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サソリの毒
クラップロイド・原点
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「俺の家は代々漁師をやってて、船もちゃんと持ってるんだ。『サウザンドあかり号』っていう船なんだけどな」
『さ、サウザンドあかり号……素敵な名前だな……』
イコマ先生の車に乗せられ、俺と父親さん、そして父親さんの息子さんは港へ向かっていた。運転席のイコマ先生は複雑そうな表情で俺達の会話を聞いている。
子供はさっきからキャッキャと喜び、俺のアーマーをペタペタと触っている。子供には嬉しいデザインのようだ。
「おじさん、光ってー!」
『光るのはちょっと無理かも……』
(発光機能は付いています。使いますか?)
『あー、うん、じゃあ光ってみるか。ライトアップ』
途端、俺の関節からよく分からない青い光が漏れ出し始める。正直アーマーの中に居る俺には恐怖しかないが、子供は大喜びで俺に抱き着いてくる。
「すげえなアンタ! 漁火に使えるかもだ、漁師にならねえか?」
『あー、は、は、はは……考えとくよ……』
「どうもt……クラップロイドくん? 港につくから、準備して」
先生の声に顔を上げると、夜の港に到着するところだった。海の向こうでは、水平線に消えゆくタンカーが見える。
『ありがとうございm……ありがとう、イコマさん。この恩は忘れない』
「どういたしまして……」
「ちょっと船の準備があるから、待っててくれ。行くぞ」
「はーい! おじさん、またね!」
父親さんと息子は一緒になって車から降り、停めてある船へと走って行く。俺もそれについて行こうとし、先生に手首を掴まれて止まった。
妙な沈黙が落ちる。イコマ先生は暫く迷っていたようだが、やがて口を開いた。
「……ごめんね、キミにこんな事を押し付ける、駄目な大人で」
先生の顔は苦しげだった。俺は何か言おうとし、言葉を探して、結局本音を言う事にした。
『……俺は人に助けられてここまで来ました。だから、その恩を返したい。先生が俺にしてくれたように、俺は皆を助けたいだけなんです』
「……!」
先生は俺の手を引き、運転席から身を乗り出した。そして俺の首に手を回し、ぎゅう、と抱きしめて来る。ふわりと、暖かな香りに包み込まれる。
俺はぎょっとしておろおろと手を彷徨わせる。先生は少しの間そうしていたが、するりと手を放し、俺の額に額をくっつけた。
「……もう、キミを止めないよ。行って、クラップロイド」
ヘルメット越しに、先生は俺の目を覗き込み、そう言ってくれた。それだけで、俺はいつも以上の力が湧いてくるのを感じた。
『はい。行ってきます』
俺は車のドアを開き、夜の港へと走って行く。と、そこへ携帯が鳴った。俺は駆けながら携帯を取り出し、耳にあてがう。
『もしもし、クラップロイド!? 今何処だ!?』
『もしもし、テツマキさん。俺はこれから、タンカーに乗り込みます』
テツマキさんだ。俺はどこか安堵し、報告する。テツマキさんは通話口の向こうで息を吐き出し、喋り出す。
『……あのタンカーは既に公海に入った。日本海は狭い、すぐに他国の排他的経済水域に入る。そうなると、警察も、米軍も、自衛隊も手出しができない』
『相手国への通報は?』
『差し迫った脅威となるならば、通報も行われるようだ。しかし、……分かるだろう、こちらはあまり、相手国に借りを作りたくないようでな』
『成程……』
やはり大人の対応はちぐはぐだ。こんな時は俺達のような非合法の存在が動くしかない。
俺は孤軍奮闘の覚悟を決め、水平線を見る。目を凝らせば、まだタンカーの船尾が見える。今から行けば、すぐにでも届くのだ。
『……必ず止めます。テツマキさん、どうか無事で』
『こちらの台詞だ、馬鹿。……信じているぞ』
『はい。行きます』
通話を切り、俺は停めてある船へと駆け寄る。漁船の中では、もやい綱をほどいた子供がロープを放り投げる。父親は操縦室の中に入り、エンジンの調子を確かめている。
『調子はどうだ』
俺も船に降り、親父さんの隣に並ぶ。彼はレバーをいくつか引き、船のエンジンを唸らせて頷いた。
