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歪んだ生物
逆転のために
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チキさんにグラニーツァの2日後の襲撃、そして1週間後の取引を伝えた結果、まずは情報ソースを尋ねられた。
俺は躊躇なくSACの名前を出した。クズハの任務が危険に晒される恐れがあったが、両組織の衝突よりもマシに思えたのだ。
だが、ネクサスの反応は冷たいものだった。『実在も疑わしい組織の方針に従うつもりはない』……シークレット・エージェント・カンパニー。秘匿されすぎた組織の弊害。
襲撃現場には行かないでください、なんてテキストもしてみたが、普通に怒られた。当然だ。どうにかできるわけがない。だがこれだけで諦めるわけにはいかない俺は、休憩時間にウロサキに声をかけてみてもいた。
「グラニーツァなんだけど……」
「もうネクサス中に周知されてるよ、キミからの情報。何が狙いかは知らないけど、犯罪は絶対に止めなきゃだから」
「……はい」
「犯罪者に肩入れしてるって疑われてもしょうがない立ち回りしてるね。もうグラニーツァには関わらないでおいた方がいいんじゃない?」
「……」
ネクサスとSACが仲悪い理由がなんとなくわかった。ネクサスはどうあっても犯罪を止めたいし、SACは犯罪組織に覆面加入して、小を犠牲に大を取る。まるで正反対の組織なのだ。
なんで俺が組織の板挟みにならにゃならんのだ……。だがもう義理は果たした!! 知らん知らん! ……俺自身は2日後、どうしようかなぁ……。
「ボーっとしてますね」
ぼんやりしていると、横から声を掛けられて背筋が跳ねる。反射的に顔を向けると、スズシロは不審なものを見る目で、カモハシさんはびっくりしたように俺を見ていた。
そ、そうだ、屋上で一緒に弁当を食っていたのだった……。
「えっと……その、何の話してたっけ……」
「堂本くんはお弁当、自分で作ってるのかな~って」
「あ、ああ! 週末に作り溜めして冷凍してるんだ……うん」
弁当だけ作って平穏に生活していたい……またしても物思いに沈みそうになっていると、いよいよ不審そうにスズシロは青い目を細める。
「……活動で何か問題が発生しましたか」
「あ、あー……うん……まあそんなところ……」
「?」
ぼかした問いにぼかした答え。カモハシさんは首を傾げていたが、3秒したらポンと手を打った。
「あれだよね! 大変な事情!ってやつ!」
「は、はは……」
「何があったかは知りませんが、ご苦労様です」
全くもって情けない限り……人と飯食ってる時くらいシャキッとしないとな。
「で、何か力になれますか」
「へ?」
「何か力になれますか」
す、スズシロが力になってくれるの……? マジ……?
チラリと隣を見ると、カモハシさんもうんうん頷いている。……ま、マジかぁ……こういうので人を頼るってかなり危なそうだけど、大丈夫なのかな……。でも俺はもうどうしようもない。助けて。
「え、えっと……実は、色々と八方ふさがりと言うか……」
「珍しくもなさそうですね」
「ま、まあ……」
「ハッソーをテンカンしたら良いんだよ、そういう時は! こう、一方方向から考えるから詰まっちゃうんだと思う!」
「成程……」
発想を転換かぁ……。言われがちだけど、それって結構難しいよな。
「だいたい、何がそこまで詰んでいるんですか」
「いやぁ……実は、面倒な事が起きるって分かってるんだけど、止めるなって言ってる集団と、絶対に止めるって言ってる集団が居て……どうすりゃいいのやら……」
「成程」
ネクサス、SAC、グラニーツァ。三つ巴じみているが、そのうち2つの集団の目的は本来同じハズなのだ。どうにか組ませる流れになれば楽勝かもしれないが……。
「では、その面倒をそもそも起きなくさせれば良いんじゃないですか」
「それが上手く行けばいいんだけどな……大元を叩くって事か?」
「それが手っ取り早いでしょう」
そう言われても、どこに潜伏してるかも分からない……ん?
