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黄泉の端
秋晴れの空の下
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どうしてお父さんは帰ってこないの、なんて、お母さんに聞いても答えてくれなかった。
お姉ちゃんも、そのまたお姉ちゃんも、そのまたお姉ちゃんも、絶対答えてくれなかった。ただ、ああ、ぼんやり、もう二度と会えないんだなって感じた。
お父さんは昔からずっと病院にいて、真っ白な服を着ていた。たまにおみまい?に行っても、少し話したら限界で、すぐにゴホゴホいって、お医者さんが来て、わたしたちは帰らされてた。
いつもの生活の中で、お父さんが恋しくなることなんてなかった。だって会うこともあんまりないし、最初から家族の中に居たわけじゃなくて、病院に行く時間のほうが少なかったし。
でも、ときどき、お父さんがか細い声で歌ってた歌を思い出す。そんな時は、決まって胸がきゅうっとなって、息をするのが苦しくなる。この事を話した時、お母さんはすごく泣いてた。お姉ちゃんたちも、泣くのを我慢してた。わたしには理解できなかった。きっと、皆が泣くのは、すごくイヤなことに違いなかったから。
だからもう、あの人のことは、忘れたほうがいいのだろう。
◆
チュンチュンと雀が鳴く。朝である。朝から頭の中でけたたましいアラーム音を鳴らされ、俺こと堂本 貴は目を覚ます。起き上がる気にもなれず、しばらく寝返りを打っていると、向こうから話しかけてきた。
(おはようございます、ご主人様)
「……おはよう」
俺の頭の中で喋っているコイツの名はパラサイト。話すと長くなるが、とりあえず知っておいていただきたいのは、俺はコイツに寄生され、世の秩序を保つためにヒーローとして活動中ってこと。
(一週間ほど前から調査を進めていましたが、どうやらクラリス・コーポレーションは新たな計画に着手したようです。その名も『ヨモツ・ギア・プロジェクト』)
「ヨ……何?」
――クラリス・コーポレーション。半覚醒状態だった俺の脳も、それを聞いてようやく稼働を始める。
以前のヒーロー活動中に、その名を聞いたことがある。……良くない形で聞いた。解決した事件の黒幕の、更にその後ろに、その会社が居た……ようなのだ。
(ヨモツギア・プロジェクト、通称『YGP』。厳重な情報封鎖の上で始められた計画のようです。……なにはともあれ、朝食を召し上がってはいかがですか?)
「あー……」
全神経をその情報に傾けて聞いていたが、やがて俺は寝癖まみれの頭を掻き、立ち上がった。寝起きの体は酷いもので、フラついて棚に体当たりしてしまった。
◆
「それで? ヨモツギア・プロジェクトって?」
自分以外に誰も居ないリビングで、朝食のお茶漬けを食べながらそう尋ねる。傍から見れば1人でブツブツ言う不審者だが、頭の中から返答がある。
(ヨモツ・ギア・プロジェクト、今掴めているのはその名と、世界中に散らばる「生産工場予定地」の拠点のみです)
「生産工場……予定地?」
(どうやらクラリス・コーポレーションは、何かの生産を世界規模で一斉に始めるようですね。そのための工場を、あらゆる国の様々な土地で建設しようとしているようです)
「ヨモツ……ヨモツか」
ヨモツ。それを聞いてパッと浮かぶのは、現世と冥界の狭間にある黄泉平坂だったり、そもそもあの世の黄泉国だったりだ。……縁起は良くない気もするけど、キャッチーではある。
(そのうちのひとつが……)
ピンポーン。その時、空っぽの家の中にインターホンが鳴り響いた。時計を見れば、朝8時である。誰か来客だろうか……と思って立ち上がろうとすると、今度はリビングの窓が開く音がした。
慌てて振り向くと、狭い窓枠から、ニヤニヤと笑みを浮かべる狐面ドミノマスクの女の顔がのぞいていた。
