クラップロイド

しいたけのこ

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歪んだ生物

グラニーツァ編・完

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『今日はどうする? ご飯、作りに行こうか? 辛かったらいつでも話聞くからね?』
『すみません、今日はちょっと忙しいです。お気持ちだけ頂きます。』


 何度目か分からないそのやり取りのメールをイコマ先生へ送信しながら、俺はボーっと私室の椅子に座っていた。


 結論から言えば、俺は命拾いした。あの後、廃工場にいち早く突入してきたネクサスのメンバー、ブリッツが、電撃的速度でチキさんの元に俺を運んだのだ。目を覚ました時、代わりに死ぬほどの頭痛と、何よりも現実に苦しめられたが。


 余計な事を、とは思わない。むしろ有難い。あのまま死んでいれば、俺はとんでもないクソ野郎だ。やらなければならない事もある。街を守って、グラニーツァを補足して……。


 だが、俺は無気力だった。ここ数日、街で散発的に起きる犯罪を止めるばかりで、何もできなかった。諦めが全身を支配するようになっていた。


 グラニーツァ、アレクセイ部隊は大部分が逮捕された。アレクセイも例に漏れずその1人だ。ベイ・ユアンとジュウロン会は闇に消え、最初から何もなかったかのように街は静まり返った。




 ドクトリン・ブレーカー。GMD。すべてが回収され、あるべき場所に戻った。……俺が救えなかった人々を除いて。



 スズシロはこの街から消えた。グラニーツァと共に、ロシア本国へ帰って行ったのだろう。俺は何もできなかった。先生たちも困惑しているようで、『家族の事情』としか話されなかった。




 イコマ先生はテツマキさんの葬式へ呼ばれたらしい。俺は行かなかった。当然だ。プライベートでは何も関係がない事になっているのに、呼ばれるわけがない。行っても不審がられるだけだ。



 イコマ先生は泣いていた。泣きながら俺を抱きしめた。つらかったね。頑張ったね。ユキちゃんも誇りに思ってるよ……そんな訳がないのに。俺が死のうとしなければ、あの結末は防げた。



「……」
(メシはしっかり食え。シホのメシは美味いだろ?)



 声が聞こえたような気がして、そちらを見てしまう。だが、携帯が震えているだけだった。番号を見てみると、カモハシさんからだ。


 カモハシさんはあの後、病院へ搬送された。アレクセイの供述もあって完全に被害者ということで受理され、一通りの事情説明をした後は退院を許可されているのだ。


 俺は彼女に、なにひとつ説明をしていない。この通話に応答することも躊躇われた。少し迷って、俺は携帯を手に取り、通話ボタンを押した。

「……もしもし」
『あっ! 堂本くんだぁ、良かった! あのね、いまウロサキちゃんと一緒にいてね……』
「……」

 あぁ、ウロサキ。まだこの街に残っていたのか。あの後のネクサスの動向にまったく注意を払っていなかったので知らなかった。


『ちわーす。ドーモトくん元気―? 最近顔見ないから心配してるぞ~』
『あはは、くすぐったいから耳元で喋んないでよ~』
『よいではないかよいではないか』


 仲が良さそうにじゃれあう声が聞こえる。……そうだ。最近は昼休みになるたび、一緒に昼食を食べることもなく、俺はそそくさと教室を離れてしまっていたのだ。学校での記憶が曖昧で、犯罪者と戦っている時の記憶だけ妙によく覚えている。


『えっとね、今日お休みじゃない? ちょっとお出かけとかどうかなーって』
「あぁ……いや、悪い。今日は忙しくて」

 嘘じゃない。今日も犯罪者を抑制しなければならない。ジュウロン会も、グラニーツァも、隙を見せればこの街に食い込もうとしてくるだろう。


 鉄の警官はもういない。俺が、2倍も、3倍も、働かなければならないのだ。


『そっかぁ、ごめんね。ホラ、ウロサキちゃん転校するらしいし、最後にいつものメンバーでお別れできたらなぁって』
「……」


 そんな話だったかもしれない。もう覚えていない。ネクサスはここから撤退するのだろう。どうでもいいことだ。


『ん、代わる? 堂本くん、ウロサキちゃんと代わるね』
「ああ、分かった」


 何を話すことがあるのか。携帯を持ったままぼんやりと待っていると、聞きなれた声が近くなった。

『もしもし? ブリッツとかから聞いたよ、最近頑張ってるんだってね。どこに行っても、先にキミの方が現着してるって言ってた』
「……」
『今日は一日、そっちの活動も私達が受け持つからさ。最後に会えない? 大事な話もあるんだ』


