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歪んだ生物
変化の音
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「皆静かに! 今日は転入生を紹介しまーす!」
ぱんぱん、と手を叩くのはイコマ先生だ。教卓の前で、今日もはつらつとした笑顔を浮かべている。
あの笑顔、見てるだけで癒される……既に校内にはイコマ先生のファンクラブもあるようだ。あの深い茶色の瞳を見ていると落ち着くんだよな……ファンの気持ちも分かる。
「なにが転入生だよ、しょうもな」
逆に見てると落ち着かなくなってくるのはコイツだ……鬼城 灯。今日も取り巻きの女子生徒に囲まれて、女王様のように振る舞っている。やだやだ、絶対目向けんとこ……と思っていると、後頭部に丸めた紙屑をぶつけられた。エスパーなの、女子……。
次々後頭部に紙をぶつけられ、心のHPを削られながら前を向く。日常茶飯事すぎてクラスメイトは何も言わなくなっている。
イコマ先生はこういうのを見かけたら絶対に止めに来るのだが、最近は見えないように女子グループが進化しつつある。そのうちステルス迷彩とか着て殴りに来るんじゃないかな。
……学級内の心配事はそれだけじゃない。どうも最近、カモハシさんが不穏なのだ。
具体的に言えば、いじめられている時の俺を見て、何か言いたそうにじっとしている事が多い。多分、きっと、俺への感情とか抜きにして考えても、彼女は優しいのでこういった行為を止めたいのだろう。今も俺の斜め後方から視線を感じる。
……どうしよ、マジで。
「……という事情らしいから、皆仲良くしてあげてね! それじゃウロサキさん、入って!」
「は~い!」
……元気な返事で我に返れば、小走りに教室に入ってきた女子が見えた。モジャモジャの黒髪に、元気そうな瞳の光……。
またひとつ心配事が増える。俺は内心頭を抱えて、その女子を……ディバイサーを見る。
彼女はキャピキャピと目に見えそうなほどの元気オーラを振りまきながら、教室中に向けてウィンクした。
「ウロサキ マキナでーす! 仲良くしてね!」
絶対偽名だわ。
◆
ウロサキ マキナと名乗った少女は、あっという間にクラスに馴染んだ。友達作りが抜群に上手いらしく、その日の昼休みになる頃には彼女の机の周囲には人だかりができていたくらいだ。
俺の机の周囲には誰もおりません。なんと珍しい事にいじめグループすら居ない。まあ、あのグループはトレンドにすぐ飛び付くからね……今のトレンドは魅力的な転校生というところなのだろう。
(……GMD解毒薬のデータ試作、進行度70%。解毒薬が作れるようになるまで、もう少しかかります)
「了解……」
束の間の平和を楽しむという訳にはいかない。生物改造事件の対策を早急に打ち立て、ネクサスなんていう怖い集団にはお帰り願わなければ。このままじゃ操り人形にされかねない。
パラサイトにまかせっきりにするのではなく、俺自身もノートに様々な化合物の構造案を書き込んでいくが……
(それはもう試してあります)
「……だよな、知ってる」
……コンピュータの手伝いって要る?
(いえ、待ってください……もう一度試してみます)
「いや、気を使ってくれなくていいから」
(ぱぱーん! ご主人様のおかげで進行度が71%になりました!)
「嘘つかなくていいって……」
なんかみじめな気持ちになってきたな……。マジでネクサスさんは早く帰ってくれ。八つ当たりっぽいけど。
マーカスから提示された「協力要請」はその実、監視付きの半強制労働だった。断れば俺の正体をネタに脅すつもりだったらしいし、どこのヤクザのやり口だよ……。
俺が信用できないというのも理解できる。ほんの一ヵ月ほど前に現れた新参の自警団だ。自警団なんてのは半分どころか全身犯罪者なのだから、こういう扱いも仕方ない。
ともかくさっさと退去してもらおう……信用を勝ち取って、問題ないと判断してもらって、サヨナラだ……。
「堂本く~ん」
「そう、サヨナラだ……さっさとこのパートナーシップを打ち切って……」
「堂本くん、聞いてる~?」
「そうすればクソ面倒な……え、はい?」
「あ、こっち見てくれたぁ!」
ブツブツ不審極まる独り言を喋っていると、ふわふわした声が聞こえた。思考を打ち切って目を向けると、ふんわりした笑顔のカモハシさんがすぐそばに立っていた。彼女は笑顔のまま、胸の前で両手を合わせる。
「あのねえ、いつもアオちゃんとご飯食べてるんだけど、今日は堂本くんも一緒にどう?」
「あ、はい……え?」
え?
