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15話 偽装不倫の代償(3)
しおりを挟むどれぐらいの時間が過ぎたのだろうか?大輔は雪が降る中、ひたすら佐和子を探す。
東京は雪が降ると電車やタクシーが動かなくなる事もある為、雪がちらつく今日みたいな日は人通りが極端に少ない。
だから大輔は、雪で出来たと思われる佐和子の足跡をひたすら追いかけている。しかし佐和子は見つからない。
それに、佐和子とは違う大きな足跡も多数ある。自分の靴とも違う足跡が……。
大輔はとうとう人影を見つける。あの髪型にマフラー、あの無理矢理大きなコートを着ている後ろ姿は佐和子だ。そう思いゆっくり近付く。
……しかし大輔はその人影の違和感に気付く。
そして、佐和子のある姿を目の当たりにして足を止める。
大輔はその姿に明らかに肩を落とし、佐和子に背を向けバーに向かってゆっくり歩いて行く。
大輔は店に戻るなり、自分用にウイスキーを開けロックで飲み始める。
泥水で服が濡れ、その状態で長時間外を走り回っていた為、体が冷えているが大輔は着替える事も家に帰る事もせずにウイスキーを黙々と飲んでいる。
……何杯も何杯も……。飲んでも酔う事は出来ず、ただ一人黙々と飲み干す。
そして大輔は考える。何故佐和子は泣いていたのか?何故急激にあそこまで痩せてしまったのか?何故自分をあそこまで拒絶するのかを。
メッセージアプリをブロックされている事は気付いていた。旦那が気付いたなら、むしろ『偽装不倫』は上手くいったと報告してくれるだろう。だから違う。
自分が距離を縮めようとしたから佐和子が怖がり警戒したと思っていたが、バーに来ようとしてくれ自分のせいではないと否定してくれた。あの怯え様はなんなのか?「これは違う」とはどうゆう意味なのか?
次に大輔は佐和子の様子がおかしくなった時期を考える。やり取りを思い出す為にメッセージアプリの履歴を辿る。
自分をブロックした時?旦那と向かい合うと言った時?二人で出かけた時?偽装不倫をする事を疲れたと言った時?
……いや、もっと前からだ……。
メッセージアプリをもっと遡る。この日は二回自分から電話している。内容は、部屋を彩ったらどうかという話だったと記憶している。
そうだ、あの時雑誌を受け取りに来たらどうかと言ったら佐和子は遠慮していた。いつもの佐和子らしくない……。その前にあった事は……。参考にSNSを使用してみたらどうかと言った……。
「SNS!何か分かるかも!」
大輔はSNSの登録を済ませ、佐和子のアカウントを探す。名前、苗字、フルネームで探すがそれらしきアカウントは見つからない。
(……佐和子ちゃんの性格なら……。)
佐和子の好きなペンギンキャラクターの名前の愛称を打ち込む。佐和子はいつもそう呼んでいた。
あるアカウントが出る。しかし残念ながら、写真もプロフィールも投稿されておらず誰か分からない。
「……だめか……。」
大輔はウイスキーを一気に飲み干し溜息を吐く。
(……あの日、俺は佐和子ちゃんに検索を勧めた。その足取りを辿ってみよう。)
大輔も佐和子と同様に調べる。しかし思うような写真は検索出来なかった。
(……あ、本当に見つからないんだ……。悪かったな……。)
大輔はスマホをカウンターに置き、また溜息を吐く。
目的のものが見つからなかった。次は何をするだろう?
「旦那さん!」
大輔は「川口」と打ち込み手を止める。佐和子の夫の名前が「けいすけ」だとは知っているが聞いているだけ。漢字なのか平仮名なのかまでは知らない。当然顔も知らない。
だいたい、佐和子の夫がSNSなんてするのだろうか?話を聞く限り硬派みたいだし、銀行員。下手な事を投稿すると信頼に関わる。
また見当違いだと分かり落胆する。
大輔はおすすめの写真をぼんやり見ている。そこには仲の良い夫婦、友達と遊びに行った写真、可愛い子供の写真、仕事関係者で飲みに行った写真、様々な写真が投稿されていた。
(みんな楽しそうで、幸せそうで、輝いて見えるよな……。仲の良い夫婦や友達や家族、仕事仲間……、見るの辛かったよな……。)
大輔は佐和子にSNSを勧めた事を後悔し、同時に佐和子の気持ちが分かる。
「……馴染みの物を検索した!」
大輔の考えはこうだ。佐和子は知らない人達の充実した写真に落ち込んだのだろう。今、遠くにいる友達の検索をしても余計に幸せそうな姿を目の当たりにして辛いだけ。だから身近な、……自分の居場所を検索した……。
大輔は「バー アネモネ」と検索する。
写真は多数出て来た。
だいたいは
新規の客が隠れ家的なバーを見つけた。雰囲気が良かった。マスターかっこいい。美味しかった。
などの投稿だった。しかし、大輔はすぐにある写真に気付いていた。男女が手を繋ぎイルミネーションが彩る街中歩く姿が投稿されている事を。顔は加工アプリでぼかされているが分かる。佐和子と自分の隠し撮りされたであろう写真だと……。
大輔はそこのコメントを読み、ただ項垂れるのだった。
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