 大事な話。何よりその言葉が俺の体を奮い立たせた。クラリス・コーポレーションに関することかもしれない。


「……何処で会う?」
『お、やる気出たカンジだね~。いいぞ若人~、じゃあ駅前のカフェで会おう!』
「分かった。店のURLを送ってくれ、すぐに向かう」


 俺は椅子から立ち上がり、時計を見て気付いた。昨日の夜からずっとこの姿勢だったのだ。





 昼前、俺は初めてスズシロ、カモハシさんと出かけた時に来たカフェに来ていた。壁紙に描かれたクマノミが、輝くような笑顔を振りまいて、客に手を振っている。

 奥の方の客席に、2人が座っているのが見える。2人とも、俺を見つけて手をあげる。カモハシさんと、ウロサキだ。

 店の人にかすれた声で「連れが先に座ってます」と告げ、俺は奥の席へ歩いて行く。近づくと、カモハシさんがやつれているのがハッキリと見えた。ボブカットの髪には枝毛が目立つし、目の下にはクマがある。

「ごめんね、呼び出して」
「……いや。用事が無くなって、ちょうどよかった」

 決まり切った社交辞令のような挨拶を交わし、俺はひどく重い椅子を引いて座った。カモハシさんはニコニコ笑顔を浮かべているが、それは偽物の笑顔だ。流石に俺でも分かる。


「……堂本くん、平気だった? 最近、学校でも辛そうな顔だったから……私、その、下手でさ。そういう話、聞き出せなくて」


 そうだ。カモハシさんは人から無理に聞き出すタイプではない。どちらかと言えば、それはスズシロの役目だったのだ。……もう、居ないが。

「いや、平気だよ。不眠気味だったんだ」
「ん、そっか」

 言ってしまってから後悔する。眠れてないのは目の前のカモハシさんの方だ。なんで俺が被害者のような物言いをしてる?


「……あのね、堂本くん。私、ちょっとだけ覚えてる」


 その言葉に、ドキっとする。興奮剤の影響下にあるGMD変異者は、その記憶は残らないハズ。だが彼女は目を瞑り、その光景を思い描くように言葉を紡ぐ。

「キミが私の目を見て、負けるな、勝ってって言ってくれたの。あのおかげで、少しだけ、私は私で居られたの」
「……」
「……ごめんね。ひどいことしたよね。だから、避けられてたんだよね」
「違う」

 違う。そうじゃないに決まってる。俺が彼女を避けていたのは、単に、俺が彼女に真実を話すのが怖かったからだ。スズシロが消えたのは、俺が弱かったからだ、なんて。


「違う。……ごめん。不安にさせた。カモハシさんのせいじゃない。俺は……キミに話したくなかったことがあって、それを聞かれるんじゃないかと不安だった」
「……それは、アオちゃんのこと?」
「……」

 黙ってしまったことが、彼女に確信を与えたらしい。カモハシさんは頷くと、その疲れた瞳で壁のクマノミを見る。

「……私ね、覚悟してる。ぜんぶ探して、誰も知らなかったから……何言われても、覚悟できてるよ」
「……」
「ね、おねがい。1人で抱え込まないで。私達、友達でしょ?」

 ……言ってしまったら、巻き込むことになるのだろう。いや、とっくに巻き込まれた。グラニーツァは狂暴だ。このまま知らないままで居る事は、彼女にとっての幸せではないのかもしれない。

「……グラニーツァ、知ってるか」
「うん、知ってる。テレビでやってたし、私を連れ去ったのもその組織なんだよね?」
「……あぁ。いや、精確には違う。組織内で切り捨てられそうだった部隊が、キミを攫ったんだ」