「……そうか、確かに、それはあるな」
そうだ。連中、GMDを使っていた。GMDを使っていたということは、GMDのサプライヤーからグラニーツァにたどりつくことも可能のハズ。なんで俺はこんな受け身の思考になっていたんだ!? 犯罪が起きてから行動するんじゃなく、犯罪が起きる前に防ぐのも立派なヒーロー活動だったハズだ!
「……?」
「す、すまん、俺ちょっと、今から忙しくなるっていうかもう忙しいから」
「え……ど、どうしたの?」
「きょ、今日は早退する!」
とんでもなく焦りながら弁当をかきこみ、立ち上がる。そして屋上から駆け降りながら2人に礼を叫ぶ。
「ありがとな! 絶対お返しするから!」
「はい」
「ま、またね~!」
2人らしい言葉に背を押され、俺は全力疾走に入った。
◆
『監視カメラの死角エリア』のデータはまだ残っている。そして、サプライヤーの一人と思われる体格データも、以前のデパートの死闘のタイミングで入手できている。俺はなんて馬鹿なんだ。王手と言っても過言じゃないぞ、この状況は。
「パラサイト、一旦GMD解毒薬の試作は中断だ。市内の監視カメラ映像から、例のサプライヤーの体格に当てはまる人物を探し出してくれ」
(了解いたしました。GMD解毒薬、92パーセントで中断保存。市内の監視カメラに接続、検索開始)
路地裏で学生服から私服に着替え、大通りに出る。この時間帯はまだまだ賑わっており、人通りは多い。
「視界にGMDの気化しやすい成分を色付けして表示。あと、クズハが言ってた廃工場の周囲の映像はダブルチェックを頼む」
(仰せのままに)
言いながら、携帯の連絡先から頼りになる大人をポチポチ探し、電話をかける。ほんの数コールで返答があった。
『なんだ堂本』
「テツマキさん。GMD……えっと、生物改造薬の件、進展ありましたか」
『ほとんどない。何か情報でもあるのか』
「テツマキさんのPCのメアド、教えてもらっていいですか。今からちょっとデータを送ります」
『……成程、いいだろう。お前、また危険なことに首を突っ込んでないだろうな』
「……俺がそうじゃなかった事ないでしょ」
呆れ気味の溜息と共に通話が切られ、メールでPCメアドが送られてくる。話が早い。
「パラサイト、サプライヤーの体格データだ。テツマキさんに送ってくれ」
(了解。添付ファイルとして、デパート内で見たデータを映像化して送ります)
「助かる」
送って数分してから、テツマキさんから返信が来た。『こちらの捜査網をフル稼働させる』……本当に頼りになる人だ。こんなのは1人でやってても大した成果は上がらないからな。
人間モードでしばらく歩き、例のサプライヤーを探し回る。GMDの気配にも目を凝らすが、少し前まで事件が頻発していたとは思えないほど、一切見つからない。
警官たちも、いつにも増してせかせかと走り回り、何かを探している様子だ。何を探せばいいか分からない状態とは大違いで、人ごみを探るその目はギラギラと輝いている。数名ほどが呼び止められ、ボディチェックを受けている。
数十分、数時間。日が傾き始める。もしかすると、今日はサプライヤーは活動しないつもりなのかもしれない……いや、もはやサプライヤーは市内から脱出してしまっているのかもしれない。