「いつでも行けるぜ、クラップロイド」
『よし、行こう』
「よぉーし。……おい、タロウ! お前は降りてろ!」
「ええー!?」
『おいおい、お父さんの言う事をちゃんと聞くんだ』
駄々をこねる子供も、俺が言うとむすっとしながら船から降りた。さながら俺は子供に人気のマスコット人形だ。
父親はもう一度レバーを引き込む。船は豪快に音をたて、波を裂きながら前進を開始した。
『速いな! この船は!』
「ははは、誰より早く良い漁ができるようにしてたのさ! エンジンの手入れだって怠ってねえ!」
まるでクルーザーのようなスピードで風を切り、海原を弾丸じみて進んで行く。徐々にタンカーが大きくなり始め、距離が詰まって行く。
俺は輸送船を睨みながら……ふと、気になっていた事を思い出した。そして、振り向き、親父さんに声を掛ける。
『……俺を狂人とは思わないのか?』
割と切実な問いだったが、親父さんはまん丸に目を見開き、呵々大笑を始める。そして目じりの涙を拭い、俺を見詰めて言った。
「ははは、そうだな。いきなり出て来て、テロリストに宣戦布告。俺達からしてみりゃ、狂った男にしか見えねえ」
『そうだろ?』
「でも、あんたは息子を救ってくれた。俺はな、クラップロイド、アンタがどれだけ狂ってても、悪い奴には見えねえのさ」
『……それは、どうもありがとう』
そういう考え方もあるか。なんというか、俺はつくづく、律儀な人に恵まれたものだ。
親父さんはまたしても笑いそうになり、何かを察して上を見上げ、急ブレーキをかけた。船が大きく揺れ、俺はよろめく。
『なん、』
何が起きたのか確認しようとしたその瞬間、船のすぐ横の海面が爆発した。俺は咄嗟に、タンカーの方を見る。
大分近寄った輸送船の船上では、スコーピオンズのチンピラたちが、手に手に武器を持ってこちらを狙撃しているところだった。弾丸や衝撃波が飛び来たり、船が大きく揺れ始める。
「おおい、こいつは参ったな! サウザンドあかり号でもちょっとキツイ!」
『アンタはここで引き返してくれ! 俺はここからジャンプして乗り込む!』
「本気か!?」
『道中の手助けに感謝する! 早く逃げろ!』
脚部に力を込め、屈んで跳躍に備える。親父さんは歯を食いしばり、しぶしぶといった風に頷いた。
「……頼んだぜ、俺達のヒーロー!」
『頼まれ、た!』
叫び返し、船を蹴って思い切りジャンプする。俺は射出された砲弾じみた勢いでタンカーに迫り、その鋼鉄の横腹を突き破って船内へと突入した。
鋼鉄の廊下に飛びこみ、俺は辺りを見回す。破れたパイプから蒸気が噴出し、船内はレッドのパトランプがグルグルと光る。
『パラサイト、船内のデータは!?』
(エックス線、熱源探知、音波視覚化。ただいま敵の位置、そして船内の構造を把握中……まだかかります。それよりもご主人様、警戒して下さい!)
パラサイトの警告にハッと振り向く。見れば、廊下の向こうからテロリストたちが走って来るところだった。
「おい、此処に居たぞ! こちら第二船室前廊下、クラップロイドを確認!」
「死ねやぁぁぁぁぁぁ!!」
容赦のない銃撃が始まり、弾丸の嵐が吹き荒れる。俺は走り出し、跳び蹴りで一人を打ち倒し、もう一人の頭を掴んで壁に叩き付ける。
また数人が駆けて来る。ここで相手取るしかない。俺は床に伸びて気絶した悪党を掴むと、駆けて来るテロリストめがけて投げつけ、乱闘に入った。
(ご主人様、船内の構造把握が完了しました。また、敵も把握完了。モニターに表示します)
『ああ、随分でかくて広い船だな! こりゃ沢山人が乗ってそうだ!』
ナイフを手の甲でガードし、チョップでへし折る。壁を蹴って跳躍し、敵の後ろに回ってタックルを掛ける。
モニターの表示を見ると、船内の俺へと殺到してくる敵の他に、甲板でじっと動かない敵が見えた。恐らくは、アレがコラプターだ。
『よし、なら甲板に行けばいいって話だな! コイツら全員片付けて!!』
叫び、俺はテロリストの一人を掴み、天井に放り投げて叩きつける。再起不能になった敵が床に落ち、呻き声が廊下にこだまする。
と、そこへ巨大な音が鳴り響いた。そちらを見ると、狭い廊下を圧し壊しながら、巨大な鉄塊じみたロボットスーツが迫って来ていた。ショッピングモールで戦った、あのスーツだ!