 アレクセイ。燃え上がるような狂気の男。思い出すだけで悔しさが蘇る。

「スズシロは……グラニーツァの中でも、粛清を担当している幹部だ。今回、その部隊を切り捨てに来ていたが……キミを保険に使われた」
「……え?」
「聞いた通りだ。スズシロはグラニーツァの幹部で、ロシアへ引き上げて行った」

 俺の力不足のせいで、とは言えなかった。その勇気が無かった。カモハシさんは呆然としている。まだ、言葉の意味が理解できていないのかもしれない。

「……アオちゃんが、そうなの?」
「そうだ」

 周囲の席に人は居ない。ネクサスが人払いしたのかもしれない。なんにせよ有難かった。こんな話、一般人が居る場所で話せない。

 カモハシさんは胸に手を当て、しばらく小さな呼吸を整えようとしていた。大きすぎる現実が、彼女の体にゆっくりと馴染むのが見えるようだ。……俺は、話して良かったのだろうか。今更ながらに葛藤が襲ってくる。


「どうして……アオちゃん、私と一緒に居てくれたのかな……」


 もっと大きな問いが来ると思っていた。だが、震える声でそう尋ねられ、俺は不意を突かれたように固まってしまった。そうだ。当然だ。彼女らは、親友だったのだ。気になるのはそこに決まっている。

「……カモハシさんは覚えてないかもしれないけど、スズシロが話してくれた」
「え……」
「スズシロが1人で、泥だらけで泣きそうだった時、彼女のことを気にかけてくれたんだよな。アイツは、それをずっと忘れてなかった」
「……」
「アイツ、グラニーツァの辛いテストをこなした後だったから……カモハシさんに救われたって。キミのおかげで、人で居られたんだ」

(((みの、ちゃん……)))
(((……わ、わたし……わたし、どうすればいいの……たすけて、みのちゃん……)))
(((うぇ……うぇえええええ……っぐ……ひっく……)))


 つう、と、カモハシさんの頬を涙が伝った。覚えていたのだろう。彼女は頬を伝うそれを拭い、次々に溢れて止まらない雫を何度も袖で止める。

「そっか……そっかぁ……さいごまで、わたし、ばかだったんだね……なんにも、きづけなかったんだ……」
「違う!!」

 その言葉に、自分でも驚くほどの大声で拒否反応を示してしまう。店内が静まり返り、遠い席の客の視線が集まる。俺は咳払いし、もう一度椅子に座りなおした。思わず立ち上がってしまったのだ。

 カモハシさんの涙が止まり、濡れた顔で驚いて俺を見ている。だが、俺にとっては、彼女の自己否定の言葉の方が驚きだった。

「それは、違う。キミが一番ひとをよく見て、変化に気付いていた。だから最後までスズシロは……」
「……」

 最後に見えたスズシロの顔を思い出す。彼女の頬を伝う一筋の涙。

「……スズシロも、泣いてた」
「……アオちゃんが?」
「行きたくなかったんだと思う。キミの傍に居たかったんだと思う。でも、危険だから離れたんだ」

 俺の弱さをひとつひとつ言葉にするようで、本当に苦痛な作業だ。だが、これはもう、これ以上先延ばしにしていい作業じゃない。カモハシさんには知る権利がある。

 そして俺には、誓う義務がある。忘れかけていた心の何処かに、また火が点いた。

「……カモハシさん、聞いてくれ。もう知ってる事だと思うけど、俺はクラップロイドだ」
「うぇ?! え、ええと、ここで言っていいの?」
「大負けした昨日の今日で何を言ってるんだって思われても仕方ないと思う。けど、俺は必ずスズシロを連れ戻す」
「……ぁ……」
「いつか必ずグラニーツァを叩き潰して、スズシロとキミの日常を取り戻す。キミに誓わせてほしい」

 俺はカモハシさんの目を見つめ、逃げられないよう自分に呪いをかけてゆく。無様でも、ダサくても、これは俺に必要な段階だ。何より自分に負けたくない。


「……むり、してない?」
「させてくれ。それが俺にできることだ」
「だめだよ。私はキミも……」
「なら俺はキミじゃない奴に誓う。隣のウロサキに誓う」
「だ、だめ! じゃあ私に誓って!」
「……なーんかダシに使われてない?」