「およ、朝食中じゃったかの」
……普通にホラーな光景に言葉を失っていると、女は笑みを引っ込めてそう言う。いや、そこじゃないでしょ。
「何しに来たんだよ……ていうか、インターホン鳴らしてから裏口に来るまでの感覚が短すぎるだろ」
「クフフ、小僧をからかってやるのも面白いもんじゃぞ」
そう言い、狭い窓枠から蛇のようににゅるりと入室してくる。コイツの名はクズハ。世界を股にかけるスパイ組織のメンバーだ。……以前の事件で知り合いになってから、割と頻繁に訪ねて来ては無理難題を押し付けてくる。
「茶漬けか。鮭茶漬けはあるかえ?」
「梅なら……」
「梅か。わるうない」
当然のように食器棚から茶わんを取り出し、お湯を沸かし始めるクズハを見て、俺も感覚がおかしくなってきたなぁとつくづく感じる。普通の人間の頃だったら不法侵入の不審者として通報してただろうに……。
「ひーろー活動の方はどうじゃ?」
「ああ、うん……まあまあ」
さす、と思わず昨夜殴られた肩をさする。毎日毎日夜遅くまで活動しているが、日に日に犯罪者たちの抵抗も激しくなっている。ヒーローとしての俺に対し、犯罪者たちの恐怖が薄れ始めたのだ。
最近一番厄介なのは『アワナミ組』と呼ばれる暴力団である。ここアワナミ市に昔から根付いているヤクザらしく、その団結力と来たら……ともかく、厄介の一言に尽きる。
「まあまあ、ときたか」
クズハは特に興味も無さそうに、沸騰した湯を茶わんに注ぎ始めている。聞く気がないなら聞くなよ……とも思うが、俺の話の広げ方が超絶に下手だったのもあって仕方ない。
「それで、今回何故来たかと言うと」
「来たかと言うと?」
クズハが俺の向かいの椅子に座り、机に茶わんを置いて茶漬けを食べ始める。食う時くらい仮面を外さないのかと思ったが、外さない。……あらためて奇妙な空間である。
「実を言うと……おぬしも噂くらいは小耳に挟んだと思うが、YGPというのは聞いたことがあるかえ?」
「ああ、アレね……」
ヨモツギア・プロジェクト。……ドンピシャなタイミングで訪ねてきたものだ。訳知り顔で頷いていたら、クズハは鋭い眼光で俺を睨んできた。思わず食べたものが口から出そうになるほどの重圧である。
「どの程度まで知っておる?」
「……い、いやぁ、名前くらい……後は世界中に工場の建設予定地がある事くらい?」
「そうか」
しばらく重圧は続いていたが、やがてふとその重圧が消え、クズハは茶漬けをチャコチャコ食べ始める。
いや、本当に勘弁してください……。年端も行かない高校生がちょっと事情通な顔をしただけでこの対応。うかつに知ったかもできない。
「実はのう、今回来たのは他でもない、その事についての頼みじゃ。この近くにもヨモツ・ギア・プロジェクトの工場が建設予定というのは知っておるかの?」
「そ、そうなの?」
(あ、私が言いたかった情報……)
全然知らなかった。というかパラサイト、私が言いたかった情報ってなんだ。AIの癖にサプライズをやろうとするんじゃないよ。
「クラリス・コーポレーションはかなり無茶を通してでもその工場建設をやるつもりらしくてのう。その周辺に住んでおる住民への嫌がらせや追い出し……まあ汚い地上げじゃの。それが頻発しておるらしい」
「それは……」
住み慣れた家を嫌がらせで出て行かされるなんて、考えただけでもぞっとする。
俺も、この家にはいい思い出がないが……それでも、出ていけと言われれば渋るだろう。長く一緒に居た家や人には、理屈では済まない絆が生まれるものなのだ。
「そこでおぬしには、この住所に赴き、様子を探ってきてほしいのじゃ」
「様子を?」
「そう、様子を。わらわも暇ではなくてのう、あーウマ」
暇じゃない割にはチャコチャコ茶漬けを食う手が止まらない。俺は呆れかけたが、しかしここは俺の街だ。俺が何とかするのが筋というものだろう。