腕時計を見ると、15時を指す。明日にはもう襲撃が起きるのだ。今日しか時間がないのに、俺は何をぼうっとしていたんだ……! 焦燥感で圧し潰されそうになりながら、あたりを見回す。
その時、ふと何かが見えた。ふわりと目に届く色付きの空気。道路を挟んで向こうの歩道に、GMDの気配だ。それを纏っているのは……フードを目深に被った……
「……パラサイト、追うぞ」
(了解。追跡開始)
殆ど何も考えず、反射的に口に出す。そして人ごみに消えそうなそのフードの人物を追って、走り出そうとして思い直し、止まる。
「……」
……このまま、取引現場、あるいはアジトまで追跡した方がいい。クズハに学ぶべきだ。奴から少しずつ、芋づる式に敵の喉元まで辿るのだ。
「……パラサイト、追跡を続ける。やつを目的の場所まで行かせるぞ」
(良い作戦です)
言いながら、テツマキさんにメールを送ろうかどうか迷い、結局携帯をしまい込む。俺がヘマをしないという確証もない。保険は必要だ……彼女に知らせるのは、ヤツの目的地に着いてからでも遅くはない。
そんな事を考えながらも、追跡を続ける。フードの人物は狡猾な動きで、警官の監視やカメラを避けて移動している。……かなり慣れているようで、一連の動きはよどみない。
(エックスによる透視、エコーヴィジュアライズ、熱源探知によるロック完了。半径50メートル以内であれば視界から外れても追跡できます)
「マジで助かる」
(ふふん)
パラサイトは何処で覚えたのか、ドヤ顔のAAを視界に表示させてくる。なんか日に日に芸達者になっていくな……。シンギュラリティの日も近そうだ。
その直後、フード人間は猛烈に辺りを見回し始めた。飛び退いて物陰に入ったコンマ秒後、俺が居た場所もじろじろと見つめられている。
「……いきなり挙動不審だな」
(目的地が近いものと推察。スーツアップしますか?)
「……スニークモードでスーツアップしよう。ただ、相手はかなり警戒してる……ここからは距離を取って追跡だ」
(了解、スーツアップ)
ダークブルーの装甲に一瞬で包まれながら、俺は物陰から追跡対象を見つめる。奴は周囲に誰も居なそうだと念入りに確認した後、するりと廃ビルに入っていった。
『……あそこは』
(検索中……詳細データ不明。ホテルとして使われていたようですが、オーナー消滅と共に廃ビル化した模様)
『成程ね……怪しげな連中にはさぞ心地良い居場所ってわけだ』
言いながら、俺も周囲を確認し、ビルに入ってゆく。中は暗く、どうやら地下駐車場まで降ってゆく構造のようだ。
『……』
暗い中、視界に表示されるターゲットシグナルを追って忍び歩きを続ける。やがて悪臭が漂って来るのに気付き、ヘルメット越しに鼻を抑えた。
『なんだこりゃ……獣臭いっつーか……』
(ご注意ください。ターゲットは複数人の対象と合流しました)
『クソ……聴覚を拡張できるか? 会話を聞きたい』
(はい、可能です)
世界がチューニングされるような違和感ののち、離れた場所の会話が鮮明に聞こえ始める。
(((で、これが例の?)))
(((へっへっ、すげえだろ? 今時は俺らみたいなのでも仕事にありつけるんだ……クラリス・コーポレーション様々だぜ)))
(((山分けだたっつぁん、山分け!)))