 不服そうに口をとがらせ、それまで黙っていたウロサキがぶつくさ言う。コイツなら俺に容赦しないという信頼のもとに名前を出したのだが、不満だったようだ。

 カモハシさんはしかし、また涙が止まらなくなり、しゃくりあげながら俺を見つめる。脅したのが悪かったのかもしれない。バツが悪くなって頬を掻き、俺はカモハシさんの手をやさしく、しっかりと握った。

「キミの善意は、無駄じゃなかったって証明するから」

 シマヨシさんなら。テツマキさんなら。意味の無い仮定を、これからも繰り返すだろう思考を重ねて、俺はそれを強く誓う。


 きっと、彼らならこう言うから。



 カモハシさんは、しゃくりあげ、笑おうとして、結局泣き笑いのような顔になった。そして握り合った俺の手に額を当て、顔を見えないようにして、言った。


「……ありがとう」


 そのか細い声だけで、俺には充分だった。充分、戦う理由ができたのだ。


「……はいはい。ホラ、ハンカチ貸したげるから、お手洗いで顔洗ってきな。ぐじゅぐじゅじゃん」
「ん……うん、ありがとう」


 ぐすぐすと涙をこぼし、カモハシさんは素直に席を立った。そうして、テーブルに残ったのは俺とウロサキだけになった。

「その顔は、燃料ちゃんと補給できたカンジ?」
「……まあ、情けないところばっかりも見せられないだろ」
「よく分かんない意地張るもんね、キミ」

 からからと笑いながら、ウロサキは手元のコーヒーを混ぜる。氷がすずしげに鳴り、結露したしずくがグラスを伝う。

「グラニーツァを追うの?」
「追う事になるだろうな。クラリス・コーポレーションと並行して」
「あはは、いそがし。そんな忙しいキミに朗報でーす」

 ウロサキ マキナはおどけたようなしぐさで、肩掛け鞄から何か取り出した。分厚い冊子のようで、英語でビッッッッッシリと何か書かれている。

「マーカスがね。キミをどうしても『ネクサス』に欲しいんだって。だからこれ、ネクサスへの所属を了承する書類」
「ネクサス? 俺が?」
「そ。アレクセイを捕らえたのはキミだし、その功績で委員会にゴリ押ししたんだって。後はキミの署名だけ。どうする?」
「……」

 このパターンは全く想定していなかった。今回だって俺の失敗の尻ぬぐいであんな大戦争になったんだし、何かお咎めがありこそすれ、組織に所属してほしいと言われるとは思っていなかったのだ。

「所属するとどうなる?」
「……学業は教える専門の人が来てくれるようになるかな。トレーニングも一定期間で受けなきゃならない。あとは、たまに本部から指令が来て、それに従って動くカンジ。生活費もまぁ、贅沢しなきゃ良いくらいは貰えるし……何より活動が合法化するかな」
「……」
「……結構悩むね~。ソッケツするかと思ってたから意外」

 いや悩むだろ。既に所属しているヤツからしたら分からないかもしれないが、これは俺がひとつの組織に所属し、体制に組み込まれることを示している。俺はどうにも、自由に動けなくなることを忌避しているきらいがあった。


「……私は所属した方がいいと思うよ」
「え?」
「だってそうじゃん。キミはジュウロン会にも、グラニーツァにも、クラリス・コーポレーションにもケンカを売ってる。スコーピオンズだって、闇に消えた大部分は動向が掴めてない。何の後ろ盾もない状態じゃ、キミは危険すぎる」
「……」