グラニーツァも、ジュウロン会も、水面下に潜伏して長い。久々に動こう。そう考え、立ち上がる。
「……分かった。何とかする」
「無理はせずとも良い。建設を止めろとも言わぬ。しかし、住民の意くらいは守りたいじゃろうと思うてな、粋な計らいに感謝しておくが良い」
「その茶わんはちゃんと洗ってくれよ」
「ん、よかろ」
◆
(上手いように使われましたね)
「たしかに……」
渡された住所へ向かって歩きながら、俺はパラサイトと会話する。ああやっていつもクズハに乗せられてしまう。前に密漁者をひっ捕らえたときも……いやこれを思い出すのはやめておこう。
それにしても良い天気だ。秋晴れの真っ青な空の下、俺は少し肌寒く感じて上着を引っ張り上げる。往来を歩く人々も寒そうだが、親子や恋人同士で手を繋いでいたり、暖かそうな飲み物を飲んでいたりと、各々でこの天候を楽しんでいる様子。何よりである。
俺も手をつなぐ相手が居ればな……とネガティブな方向に転がりかけた思考をストップさせ、横断歩道と向かい合う。そろそろ住所の場所が見えてきても良いはずなんだけどなぁ、と思っていると、突如耳をつんざく大声が聞こえた。
「「「市民ホールを皆さんの手で守りましょう!!! アワナミ市民の皆さん、今こそ立ち上がるべき時です!!!」」」
……拡声器で何倍にも大きくなった声が、秋晴れの空の下、通りをいくつも通り抜けた。
俺は面食らっていた。通行人の皆も面食らっていた。飛んでいた鳥たちも面食らって何羽か落ちてきた。
拡声器を握った女性は、皆が静まり返った中で、ひとりだけ得意げに鼻息を漏らしていた。
お姉ちゃんも、そのまたお姉ちゃんも、そのまたお姉ちゃんも、絶対答えてくれなかった。ただ、ああ、ぼんやり、もう二度と会えないんだなって感じた。
お父さんは昔からずっと病院にいて、真っ白な服を着ていた。たまにおみまい?に行っても、少し話したら限界で、すぐにゴホゴホいって、お医者さんが来て、わたしたちは帰らされてた。
いつもの生活の中で、お父さんが恋しくなることなんてなかった。だって会うこともあんまりないし、最初から家族の中に居たわけじゃなくて、病院に行く時間のほうが少なかったし。
でも、ときどき、お父さんがか細い声で歌ってた歌を思い出す。そんな時は、決まって胸がきゅうっとなって、息をするのが苦しくなる。この事を話した時、お母さんはすごく泣いてた。お姉ちゃんたちも、泣くのを我慢してた。わたしには理解できなかった。きっと、皆が泣くのは、すごくイヤなことに違いなかったから。
だからもう、あの人のことは、忘れたほうがいいのだろう。
◆
チュンチュンと雀が鳴く。朝である。朝から頭の中でけたたましいアラーム音を鳴らされ、俺こと堂本 貴は目を覚ます。起き上がる気にもなれず、しばらく寝返りを打っていると、向こうから話しかけてきた。
(おはようございます、ご主人様)
「……おはよう」
俺の頭の中で喋っているコイツの名はパラサイト。話すと長くなるが、とりあえず知っておいていただきたいのは、俺はコイツに寄生され、世の秩序を保つためにヒーローとして活動中ってこと。
(一週間ほど前から調査を進めていましたが、どうやらクラリス・コーポレーションは新たな計画に着手したようです。その名も『ヨモツ・ギア・プロジェクト』)
「ヨ……何?」
――クラリス・コーポレーション。半覚醒状態だった俺の脳も、それを聞いてようやく稼働を始める。
以前のヒーロー活動中に、その名を聞いたことがある。……良くない形で聞いた。解決した事件の黒幕の、更にその後ろに、その会社が居た……ようなのだ。
(ヨモツギア・プロジェクト、通称『YGP』。厳重な情報封鎖の上で始められた計画のようです。……なにはともあれ、朝食を召し上がってはいかがですか?)