「屋上でね~、良い場所があるんだぁ。すっごい空が綺麗だし、今日なんて気持ちよさそう!」
「は……はぁ。イッショニ? ってどういう事?」
「え?」
「え?」
え、俺がおかしいの?
◆
「……」
「…………」
「やっぱり人が多いと美味しいね~」
「…………そうですね」
「そ、そう……すね……」
屋上、真っ青な空に見下ろされながら、俺は震えて弁当を食っていた。先ほどから猛烈な殺気に晒され、箸の扱いがおぼつかない。
殺気の発生源であるつり目の後輩、スズシロ アオコは、俺とカモハシさんの間に割り込むようにして座り、俺を目でけん制し続けている。マフィアのボスか何か?
この事態の元凶であるカモハシさんはどこ吹く風。るんるん鼻歌を歌いながら可愛らしいお弁当箱を開けている。
「なんで堂本先輩まで居るんですか」
なんでそんな直球で訊くの……しかもカモハシさんじゃなくて俺に直接尋ねてくるのさ!!
「い、いやぁ……なんで……スかね……」
「あのね、私が誘ったの! 堂本くんのごはん、気になって~」
「……そうですか」
カモハシさんの言葉を聞き、スズシロは相変わらず恐ろしい目つきのまま口を閉ざした。
言葉にせずとも(二人きりの時間を邪魔するな)というのが伝わってくる。こういうのを、目は口ほどに物を言うって表現するんだろうね……俺だってなんで居るのか分かんないよ……お弁当食べたらさっさと離脱しよ……。
「あー、唐揚げ! いいな~」
「あ、はい。唐揚げです、世に言う……唐揚げ……ハイ」
「ねね、一個ちょーだい? 卵焼きあげるから!」
「あ、えぇっと……」
肉と卵のトレードか……正直言ってあんまり釣り合ってないんだよなあ……
と思っていると、恐ろしいほどのキリングオーラが漂って来た。思わずそちらを見ると、スズシロが目をカッと開いて俺を見つめていた。
「もちろんオッケーです。一個と言わず二個でも三個でも持って行ってください」
「え……え? わ、悪いから、一個だけ貰うね……?」
「待ってください。私が毒味します」
毒味っつったかコイツ!? あまりの扱いの悪さにキレそうになるが、しかしスズシロは俺の弁当箱から唐揚げをひとつ箸でつまみ上げ、髪を払いのけながらパクリとかじる。
くそッ、こんな何気ない動作でもスズシロみたいな美人がやれば絵になるのだ……俺がやったらゲロゲロなのに……恐るべき後輩は、この唐揚げには危険性が無いと判断したのか、しぶしぶカモハシさんにあーんをしている。
あーんをしている!? 思わずその光景を二度見しそうになり、首を軋ませて耐える。ふ、不審な動きを見せるな……きっとこの二人の中では普通の事なのだ……!
「あ、もう! 一人で食べられるよ~!」
「暴れないでください。……ほら、あーん」
「ん~……あ~、ん」
「水はいりませんか? ……フフ」
「んーん! えへへ、美味しいよ~」
「……良かったですね」
イチャイチャしやがってよ……ありがとうございます。
「あ、こんなトコに居た」
桃源郷のような光景を前に神へ感謝していると、屋上の扉がバタンと開かれ、ディバイサー……ウロサキ マキナが出てきた。反射的に顔をしかめそうになり、寸でのところで踏み止まる。
ウロサキは俺と2人を順繰りに見つめると、ニッコリと笑んで口を開いた。
「へー、意外。トモダチ居たんだ」
「友達じゃありません」
「あ、あはは……」
俺の心をナイフでめった刺しにするんじゃない。
「え~、意外なのかな。堂本くん、友達多そうだけどな」
「……」
「……」
「……」
なんで皆黙るの? 帰っていい?
