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黄泉の端
祭り:全開
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「……っしゃ! あいつの気概にも、応えなきゃならないね!」
「……」
「おっけおっけ! やってこー!」
「はいっ!」
アワナミ、市民ホールの駐車場に、今日限り設置されたステージの横で……乙川家の4姉妹は、手を重ね、お互いを鼓舞していた。
いよいよ秋祭りの出し物。4人のコーラスだ。この場の誰も、まさかこの4人の喉からプロ顔負けの歌声が飛び出すなどと期待していないだろう。
だが、4人はやる気だった。かつて忘れられようとしていた、父親のため。人々の世界からもはや消えようとしていた、市民ホールのため。……そして、この場に4人を揃えた、末妹のために。
「……」
4人のうち、最も小さな影が、一瞬だけ客席を見回す。それを見た2番目に小さな影が、そっと近づき、寄り添った。
「……大丈夫?」
「……うん。私、歌います」
彼女の探し人は、居たのか、居なかったのか。その答えに関わらず、彼女はマイクを握り、決意に表情を染めた。
「はーっ! そぉれっ!!」
法被を着た大将さんが和太鼓を打ち、その強烈な音が、観客たちを震わせる……!!
◆
キュオン! その音を聞き、クラップロイドは即座にバックステップで退避する。だが、遅い! 腹部につま先がめり込み、数人のヤクザを巻き込んで吹っ飛ぶ!!
アマタ シュウ、そしてクラップロイドの2人のやり取りはもはや台風のようだった。周囲のヤクザたちは遠距離から発砲することも躊躇い、まるで即席のアリーナじみて2人を囲むことしかできない!
「オヤジ、下がってください。こちらへ」
「いや、いい。俺はここで見る」
「くく……気合を入れて守らねば」
ヨウザンとクジョウはウミキの傍から離れず、この戦いをじっと見つめるのみ。手を出すことは無い……否、出せない。この混乱に乗じ、誰が組長を狙うか分からないからだ。
吹っ飛ばされたクラップロイド! 彼はゴロゴロと砂利を転がり、立ち上がって距離を測る! キュオン!
またも、あの音! 銀の機械人形が咄嗟に首を傾げ……その頬を、火花を散らしながら機械の右脚が掠める。
掠っただけで凄まじい衝撃! クラップロイドはきりもみ回転し、空中で目を閉じる……堂本 貴は、体表に感じる刺すような視線を利用! 飛び掛かってきていたシュウの頬に、カウンターキックを叩き込む!
あまりにも一瞬のやり取り! 周囲のヤクザには、空中の2人が突如として弾かれ合ったようにしか見えない! 城の塀にクラップロイドがめり込み、シュウは砂利を噴き上げて地面に墜落する!
『はーっ、ふーっ、ったく……』
「くく、疲れましたか? 地力の差というものは恐ろしいですねェ」
『マジで、めんどくせえアップデートしやがって……Windowsかよ……』
血の唾と一緒に砂利を吐き、シュウは起き上がって構える。クラップロイドも塀から身を引き剥がし、瓦礫を体からふるい落とす。
そしてまた、両者がぶつかる。シュウは余裕の笑みを浮かべながら、しかし油断しなかった。目の前の、クラップロイド……この速度に順応し始めている。先ほどのカウンターは完全に見切られていた。
まぐれはあり得ない。スピード任せの雑な攻め手では、いずれ捉えられる。蹴りをぶつけ合い、お互いに飛び退き、手の内を探り続ける。
クラップロイドは深呼吸を続ける。ヨモツ・ギア・プロジェクト。恐るべき発明に対し、彼は示さねばならなかった。『どんな武力も、人々の団結を崩すに至らない』と。
ここが、最前線。ここが崩れれば、あとは銃後を蹂躙されるのみ。クラップロイドは深呼吸を更に深め、更に深める。必ず打倒する。アワナミ組も、クラリス・コーポレーションも。
互いの蹴りが弾き合い、数メートル離れて睨み合いが続く中、不意にシュウが機械の脚を伸ばして身を屈めた。威嚇する猫のような構えで、彼はじっとクラップロイドのバイザー光を睨む。
『……』
クラップロイドが少し腕を動かした瞬間に、彼は跳んだ。霞む影しか残らぬ跳躍に対し、クラップロイドは直観での防御を余儀なくされる。
バチィ!!! 衝撃音が響き、銀の機械人形がたたらを踏む。そのヘルメットの一部が割れ、黒い髪が露わになる。
キュオン! 遅れて響く音に、彼は素早く背後を振り向く。だが、そこには首を蹴られ、骨をへし折られたヤクザが転がっているのみ。
シュバッシィィィィ! 今度は背部装甲が割れ欠け、クラップロイドは転がって受け身を取る。キュオン! 頭上!
