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黄泉の端
つながる想い
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目を覚まし、朝食を終え、市民ホールへ行く。それが俺の休日ルーチン・ワークになっていた。
呼び掛けながら連休を乗り越え、平日はチラシを配り、皆が集まる時もあれば、1人で活動しなければならない日もあった。
様々なイベントが開催され、日々は矢のように過ぎ去ってゆく。カルタ大会、演奏会、ご当地ヒーロー『アワナミセブン』のヒーローショー……
そうこうしているうちにも、周囲の土地からは、ジュウロン会の店が徐々に減っていった。いま、アワナミ組は市民ホールへの攻撃を後回しとしている。おそらくは、『クラップロイドはラクに倒せる』、そうアマタ シュウに知られたがゆえに。
だが俺とてむざむざ負けを晒す気はない。奴のその慢心にこそ付け入る隙がある。
……あるとは思うのだが、奴と俺とではそもそも地力に差がありすぎる。ほんの数ヶ月前にヒーロー活動を始めたクソガキと、裏社会に長く身を置いてきた男では……。
それに、あの義脚。ヨモツギア・プロジェクト。
「……勝てないな、これ」
どう脳内でシミュレーションしても、勝てるビジョンが見えてこない。結局、奴らが本腰を入れて市民ホールへの攻撃を開始すれば、俺は……。
がこん、と取出口に落ちてきたペットボトルで我に返る。いま、市民ホール裏の自販機の前に居たのだ。
「……」
メロン味のソーダをちびちび飲み、ホールの中に戻ってゆく。
かなり活気のある廊下を歩き、たくさんの人が憩う調理室を通り過ぎる。そして、大ホール、ピカピカの壇上に手を掛けて登り、腰掛けた。
はじめて大将さんと並んでここに座った時は、もの寂しい雰囲気の、さびれたホールだった。だが、いまはどうだろう? 人々が行き交い、やりとりの声がそこかしこから聞こえて来る。
次にここを利用したい企業や、学校の事務方が来てくれているのだ。その他にも、外で遊ばせるより安心らしいママ友の交流の場になっていたり、廃棄予定で格安の野菜を使った弁当目当ての人が居たり……。
「……負けたくねえなあ」
思わず口から漏れる本音。クソガキでも、経験が足りなくても、どうにかしてあの細目メガネに一発勝ちたい。勝って、ここを守りたい。
大将さん達が必死に再興し、ここまでになったのに。
「……」
また、俺が弱いから諦めなければならな
「「「あー! やはりここに居たかっ!」」」
大きすぎる拡声器の音に、手に持ったペットボトルごとひっくり返る。
ソーダまみれで目をやると、そこには大将さん、みみちゃん、八百屋のおっちゃん、イコマ先生が居た。見慣れたメンバーだ。
「な……なんすか?」
「「「少年よ!! これを授ける!」」」
堂々たる雰囲気で歩いてきた大将さんが渡してきたのは……小さなバッヂのようだった。
服のボタンほどのサイズ。青い円形に、市民ホールを模したのであろう白い建物が描かれ、『市民ホールを守る会 名誉会員』と刻印されている。
「……これ」
「商店街のコネで作ってもらったんだよ。タカ坊が頑張ってて、何か皆も繋がりを感じられるものが出来ねえかと思って」
頭を掻き、照れ臭そうに言うのは八百屋のおっちゃんだ。
「堂本くん、他の人が来れない日も、雨の日も、ずっとここに居たでしょ? 1番最初に渡すならキミかなって」
イコマ先生がニコニコと言葉を継ぐ。
「堂本さんが頑張っててエラいのは皆知ってますからっ! 会員1号への意見はみんな一致でした!」
「1号?」
「「「うん! これ、皆で付けようと思うんだ!!」」」
大将さんがそう宣言すると、皆一様に手を前に差し出す。そこには、同じように、市民ホールを守る会のバッヂが乗っていた。
「はは、……いや、頑張ってたのは大将さんでしょ」
「うん。実を言うと、あたしはやめるつもりだったんだ」
「え?」
衝撃的な告白に顔を向けると、大将さんは懐かしむように遠い目をしている。
「はじめてキミに声を掛けた時、『これで駄目ならもう無理なんだ』って思ってた。だが、キミは聴いてくれた。頷いて、ここを守ろうと言ってくれた」
「……」
「何度か心が折れかけたけど、キミに救われたんだ。堂本少年」
皆が見てるのに泣きそうになるからやめてほしい。俺はむず痒いような、驚いたような、そんな感覚で所在なく頭を掻く。
「……そんな事言ったら、俺だって何度も助けられましたよ。先生とか、みみちゃんとか、おっちゃんとか……大将さんに、何度勇気を貰ったか」
帰ったらたまに置いてあるおにぎりも、疲れた時に癒してくれる天使の歌声も、帰り道に貼ってある市民ホールのポスターも。
そして、いつもうるさい拡声器の声も。
「……」
あぁ、そうだ。負けたくない理由なんて、戦う理由なんていつだってそれだけで良い。この人達の笑顔を、奪わせはしない。
「……ありがとうございます」
そう言い、胸元にバッヂをつける。じんわりと、体の内側が暖かくなる。
大将さんも、みみちゃんも、イコマ先生も、八百屋のおっちゃんも、みんな頷き、同じように胸元にバッヂをつける。新品のそれらは、皆の胸で誇らしく輝いた。
「皆で、市民ホールを救ったヒーローになりましょう」