 その視点で考えたことはなかったが、確かにあらためて考えれば、街を歩いているだけで誰かに撃たれても仕方ない状態だ。

「もしかして今のって心配してくれたのか?」
「……」
「……すみません」


 ちょっとふざけようと思ったら、本気の圧で返された。まあ、そりゃそうだ。真面目な話をしてる時にふざけてるんだから、殴られないだけ良い。


「……言い方変えよっか。私はキミにネクサスに入ってほしいよ」
「……」
「キミに死んでほしくない。ディヴァイサー&クラップロイドに欠けがあって欲しくないんだ」

 今度こそ俺はびっくりした。こんなことを言われるなんて、普段なら冗談かと思って笑ってたかもしれない。

 だがウロサキの目は本気そのものだった。照れや躊躇いの色もなく、真剣に俺に語り掛けているのだと分かった。

「……」
「……」

 沈黙が落ちた。その静けさの中で、俺は悩みに悩んだ。一生分悩んだかもしれない。ネクサス。組織。クラリス・コーポレーション。グラニーツァ。


 きっとこれは、ウロサキなりに認めてくれたのだろう。……俺は、その信頼にどう応えればいいのだろうか。


 所属した場合は、きっと欲しい情報を手に入れられる。他のヒーローとの連携も即座に行えるようになるだろうし、地元警察と協力し合えるようにもなるだろう。


 では、所属しなかった場合は? ……テツマキさんならどう言っただろうか? あるいはシマヨシさんなら? 俺はぐるぐると思考を回しながら、ずっと考え続ける。


 
 悩み続けた末に、俺はぽつりとこぼす。


「ごめん」
「……」
「ごめん、俺……ネクサスには入らない」


 俺の言葉に、ウロサキはしばらく何のリアクションもなく、俺の目を見つめているだけだった。その表情から読み取れる情報はない。そんな沈黙が、ずっと続いた。

 そろそろ怖くなってきたころ、彼女は溜息を吐き、コーヒーを一口飲んだ。そして書類を俺の方へ押し出して来た。

「言うと思った」
「……だよな。……ごめん」
「マーカスも言うと思ったらしいから、この書類の有効期限は10年くらいにしてもらったんだって」
「え?」

 長くない? パスポートか何か?

「もし所属したくなったら、ここに署名して、この封筒に入れて郵便局に行くだけだから。日本にも支部あるから、そこで受理するんだってさ」
「あ、あぁ……」

 俺ってそんなに欲しい人材なのかな……少々特別扱いが過ぎる気がする。まあ、野放しにしていたらやらかしそうというのも理解できるけど、というかやらかしたけど。

「そういえば」

 と、ウロサキが何か思い出したように口を開く。

「GMDの解毒剤はもう各国で量産体制が整ったってさ。ま、それを作るのはクラリス・コーポレーションのレーンらしいけど。悔しい?」
「え? あ、ああ、そうなのか。悔しいっつうか、まあ、悔しいな……」
「そ」

 完全にマッチポンプじゃねーか! ふざけんな! という内心を隠してリアクションすると、ウロサキはご満悦顔になった。なんだなんだ。

「えっと、なんで今その話を……」
「なんでって、フラれた腹いせ」
「そ、そうすか……」

 ニッコニコのウロサキの笑顔が、一気に怖いモノに見えてきた。何それは……。一応キミにとっても悔しい話でしょうが! 巻き込み自爆みたいな真似はやめろ!

「あーあ。残念だけど、スカウト失敗だね。さんざんキミがディヴァイサー&クラップロイドって言うから信じてたのになー」
「いや、すみません……」
「悪いと思うなら、今日は奢ってね」
「はい……」

 なんで……なんで俺は弱い……財布も弱い……。


 そんな事を考えていると、今度は少しだけ穏やかな表情になり、ウロサキが笑う。

「……あは。やっぱりその顔」
「え?」
「うじうじ悩んで不完全ネンショーしてるの、らしくなかったよ。キミはイッパイイッパイの方がいい顔する」
「そ、そうですかね……」

 それは褒めてますか?


「ただいまー! ごめんね、長くって!」
「おや、お帰り。いまこっちも話し終わったよ、今日はドーモトくんが奢ってくれるってさ」
「え、そうなの?」
「ホントホント。男に二言はないって言ってたし」
「待ってくれ、そんなに高い店は……」
「さー行こー! 今日はたくさん遊ぶぞー!」
「あはは、行こ行こ! 堂本くんも!」
「いやマジで今月は……待ってくれェ!!」



 久しぶりに笑いながら、俺は2人について行った。

 その楽しさに身を浸しながら、俺は誓った。この日常に、必ずスズシロを連れ戻すと。


 そうだ。辛くても、悲しくても、前を向いて、背負っていくしかないのだ。



 俺は、クラップロイドなのだから。






 


































 数日後、アレクセイが獄中で変死した事を知った。







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