「何か用ですか」
「用っていうか、その堂本君に用事なんだけどね。ちょっといい?」
「あ、用……スか」
「うん。暇でも忙しくても来てよ」
問答無用じゃねーか!! と思っていると、校内にけたたましい音の警報が鳴り始めた。
「えっ」
「これ……火事の時の、きゃっ」
「……」
スズシロは素早くカモハシさんの手を取り、非常階段の方へ歩いてゆく。カモハシさんはふわふわと引きずられながら、俺を心配そうに見ている。
「待ってよぉ、アオちゃん……堂本くんも逃げなきゃ」
優しすぎるでしょうが……。カモハシさんの方がヒーロー向きでしょうがぁ……。
「いやいや、ミノさん。堂本くんは平気だからさっさと逃げちゃって」
「……」
ディバイサーが言うのを聞き、スズシロは冷たい目で俺と、ウロサキを見る。冷静な後輩は、一瞬だけ動きを止め、俺の目を見つめてくる。
何を言うべきか迷いながら、俺は口を開いた。
「……大丈夫だ。俺は、ちょっと校内で忘れ物を取ってくるから……先に行っててくれ」
「……」
「ダメだよ、一緒に……わぁっ!?」
スズシロは何も言わず、すぐさま踵を返して非常階段を駆け下りて行く。
校内がにわかに足音で騒がしくなるのを聞きながら、俺はディバイサーに向き直る。
「それで、なんで警報ベルが鳴ってるんだ?」
「んー、実は校内でGMD使用者が確認されたんだよね。一緒に鎮圧行こ?」
そんな放課後マック行こみたいなノリで……。怖いよやだよ行きたくないよ。
「……分かった。どの棟だ?」
「3年生の居るとこ。なんだっけ、物理の教室とかあるじゃん」
「北棟だな」
ここ南棟から北棟までは一度中庭を経由しなければならないが……変身すれば、屋上からの跳躍で3階の窓を突き破って突入できるだろう。問題ないハズだ。
ディバイサーはニコニコして俺を見つめている。……なんかまだ確認すべき事あったっけ?
「えっと……何?」
「だって貴重な変身シーンじゃん。見たい」
「……」
悠長なヤツ……俺も大概か。とりあえず、焦げた右腕の包帯を思い切り締め上げ、しばらくは痛まないように感覚を遮断する。
「パラサイト、スーツアップだ!」
(了解、スーツアップ)
瞬間、俺の全身を銀の甲殻類じみた装甲が覆う。虚空から現れるアーマーに包み込まれるこの感覚は、何回やっても慣れない。
「へー、すごいすごい。じゃ、私も……変身!」
え? アンタも変身すんの? と思って目をやると、制服を思いっきり上に引っ張って脱いでいた。おおおおい!! 待って見えちゃう見えちゃう!! これは素晴らしいプロポーショ
強大な引力に逆らって目をそらすと、ぷふっと噴き出す声が聞こえた。視線を戻せば、ディヴァイサーは既にコスチュームに着替え終わっていた。
首から下げた円形のゴーグルに、両腕にびっしりと装着されたキーボード型ブレッサー。柔軟に見えるが、恐らくはかなりの強度の黒い胴アーマー……。更には近くに2機のドローンまで飛んでいる。小型で、プロペラが無いのに浮遊している……一体どんな原理なんだ。
「そんなにじっくり見て、えっち」
『スミマセン……』
「ホラ行こ。ディヴァイサー&クラップロイドの初仕事だよ」
とん、とウロサキは屋上から跳び、ドローンを次々蹴り渡って北棟へ向かってゆく。
技術ってすげえな……。俺はそんな事を考えながら、アーマーのパワーをフル活用し、屋上を蹴って北棟の3階に突入した。
ぱんぱん、と手を叩くのはイコマ先生だ。教卓の前で、今日もはつらつとした笑顔を浮かべている。
あの笑顔、見てるだけで癒される……既に校内にはイコマ先生のファンクラブもあるようだ。あの深い茶色の瞳を見ていると落ち着くんだよな……ファンの気持ちも分かる。
「なにが転入生だよ、しょうもな」