『おいおい、冗談だろ!』
「どっこい、俺達は本気なのさ!!」
(ご主人様! )
チンピラが叫び、ロボットスーツが勢いを増して駆けて来る。俺も負けるわけにはいかず、ロケットスタートでスーツへとタックルする。とてつもない威力の正面衝突により、廊下のそこら中で軋む音が発生する。
『ぐぐぐぐぐ……!!』
「苦しそうだなァ、クラップ野郎ォ!!」
膂力が拮抗し、互いにぴくりとも動けなくなる。更に、後方から敵の増援が現れた。彼らは手に青いオーラを放つ武器を握っている。クラリス・コーポレーション社製だ。
集中砲火が俺の背中を打つ。俺は歯を食いしばり、衝撃に耐えながら、更にロボットスーツを押しとどめなければならない。気を抜けば圧し潰されてしまう。
(ご主人様、こちらです!)
そこへ、パラサイトの予測進路が助けの手を差し伸べる。俺はそれに従い、一瞬だけ力を緩め、瞬時に床を蹴って跳躍した。
ロボットスーツが思い切り腕を空振らせる。俺はその頭上、天井とスーツのギリギリの隙間を通り、背後に着地していた。
「なにい!?」
スーツが振り向く隙を与えず、俺は蹴りで相手を跪かせ、まるで防御壁のようなその巨体を押して武装したテロリストへと迫って行く。
「な、う、撃て、撃て!!」
「ま、待て! 俺が乗ってんだぞ!?」
「構うな、撃て!!」
テロリストは壁じみたスーツに容赦なく射撃を加え始める。ロボットスーツの搭乗員が悲鳴を上げるが、その後ろに居る俺には全くダメージはない。
やがてスーツが損壊し、バラバラに破壊され始めた瞬間を見計らい、俺はまたもその頭上を跳び越え、武装テロリスト共の中心へと降り立った。
『ここ!』
テロリストたちが武器を構える暇も与えず、俺は足払いで全員を転倒させる。そして一人一人の顔に素早くパウンドを落とし、床と挟んで気絶させた。
『オッケー、大方終わったか!?』
(次は甲板です。急いでください、そろそろタンカーは公海を超えます)
『分かった!』
パラサイトの声を聞き、俺は素早く駆け出し、階段を上って行く。やがて、潮風が吹き抜ける広い甲板へと出た。
船橋のライトが甲板を照らす。俺は手をかざして眩しさに目を細め、一見誰も居ない甲板を見渡す。
が、そこへ乾いた音が響いた。拍手の音だ。俺は音を辿り、視線をそこへ飛ばす。
「いやあ、結構結構。立派なもんだ、クラップロイド……」
ソイツは拍手しながら、ニヤニヤと笑って俺の目の前に現れた。青いオーラを放つグローブを拳に嵌め、磁場発生装置を握っている。
浅黒い肌のソイツは、俺と甲板の上で向かい合った。
『コラプター……!』
「久々に会えて嬉しいよ、クラップロイド」
その瞬間、潮騒の音すらもなりを潜めた。
『さ、サウザンドあかり号……素敵な名前だな……』
イコマ先生の車に乗せられ、俺と父親さん、そして父親さんの息子さんは港へ向かっていた。運転席のイコマ先生は複雑そうな表情で俺達の会話を聞いている。
子供はさっきからキャッキャと喜び、俺のアーマーをペタペタと触っている。子供には嬉しいデザインのようだ。
「おじさん、光ってー!」
『光るのはちょっと無理かも……』
(発光機能は付いています。使いますか?)