クラリス・コーポレーション。ビンゴだ! 地下駐車場への歩を速め、半ば駆けるように突入する。
まず見えたのは浮浪者たちだった。彼らは焚き火を囲い、カップ酒を手に乾杯のポーズで固まって俺を見ている。その周りには段ボールの家のようなものが建っている。
次に、焚き火のそばで脱ぎ捨てられたフード付きのコートが見えた。……間違いない、ここだ。ターゲットシグナルは浮浪者の1人を強烈に示している。
『とうとう追い詰めたぞ……!』
「な、なんだ!? クラップロイドぉ!?」
ツカツカ歩み寄り、その浮浪者の襟首を掴んで空中にぶら下げる。周囲は大混乱で、酒をこぼしてひっくり返る者も居れば、段ボールハウスに隠れる者も居る。
『GMDを売り捌いてるな……! クラリス・コーポレーションから仕事を受けてるんだろ!!』
「ひ、ひぃぃ!! お、おたすけぇ~~!!」
『全部話せ!! お前らのせいでおかしくなった連中が沢山いるんだぞ!!』
柔道の技を使い、関節を極めるように腕を抱え込む。浮浪者は悲鳴を上げ、崩れるように膝をつく。
「た、助けてくれ、俺はそんな……軽い気持ちで、金が貰えるから……」
『話せ!! 誰が仕事を持って来る!! 誰に薬を届けた!!』
「く、薬を渡して来るのはスーツのあんちゃんだよ、名前は知らねえ!! 名乗らねえんだ!!」
『じゃあどうしてクラリス・コーポレーションの名を口にした!?』
「こ、この辺りじゃ奴らが黒幕だってもっぱらの噂なんだよ! それだけだ、他意はねえ、ねえんだよぉ!!」
その辺りで後頭部に衝撃を感じ、後ろを振り向く。浮浪者の1人が棒切れで俺の頭を殴ってきていた。
俺はソイツの足を払って転倒させ、更に深くターゲットの腕を捻る。
「ぐああああっ!?」
『誰に薬を届けた……その様子じゃ、また一仕事こなしたって感じだろう!』
「ろ、ロシア人だ!! 詳しくは知らねえ!! 俺はそこまで深入りしねえんだ!」
『覚えている事は!?』
「と、時計だ! やけに高そうなゴテゴテした時計! あと、ぼ、帽子、黒いの! 猫のタイピンもしてた!!」
『他の!! 仕事は!!!』
「ぎ、ぎいいいっ……し、指定された社員に、こっそり注射したり……い、痛い、いてえ……!!」
……ここまでだ。加熱する思考にブレーキをかけ、俺はその浮浪者から手を離す。これ以上は洒落にならない。彼は肩を抑え、ごろりと地面に転がる。
『……警察を呼ぶ。大人しくしろ』
「く、くそっ……!」
『次からは仕事の内容を選ぶんだな……!』
テツマキさんにメールしようとしたところで、気付く。携帯の画面に『使用不可』の文字……圏外なら分かるが、使用不可?
「やっぱり何か見つけたんだ。つけてきて良かった」
ドクン。その声を聞き、心臓が跳ねる音が耳に響く。振り向くと、やはりソイツはそこに居た。
柔軟に見える黒い胴アーマーに、首から下げた丸ゴーグル。両腕のキーボード型ブレッサーは、薄暗い中で輝きを発する。両脇に随伴するドローンは、浮遊しながらもこちらに照準を定めているようだ。
『……ディヴァイサー』
「はろはろ。さすがだね、クラップロイド」
ディヴァイサーは……ウロサキ マキナは、無邪気に笑ってそう言った。
俺は躊躇なくSACの名前を出した。クズハの任務が危険に晒される恐れがあったが、両組織の衝突よりもマシに思えたのだ。
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「……はい」
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そ、そうだ、屋上で一緒に弁当を食っていたのだった……。
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「あ、ああ! 週末に作り溜めして冷凍してるんだ……うん」
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「あ、あー……うん……まあそんなところ……」
「?」
ぼかした問いにぼかした答え。カモハシさんは首を傾げていたが、3秒したらポンと手を打った。
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「は、はは……」
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「へ?」
「何か力になれますか」
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「え、えっと……実は、色々と八方ふさがりと言うか……」
「珍しくもなさそうですね」
「ま、まあ……」
「ハッソーをテンカンしたら良いんだよ、そういう時は! こう、一方方向から考えるから詰まっちゃうんだと思う!」
「成程……」
発想を転換かぁ……。言われがちだけど、それって結構難しいよな。
「だいたい、何がそこまで詰んでいるんですか」
「いやぁ……実は、面倒な事が起きるって分かってるんだけど、止めるなって言ってる集団と、絶対に止めるって言ってる集団が居て……どうすりゃいいのやら……」
「成程」
ネクサス、SAC、グラニーツァ。三つ巴じみているが、そのうち2つの集団の目的は本来同じハズなのだ。どうにか組ませる流れになれば楽勝かもしれないが……。
「では、その面倒をそもそも起きなくさせれば良いんじゃないですか」
「それが上手く行けばいいんだけどな……大元を叩くって事か?」
「それが手っ取り早いでしょう」
そう言われても、どこに潜伏してるかも分からない……ん?