跳ね起き、サマーソルトで迎撃しようとしていた銀の人形は、その脇腹に痛烈無比なる一撃を食らっていた。サマーソルトキックが、残影を通過する。
キュオン、ゴシャァッ!!! 銀の砲弾が発射され、水きり石のように地面を跳ね転がってゆく。トラックに衝突し、起き上がろうともがく彼に、更に追撃のキック!
燃料に火花が引火し、城の夜空を埋め尽くすかのような爆炎が立ち上る! 咄嗟に組長を庇いに出たヨウザンを、しかしウミキ自身が手で制する。まだ終わっていないのだ。
それを裏付けるかの如く、炎の中から強烈な衝撃音が響く。キュオン、バシィ!! キュオン、ドゴォ!! 繰り返す音に、その場の全員がかたずをのんで耳を澄ます。
数秒後、炎の中から銀の機械人形が転がり出た。アーマーは所々が割れ、痣だらけの肉体が見え隠れし始めている。キュオン! クラップロイドはガード姿勢を取る!
派手な音を立て、砂利をしぶきのようにまき散らしながら、クロスガードのクラップロイドはウミキが見る座敷の前まで吹き飛ばされる! 組員が親を守るように一斉に動き、分厚い壁を形成しながらも警戒を続ける。
だがクラップロイドにはそこに1ミリの注意さえ割く余裕なし! 彼はガードを継続し、飛び掛かってくる影を防ぐ……いいや、防ごうとした。その腕が蹴り下げられ、一瞬だけ、シュウの姿が空中に現れ出た。
クラップロイドは気付く。たった今、ガードを崩された。そしてこの形……マズい。覚悟を決める暇すらなく、彼の顔面が蹴りつけられ、シュウは更に跳躍する。
蹴りの雨が、降り注ぎ始めた。腕を上げようとすれば蹴り下げられ、脚を動かそうとすれば体重をかけて阻止される必殺の形。ヨウザンは見るに堪えないとばかり目を瞑り、クジョウは握っていた刀から手を離す。
猛攻に耐えかねるかのように、クラップロイドは体を折り曲げる。それは許しを乞う姿勢にも似ていた。だが、シュウは敵を許す気はない。アワナミ組は徹底的にやる。
蹴り、蹴り、蹴り。アーマーが強烈な衝撃で軋み、ヘルメットが一部割れ欠け、まだ年端も行かぬ少年の顔が覗く。体を折り曲げたクラップロイドは、どんどん小さな姿勢に追い込まれてゆく。少年の目が苦しみに歪み、苦痛に喘ぐ声が漏れる。
「くっくっ、意気込んで出てきた割にはこの程度! 諦めることですねェ! この世界は『より大きなものには勝てない』のです!」
蹴り、蹴り、蹴り。その一つ一つが致命的であり、すべて食らっているクラップロイドのダメージは如何程か。ヘルメットから除く血まみれの目は、時折光を失いかける。
「貴様らがなにを企んでいようと! アワナミ組は必ず勝つ! なぜなら貴様らは『小さいから』だ! 絆!? 熱!? 団結だって!? 笑えるよクラップロイド! キミは一流のコメディアンだ!」
衝撃、衝撃、衝撃。一方的な蹂躙。クラップロイドは膝をつく。そこへ、トドメの頭蓋粉砕蹴りが炸裂した。
その蹴りは、クラップロイドの欠けたヘルメット部分を的確に捉えた。ガードの上から、人を殺すのに十分な威力でもって、剥き出しの額に蹴りが叩き込まれた。
「……キミは実に時代遅れだったよ、クラップロイドくん」
蹴りを放った姿勢のまま、アワナミ組の幹部はそう言い捨てる。静寂が、一面を包んでいた。
◆
乙川 みみは歌いきり、皆に笑顔を向けた。最前列に、彼女の想い人は居なかった。だが、それでいいのだ。
それで、いい。今日くらい笑っていよう。皆で歌いたいなんて、ひとつの大きな我儘が叶ったんだから。彼女は夜空を見上げ、父親の顔を思い描いた。