『あー、うん、じゃあ光ってみるか。ライトアップ』
途端、俺の関節からよく分からない青い光が漏れ出し始める。正直アーマーの中に居る俺には恐怖しかないが、子供は大喜びで俺に抱き着いてくる。
「すげえなアンタ! 漁火に使えるかもだ、漁師にならねえか?」
『あー、は、は、はは……考えとくよ……』
「どうもt……クラップロイドくん? 港につくから、準備して」
先生の声に顔を上げると、夜の港に到着するところだった。海の向こうでは、水平線に消えゆくタンカーが見える。
『ありがとうございm……ありがとう、イコマさん。この恩は忘れない』
「どういたしまして……」
「ちょっと船の準備があるから、待っててくれ。行くぞ」
「はーい! おじさん、またね!」
父親さんと息子は一緒になって車から降り、停めてある船へと走って行く。俺もそれについて行こうとし、先生に手首を掴まれて止まった。
妙な沈黙が落ちる。イコマ先生は暫く迷っていたようだが、やがて口を開いた。
「……ごめんね、キミにこんな事を押し付ける、駄目な大人で」
先生の顔は苦しげだった。俺は何か言おうとし、言葉を探して、結局本音を言う事にした。
『……俺は人に助けられてここまで来ました。だから、その恩を返したい。先生が俺にしてくれたように、俺は皆を助けたいだけなんです』
「……!」
先生は俺の手を引き、運転席から身を乗り出した。そして俺の首に手を回し、ぎゅう、と抱きしめて来る。ふわりと、暖かな香りに包み込まれる。
俺はぎょっとしておろおろと手を彷徨わせる。先生は少しの間そうしていたが、するりと手を放し、俺の額に額をくっつけた。
「……もう、キミを止めないよ。行って、クラップロイド」
ヘルメット越しに、先生は俺の目を覗き込み、そう言ってくれた。それだけで、俺はいつも以上の力が湧いてくるのを感じた。
『はい。行ってきます』
俺は車のドアを開き、夜の港へと走って行く。と、そこへ携帯が鳴った。俺は駆けながら携帯を取り出し、耳にあてがう。
『もしもし、クラップロイド!? 今何処だ!?』
『もしもし、テツマキさん。俺はこれから、タンカーに乗り込みます』
テツマキさんだ。俺はどこか安堵し、報告する。テツマキさんは通話口の向こうで息を吐き出し、喋り出す。
『……あのタンカーは既に公海に入った。日本海は狭い、すぐに他国の排他的経済水域に入る。そうなると、警察も、米軍も、自衛隊も手出しができない』
『相手国への通報は?』
『差し迫った脅威となるならば、通報も行われるようだ。しかし、……分かるだろう、こちらはあまり、相手国に借りを作りたくないようでな』
『成程……』
やはり大人の対応はちぐはぐだ。こんな時は俺達のような非合法の存在が動くしかない。
俺は孤軍奮闘の覚悟を決め、水平線を見る。目を凝らせば、まだタンカーの船尾が見える。今から行けば、すぐにでも届くのだ。
『……必ず止めます。テツマキさん、どうか無事で』
『こちらの台詞だ、馬鹿。……信じているぞ』
『はい。行きます』
通話を切り、俺は停めてある船へと駆け寄る。漁船の中では、もやい綱をほどいた子供がロープを放り投げる。父親は操縦室の中に入り、エンジンの調子を確かめている。
『調子はどうだ』
俺も船に降り、親父さんの隣に並ぶ。彼はレバーをいくつか引き、船のエンジンを唸らせて頷いた。
「いつでも行けるぜ、クラップロイド」
『よし、行こう』
「よぉーし。……おい、タロウ! お前は降りてろ!」
「ええー!?」
『おいおい、お父さんの言う事をちゃんと聞くんだ』
駄々をこねる子供も、俺が言うとむすっとしながら船から降りた。さながら俺は子供に人気のマスコット人形だ。
父親はもう一度レバーを引き込む。船は豪快に音をたて、波を裂きながら前進を開始した。
『速いな! この船は!』
「ははは、誰より早く良い漁ができるようにしてたのさ! エンジンの手入れだって怠ってねえ!」
まるでクルーザーのようなスピードで風を切り、海原を弾丸じみて進んで行く。徐々にタンカーが大きくなり始め、距離が詰まって行く。
俺は輸送船を睨みながら……ふと、気になっていた事を思い出した。そして、振り向き、親父さんに声を掛ける。
『……俺を狂人とは思わないのか?』
割と切実な問いだったが、親父さんはまん丸に目を見開き、呵々大笑を始める。そして目じりの涙を拭い、俺を見詰めて言った。