「……そうか、確かに、それはあるな」
そうだ。連中、GMDを使っていた。GMDを使っていたということは、GMDのサプライヤーからグラニーツァにたどりつくことも可能のハズ。なんで俺はこんな受け身の思考になっていたんだ!? 犯罪が起きてから行動するんじゃなく、犯罪が起きる前に防ぐのも立派なヒーロー活動だったハズだ!
「……?」
「す、すまん、俺ちょっと、今から忙しくなるっていうかもう忙しいから」
「え……ど、どうしたの?」
「きょ、今日は早退する!」
とんでもなく焦りながら弁当をかきこみ、立ち上がる。そして屋上から駆け降りながら2人に礼を叫ぶ。
「ありがとな! 絶対お返しするから!」
「はい」
「ま、またね~!」
2人らしい言葉に背を押され、俺は全力疾走に入った。
◆
『監視カメラの死角エリア』のデータはまだ残っている。そして、サプライヤーの一人と思われる体格データも、以前のデパートの死闘のタイミングで入手できている。俺はなんて馬鹿なんだ。王手と言っても過言じゃないぞ、この状況は。
「パラサイト、一旦GMD解毒薬の試作は中断だ。市内の監視カメラ映像から、例のサプライヤーの体格に当てはまる人物を探し出してくれ」
(了解いたしました。GMD解毒薬、92パーセントで中断保存。市内の監視カメラに接続、検索開始)
路地裏で学生服から私服に着替え、大通りに出る。この時間帯はまだまだ賑わっており、人通りは多い。
「視界にGMDの気化しやすい成分を色付けして表示。あと、クズハが言ってた廃工場の周囲の映像はダブルチェックを頼む」
(仰せのままに)
言いながら、携帯の連絡先から頼りになる大人をポチポチ探し、電話をかける。ほんの数コールで返答があった。
『なんだ堂本』
「テツマキさん。GMD……えっと、生物改造薬の件、進展ありましたか」
『ほとんどない。何か情報でもあるのか』
「テツマキさんのPCのメアド、教えてもらっていいですか。今からちょっとデータを送ります」
『……成程、いいだろう。お前、また危険なことに首を突っ込んでないだろうな』
「……俺がそうじゃなかった事ないでしょ」
呆れ気味の溜息と共に通話が切られ、メールでPCメアドが送られてくる。話が早い。
「パラサイト、サプライヤーの体格データだ。テツマキさんに送ってくれ」
(了解。添付ファイルとして、デパート内で見たデータを映像化して送ります)
「助かる」
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その時、ふと何かが見えた。ふわりと目に届く色付きの空気。道路を挟んで向こうの歩道に、GMDの気配だ。それを纏っているのは……フードを目深に被った……
「……パラサイト、追うぞ」
(了解。追跡開始)
殆ど何も考えず、反射的に口に出す。そして人ごみに消えそうなそのフードの人物を追って、走り出そうとして思い直し、止まる。
「……」
……このまま、取引現場、あるいはアジトまで追跡した方がいい。クズハに学ぶべきだ。奴から少しずつ、芋づる式に敵の喉元まで辿るのだ。
「……パラサイト、追跡を続ける。やつを目的の場所まで行かせるぞ」
(良い作戦です)
言いながら、テツマキさんにメールを送ろうかどうか迷い、結局携帯をしまい込む。俺がヘマをしないという確証もない。保険は必要だ……彼女に知らせるのは、ヤツの目的地に着いてからでも遅くはない。
そんな事を考えながらも、追跡を続ける。フードの人物は狡猾な動きで、警官の監視やカメラを避けて移動している。……かなり慣れているようで、一連の動きはよどみない。
(エックスによる透視、エコーヴィジュアライズ、熱源探知によるロック完了。半径50メートル以内であれば視界から外れても追跡できます)
「マジで助かる」
(ふふん)
パラサイトは何処で覚えたのか、ドヤ顔のAAを視界に表示させてくる。なんか日に日に芸達者になっていくな……。シンギュラリティの日も近そうだ。
その直後、フード人間は猛烈に辺りを見回し始めた。飛び退いて物陰に入ったコンマ秒後、俺が居た場所もじろじろと見つめられている。
「……いきなり挙動不審だな」
(目的地が近いものと推察。スーツアップしますか?)
