
『……え?県立?』
『そう、県立行きなさい。併願していたでしょう?』
母さんは私立高校の合格が決まった後、急に意見を変えてきた。
『え……、でもせっかく勉強したのに!すごく大変だったのに!』
『うるさい!あなたはお母さんの言う事だけ聞いていれば良いの!』
そう言い母さんはやはり物を投げつけ、何度も叩いてきた。……母さんも泣いていて、もう意味が分からなかった……。
この人は何がしたいのだろう……?どうして俺は、自分の方が力が強いのに反撃しないのだろう?母さんにも自分にも理解が出来なくなっていた……。
結局、母さんは本当に私立高に入学金を払わなかった為、俺は県立高に行く事となった。
……あの時は理不尽さに泣いたが、今となってはそれで良かった……。あんな名門私立高に入学していたら落ちこぼれだっただろう。俺は頭が良くない。それを自覚している。受けた高校は家から近いという理由だけであり、学力や進学就職は全く考えていなかった。……本命じゃなかったから……。
でも、この三年間が一番楽しかった……。特進クラスだったけど、授業をしっかり聞き宿題をしたら成績はついてきた。母さんにバイトして家にお金を入れて欲しいと言われて、高校に許可を取ってコンビニでバイトしていたけど、それも楽しかった。勉強とは違う外の世界がある。店長は頑張って働いた分だけ褒めてくれ時給も上げてくれた。
そして、初めてコンビニのお弁当を食べた。あまりにも濃い味、油の多さに胃が驚いたのか吐いてしまった。憧れていた外の食事はこんなに濃いのだと初めて知った。
……俺は店長に頼み込んで、給料は手渡しにしてもらった。給料明細を捨て、僅かにごまかした差額を自分のポケットに入れ、チョコレートをこっそり買って食べる。一番幸せな時間だった……。
こうしている内に、高校一年の文化祭の準備が始まった。やるのはお化け屋敷。正直食べ物が良かったけど、お化け屋敷も楽しかった。みんなで仕掛けや舞台やお化けに扮する為の服を作る。中学の時は勉強ばかりで楽しんでいられなかった為、すごく楽しかった。バイトとは違う、ただ楽しい感情だけで参加出来た。
文化祭当日もただ楽しかった。
『きゃあー!』
叫びながら生徒がお化け屋敷から出て来ては……。
『何あのお化け!マジでヤバいんだけど!』
『クオリティ高すぎじゃない!』
出て来た人みんな怖がり、面白がってくれた。お化け屋敷は成功だった。
俺は出口担当。出て来た人を確認して入り口担当に合図を送る。志願した、お化け役なんて上手く出来ないだろうし、出口で素の反応を見る方が嬉しい。だから楽しんでいた。そこに……。
『ねえ、綾乃?本当に行くの?』
『大丈夫!手繋いであげるから!』
二人の女の子達が俺の前を通り過ぎながら話しており、お化け屋敷に入っていった。
ずっと見ていた一部の光景……、特に気に留めていなかった。しかし……。
『きゃあー!!!お化け!!お化けー!!』
『追いかけてくるー!!いやあー!!』
『助けてー!!』
その声は出口まで筒抜けだった……。待っている生徒全員が驚き、そんなに怖いのかと震え上がっていた。
……すごい子が来たな……。さっきの子かな?
『いやあー!!もう許してー!!うわあああーん!!』
一人の女の子が出口から勢いよく出て行き、もう一人の女の子が走って追いかける。
……大丈夫……、あの子……?
そう思っていたら、友達が目の前に現れた。
『うわあ!』
『……俺だよ。』
お化け役の友達だった。見るに恐ろしい特殊メイクに白い布を被っている。
『さっきの子は?』
『もう帰っていったよ……。』
『参ったなー。あの子ケータイ落として行って、落としたよと言いながら追いかけたら、余計に逃げて行って困っていたんだ……。』
俺は、友達の顔に思わず
『……うん、まあ、逃げるね……。』
と呟く。
その後、そのケータイは先生に預かってもらい、校内放送で持ち主が見つかりひと段落ついたと思われた。しかし……。
『……あの、すみません。今日、お化け屋敷で携帯落としていったんですけど、ストラップ落ちてませんでした?』
片付けをしていたら、一人の女の子が話しかけて来た。話を聞くと、彼女は携帯を落とした子の友人。大事なストラップを無くし、友人は泣きながら探しているとの事だった。
事情を聞きみんなで探した。しかし見つからず、残念な報告をするしかなかった。彼女は俺にお礼を言ってくれ、仕方がないと友人を宥めていたが、その友人の子はずっと泣いていた……。
俺はその子の泣いている姿が忘れられなかった……。文化祭が終わり、通常授業が始まり、いつもの生活が戻ってもその子が忘れられなかった……。
そして聞いた。このストラップは体育祭での優勝祈願にみんなで雑貨屋に行き、一人一つ作った物だったと。結果、優勝しみんなで大事にすると決めていた物だったと……。
お金では買えない価値のある物がこの世に存在するのだと、俺は初めて知った。
……俺は気付いたら夢中でストラップを探していた。しかし見つからない。それはそうだ、だって失くしたと聞いた時、みんなで探していたのだから……。
でも探した。何日も、何日も……。クラスのみんなに再度聞いたり、小道具大道具の中に紛れている可能性を考え探したり、教室の隅々を探したり……。でも見つからなかった……。
でも、俺は夢中で探していた。泣いていたあの子にただ笑って欲しくて……。常にあのストラップの事を考えていた俺は気付いた。
あの日はお化け屋敷の為に教室の配置を変えていた。ストラップを失くしたと聞いたのは配置を戻した後、もしかしたら本棚やロッカーを動かした時に挟まっていたのかもしれない……。
しかし、重くて一人では動かせない。途方に暮れていると友達が手伝ってくれた。……そして、本棚の裏側に引っかかっていた……。
『sw……、これだ!』
やっと見つかったストラップは鎖の所が切れていたが、しかし鎖さえ交換したらまた使える状態だった。
『ほら、早く届けてやれよ。』
『……でも。』
『早く。安心させてやれよ!』
『ありがとう!』
俺は走って彼女のクラスに行く。廊下を走るなんて校則違反。跪いたり本棚やロッカーを動かしたりして埃まみれだったらしいけどそんな事、微塵も考えずただ夢中で走って行った。
ストラップを失くした子のクラスに着く。
教室の窓際には、ストラップを失くしたと言っていた子と、複数人の女の子が一人の女の子を囲んでいた。
そして、女の子達に囲まれている窓際の席の女の子は机に顔を突っ伏しながら泣いていた。
── この子がストラップを失くした子……?
俺はゆっくり近付く。
『佐和子……、まだ泣いてるの?』
『だってみんなでの思い出のストラップがー!ごめんねー!』
『もう良いから忘れよう。見つからないのは仕方がないから。』
『……うん……。』
── やっぱりあの子か……。なんか一人小さいな……。まだ諦められなかったんだ……。これを渡したら泣き止んでくれるかな?笑ってくれるかな?
『……渡辺佐和子さん……。』
『……え?』
俺を見上げてきた顔は、涙で目も鼻も赤く子供ように泣きじゃくっていた。顔が丸い事に、より幼く見えた。
……しかし彼女は失くしたストラップを見ると、途端に笑った。……野花のような可愛らしい笑顔で……。
そのストラップは太陽の光に反射してキラキラ光り、彼女の涙と笑顔のように輝いていた。
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