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3話 メッセージアプリ(2)
しおりを挟む「なにこれー!」
思わず佐和子は叫ぶ。
「ちょっと、こんなの圭介が見ていたら離婚まっしぐらじゃない!何考えて……!」
ピロロロロ、ピロロロロ。
スマホの着信が鳴る。
「ちょっと今の何!」
『……あ、ごめん……。』
気の弱い男性の声がする。
「……あ……れ?」
佐和子はスマホを見て着信者が誰かを確認する。……圭介だった……。
「圭介!今のは違う……。じゃなくて、どうしたの?大丈夫?」
『ごめん、今日は残業になりそう……。先寝てて。』
「今日『も』残業でしょう?ねえ、大丈夫なの?」
『うん、なんとかなりそうだから大丈夫。じゃあおやすみ。』
プツン、ツー、ツー、ツー。
電話が切れる。
「私は……、私は圭介の体の心配しているのに仕事の返事しないでよ!」
スマホに向かい不満を言うが電話は切れている。
圭介の仕事が一番、そのスタンス分かっている。しかし佐和子は、自分が一番ではない虚しさを怒りでしか表現出来ないのだ。
……それに、佐和子は誰にも言えない不安を二つ抱えていた。
「圭介……。やっぱり圭介は……。」
佐和子が本音を漏らそうとした時 ──。
ピコン。そんな佐和子にメッセージが届く。
「圭介!」
佐和子はスマホを見る。しかし……。
『佐和子ちゃん、こないだは楽しかったよ。また会おう。』
マスターからまたメッセージが来る。
「え?また送って来たの?……さっきのは誤送信?」
メッセージを開くと、先程のトーク履歴が消えている。正確には「川越大輔がメッセージの送信を取り消しました。」と表示されている。
「……え?意味分からないんだけど?」
佐和子はマスターに電話をする。
『もしもし……。』
マスターの話し方はいつもと違い硬い。まるで佐和子ではなく別の人物からかかってきたかのように。
「マスター?仕事中ごめんなさい。あのね……。」
『……佐和子ちゃん……、旦那さん見た?』
やはりマスターの話し方は歯切れが悪い。明らかに悪い事をしたかのような態度だ。
「ううん、残業だって。」
『そう!良かったー。……あ、じゃなくて仕方がないよね。じゃあまた明日に送るよ。』
「……ありがとう。でもあのメッセージは何?」
『あ!いや、あれは男友達にふざけて送ろうとして間違えた!だから取り消したんだ!お客さんいないからふざけていただけだよ!』
マスターは説明口調で早口で話す。まるで質問の答えを用意していたみたいに。
「なーんだ、そうゆう事ね。本当に離婚になるって騒いでいたのよ。」
『ごめんごめん、明日は気をつけるから!……旦那さん居ないんだろう?気をつけなよ。鍵かけてるよね?』
「え?でもすぐ帰って来るし。鍵使うの大変だろうから。」
『鍵かけてないの!だめだよ、今すぐかけて!女性が夜一人、鍵もかけずに居るなんて危ないんだよ!』
マスターは口調を強めて話す。
「分かったよ。」
佐和子は渋々施錠する。
『……全く君は危なっかしいな。』
マスターは溜息を吐く。
「……ねえ、どうしてここまでしてくれるの?」
『え?』
「だって色々と考えてくれて、メッセージまで送ってくれて、防犯まで。普通そこまでしてくれないよね。どうして?」
『それは……!』
マスターは黙り込む。
『……君の為じゃない、自分の為にしているんだ。』
「え?」
『……あ、いや。……お客さん来た、じゃあまた明日。』
「え?あ、うん。仕事中にごめんなさい。」
『良いんだよ。』
二人は通話を終える。
佐和子はカーテンを少し開け外の景色を見る。夜なのに明るい空からは雪がちらついている。
佐和子は12時まで圭介を待つが、帰って来る気配はなく仕方がなく先に寝る。いつもなら淋しさからなかなか眠りにつけないが、マスターと話したおかげか心が満たされている。
こうして佐和子は眠りにつく。誤送信されたメッセージの内容とマスターの主張が明らかに違う事にも気付かずに……。
それから二週間が経つがまだ上手くいかない。
ある日は例の如く寝落ち、ある日はソファーに置きっぱなしだと持って来てくれ、ある日は圭介にもメッセージが同時刻に来て自分だと思い込んでいた。
佐和子は「そんなミラクル起こるの?」とただ歯ぎしりをしていた。
マスターと話し合い、夕食時にしようとなったが駄目だった。佐和子はスマホを開いたままテーブルに置いておき、スマホの通知音をさせるが圭介は見ようともしない。
もうこの鈍ちん旦那に知らしめるには手段を選んでいられない。マスターも佐和子も「慎重」という言葉はとっくに捨て、大胆にも食器を洗っている間にメッセージが来たら教えて欲しいと言いスマホから離れたのだ。あからさま過ぎるがそこまでしないと分からないから仕方がない。
ピコン。
スマホの通知音が鳴る。
(来た!)
佐和子は身構える。
スマホを近くに置いていた圭介は、約束通り通知が鳴ったと持って来る。
「あ、急ぎの用事かもしれない。見てくれない?」
佐和子はわざとらしく話す。もうここまでお膳立てしないと圭介はスマホを見てくれないと、この二週間で思い知ったからだ。
「……友達からみたいだね。急ぎじゃなさそうだから置いておくよ。」
「……あ、ありがとう……。」
圭介はリビングに戻っていく。
佐和子はスマホを見る。待ち受け画面にはマスターの名前と「今日は楽しかった、また会おう。」と約束された文章が映し出されている。
(……圭介……、どうして?差出人の名前に大輔って書いてあるよ?男だって分かってるよね?確かに友達だけどあなたにはマスターの事話していない。心配とかしないの?私の交友関係とか興味ないの?あなたにとって私は何?)
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