「「「ああ!」」」
「はいっ!」
「うん!」
「おう!!」
秋祭りは、もう来週にまで迫っていた。
呼び掛けながら連休を乗り越え、平日はチラシを配り、皆が集まる時もあれば、1人で活動しなければならない日もあった。
様々なイベントが開催され、日々は矢のように過ぎ去ってゆく。カルタ大会、演奏会、ご当地ヒーロー『アワナミセブン』のヒーローショー……
そうこうしているうちにも、周囲の土地からは、ジュウロン会の店が徐々に減っていった。いま、アワナミ組は市民ホールへの攻撃を後回しとしている。おそらくは、『クラップロイドはラクに倒せる』、そうアマタ シュウに知られたがゆえに。
だが俺とてむざむざ負けを晒す気はない。奴のその慢心にこそ付け入る隙がある。
……あるとは思うのだが、奴と俺とではそもそも地力に差がありすぎる。ほんの数ヶ月前にヒーロー活動を始めたクソガキと、裏社会に長く身を置いてきた男では……。
それに、あの義脚。ヨモツギア・プロジェクト。
「……勝てないな、これ」
どう脳内でシミュレーションしても、勝てるビジョンが見えてこない。結局、奴らが本腰を入れて市民ホールへの攻撃を開始すれば、俺は……。
がこん、と取出口に落ちてきたペットボトルで我に返る。いま、市民ホール裏の自販機の前に居たのだ。
「……」
メロン味のソーダをちびちび飲み、ホールの中に戻ってゆく。
かなり活気のある廊下を歩き、たくさんの人が憩う調理室を通り過ぎる。そして、大ホール、ピカピカの壇上に手を掛けて登り、腰掛けた。
はじめて大将さんと並んでここに座った時は、もの寂しい雰囲気の、さびれたホールだった。だが、いまはどうだろう? 人々が行き交い、やりとりの声がそこかしこから聞こえて来る。
次にここを利用したい企業や、学校の事務方が来てくれているのだ。その他にも、外で遊ばせるより安心らしいママ友の交流の場になっていたり、廃棄予定で格安の野菜を使った弁当目当ての人が居たり……。
「……負けたくねえなあ」
思わず口から漏れる本音。クソガキでも、経験が足りなくても、どうにかしてあの細目メガネに一発勝ちたい。勝って、ここを守りたい。
大将さん達が必死に再興し、ここまでになったのに。
「……」
また、俺が弱いから諦めなければならな
「「「あー! やはりここに居たかっ!」」」
大きすぎる拡声器の音に、手に持ったペットボトルごとひっくり返る。
ソーダまみれで目をやると、そこには大将さん、みみちゃん、八百屋のおっちゃん、イコマ先生が居た。見慣れたメンバーだ。
「な……なんすか?」
「「「少年よ!! これを授ける!」」」
堂々たる雰囲気で歩いてきた大将さんが渡してきたのは……小さなバッヂのようだった。
服のボタンほどのサイズ。青い円形に、市民ホールを模したのであろう白い建物が描かれ、『市民ホールを守る会 名誉会員』と刻印されている。
「……これ」
「商店街のコネで作ってもらったんだよ。タカ坊が頑張ってて、何か皆も繋がりを感じられるものが出来ねえかと思って」
頭を掻き、照れ臭そうに言うのは八百屋のおっちゃんだ。
「堂本くん、他の人が来れない日も、雨の日も、ずっとここに居たでしょ? 1番最初に渡すならキミかなって」
イコマ先生がニコニコと言葉を継ぐ。
「堂本さんが頑張っててエラいのは皆知ってますからっ! 会員1号への意見はみんな一致でした!」
「1号?」
「「「うん! これ、皆で付けようと思うんだ!!」」」
大将さんがそう宣言すると、皆一様に手を前に差し出す。そこには、同じように、市民ホールを守る会のバッヂが乗っていた。
「はは、……いや、頑張ってたのは大将さんでしょ」
「うん。実を言うと、あたしはやめるつもりだったんだ」
「え?」
衝撃的な告白に顔を向けると、大将さんは懐かしむように遠い目をしている。
「はじめてキミに声を掛けた時、『これで駄目ならもう無理なんだ』って思ってた。だが、キミは聴いてくれた。頷いて、ここを守ろうと言ってくれた」
「……」
「何度か心が折れかけたけど、キミに救われたんだ。堂本少年」
皆が見てるのに泣きそうになるからやめてほしい。俺はむず痒いような、驚いたような、そんな感覚で所在なく頭を掻く。
「……そんな事言ったら、俺だって何度も助けられましたよ。先生とか、みみちゃんとか、おっちゃんとか……大将さんに、何度勇気を貰ったか」
帰ったらたまに置いてあるおにぎりも、疲れた時に癒してくれる天使の歌声も、帰り道に貼ってある市民ホールのポスターも。
そして、いつもうるさい拡声器の声も。
「……」
あぁ、そうだ。負けたくない理由なんて、戦う理由なんていつだってそれだけで良い。この人達の笑顔を、奪わせはしない。
「……ありがとうございます」
そう言い、胸元にバッヂをつける。じんわりと、体の内側が暖かくなる。
大将さんも、みみちゃんも、イコマ先生も、八百屋のおっちゃんも、みんな頷き、同じように胸元にバッヂをつける。新品のそれらは、皆の胸で誇らしく輝いた。
「皆で、市民ホールを救ったヒーローになりましょう」
「「「ああ!」」」
「はいっ!」
「うん!」
「おう!!」
秋祭りは、もう来週にまで迫っていた。
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