「あー……」
全神経をその情報に傾けて聞いていたが、やがて俺は寝癖まみれの頭を掻き、立ち上がった。寝起きの体は酷いもので、フラついて棚に体当たりしてしまった。
◆
「それで? ヨモツギア・プロジェクトって?」
自分以外に誰も居ないリビングで、朝食のお茶漬けを食べながらそう尋ねる。傍から見れば1人でブツブツ言う不審者だが、頭の中から返答がある。
(ヨモツ・ギア・プロジェクト、今掴めているのはその名と、世界中に散らばる「生産工場予定地」の拠点のみです)
「生産工場……予定地?」
(どうやらクラリス・コーポレーションは、何かの生産を世界規模で一斉に始めるようですね。そのための工場を、あらゆる国の様々な土地で建設しようとしているようです)
「ヨモツ……ヨモツか」
ヨモツ。それを聞いてパッと浮かぶのは、現世と冥界の狭間にある黄泉平坂だったり、そもそもあの世の黄泉国だったりだ。……縁起は良くない気もするけど、キャッチーではある。
(そのうちのひとつが……)
ピンポーン。その時、空っぽの家の中にインターホンが鳴り響いた。時計を見れば、朝8時である。誰か来客だろうか……と思って立ち上がろうとすると、今度はリビングの窓が開く音がした。
慌てて振り向くと、狭い窓枠から、ニヤニヤと笑みを浮かべる狐面ドミノマスクの女の顔がのぞいていた。
「およ、朝食中じゃったかの」
……普通にホラーな光景に言葉を失っていると、女は笑みを引っ込めてそう言う。いや、そこじゃないでしょ。
「何しに来たんだよ……ていうか、インターホン鳴らしてから裏口に来るまでの感覚が短すぎるだろ」
「クフフ、小僧をからかってやるのも面白いもんじゃぞ」
そう言い、狭い窓枠から蛇のようににゅるりと入室してくる。コイツの名はクズハ。世界を股にかけるスパイ組織のメンバーだ。……以前の事件で知り合いになってから、割と頻繁に訪ねて来ては無理難題を押し付けてくる。
「茶漬けか。鮭茶漬けはあるかえ?」
「梅なら……」
「梅か。わるうない」
当然のように食器棚から茶わんを取り出し、お湯を沸かし始めるクズハを見て、俺も感覚がおかしくなってきたなぁとつくづく感じる。普通の人間の頃だったら不法侵入の不審者として通報してただろうに……。
「ひーろー活動の方はどうじゃ?」
「ああ、うん……まあまあ」
さす、と思わず昨夜殴られた肩をさする。毎日毎日夜遅くまで活動しているが、日に日に犯罪者たちの抵抗も激しくなっている。ヒーローとしての俺に対し、犯罪者たちの恐怖が薄れ始めたのだ。
最近一番厄介なのは『アワナミ組』と呼ばれる暴力団である。ここアワナミ市に昔から根付いているヤクザらしく、その団結力と来たら……ともかく、厄介の一言に尽きる。
「まあまあ、ときたか」
クズハは特に興味も無さそうに、沸騰した湯を茶わんに注ぎ始めている。聞く気がないなら聞くなよ……とも思うが、俺の話の広げ方が超絶に下手だったのもあって仕方ない。
「それで、今回何故来たかと言うと」
「来たかと言うと?」
クズハが俺の向かいの椅子に座り、机に茶わんを置いて茶漬けを食べ始める。食う時くらい仮面を外さないのかと思ったが、外さない。……あらためて奇妙な空間である。
「実を言うと……おぬしも噂くらいは小耳に挟んだと思うが、YGPというのは聞いたことがあるかえ?」
「ああ、アレね……」
ヨモツギア・プロジェクト。……ドンピシャなタイミングで訪ねてきたものだ。訳知り顔で頷いていたら、クズハは鋭い眼光で俺を睨んできた。思わず食べたものが口から出そうになるほどの重圧である。