真っ暗な夜空へ、本日最後の目玉となる、連続花火が打ちあがり始めた。
◆
ドォン……パパパパパ……。遠く市民ホールの上空の花火の光を受けながら、しかしヤクザたちは静かなものだった。この決着は、それほどに重い。クラップロイドが死に、アワナミ組が勝った。
キュゥゥゥィィィィ……静けさの中、何か音がした。
最初に気付いたのは、ヨウザンだった。クラップロイドの構え、何かがおかしい。なぜ右腕を抱え込むように体を折り曲げている? その不自然さが、彼のうなじの毛を逆立てさせた。
キュゥゥゥィィィィ。また、鳴った。クラップロイドが折り曲げた体に抱え込む、その右腕。根本から、少しずつ、青い光の輪が灯ってゆく。
キュゥゥゥィィィィ。シュウも気付く。何かがおかしい。目の前の男の目の光が、強まっている? ……死んでいない。何故だ。
「シュウッ!! 避けろ!!!」
「っ……」
アマタ シュウは咄嗟に蹴り足を引こうとした。できない。掴まれている。キュゥゥゥィィィィ……右腕を抱え込むクラップロイドは、その奇妙な構えのまま、目の光を、右腕の発光を強める。
「なにを、」
『やらせるかよ』
キュゥゥゥィィィィ。肘。前腕。青い光の輪が、右腕を昇る。
シュウは恐怖した。脚が戻せない。何かが来る。これは……これは!!
『名誉会員をナメんじゃねえ』
キュゥゥゥィィィィ!!! 音が鳴り、右手首を、拳を、青い輪が包む! その瞬間!!
アーマーがバチリと鳴り、空気が歪むほどの威力の拳がシュウの腹部に叩き込まれた。
「……」
「おっけおっけ! やってこー!」
「はいっ!」
アワナミ、市民ホールの駐車場に、今日限り設置されたステージの横で……乙川家の4姉妹は、手を重ね、お互いを鼓舞していた。
いよいよ秋祭りの出し物。4人のコーラスだ。この場の誰も、まさかこの4人の喉からプロ顔負けの歌声が飛び出すなどと期待していないだろう。
だが、4人はやる気だった。かつて忘れられようとしていた、父親のため。人々の世界からもはや消えようとしていた、市民ホールのため。……そして、この場に4人を揃えた、末妹のために。
「……」
4人のうち、最も小さな影が、一瞬だけ客席を見回す。それを見た2番目に小さな影が、そっと近づき、寄り添った。
「……大丈夫?」
「……うん。私、歌います」
彼女の探し人は、居たのか、居なかったのか。その答えに関わらず、彼女はマイクを握り、決意に表情を染めた。
「はーっ! そぉれっ!!」
法被を着た大将さんが和太鼓を打ち、その強烈な音が、観客たちを震わせる……!!
◆
キュオン! その音を聞き、クラップロイドは即座にバックステップで退避する。だが、遅い! 腹部につま先がめり込み、数人のヤクザを巻き込んで吹っ飛ぶ!!
アマタ シュウ、そしてクラップロイドの2人のやり取りはもはや台風のようだった。周囲のヤクザたちは遠距離から発砲することも躊躇い、まるで即席のアリーナじみて2人を囲むことしかできない!
「オヤジ、下がってください。こちらへ」
「いや、いい。俺はここで見る」
「くく……気合を入れて守らねば」
ヨウザンとクジョウはウミキの傍から離れず、この戦いをじっと見つめるのみ。手を出すことは無い……否、出せない。この混乱に乗じ、誰が組長を狙うか分からないからだ。
吹っ飛ばされたクラップロイド! 彼はゴロゴロと砂利を転がり、立ち上がって距離を測る! キュオン!