逆に見てると落ち着かなくなってくるのはコイツだ……鬼城 灯。今日も取り巻きの女子生徒に囲まれて、女王様のように振る舞っている。やだやだ、絶対目向けんとこ……と思っていると、後頭部に丸めた紙屑をぶつけられた。エスパーなの、女子……。
次々後頭部に紙をぶつけられ、心のHPを削られながら前を向く。日常茶飯事すぎてクラスメイトは何も言わなくなっている。
イコマ先生はこういうのを見かけたら絶対に止めに来るのだが、最近は見えないように女子グループが進化しつつある。そのうちステルス迷彩とか着て殴りに来るんじゃないかな。
……学級内の心配事はそれだけじゃない。どうも最近、カモハシさんが不穏なのだ。
具体的に言えば、いじめられている時の俺を見て、何か言いたそうにじっとしている事が多い。多分、きっと、俺への感情とか抜きにして考えても、彼女は優しいのでこういった行為を止めたいのだろう。今も俺の斜め後方から視線を感じる。
……どうしよ、マジで。
「……という事情らしいから、皆仲良くしてあげてね! それじゃウロサキさん、入って!」
「は~い!」
……元気な返事で我に返れば、小走りに教室に入ってきた女子が見えた。モジャモジャの黒髪に、元気そうな瞳の光……。
またひとつ心配事が増える。俺は内心頭を抱えて、その女子を……ディバイサーを見る。
彼女はキャピキャピと目に見えそうなほどの元気オーラを振りまきながら、教室中に向けてウィンクした。
「ウロサキ マキナでーす! 仲良くしてね!」
絶対偽名だわ。
◆
ウロサキ マキナと名乗った少女は、あっという間にクラスに馴染んだ。友達作りが抜群に上手いらしく、その日の昼休みになる頃には彼女の机の周囲には人だかりができていたくらいだ。
俺の机の周囲には誰もおりません。なんと珍しい事にいじめグループすら居ない。まあ、あのグループはトレンドにすぐ飛び付くからね……今のトレンドは魅力的な転校生というところなのだろう。
(……GMD解毒薬のデータ試作、進行度70%。解毒薬が作れるようになるまで、もう少しかかります)
「了解……」
束の間の平和を楽しむという訳にはいかない。生物改造事件の対策を早急に打ち立て、ネクサスなんていう怖い集団にはお帰り願わなければ。このままじゃ操り人形にされかねない。
パラサイトにまかせっきりにするのではなく、俺自身もノートに様々な化合物の構造案を書き込んでいくが……
(それはもう試してあります)
「……だよな、知ってる」
……コンピュータの手伝いって要る?
(いえ、待ってください……もう一度試してみます)
「いや、気を使ってくれなくていいから」
(ぱぱーん! ご主人様のおかげで進行度が71%になりました!)
「嘘つかなくていいって……」
なんかみじめな気持ちになってきたな……。マジでネクサスさんは早く帰ってくれ。八つ当たりっぽいけど。
マーカスから提示された「協力要請」はその実、監視付きの半強制労働だった。断れば俺の正体をネタに脅すつもりだったらしいし、どこのヤクザのやり口だよ……。
俺が信用できないというのも理解できる。ほんの一ヵ月ほど前に現れた新参の自警団だ。自警団なんてのは半分どころか全身犯罪者なのだから、こういう扱いも仕方ない。
ともかくさっさと退去してもらおう……信用を勝ち取って、問題ないと判断してもらって、サヨナラだ……。
「堂本く~ん」
「そう、サヨナラだ……さっさとこのパートナーシップを打ち切って……」
「堂本くん、聞いてる~?」
「そうすればクソ面倒な……え、はい?」
「あ、こっち見てくれたぁ!」
ブツブツ不審極まる独り言を喋っていると、ふわふわした声が聞こえた。思考を打ち切って目を向けると、ふんわりした笑顔のカモハシさんがすぐそばに立っていた。彼女は笑顔のまま、胸の前で両手を合わせる。
「あのねえ、いつもアオちゃんとご飯食べてるんだけど、今日は堂本くんも一緒にどう?」
「あ、はい……え?」
え?