「ははは、そうだな。いきなり出て来て、テロリストに宣戦布告。俺達からしてみりゃ、狂った男にしか見えねえ」
『そうだろ?』
「でも、あんたは息子を救ってくれた。俺はな、クラップロイド、アンタがどれだけ狂ってても、悪い奴には見えねえのさ」
『……それは、どうもありがとう』
そういう考え方もあるか。なんというか、俺はつくづく、律儀な人に恵まれたものだ。
親父さんはまたしても笑いそうになり、何かを察して上を見上げ、急ブレーキをかけた。船が大きく揺れ、俺はよろめく。
『なん、』
何が起きたのか確認しようとしたその瞬間、船のすぐ横の海面が爆発した。俺は咄嗟に、タンカーの方を見る。
大分近寄った輸送船の船上では、スコーピオンズのチンピラたちが、手に手に武器を持ってこちらを狙撃しているところだった。弾丸や衝撃波が飛び来たり、船が大きく揺れ始める。
「おおい、こいつは参ったな! サウザンドあかり号でもちょっとキツイ!」
『アンタはここで引き返してくれ! 俺はここからジャンプして乗り込む!』
「本気か!?」
『道中の手助けに感謝する! 早く逃げろ!』
脚部に力を込め、屈んで跳躍に備える。親父さんは歯を食いしばり、しぶしぶといった風に頷いた。
「……頼んだぜ、俺達のヒーロー!」
『頼まれ、た!』
叫び返し、船を蹴って思い切りジャンプする。俺は射出された砲弾じみた勢いでタンカーに迫り、その鋼鉄の横腹を突き破って船内へと突入した。
鋼鉄の廊下に飛びこみ、俺は辺りを見回す。破れたパイプから蒸気が噴出し、船内はレッドのパトランプがグルグルと光る。
『パラサイト、船内のデータは!?』
(エックス線、熱源探知、音波視覚化。ただいま敵の位置、そして船内の構造を把握中……まだかかります。それよりもご主人様、警戒して下さい!)
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「死ねやぁぁぁぁぁぁ!!」
容赦のない銃撃が始まり、弾丸の嵐が吹き荒れる。俺は走り出し、跳び蹴りで一人を打ち倒し、もう一人の頭を掴んで壁に叩き付ける。
また数人が駆けて来る。ここで相手取るしかない。俺は床に伸びて気絶した悪党を掴むと、駆けて来るテロリストめがけて投げつけ、乱闘に入った。
(ご主人様、船内の構造把握が完了しました。また、敵も把握完了。モニターに表示します)
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ロボットスーツが思い切り腕を空振らせる。俺はその頭上、天井とスーツのギリギリの隙間を通り、背後に着地していた。
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スーツが振り向く隙を与えず、俺は蹴りで相手を跪かせ、まるで防御壁のようなその巨体を押して武装したテロリストへと迫って行く。
「な、う、撃て、撃て!!」
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「構うな、撃て!!」
テロリストは壁じみたスーツに容赦なく射撃を加え始める。ロボットスーツの搭乗員が悲鳴を上げるが、その後ろに居る俺には全くダメージはない。
やがてスーツが損壊し、バラバラに破壊され始めた瞬間を見計らい、俺はまたもその頭上を跳び越え、武装テロリスト共の中心へと降り立った。
『ここ!』
テロリストたちが武器を構える暇も与えず、俺は足払いで全員を転倒させる。そして一人一人の顔に素早くパウンドを落とし、床と挟んで気絶させた。
『オッケー、大方終わったか!?』
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が、そこへ乾いた音が響いた。拍手の音だ。俺は音を辿り、視線をそこへ飛ばす。
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ソイツは拍手しながら、ニヤニヤと笑って俺の目の前に現れた。青いオーラを放つグローブを拳に嵌め、磁場発生装置を握っている。
浅黒い肌のソイツは、俺と甲板の上で向かい合った。
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