「どの程度まで知っておる?」
「……い、いやぁ、名前くらい……後は世界中に工場の建設予定地がある事くらい?」
「そうか」
しばらく重圧は続いていたが、やがてふとその重圧が消え、クズハは茶漬けをチャコチャコ食べ始める。
いや、本当に勘弁してください……。年端も行かない高校生がちょっと事情通な顔をしただけでこの対応。うかつに知ったかもできない。
「実はのう、今回来たのは他でもない、その事についての頼みじゃ。この近くにもヨモツ・ギア・プロジェクトの工場が建設予定というのは知っておるかの?」
「そ、そうなの?」
(あ、私が言いたかった情報……)
全然知らなかった。というかパラサイト、私が言いたかった情報ってなんだ。AIの癖にサプライズをやろうとするんじゃないよ。
「クラリス・コーポレーションはかなり無茶を通してでもその工場建設をやるつもりらしくてのう。その周辺に住んでおる住民への嫌がらせや追い出し……まあ汚い地上げじゃの。それが頻発しておるらしい」
「それは……」
住み慣れた家を嫌がらせで出て行かされるなんて、考えただけでもぞっとする。
俺も、この家にはいい思い出がないが……それでも、出ていけと言われれば渋るだろう。長く一緒に居た家や人には、理屈では済まない絆が生まれるものなのだ。
「そこでおぬしには、この住所に赴き、様子を探ってきてほしいのじゃ」
「様子を?」
「そう、様子を。わらわも暇ではなくてのう、あーウマ」
暇じゃない割にはチャコチャコ茶漬けを食う手が止まらない。俺は呆れかけたが、しかしここは俺の街だ。俺が何とかするのが筋というものだろう。
グラニーツァも、ジュウロン会も、水面下に潜伏して長い。久々に動こう。そう考え、立ち上がる。
「……分かった。何とかする」
「無理はせずとも良い。建設を止めろとも言わぬ。しかし、住民の意くらいは守りたいじゃろうと思うてな、粋な計らいに感謝しておくが良い」
「その茶わんはちゃんと洗ってくれよ」
「ん、よかろ」
◆
(上手いように使われましたね)
「たしかに……」
渡された住所へ向かって歩きながら、俺はパラサイトと会話する。ああやっていつもクズハに乗せられてしまう。前に密漁者をひっ捕らえたときも……いやこれを思い出すのはやめておこう。
それにしても良い天気だ。秋晴れの真っ青な空の下、俺は少し肌寒く感じて上着を引っ張り上げる。往来を歩く人々も寒そうだが、親子や恋人同士で手を繋いでいたり、暖かそうな飲み物を飲んでいたりと、各々でこの天候を楽しんでいる様子。何よりである。
俺も手をつなぐ相手が居ればな……とネガティブな方向に転がりかけた思考をストップさせ、横断歩道と向かい合う。そろそろ住所の場所が見えてきても良いはずなんだけどなぁ、と思っていると、突如耳をつんざく大声が聞こえた。
「「「市民ホールを皆さんの手で守りましょう!!! アワナミ市民の皆さん、今こそ立ち上がるべき時です!!!」」」
……拡声器で何倍にも大きくなった声が、秋晴れの空の下、通りをいくつも通り抜けた。
俺は面食らっていた。通行人の皆も面食らっていた。飛んでいた鳥たちも面食らって何羽か落ちてきた。
拡声器を握った女性は、皆が静まり返った中で、ひとりだけ得意げに鼻息を漏らしていた。
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