またも、あの音! 銀の機械人形が咄嗟に首を傾げ……その頬を、火花を散らしながら機械の右脚が掠める。
掠っただけで凄まじい衝撃! クラップロイドはきりもみ回転し、空中で目を閉じる……堂本 貴は、体表に感じる刺すような視線を利用! 飛び掛かってきていたシュウの頬に、カウンターキックを叩き込む!
あまりにも一瞬のやり取り! 周囲のヤクザには、空中の2人が突如として弾かれ合ったようにしか見えない! 城の塀にクラップロイドがめり込み、シュウは砂利を噴き上げて地面に墜落する!
『はーっ、ふーっ、ったく……』
「くく、疲れましたか? 地力の差というものは恐ろしいですねェ」
『マジで、めんどくせえアップデートしやがって……Windowsかよ……』
血の唾と一緒に砂利を吐き、シュウは起き上がって構える。クラップロイドも塀から身を引き剥がし、瓦礫を体からふるい落とす。
そしてまた、両者がぶつかる。シュウは余裕の笑みを浮かべながら、しかし油断しなかった。目の前の、クラップロイド……この速度に順応し始めている。先ほどのカウンターは完全に見切られていた。
まぐれはあり得ない。スピード任せの雑な攻め手では、いずれ捉えられる。蹴りをぶつけ合い、お互いに飛び退き、手の内を探り続ける。
クラップロイドは深呼吸を続ける。ヨモツ・ギア・プロジェクト。恐るべき発明に対し、彼は示さねばならなかった。『どんな武力も、人々の団結を崩すに至らない』と。
ここが、最前線。ここが崩れれば、あとは銃後を蹂躙されるのみ。クラップロイドは深呼吸を更に深め、更に深める。必ず打倒する。アワナミ組も、クラリス・コーポレーションも。
互いの蹴りが弾き合い、数メートル離れて睨み合いが続く中、不意にシュウが機械の脚を伸ばして身を屈めた。威嚇する猫のような構えで、彼はじっとクラップロイドのバイザー光を睨む。
『……』
クラップロイドが少し腕を動かした瞬間に、彼は跳んだ。霞む影しか残らぬ跳躍に対し、クラップロイドは直観での防御を余儀なくされる。
バチィ!!! 衝撃音が響き、銀の機械人形がたたらを踏む。そのヘルメットの一部が割れ、黒い髪が露わになる。
キュオン! 遅れて響く音に、彼は素早く背後を振り向く。だが、そこには首を蹴られ、骨をへし折られたヤクザが転がっているのみ。
シュバッシィィィィ! 今度は背部装甲が割れ欠け、クラップロイドは転がって受け身を取る。キュオン! 頭上!
跳ね起き、サマーソルトで迎撃しようとしていた銀の人形は、その脇腹に痛烈無比なる一撃を食らっていた。サマーソルトキックが、残影を通過する。
キュオン、ゴシャァッ!!! 銀の砲弾が発射され、水きり石のように地面を跳ね転がってゆく。トラックに衝突し、起き上がろうともがく彼に、更に追撃のキック!
燃料に火花が引火し、城の夜空を埋め尽くすかのような爆炎が立ち上る! 咄嗟に組長を庇いに出たヨウザンを、しかしウミキ自身が手で制する。まだ終わっていないのだ。
それを裏付けるかの如く、炎の中から強烈な衝撃音が響く。キュオン、バシィ!! キュオン、ドゴォ!! 繰り返す音に、その場の全員がかたずをのんで耳を澄ます。
数秒後、炎の中から銀の機械人形が転がり出た。アーマーは所々が割れ、痣だらけの肉体が見え隠れし始めている。キュオン! クラップロイドはガード姿勢を取る!