「屋上でね~、良い場所があるんだぁ。すっごい空が綺麗だし、今日なんて気持ちよさそう!」
「は……はぁ。イッショニ? ってどういう事?」
「え?」
「え?」
え、俺がおかしいの?
◆
「……」
「…………」
「やっぱり人が多いと美味しいね~」
「…………そうですね」
「そ、そう……すね……」
屋上、真っ青な空に見下ろされながら、俺は震えて弁当を食っていた。先ほどから猛烈な殺気に晒され、箸の扱いがおぼつかない。
殺気の発生源であるつり目の後輩、スズシロ アオコは、俺とカモハシさんの間に割り込むようにして座り、俺を目でけん制し続けている。マフィアのボスか何か?
この事態の元凶であるカモハシさんはどこ吹く風。るんるん鼻歌を歌いながら可愛らしいお弁当箱を開けている。
「なんで堂本先輩まで居るんですか」
なんでそんな直球で訊くの……しかもカモハシさんじゃなくて俺に直接尋ねてくるのさ!!
「い、いやぁ……なんで……スかね……」
「あのね、私が誘ったの! 堂本くんのごはん、気になって~」
「……そうですか」
カモハシさんの言葉を聞き、スズシロは相変わらず恐ろしい目つきのまま口を閉ざした。
言葉にせずとも(二人きりの時間を邪魔するな)というのが伝わってくる。こういうのを、目は口ほどに物を言うって表現するんだろうね……俺だってなんで居るのか分かんないよ……お弁当食べたらさっさと離脱しよ……。
「あー、唐揚げ! いいな~」
「あ、はい。唐揚げです、世に言う……唐揚げ……ハイ」
「ねね、一個ちょーだい? 卵焼きあげるから!」
「あ、えぇっと……」
肉と卵のトレードか……正直言ってあんまり釣り合ってないんだよなあ……
と思っていると、恐ろしいほどのキリングオーラが漂って来た。思わずそちらを見ると、スズシロが目をカッと開いて俺を見つめていた。
「もちろんオッケーです。一個と言わず二個でも三個でも持って行ってください」
「え……え? わ、悪いから、一個だけ貰うね……?」
「待ってください。私が毒味します」
毒味っつったかコイツ!? あまりの扱いの悪さにキレそうになるが、しかしスズシロは俺の弁当箱から唐揚げをひとつ箸でつまみ上げ、髪を払いのけながらパクリとかじる。
くそッ、こんな何気ない動作でもスズシロみたいな美人がやれば絵になるのだ……俺がやったらゲロゲロなのに……恐るべき後輩は、この唐揚げには危険性が無いと判断したのか、しぶしぶカモハシさんにあーんをしている。
あーんをしている!? 思わずその光景を二度見しそうになり、首を軋ませて耐える。ふ、不審な動きを見せるな……きっとこの二人の中では普通の事なのだ……!
「あ、もう! 一人で食べられるよ~!」
「暴れないでください。……ほら、あーん」
「ん~……あ~、ん」
「水はいりませんか? ……フフ」
「んーん! えへへ、美味しいよ~」
「……良かったですね」
イチャイチャしやがってよ……ありがとうございます。
「あ、こんなトコに居た」
桃源郷のような光景を前に神へ感謝していると、屋上の扉がバタンと開かれ、ディバイサー……ウロサキ マキナが出てきた。反射的に顔をしかめそうになり、寸でのところで踏み止まる。
ウロサキは俺と2人を順繰りに見つめると、ニッコリと笑んで口を開いた。
「へー、意外。トモダチ居たんだ」
「友達じゃありません」
「あ、あはは……」
俺の心をナイフでめった刺しにするんじゃない。
「え~、意外なのかな。堂本くん、友達多そうだけどな」
「……」
「……」
「……」
なんで皆黙るの? 帰っていい?