「……スニークモードでスーツアップしよう。ただ、相手はかなり警戒してる……ここからは距離を取って追跡だ」
(了解、スーツアップ)
ダークブルーの装甲に一瞬で包まれながら、俺は物陰から追跡対象を見つめる。奴は周囲に誰も居なそうだと念入りに確認した後、するりと廃ビルに入っていった。
『……あそこは』
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言いながら、俺も周囲を確認し、ビルに入ってゆく。中は暗く、どうやら地下駐車場まで降ってゆく構造のようだ。
『……』
暗い中、視界に表示されるターゲットシグナルを追って忍び歩きを続ける。やがて悪臭が漂って来るのに気付き、ヘルメット越しに鼻を抑えた。
『なんだこりゃ……獣臭いっつーか……』
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『GMDを売り捌いてるな……! クラリス・コーポレーションから仕事を受けてるんだろ!!』
「ひ、ひぃぃ!! お、おたすけぇ~~!!」
『全部話せ!! お前らのせいでおかしくなった連中が沢山いるんだぞ!!』
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「た、助けてくれ、俺はそんな……軽い気持ちで、金が貰えるから……」
『話せ!! 誰が仕事を持って来る!! 誰に薬を届けた!!』
「く、薬を渡して来るのはスーツのあんちゃんだよ、名前は知らねえ!! 名乗らねえんだ!!」
『じゃあどうしてクラリス・コーポレーションの名を口にした!?』
「こ、この辺りじゃ奴らが黒幕だってもっぱらの噂なんだよ! それだけだ、他意はねえ、ねえんだよぉ!!」
その辺りで後頭部に衝撃を感じ、後ろを振り向く。浮浪者の1人が棒切れで俺の頭を殴ってきていた。
俺はソイツの足を払って転倒させ、更に深くターゲットの腕を捻る。
「ぐああああっ!?」
『誰に薬を届けた……その様子じゃ、また一仕事こなしたって感じだろう!』
「ろ、ロシア人だ!! 詳しくは知らねえ!! 俺はそこまで深入りしねえんだ!」
『覚えている事は!?』
「と、時計だ! やけに高そうなゴテゴテした時計! あと、ぼ、帽子、黒いの! 猫のタイピンもしてた!!」
『他の!! 仕事は!!!』
「ぎ、ぎいいいっ……し、指定された社員に、こっそり注射したり……い、痛い、いてえ……!!」
……ここまでだ。加熱する思考にブレーキをかけ、俺はその浮浪者から手を離す。これ以上は洒落にならない。彼は肩を抑え、ごろりと地面に転がる。
『……警察を呼ぶ。大人しくしろ』
「く、くそっ……!」
『次からは仕事の内容を選ぶんだな……!』
テツマキさんにメールしようとしたところで、気付く。携帯の画面に『使用不可』の文字……圏外なら分かるが、使用不可?
「やっぱり何か見つけたんだ。つけてきて良かった」
ドクン。その声を聞き、心臓が跳ねる音が耳に響く。振り向くと、やはりソイツはそこに居た。
柔軟に見える黒い胴アーマーに、首から下げた丸ゴーグル。両腕のキーボード型ブレッサーは、薄暗い中で輝きを発する。両脇に随伴するドローンは、浮遊しながらもこちらに照準を定めているようだ。
『……ディヴァイサー』
「はろはろ。さすがだね、クラップロイド」
ディヴァイサーは……ウロサキ マキナは、無邪気に笑ってそう言った。
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