派手な音を立て、砂利をしぶきのようにまき散らしながら、クロスガードのクラップロイドはウミキが見る座敷の前まで吹き飛ばされる! 組員が親を守るように一斉に動き、分厚い壁を形成しながらも警戒を続ける。
だがクラップロイドにはそこに1ミリの注意さえ割く余裕なし! 彼はガードを継続し、飛び掛かってくる影を防ぐ……いいや、防ごうとした。その腕が蹴り下げられ、一瞬だけ、シュウの姿が空中に現れ出た。
クラップロイドは気付く。たった今、ガードを崩された。そしてこの形……マズい。覚悟を決める暇すらなく、彼の顔面が蹴りつけられ、シュウは更に跳躍する。
蹴りの雨が、降り注ぎ始めた。腕を上げようとすれば蹴り下げられ、脚を動かそうとすれば体重をかけて阻止される必殺の形。ヨウザンは見るに堪えないとばかり目を瞑り、クジョウは握っていた刀から手を離す。
猛攻に耐えかねるかのように、クラップロイドは体を折り曲げる。それは許しを乞う姿勢にも似ていた。だが、シュウは敵を許す気はない。アワナミ組は徹底的にやる。
蹴り、蹴り、蹴り。アーマーが強烈な衝撃で軋み、ヘルメットが一部割れ欠け、まだ年端も行かぬ少年の顔が覗く。体を折り曲げたクラップロイドは、どんどん小さな姿勢に追い込まれてゆく。少年の目が苦しみに歪み、苦痛に喘ぐ声が漏れる。
「くっくっ、意気込んで出てきた割にはこの程度! 諦めることですねェ! この世界は『より大きなものには勝てない』のです!」
蹴り、蹴り、蹴り。その一つ一つが致命的であり、すべて食らっているクラップロイドのダメージは如何程か。ヘルメットから除く血まみれの目は、時折光を失いかける。
「貴様らがなにを企んでいようと! アワナミ組は必ず勝つ! なぜなら貴様らは『小さいから』だ! 絆!? 熱!? 団結だって!? 笑えるよクラップロイド! キミは一流のコメディアンだ!」
衝撃、衝撃、衝撃。一方的な蹂躙。クラップロイドは膝をつく。そこへ、トドメの頭蓋粉砕蹴りが炸裂した。
その蹴りは、クラップロイドの欠けたヘルメット部分を的確に捉えた。ガードの上から、人を殺すのに十分な威力でもって、剥き出しの額に蹴りが叩き込まれた。
「……キミは実に時代遅れだったよ、クラップロイドくん」
蹴りを放った姿勢のまま、アワナミ組の幹部はそう言い捨てる。静寂が、一面を包んでいた。
◆
乙川 みみは歌いきり、皆に笑顔を向けた。最前列に、彼女の想い人は居なかった。だが、それでいいのだ。
それで、いい。今日くらい笑っていよう。皆で歌いたいなんて、ひとつの大きな我儘が叶ったんだから。彼女は夜空を見上げ、父親の顔を思い描いた。
真っ暗な夜空へ、本日最後の目玉となる、連続花火が打ちあがり始めた。
◆
ドォン……パパパパパ……。遠く市民ホールの上空の花火の光を受けながら、しかしヤクザたちは静かなものだった。この決着は、それほどに重い。クラップロイドが死に、アワナミ組が勝った。
キュゥゥゥィィィィ……静けさの中、何か音がした。
最初に気付いたのは、ヨウザンだった。クラップロイドの構え、何かがおかしい。なぜ右腕を抱え込むように体を折り曲げている? その不自然さが、彼のうなじの毛を逆立てさせた。
キュゥゥゥィィィィ。また、鳴った。クラップロイドが折り曲げた体に抱え込む、その右腕。根本から、少しずつ、青い光の輪が灯ってゆく。
キュゥゥゥィィィィ。シュウも気付く。何かがおかしい。目の前の男の目の光が、強まっている? ……死んでいない。何故だ。
「シュウッ!! 避けろ!!!」
「っ……」
アマタ シュウは咄嗟に蹴り足を引こうとした。できない。掴まれている。キュゥゥゥィィィィ……右腕を抱え込むクラップロイドは、その奇妙な構えのまま、目の光を、右腕の発光を強める。
「なにを、」
『やらせるかよ』
キュゥゥゥィィィィ。肘。前腕。青い光の輪が、右腕を昇る。
シュウは恐怖した。脚が戻せない。何かが来る。これは……これは!!
『名誉会員をナメんじゃねえ』
キュゥゥゥィィィィ!!! 音が鳴り、右手首を、拳を、青い輪が包む! その瞬間!!
アーマーがバチリと鳴り、空気が歪むほどの威力の拳がシュウの腹部に叩き込まれた。
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