「何か用ですか」
「用っていうか、その堂本君に用事なんだけどね。ちょっといい?」
「あ、用……スか」
「うん。暇でも忙しくても来てよ」
問答無用じゃねーか!! と思っていると、校内にけたたましい音の警報が鳴り始めた。
「えっ」
「これ……火事の時の、きゃっ」
「……」
スズシロは素早くカモハシさんの手を取り、非常階段の方へ歩いてゆく。カモハシさんはふわふわと引きずられながら、俺を心配そうに見ている。
「待ってよぉ、アオちゃん……堂本くんも逃げなきゃ」
優しすぎるでしょうが……。カモハシさんの方がヒーロー向きでしょうがぁ……。
「いやいや、ミノさん。堂本くんは平気だからさっさと逃げちゃって」
「……」
ディバイサーが言うのを聞き、スズシロは冷たい目で俺と、ウロサキを見る。冷静な後輩は、一瞬だけ動きを止め、俺の目を見つめてくる。
何を言うべきか迷いながら、俺は口を開いた。
「……大丈夫だ。俺は、ちょっと校内で忘れ物を取ってくるから……先に行っててくれ」
「……」
「ダメだよ、一緒に……わぁっ!?」
スズシロは何も言わず、すぐさま踵を返して非常階段を駆け下りて行く。
校内がにわかに足音で騒がしくなるのを聞きながら、俺はディバイサーに向き直る。
「それで、なんで警報ベルが鳴ってるんだ?」
「んー、実は校内でGMD使用者が確認されたんだよね。一緒に鎮圧行こ?」
そんな放課後マック行こみたいなノリで……。怖いよやだよ行きたくないよ。
「……分かった。どの棟だ?」
「3年生の居るとこ。なんだっけ、物理の教室とかあるじゃん」
「北棟だな」
ここ南棟から北棟までは一度中庭を経由しなければならないが……変身すれば、屋上からの跳躍で3階の窓を突き破って突入できるだろう。問題ないハズだ。
ディバイサーはニコニコして俺を見つめている。……なんかまだ確認すべき事あったっけ?
「えっと……何?」
「だって貴重な変身シーンじゃん。見たい」
「……」
悠長なヤツ……俺も大概か。とりあえず、焦げた右腕の包帯を思い切り締め上げ、しばらくは痛まないように感覚を遮断する。
「パラサイト、スーツアップだ!」
(了解、スーツアップ)
瞬間、俺の全身を銀の甲殻類じみた装甲が覆う。虚空から現れるアーマーに包み込まれるこの感覚は、何回やっても慣れない。
「へー、すごいすごい。じゃ、私も……変身!」
え? アンタも変身すんの? と思って目をやると、制服を思いっきり上に引っ張って脱いでいた。おおおおい!! 待って見えちゃう見えちゃう!! これは素晴らしいプロポーショ
強大な引力に逆らって目をそらすと、ぷふっと噴き出す声が聞こえた。視線を戻せば、ディヴァイサーは既にコスチュームに着替え終わっていた。
首から下げた円形のゴーグルに、両腕にびっしりと装着されたキーボード型ブレッサー。柔軟に見えるが、恐らくはかなりの強度の黒い胴アーマー……。更には近くに2機のドローンまで飛んでいる。小型で、プロペラが無いのに浮遊している……一体どんな原理なんだ。
「そんなにじっくり見て、えっち」
『スミマセン……』
「ホラ行こ。ディヴァイサー&クラップロイドの初仕事だよ」
とん、とウロサキは屋上から跳び、ドローンを次々蹴り渡って北棟へ向かってゆく。
技術ってすげえな……。俺はそんな事を考えながら、アーマーのパワーをフル活用し、屋上を蹴って北棟の3階に突入した。
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